ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄42
 翌日。刹那が目を覚ますと、既に日は昇っていた。
 昨晩――というか今朝は海人への質問攻めで就寝が遅かったため、当然と言えば当然であった。
 
 だが、夜更かしの後の睡眠だというのに不思議と気怠さは感じなかった。
 確かに体は疲れを残し頭も若干重いのだが、妙に気分が軽かった。

「……やはり、嬉しかったからだろうな」

 ポツリとこぼし、薄く微笑む。

 昨晩海人から素性を語ってもらえた事は、やはり嬉しかった。
 内容を踏まえれば相当な勇気が必要だったろうと思うだけに、尚の事。

 それだけ信じてもらえていたという事が、とても嬉しかった。
 
(ルミナス殿達には些か申し訳ないが……な)

 刹那は嬉しい気持ちと同時に、ルミナス達へ若干の引け目も感じていた。

 彼女らを差し置いて、付き合いの長さも親密さも及ばない自分達が先に明かされてしまった。
 何よりも、あくまで自発的に話してくれるのを待つ事にした二人に対し、
かなり強引に聞き出してしまった事に申し訳なさを感じずにはいられなかった。

「……今回拙者達が信じた事で多少話しやすくなったはずだし、それで勘弁していただくしかない、か」
  
 そう結論を出し、刹那は頭を切り替える事にした。
 どのみち今考えても仕方の無い事だ、と。

 それよりも考えるべきは、今からどうするかだ。
 壁の時計は十時を示している。そして、昨晩雫と決めた鍛錬開始時間は一時。
 着替えと腹ごしらえを済ませても少し時間が余ってしまう。
  
 数瞬考えた後、刹那はベッドから出て静かに窓を開けた。
 冷たい空気が中へと入りこみ、極僅かに残っていた眠気も綺麗さっぱり洗い流す。
 どうやら今日は少し冷え込んでいるらしく、日差しを浴びて尚冷たさを感じる。  
  
「身を引き締めるには丁度良いか」 

 そんな感想を漏らしながら、刹那は寝間着から着替え始めた。

 寝間着代わりの長襦袢を脱ぎ捨て、そのまま半着に袖を通す。
 丁寧に皺を伸ばされたそれを纏うと、自然と背筋が伸びた。

「やはりこの服でも十分気が引き締まるな。
これがあの生地ならばさぞかし……」

 小さく、呟く。

 昨日海人への質問の傍ら、服についても話し合った。
 白衣やルミナス達に渡された服の厚さからてっきり襦袢になるのかと思っていたのだが、
少し時間をかければ半着や袴用に同じ材質で厚い生地を作れると聞かされ、迷わず頼んだ。
 
 なにせ、その前に服の感触の確認用として渡された白衣の肌触りが抜群に良かったのだ。
 柔らかく肌に馴染むかのような触感でありながら頼りなさを感じない、実に絶妙なバランスの感触。
 それに加えて、対刃性能においてはそこらの鎧なぞものともしない強度。
 おまけに色も好みの色に染められるという。頼まない理由があるはずもなかった。

「まあ、生地の名前は流石にどうにかしてほしいところだが……」

 穏やかに、苦笑する。

 素晴らしすぎる夢のような繊維だが、名前だけはいただけない。
 いくらなんでもネーミングセンスがなさすぎる。
 しかも本人は周囲の酷評にもめげず――単に意地になっていただけかもしれないが、
気に入っているから変えないと言い張っているから始末に負えない。
 
 とはいえ、刹那としてはそれも良いのではないかと思っている。

 何しろ、海人には運動能力以外欠点らしい欠点は見当たらない。
 ネーミングセンスぐらい破滅的なまでの欠点であっていいのではないか、と思うのだ。
 
 そんな本人に聞かれたらくすぐり地獄確定な事を思っていると、不意に隣の部屋のドアが開く音が聞こえた。 

「……海人殿も御目覚めか」

 静かにゆっくりと遠ざかっていく足音を聞きながら、苦笑する。

 起こさぬよう気を遣ったつもりなのだろうが、海人の忍び足では消音にも限界がある。
 まして、この屋敷の床板は木製であるため、音が響きやすい。
  
 気遣いはありがたいのだが、あまり意味は無いのである。
   
「ふむ……中庭か」

 着替えを続けながら、呟く。

 刹那の気配察知は雫に比べると格段に劣るが、それでもこの屋敷内の生物の動向を把握する事は朝飯前である。
 当然、海人がどう動いていたかも把握できている。
 洗面所以外には一切寄り道せず、中庭へと向かった事を。
 
(……外は冷えている。となれば……)

 腰に二本の刀を差し、最後に脱いだ寝巻を綺麗に畳んで洗濯籠に入れると、刹那は食堂へと向かった。
 
 

 
 













 海人と刹那がそれぞれ動き始めた音を、雫はベッドの中で聞いていた。 

「んみゅ……お姉ちゃんも海人さんも元気だねえ……」

 寝ぼけ眼をこすりながら、小さく欠伸をする。

 昨日は海人の道具に興味津々なあまりついつい夜更かしをしてしまった。
 知的好奇心はかなり満たされたが、代償として就寝時間が大幅にずれ込んだ。
 鍛錬の時間は遅らせる事になったため睡眠時間は十分だが、やはり夜更かしをするとあまり調子がよろしくなかった。

 とはいえ、二度寝したところで調子が整うというわけではない。
 それよりは多少なりとも体を動かして温めておいた方が健全である。
 そう考え、雫はのそのそと着替えを始めた。

 まずはぽい、と軽く丸めた襦袢を洗濯物用の籠に放り込む。
 畳むなどという面倒な事はしない。
 どうせ後で洗ってから皺を伸ばすのだからさしたる意味は無い、と。 

 そのまま着替えに袖を通し、てきぱきと服を纏い始める。
 服の内側にある苦無の冷たい感触が肌に当たると自然と意識が引き締まり、
残っていた眠気が瞬く間に駆逐されていく。
   
 最後に二本の小太刀を腰に差すと、雫は思いっきり伸びをした。

(しっかし、昨日は海人さんの素性もだけど、道具の方も驚き満載だったなぁ……いったいどんな世界なんだろ)

 体を解しながら、そんな事を考える。

 昨日海人から説明された数々の道具は、実に面白かった。
 技術体系が全く違う事もあり、どれ一つとっても常識の埒外にあったので話を聞いているだけでも楽しかった。

 中でも面白かったのが、パソコン。
 計算や作文、果ては描画まで何でもこなしてしまう。
 そればかりか、様々なゲームなどの娯楽まであれ一つで出来てしまうのだ。

 ゲームの中では特に落ち物パズルとやらが凄かった。
 試しに遊ばせてもらったのだが、次々と落ちてくるカラフルな玉を同色五つ隣接させると玉が割れて消えながら花火が打ち上がるという物で、複数の色の玉を同時に隣接させたり連鎖で消すと一際大きな花火が打ち上がる。
 花火の色彩や形状のバリエーションも豊富で、いくらやっていても飽きなかった。
 海人が八歳の時に作ったゲームだと言っていたが、あれは非常に面白かった。
 昨夜は説明の途中だった事もあり途中で切り上げてしまったが、あれはまたやりたい。
 
 ありがたい事に海人が地下で仕事をしている間に隅で遊んでいる分には構わないという事だったので、
もう一台作ってもらい、他のゲームもやらせてもらえる事になった。 
 今までは鍛錬を始めとした日課が終わると、無駄話に興じるか日向ぼっこでもするぐらいしかなかったので、
これからの生活が非常に楽しみである。

 その分のお礼も込めて今日の昼食は気合を入れよう、雫はそう決めるとドアへと向かった。
 
「さてさて、さっさと顔洗って御飯の準――!?」

 ドアノブに手をかけた瞬間、雫の瞳が鋭さを帯びた。

 屋敷からやや離れた位置に、妙な気配がある。
 まるで虫のように小さいそれは、気配の大きさが一定していない。
 微細ながらも、まるで脈動するかのように大きくなったり小さくなったりを繰り返している。
 
 それは人間が気配を消している時独特のもの。
 それも並大抵の人間ではない。
 これほどまでに気配を抑え込みながら微細な変化だけで抑えるには、相応の才覚と熟練が不可欠だ。
 
 無論海人の素性を考えれば現状彼を狙う人間がいるはずもなく、ローラ辺りの悪戯の可能性が一番高そうなのだが、
まがりなりにも海人の護衛を務める身としてはそう楽観する訳にもいかない。
 
 ならば、やる事は決まっていた。  
    
「ちょっと様子見してくるとしますか」

 雫は好戦的な笑みを浮かべると、窓を開けて中庭にいる姉に風の魔法で短い言葉を送った。

 ――少し海人さんについていて、と。






























「やーれやれ、しんどいうのう」

 疲れた声音で、オーガストは呟いた。
 今現在、彼はゲイツから聞いた海人の屋敷へ気配を消しながら向かっていた。
 
 あの屋敷で護衛を務めているらしい二人へのちょっとした腕試しなのだが、内容はかなり高度だ。
 
 というのも、彼が本気で気配を消せばルミナスクラスの実力者でもなければ察知は至難だからだ。
 長年冒険者として潜り抜けてきた死線で磨き続けてきた熟練は勿論、
突き抜けすぎた色事師として場所や相手の身分を問わず夜這いを仕掛けてきた莫大な経験によって、
その技能はもはや神業とも呼べる域に達しているために。
 
 なにせ最高記録では、二十人からなる親衛隊に囲まれた部屋で就寝するとある小国の王女に夜這いをかけ、
最後まで気付かれる事なく本懐を遂げた事さえある。

 試す相手である二人の実力を鑑みても、あと五分は気付かれずに屋敷へ近づけるはず。

 そんな事を思った瞬間――――凄絶なまでの寒気を感じた。

 まるで上位ドラゴンの顎に胴を食い千切られかけた時のような、
触れただけで他の生物を溶かす猛毒で全身が覆われた魔物の下敷きになりかかった時のような、
氷の粘液がまとわりつくような冷たく気味の悪い感覚。 
 
 それを感じ始めた直後には、オーガストの体は勝手に前へと跳んでいた。
 その行動こそがその怖気の元から逃れる最善手だと本能的に判断して。

 空中で身を翻しながら、その怖気の主がいるであろう方向へと目を向けると、
 
「……ありゃ、オーガストさんじゃないですか。何でこんなところで気配消してるんです?」

 きょとんとした表情の雫がいた。
 可愛らしく小首を傾げながら、オーガストをしげしげと眺めている。
 その様は幼い顔立ちと相まって非常に可愛らしく、保護欲をそそる。
 
 が、オーガストは冷や汗を垂らしていた。

 可愛らしい態度だが、抜き放たれた二本の小太刀は構えられたまま。
 腕の動きを見る限り、収めるのを忘れているという様子でもない。

 にこやかな表情とは裏腹の、完全なる臨戦態勢。
 おそらく、必要とあらばこの表情のままオーガストの首を刎ねにかかれるのだろう。
 しかも、それでいて感覚を研ぎ澄ましてもほとんど殺気を感じない。
 それこそ町を歩いている時や談笑している時のようだ。
 無論立ち姿にはまだまだ隙が多いのだが、それでも十二分に末恐ろしい。
  
 戦慄しつつ、オーガストはとりあえず気配を消していた理由を説明する事にした。





   

 
 
 

 


   
 






 海人は中庭の中心で大の字に寝そべっていた。

 本来彼は夜更かしの後にはそれを取り返すかのように長寝してしまうのだが、
何故だか今日は比較的早めに目が覚めた。
 
 折角なので身だしなみを整え、外の新鮮な空気を楽しむ事にしたのだ。
 庭に出た時は思いの外冷えていた空気に驚いたが、それに慣れてしまえばなかなか快適だった。
 
「にしても……隠し事一つ無くなるだけで随分と気が楽になるものだな」

 心地良い冷風に目を細めながら、呟く。

 昨日なんだかんだで地下室にある物全ての説明をねだられ、就寝時間は遅くなったものの、海人の気分は軽かった。 
 肩の荷が下りたという程ではないが、寝起き直後のしつこい眠気が一気に飛んだ時のような爽快感にも似た感覚がある。
 
 己の素性を隠し続けていた事が思っていたよりも大きな負荷になっていた事を自覚した海人は自嘲していると、
屋敷内へつながるドアが開いた。

「おはようございます、海人殿」

「おはよう――ん? その盆に乗っているのは……」

「今日は冷えているようですので、より美味しく感じるかと思いまして。
よろしければいかがでしょうか?」

 そう言って、刹那は湯呑と茶菓子が載った盆を差し出した。

 流石の刹那も、緑茶ぐらいは淹れられる。
 無論自慢できるほどの技術はないが、ここで使っている茶葉ならば充分な味になる。
 なので寒い中外に出た海人の為に食堂で御茶を淹れ、冷蔵庫に入っていた羊羹と一緒に持ってきたのである。

「ありがたくいただこう。
……うむ、寒い中で飲むとまた格別だな。全身に染み渡るようだ」

 お茶を啜り、海人はほう、と一息吐いた。

 冷え込んでいると示すかのように、吐いた息が若干白くなる。
 口を大きめに開けて息を吐くと、息は更に白さを増した。
 なんとなく面白くなり、海人はのんびりとそれを数回繰り返したが、
すぐに飽きたのか、再び緑茶を啜る作業に戻った。

 そんな様子を横目で見ながら、刹那はおずおずと口を開いた 
 
「そういえば海人殿、今日は随分と……その、身だしなみを整えておられるようですが」

 言いながら、改めて横たわる海人の姿を観察する。

 見苦しくない程度にしか整えられていなかった髪の毛は見栄えがするように整えられ、
服装も白衣はいつも通りながら、一応の清潔感だけを保っていた衣装から
上品ながらも洒落っ気を漂わせた物へと変わっている。
 
 今までの無頓着さからは考えられない変化だった。
  
「ああ、昨日シリル嬢と約束した事だし、少しは身なりにも気を使おうかと思ってな。
どこか変だったりしないか?」

「滅相もない!」

 思わず大声で叫ぶ刹那。

 偽り無い本心だった。
 流石海人というべきか、今の外見には非の打ちどころがない。
 シリルが手入れをした時ほどではないが、非常に見栄えがする。
 顔立ちが鋭いため好青年という印象は持てないが、町を歩けば女性の一人や二人は言い寄ってきそうな風情だ。
 
 これで変というのなら、大概の人間は町を歩けなくなってしまう。 
 
「お世辞でも嬉し……ん? どうかしたのか?」

 苦笑しかけた海人が、一転して不思議そうに問いかけた。

 ほんの僅かだが、刹那の表情が険を増していた。
 しかもその視線は海人から屋敷の外の方へと移っている。

 海人でなくとも理由が気になるところだろう。

「あ、はい。雫が誰かを感知したらしく、海人殿についていてほしいと」

「……妙だな。わざわざ探りに行くという事は、客ではないと考える根拠があった事になるが……」

「おそらく、気配を消していたのでしょう。まあ、あまりお気になさる必要は無いかと。
ローラ殿などの悪戯ならばその意味はありませんし、敵であったとしても大概の相手は雫一人で片付けられます。
それが出来ずとも、雫の実力なら逃げられないという事は滅多にないはずですので」

 落ち着いた様子で、茶を啜る。

 未だ雫の実力は姉に遠く及ばないが、それでも弱くはない。
 中位ドラゴン程度なら寝ぼけていても一刀で斬り伏せるぐらいの芸当はこなせるのだ。 

 まして、今は海人から支給された大粒のダイヤがあるため、
魔力のストック量も魔法の増幅率も今までとは比較にならない程に増大している。
 仮にローラのような規格外が相手であったとしても、逃げるだけならば問題はない。
 
 とはいえ、万が一は考えておかねばならない。
 
 刹那は無言のまま神経を研ぎ澄まし、気配察知の範囲を広げていた。
 もし雫が逃げてきたとしても、即座に敵を迎え撃てるように。
 
 ――が、その心配はすぐに杞憂に終わった。

 二つの気配が刹那の探知に引っかかったのだ。
 どちらものんびり歩いているかのようなペースでこちらに近付いてきている。
 
 内心で安堵しつつ、刹那は海人に報告する事にした。
 
「……やはりどなたかの悪戯だったようですね。
今、ゆっくりと二人揃ってこちらへ向かっています」

「そうか。さて、誰が来たんだかな」

 誰だか知らないが、客が来ているのであれば居留守を使うのも気が引ける。
 海人は緑茶を盆の上に置き、羊羹を一口で平らげた。

「雫か? ……オーガスト殿だっただと?」

 雫から届けられた風の魔法の伝言に、刹那は怪訝そうな声を上げた。
 知人ではあるが、来た理由が掴めない、と。  

「……オーガスト老だと? ふむ、どんな用だか興味深いな」

 少し興味を惹かれた表情で海人は立ち上がり、刹那を伴って門へと向かった。






























 中庭へと案内されたオーガストは勧められた椅子に腰かけると、風情豊かな庭を見て感嘆の声を漏らした。 
 
「良い庭じゃの~。昔行ったヒノクニを思い出すわい」

「あそこまで足を延ばされていたのですか?」

「というより、現在未開とされている大陸以外は一通り行っておるんじゃよ。
っと、そうそう忘れるとこじゃった。これは手土産代わりのエンペラー・カウの肉じゃ。
売れ残りの風味が落ちる寸前の物じゃから、遠慮せずに受けとってくれい」

 肩から下げた布袋を海人へ放り投げる。
 
 中を確かめてみると、売れ残りというだけあって色々な部位が揃っていた。
 サーロインやヒレ、腿肉や尾肉、果てはスジ肉まで実に豊富だ。
 その分各部位の分量は少ないが、味見用としては丁度良い。

「ありがとうございます。それで、御用件は何でしょう?」

「うーむ、実を言うとほとんど無くなっちまったんじゃよなぁ……」

 困った様子で、オーガストは海人を見返した。

「は? どういう意味でしょう?」

「いや、昨日たまたま会ったルミナス嬢ちゃん達からその二人が護衛になったと聞いてのう。
少し考えただけでも問題を二つ思いついたんで、ちょいとお節介に来たんじゃが……ほぼ杞憂だったようでな。
つーか、シズク嬢ちゃんの気配察知能力、いくらなんでもぶっ飛びすぎではないかの?」

「あはは、あそこまで警戒区域侵しといて何言ってんですか。
あと五分気付くの遅れてたら屋敷到着してたじゃないですか」

「ゲイツでも背後から肩叩くまでは気付かんのじゃが……」 

 軽快に笑い飛ばす雫に、引き攣った笑みを向ける。

 雫はあっけらかんとしているが、若手の冒険者の中ではトップクラスであるゲイツでさえ、
本気で気配を断ったオーガストを察知する事はできない。
 
 どうしてこれだけの芸当ができてずっと無名の冒険者でいられたのか、などと思っていると、   

「……ふむ、助言の一つは拙者共の護衛としての能力に関してでしょうか?」

 刹那が確認の問いを投げかけてきた。

「うむ。お主らが強いのは一見すれば分かるんじゃが、護衛の場合他の要素も必要になるからの。
ま、問題ないじゃろうな。心構えも出来ているようじゃし」

 やれやれ、と息を吐く。

 二人が護衛になったと聞いて真っ先に思いついた問題は、仕事に順応できるかどうかだった。
 どの程度の期間かは知らないが、冒険者として姉妹で仕事をこなしていたのなら、
互いの身を庇う事はあってもその他の人間に気を配る事は無かった可能性が高い。
 
 が、護衛になるとなれば、その意識は早急に改善しなければならない。
 これからはお互いではなく海人を守る事こそが最優先なのだから。

 それで気配を消しながら近づき、周囲への警戒能力と一緒に試してみたのだが――文句の付けようがなかった。

 雫の気配察知能力は言うに及ばず、護衛としての判断力も十分だった。

 先程は雫が斥候として探りに来て、刹那は海人の傍から離れなかった。
 この手法ならば雫の手に負えない敵や別働隊がいる場合でも海人だけは高確率で逃がす事が出来る。

 さらに言えば、先程から刹那はそれとなく海人を瞬時に庇える位置に陣取っている。
 真面目な性格ゆえだろうが、その慎重さは護衛としては最適だ。

 これだけ自然にやれるのなら、特に問題はない。
 そもそも実力には全く不足が無いので、余程の事が無い限り大丈夫だろう。

 オーガストの懸念は、見事なまでに杞憂だったのである。 

「なるほど……二つ、と仰いましたがもう一つは?」

「お主の事なんじゃが……普段はそんな恰好しとるのかの?」

「いえ、実はここ数日シリル嬢から服装について叩き込まれていまして。
昨日去り際に次に帰ってきた時に身に付いていなかったら着せ替え人形にすると脅されましてね。
なので、とりあえず忘れないよう習慣づけておこうと思っただけです。
ま、正直いつまで続くかは分かりませんが」

「ふぉっふぉ、悪い事は言わんからきっちり習慣づけといた方が良いぞ。
いかに優れた能力を持っておっても、外見が冴えなければ見くびられるのが世の常じゃし、
雇い主が冴えない恰好をしておっては護衛もまたなめられるからのう。
自分はともかく、そっちの二人が見くびられんのは腹立つじゃろ?」

 人好きのする笑みを浮かべ、穏やかに諭す。

 昨日オーガストが思いついたもう一つの問題が、海人の服装だった。
 
 今まで会った時は、海人の服装はいたって普通だった。
 清潔感はあり見苦しくもないが、格別目を引くほどの事もない、いたって平凡な服装。
 一応着ている人間が美形の部類に入るので多少見栄えはしたが、見る者が見れば頓着の無い怠惰とも言える服装だと容易に分かってしまう。 

 それ自体は決して悪い事ではないのだが、護衛を侍らせる人間としては考えものである。 
 
 世の中、一定以上の地位にいる者はそれなりに見栄えのする格好をしている。
 それは本人の見栄などもあるが、最大の理由は外見上の押し出しがなければ他者に低く見られる事が多いためだ。

 そして、上に立つ者が侮られれば、自然とその下に従う者も侮られてしまう。
 愚者に従う者もまた愚者である、と。

 無論世の中にはそれを気にしない主従もいるから、ひょっとしたら刹那と雫も海人の美点は自分達だけが知っていればいい、と割り切るかもしれない。
 
 だが海人はそう思う事は出来ないだろうとオーガストは思っていた。
 己の服装なぞが原因で身内を馬鹿にされる事は耐えられまい、と。

 そして、それは的を射ていた。
  
「……なるほど、仰る通りです。御忠告ありがとうございます」

 海人は難しい顔で、礼を言った。

 オーガストに言われた内容は、ついこの間シリルにも言われた事だ。
 あの時は何が何でも説得するためにもっともらしい事を言っただけではないかと思っていたのだが、
オーガストにまで言われたとなると紛れもない正論だったという事だろう。
 ひょっとしたら彼女なりにやんわりと諭していたのかもしれない。

 少し疑っていた事を心の中でシリルに詫びつつ、海人は最大の疑問を口にした。
 
「しかし、なぜわざわざ忠告に? そこまで気に掛けていただけるほど深い付き合いではないと思うのですが」

「なに、ただの気紛れじゃよ。
つーか、お主こそわしなんぞに説教されても説得力なぞ無かったじゃろうに、よく素直に聞き入れたのう?」

 オーガストは、不思議そうな顔で問いかけた。

 オーガストは若い頃からあちらこちらで女性を食い荒らし、最長でも一ヵ月は続いていない。
 仕事に関しては評判が高いが、私生活においては無責任の象徴として世間一般で認知されている。 

 普通ならば、そんな人間に説教をされても鼻で笑うところだろう。
 さらに言えば、海人の性格からしてそれを躊躇うとは思えない。
 むしろ一つ二つ辛辣な言葉を加えて嘲笑うはずだ。

 耳に痛い言葉を返される事を覚悟の上で来たので、オーガストとしては海人の反応の方が不可思議だった。

「……貴方は有象無象の男共より遥かに真っ当に責任を取った人生を送っておられると思いますので。
文字通り自分で撒いた種とはいえ、さぞ大変だったのでは?」

 若干躊躇った後、海人は理由を口に出した。 

 その言葉にオーガストは一瞬意表を突かれたかのように目を見開いたが、

「――――大したもんじゃの。シェリス嬢ちゃんが気に掛けるだけの事はある」

 直後にやり、と楽しそうに笑った。

 彼の表情に覗くのは紛れもない称賛の色。
 指で数えられる程度しか知る者の無い事をこの短期間で見抜いた年若い青年に、彼は素直に感心していた。

 海人はそんな視線をくすぐったく思いながら、軽く肩を竦めた。
 
「大した事はないでしょう。貴方の経歴から想定できる今までの稼ぎはどう転んでもそうそう消費できる額ではありませんから。
仕事をせずに遊び呆けていたというのなら話は別ですが、あれだけの偉業を達成しておられる以上それは無いでしょうし、
何かあると考えるのはごく当たり前の事です。肝心の理由に関してがほとんど勘ですので、全く威張れませんよ」

「それを言うなら芽が出た種とそこの土しか面倒見とらんから、わしも威張れんよ。
いやいや、最近は将来有望な若者が多くて結構な事じゃ。
さて、それではそろそろ失礼させてもらおうかのう」

「おや、もうですか?」

「屋台が思いの外好評での。新しく仕留めんと肉が足りなくなっちまいそうなんじゃよ。
今日は朝から店番がゲイツ一人じゃから、早いとこ帰ってやらんと手が回りきらなくなっちまうじゃろうしな」

 その言葉と同時に、オーガストは身を屈めた。

 次の瞬間、ドン、という音と共に彼の姿は屋敷の外へと消えて行った。
 屋敷の裏手にある、エンペラー・カウが生息する森へと。

「相変わらず元気な御老人だな。……ん? どうした、刹那?」

 何やら考え込んでいる様子の刹那に視線を向ける。

「いえ、最後の方の会話がよく分からなかったもので」

「ああ、オーガスト老が各地で作った子供の養育費の話だ。
あの口ぶりだと、産んだ女性の生活費も込みだろうがな」

「……え?」

 海人のあっさりとした答えに、刹那は呆けた。

 ルミナス達からオーガストの無節操な女性遍歴は聞いている。数にすれば百は確実に超えるそれを。
 風の噂でも捨てられた女性の悲嘆などを聞いた事はないので、綺麗な別れ方をしているのだろうとは思っていたのだが、
流石にそれだけの数の女性に手を出した男が、金だけとはいえ子供を作った責任を取っているとは思えなかった。
 
 どういう事なのか、と海人に視線で問いかけると、
 
「確かにオーガスト老の金遣いは荒いようだが、今までの表に出ている業績だけを考えても稼ぎは百億を超えているはずだ。
とてもあれだけの偉業を達成しながら使い切れるような額ではないだろう?
しかもあの愛用の手甲や鎧などを拝領したのは四十年ほど前の事で、それ以来ずっとあれだけで仕事をこなしているらしいからな。
仕事の経費も少ないはずだ。だが、現にあの方は金に困っている。
では、残っているはずの大金はどこに消えたのか、という疑問が浮かぶだろう?」

 淡々と、だが確信を持って海人は解説した。

「それが子供の養育費などだ、と?」

「らしいな。今までの経歴からしてそれが一番可能性が高そうだと思っただけなんだが、
見事に的中していたようだ。いやはや、立派な事だな」

「ですねー。言うのは簡単ですけど、やるとなったら……」

「ああ、つくづく出鱈目な御老人だな。まさに見習うべき偉大なる先達だよ」

「一応言っときますけど女性関係は見習っちゃ駄目ですよ?
海人さんの交友関係で女の人食い散らかしたりしたら、命が幾つあっても足りませんからねー」

「分かっている。さて、そろそろ食事時だ。折角だし、三人で作るか。
あ、勿論刹那はオムレツ以外作らないようにな」

 そう言って海人が歩き始めると、刹那は小さく肩を落とし、雫は姉をからかいながら付いてきた。
 それを流し見ながら、海人は思う。

(……本当に、見習わねばな)

 自分の子供と産んだ女性限定、それも金銭だけとはいえ、オーガストは立派に責任を果たしてきている。
 目が届かず失った事などもあったかもしれないが、それは仕方がないと言えば仕方がないだろう。
 膨大な数の我が子達に対して、彼の体は一つしかないのだから。
 
 目の届く範囲にいた最愛の妻と産まれる前の我が子を実験事故で死なせてしまった自分とは、雲泥の差。
 
 そういう意味で、海人はオーガストを見習わなければならないと思っていた。

 失った者は取り返せないが、せめて今抱えている者に対しては責任を果たさねばならない、と。
 刹那と雫がその生涯を終えた時に、護衛を務めて幸せだったと言えるような主たらんと。
 楽しい人生だった、と笑って最期を迎えられるような生活を提供しようと。

 そんな密やかな決意を抱いていると、唐突に背に雫が乗ってきた。
 突然の襲撃に海人はバランスを崩し、地面に突っ伏した。
 
 そして、雫は海人の首に手を回したまま彼の耳へと口を近づけ、

「多分馬っ鹿馬鹿しい事考えてるんだと思いますけど、気負う必要なんてないですよ。
あたしもお姉ちゃんも好きでここにいるんですから――今のままで十分幸せです」 
 
 姉には見えない角度、聞こえない声量で優しく囁いた。
 その内容に驚いた海人が雫へ振り返ると、彼女は既に立ち上がるところだった。
 
 慌てて海人も立ち上がり何かを言おうとしたが――その前に、雫の頭上に拳骨が叩き込まれた。
 
 音からすると痛みはさほどないはずなのに、派手に転げまわる雫。
 刹那はそれを呆れ混じりに見下しながら、海人のバランス感覚を考えないで抱きついた事を窘めていた。
 
 そのうちに転げまわっていた雫が刹那の足をひっつかみ、引き摺り倒した。
 ひくひくと頬を引き攣らせながら起き上がった姉に向かって雫が舌を出すと、今度は鬼ごっこが始まった。 

 あっという間に推移した状況に海人は――笑った。
 この世界に来てから一番穏やかに、楽しそうに。

(そう言ってくれるのなら、もう少し気楽に考えるか……願わくば、この平和な生活がいつまでも続きますように)

 刹那に捕らえられ、関節技によるお仕置きを受け始めた雫を見ながら、
海人はそんな事をルミナス達の無事と一緒に祈っていた。 

 



 



































 シェリスの屋敷の中庭は、実に優雅な光景を見せている。
 鮮やかな緑の芝生、日光に負けじとその明るい色を示す色鮮やかな花々、
そしてそれを引き立てるかのように落ち着いた色彩の屋敷の壁。 

 海人の屋敷の庭が静とするならば、こちらは動。
 落ち着いた空気はないが、その代わりに中にいる者に爽快なまでの清涼感を叩き込むかのような空気がある。
 まさに貴族の庭園に相応しい、雅な中庭。
 
 そこの中心に置かれた白塗りのテーブルで、数日ぶりに屋敷に戻った主が脱力していた。
 余程疲れ切っているのか、呼吸以外では体が動いていない。
 それでも髪は綺麗に整え、疲労の色は化粧で隠し、椅子に背を預けつつもドレスに皺が寄らないよう気を配っているのだから、
大したものではあったが。

「……ねえ、ローラ」

「何でしょうか?」

 本日五杯目の紅茶を注ぎながら、主に問い返す。

 シェリスとは対照的に、ここ数日常に同行し、主を背に載せて駆けた事もあるローラは平然としていた。
 疲労の色などどこにも滲ませず、黙々と従者としての仕事をこなしている。 

 憎たらしいぐらいに普段通りな部下の美貌を眺めながら、シェリスは言葉を続けた。

「私は嘆くべきかしら、それとも喜ぶべきかしら?」

「エアウォリアーズの一件に関してであれば、喜ぶべきかと。
あそこまで把握した人間が敵方に情報を漏らさず、こちらの味方に付いたわけですから。
しかもあの方々は間違いなく世界屈指の傭兵団です。結果だけ見れば、間違いなく状況は好転しています」

「確かにその通りなのだけれど……あれだけ念入りに隠蔽し続けてきたのに情報を掴まれたっていうのは、ね」

 ふう、と憂鬱そうに息を吐く。

 世界最強と呼ばれる事さえ珍しくない傭兵団、エアウォリアーズ。
 ルミナスとシリルも所属するその団は、今シェリスが進行させている計画に急遽組み込まれる事になった。 

 予定では、今回の計画においてエアウォリアーズを雇うつもりは全くなかった。
 前もって用意しておいた戦力でほぼ確実な目的達成が可能であるため、働きには見合うとはいえ、
高額極まりない報酬が必要になる傭兵団を雇わねばならない必要性は薄いのだ。

 が、土壇場で状況がひっくり返されてしまった。
 あそこの団長と副団長が、三年も前から下準備を続けてきたシェリスの計画をどこからか嗅ぎ付けて売り込んできたために。

 その時、シェリスは不覚にも失神しそうになった。
 計画の規模が規模なだけに、情報管理には最大限の注意を払っていた。
 目くらましも兼ねて新鉱山の探索や新街道の開拓などといった大事業も並行して行っていたし、
そもそも計画に関わる大半には未だ詳細を明かしていない。

 ――だというのに、情報を掴まれた。よりにもよって口封じにも軍隊規模の戦力が不可欠になる超人二人に。
 
 結局、傭兵業界最強にして最高賃金を誇る傭兵団を急遽雇う事になった。

 雇用期間が短い事と鬼気迫るシェリスの交渉によってかなり値引きはしたが、それでも泣きたくなる額だ。
 おかげで予定していた事業の進行を幾つか遅らせなければならなくなってしまった。
     
 とはいえ、今回の事はある意味幸運でもあった。

「ま、情報管理に関して良い勉強になったし、収穫と言えば収穫なのだけど」

「そこまで理解しておられるのなら、嘆く必要は無いのでは?」

「……カイトさんから必要なだけの信用を得るにはまだ遠い、と思ってね。
三年もかけて準備した事の情報があんなあっさり掴まれるような現状じゃ、とても今以上の助力は望めないわ。
折角手元にやってきた反則カードだっていうのに……それが不甲斐ないのよ」

 頭上で燦々と輝く太陽に目を細めながら、シェリスは天を仰いだ。

 海人の助力は現段階でも十分ありがたい。それに偽りはない。
 これまででも、彼から売ってもらった品のおかげで交渉を有利に進められた場面が多々あったし、
一時停止と言われたにもかかわらず、無理を言って書類仕事を引き受けてもらえた。
 取引品目に酒が加わった事や、今後は恒常化するであろう事務処理負担の軽減、さらには使用人達への授業まで、
商取引を多分に含んでいるとはいえ、まさに天恵と呼ぶに相応しい利益だ。

 ――だが、まだまだ満足はできない。

 以前海人の情報に関する秘匿を条件に貰った、純金の術式盤。
 契約の関係上発表はできないが、そこに刻まれた無属性の防御魔法は魔法学会を造作もなくひっくり返せる性能だった。  
 
 シェリスが最も欲しているのは、それを生み出した彼の開発力だ。

 それこそ海人の全面的な協力を得る事が出来れば、この国はあっという間に魔法学の最先端を進み、
それに伴って軍事力も一気に跳ね上がる。
 やり方さえ間違えなければ国の未来はさぞかし明るい物になるだろう。

 無論、彼の性格上そこまでの未来はありえないが、
僅かでも魔法研究方面で助力を得られれば大きな力になる事は間違いない。
  
 それを得るために必要な条件こそが、シェリスの持つ情報管理能力の高さ。
 海人がそれに信頼を寄せてくれれば、研究方面での助力も期待できない話ではなくなる。 
 
 だというのに、第三者に情報を掴まれてしまった。
 管理を徹底し、色々手を打ち、今回の大仕事が終わったら、
海人に対して自身の情報管理能力の具体例として示そうと思っていたというのに。

 成功していればかなりの効果を期待できたと思うだけに、落ち込まずにはいられなかった。 

「どうせ進んで世界に出ようとする方でもありませんし、
じっくりと時間をかければよろしいかと。
それに今回の事が成れば、どのみち一定以上の評価は得られるはずです」

 どこまでも淡々と、私見を述べる。

 海人という男は良くも悪くも隠遁生活を望んでいる男である。
 己の才を世界に知らしめようなどという野心の持ち合わせはなく、
せいぜい人間関係による適度な刺激を求める程度。
 そうそう表に出るような事にはならないだろう。

 ならば、時間を掛けられる。
 トラブルに巻き込まれやすそうな体質や意外に御人好しな性格など不安材料は色々とあるが、決して焦る必要は無いのだ。 

 そもそも、シェリス本人は落胆しているが、今回情報を掴まれた事はそう落ち込むほどの事ではない。
 確かに第三者に情報を掴まれたのは失態ではあるが、それ以外の者には掴まれておらず、
掴まれたのももはや情報が漏れたところで大勢には影響を及ぼさない段階まで進んでからの事。 
 これから起こす事の規模を考えれば、むしろ誇るべき事だろう。

 もっとも――その程度では絶対に満足できないシェリスだからこそ、ローラは仕えているのだが。  

「まあ、確かに多少の評価は得られるかもしれないわね……余計な揉め事起こすなって睨まれる可能性も否定できないけれど」

「事が終わった後で理由を説明すれば、むしろ高評価を得られるかと存じます。
幸い、話の分からぬ御方ではありませんから」

「確かにね。ま、いずれにせよ――――予定通り、ルクガイアには迅速に滅びてもらいましょう」

 まるで欠伸でもするかのような気軽さで、語る。
 そして新たに注ぎ足された紅茶を啜り、クッキーを一齧りしてから小さく息を吐く。

 国外の有力者に『傀儡師』と渾名される令嬢は、どこまでも優雅に己が仕込んだ滅亡の開始を待っていた。
 
 ――かくして、世界は動き出す。

 この異世界にて平穏を望む一人の男など気にも留めずに。
 冷淡に、ただ厳然と状況は流れ始めていた。 
 
 
 
  



テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

更新お疲れ様です。
更新が遅れたために少し心配していましたが杞憂なようで何よりです。

やはり自分は強さの上下が気になるようで、エアウォーリアーズの団長、副団長、ローラ、吸血種としての力を発揮した刹那の強さの順位はどうなるのでしょうか?
[2011/03/21 00:02] URL | fuji #- [ 編集 ]


更新お疲れ様です

オーガスト老……
いろんな意味ですごいですね
何人産めば百億が消えて無くなるのやら
いや、責任取ってるのはいいことですけど

シェリス嬢がなんか黒いことしてますね
しかし、この話の中の人物達は皆よく生きてますね
武人は言うに及ばず、シェリス嬢関係の人間も普通なら過労死しているのでは……
今回のシェリス嬢を見ると特にそう思いました

ニュースではまだいろいろと地震の爪痕についてやっていますね
東京方面もこれ以上の被害が無いことを祈ります
では、次回の更新も楽しみにしています
[2011/03/21 00:03] URL | 華羅巣 #zR7lJLBY [ 編集 ]


 42話キタ━━━(゚(゚∀(゚∀゚(☆∀☆)゚∀゚)∀゚)゚)━━━!!!

そして、海人。されは平穏が破られるフラグだwww
ルミナスに秘密を明かすときは第何部になるのかも気になりますね。
と、いうか、またまたルミナスの出番が少なくなりそうな…………。
[2011/03/21 00:14] URL | ぼるてっかー #mc9/rPhk [ 編集 ]


更新お疲れ様です。


今回、オーガストに進入されていますけど、防犯システムの類は用意していないのですか?

攻撃機能はつけなくても、
たとえば、サーモなら知らなければまず引っかかるでしょう。
海人なら、人間にだけ反応するようにできるでしょうし。
さすがに、ローラクラスが突っ込んできたら、意味がないでしょうが。

まあ、あったとしても、ばらす理由はありませんが。


今回、術式板が出てきたことで思いついたのですが、
前回電卓が出てきましたが、「魔法計算機」は作れないのでしょうか。

たとえば、
触れることによって、「0」または「1」の情報を次の術式に出力する「入力術式」、
ひとつ、または複数の術式から受け取った信号から、一定の規則で次の術式に出力する「演算術式」、(「AND術式」「OR術式」「NOT術式」等)
入力された信号一時的に保存する「記録術式」、
入力された信号に応じて、発光、印字等を行う「出力術式」、
等を刻んだ術式版を多数組み合わせることによって、計算を行わせる、つまり「魔法式コンピュータ」を作ることはできないでしょうか。

今回質問ばかりになってしまいましたが、次回を楽しみにしております。
[2011/03/21 01:06] URL | 科蚊化 #9ODPgEpw [ 編集 ]

更新お疲れ様です
無敵メイドローラが付いている諜報部隊を出し抜く傭兵団のTOP2ってどこまでチートキャラなんでしょう。

それにしてもシェリス嬢って表向きの立場は一貴族の令嬢に過ぎないのに裏では二つ名が付くほどってどこまで強い立場にあるんだ?すでに国のトップも傀儡してるんだろうなぁ。

雫の察知能力ぶっ飛びすぎでしょうオーガスト老ですらごまかせないとか、これ以上のはカイトが全力だして作った場合のレーダー網位じゃないかと思いますよ。
[2011/03/21 01:07] URL | とある人 #vXeIqmFk [ 編集 ]


完結を貫く意志を見せてくれるのは読者としてとても嬉しい。今回もとても面白かった
[2011/03/21 05:25] URL | おさむ #- [ 編集 ]


ルクガイアを滅ぼすなんて言ったから、以前に攻めてきた国かとおもったら、違うのか…。
そういえば、エルガルドはどうするつもりなんでしょうね…
証拠はたっぷりそろっているでしょうし。

エルガルドに落とし前をつけるように見せかけて、ルクガイアを滅ぼすのかな(^^;
[2011/03/21 09:23] URL | Filith #- [ 編集 ]

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/03/21 12:47] | # [ 編集 ]


作者様がご無事なようでなによりです
そして更新お疲れさまです
オーガスト老は凄く男前ですね(笑)
次からはシェリスは戦争でも始めるのでしょうか
物語が大きく動き出しそうで楽しみです♪
質問なのですが、ルミナスのとこのリーダーや副リーダーとローラはどっちの方が強いのでしょうか?
ネタバレになったりするようでしたら無回答でも構いませんので、よろしければ教えて頂けたら幸いです
[2011/03/21 14:30] URL | 鳴 #UYppvBwQ [ 編集 ]


執筆お疲れ様です

>>二十人からなる親衛隊に囲まれた部屋で就寝するとある小国の王女に夜這いをかけ、
最後まで気付かれる事なく本懐を遂げた事さえある

なんという才能の無駄遣い。

>>子供の養育費

あ、やっぱりいたのか子供・・・・w
あんだけ女癖悪くていない訳がないですよねー。

・・・子供が成長したら性能トンでもなさそうだなぁ;
(しかも1人~2人レベルじゃない数がいそうですし)

>>シェリスのたくらみ

うわーいこのひといっこくをほろぼすつもりだー
そりゃあ、超腕のいい傭兵必要だよね・・・


今回も楽しく読ませていただきました!
[2011/03/21 15:48] URL | リファルス #- [ 編集 ]


執筆乙です

さすがオーガスト老!
痺れも憧れもしないですがすごい

しかしシェリスの企みですか、カイトがまた巻き込まれそうですね~
ついでにエアウォリアーズにもカイトの強さがばれて2,3番隊隊長に挑まれそうですねw
[2011/03/21 19:46] URL | 煉恋々 #h2YGRmSs [ 編集 ]

いまさらですが、ちょっと気になりましたので…
雫はゲームをやるようになっているようですが、映画やドラマを観たり音楽鑑賞したりしないのでしょうか?
海人がDVDやCDを創造できれば観せることができるでしょうし、
言葉が同じなら雫や刹那でも楽しめるのではと思いましたので気になりました。
(ただこれを書いていて思ったのですが、映画やドラマだと文化や慣習が異なるので意味がわからない可能性が高いですねw、でも恋愛系ならイケそうかも? あ~でも小道具やら景観やらと理解不能なものが多くて無理っぽいですかねw
クラシックとかの音楽オンリーであれば楽しめそうですね。海人なら絵画と同じくリラックスできる音楽とか集中力を高める音楽とか胎教に良いとかで研究してそうなきもしますしねw)
[2012/10/06 01:39] URL | らいらっく #MVQTBSLA [ 編集 ]

がっちり布3号の加工法
はじめまして。白衣の英雄楽しく読ませていただいています。
最近読み始めてまだ全部読んでいないのですが、がっちり布3号について疑問が生まれました。

これほど丈夫ながっちり布3号はどうやって加工するのでしょうか?
切ることも溶かすことも不可能な布なので、そのまま服の形で作っていると予想しています。
[2013/03/20 14:59] URL | アンダーソン #- [ 編集 ]


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