ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄43
 時刻は黄昏時。昼と夜の隙間に僅かに現れる、美しくも儚い時間。
 その象徴たる夕日に照らし出される城下町は、数多の軍勢で埋め尽くされていた。

 一気呵成に町の中心にある城へ攻め込まんとする彼らは大別すれば二種類に分けられる。

 一つは良い装備品を纏ってはいるもののデザインの統一性に欠け、妙にバラバラに見える者達。
 各々の動きも各区画ではまとまっているのだが、全体としては今一つ整然とした様子がない。
 ただ、それとは対照的に各々の兵が武器を振るう動きは荒々しいながらも無駄が少なく、磨き抜かれた鉈のような印象を受ける。
 
 もう一つは前者とはかなり対照的で、装備のデザイン、各々の動き、全体としての動き、全てが一匹の生物のような統一感がある。
 さらに言えば装備品の質も前者よりはるかに高く、遠目にも質の良さを感じさせる。
 そして、武器を振るうその動きは無駄なく洗練され、良く砥がれた剣のような美しさがあった。
   
 そんなちぐはぐとも言える混成軍だったが、一つだけ共通している事があった。

 彼らは前方を塞ぐ敵の軍勢は容赦なく仕留めつつも、町には被害を出さないよう動いている。
 あくまでなるべく、の範囲は出ないがその行為は功を奏しており、これだけの大軍勢が動いていながら町にはさしたる破壊の跡が見受けられない。
 しかも、敵軍が放つ飼い慣らされた数多の魔物を打ち倒しながらである。

 どちらも只ならぬ実力者達の集団である事は明白だった。

「……思ったより、早かった」

 そんな眼下の光景を、年若い女性が眺めていた。

 その目に感情の色は薄く、いっそ壮絶でさえある軍勢の姿に動揺する様子さえない。
 まるで心底どうでもいい事だ、と言わんばかりに。

 そんな彼女の背後から、虎よりも大きな狼型の魔物が擦り寄ってきた。
「……フェン、怖い?」

「ウォンッ!」

 何を馬鹿な事を、と言わんばかりにフェンは猛々しく吠えた。
  
 勇ましく、頼もしく、大変結構な事なのだが、飼い主である女性が振り向いていたため、
よだれが思いっきり顔にかかってしまっていた。
 フェンの体のサイズが大きいため、臀部まで届く美しい金髪もややおっとりとした美貌も煌びやかなドレスも全てが涎にまみれた。

 まずい、と思ったかのようにフェンはそれをぬぐうべく舌を伸ばし、

「駄目。舐めたら余計によだれまみれ」

 当然のように飼い主から駄目出しを受けた。
 
 長く大きな舌を掴みとられながらの窘めに、フェンは弱々しい声を出しながら項垂れる。
 女性がそんなペットの頭を撫でながら、毛布でぞんざいによだれをふき取っていると、 
 
「ウォン! ウォン!」

 何かに気付いたフェンが窓の方へと駆け寄って、吠えた。

「……あれは」

 窓へと視線を向けると、空に配置されていた軍陣に乱れが見えた。

 その原因は、たった一つの部隊。
 その部隊は陣形が乱れやすい空中においてもなお単独の生物のような統率の取れた動きをしており、
思わず現状を忘れて見入ってしまう程に美しい。 
 その動きによって、襲い掛かる攻撃魔法の雨を潜り抜けながら前衛を務める数多の鳥型の魔物達を蹴散らし、
後方で援護していた魔法使い達を見る見るうちに撃墜していく。

 とはいえ、無傷では済んでいない。

 後方から飛んでくる攻撃魔法の密度は容易に潜り抜けられる程甘くはなく、上位魔法の割合も非常に高い。
 優雅とさえ言える程華麗にかわし続けているが、火球の余波だけでも並の肉体強化では重傷を負うだろう。

 しかし、そんな危険区域をその部隊は暴れ回っている。
 全員が浅くはない傷を負いながら、それでも一切の躊躇いを見せず。
 
 それはきっと、隊の中に見える二人の人影によるところが大きい。

 一人は小柄な体躯に似合わぬ大きな弓を使う少女。

 彼女は風の魔法による加速がかかった複数の矢を同時に放ちながらも、狙いを外す事が無い。
 勿論避けられてはいるが、それでも必ず敵の体に当てている。
 しかも、仲間が囲まれそうになったらその瞬間に矢を放ち、一矢で包囲を崩している。
 彼女がいるおかげで部隊の全員が思い切った攻撃が行えるのだろう。

 そしてもう一人――指揮官と思しき、漆黒の翼を持つ飛翼族の女性。
 
 これがまた凄まじい。
 隊員に指揮を出しながら自らが先陣を切り、その剣を振るって次々に敵を斬り捨てている。
 時折上位魔法まで使って一気に仕留めており、隊の中で最も戦果を挙げている。
 それでいて必要な時には狙ったかのようなタイミングで部下のフォローに回る。
 飛翼族ならではの機動性を最大限に活用し、まさに八面六臂の大活躍だ。
 こんな指揮官ならば、部下も命を預ける事に躊躇は覚えまい。

 隊員一人一人の動きも鋭く、総じて優秀極まりない部隊であった。

(……でも、まだ到達には時間がかかる)

 そんな考えを浮かべた瞬間、件の部隊が唐突に落下し始めた。

 上空の魔物が壊滅した様を見た地上の兵士達が重力魔法を使ったのである。
 空中で重力魔法を使われてしまえば、いかに屈強な部隊でも落下以外の選択肢はない。
 
 とはいえ、これは苦肉の一手だ。

 本来なら、空中戦において鳥型の魔物の集団ほど恐ろしい相手はいない。
 純粋な戦闘能力は勿論、獰猛性や生まれ持った同種族の連携技術なども兼ね備えているため、
戦えば普通は命辛々逃げるのが精一杯なのだ。
 そんな集団を蹴散らした相手を地上に落としたところで、足場がある分かえって強くなる可能性の方が高い。
 地上も劣勢である事を考えれば、お世辞にも良手とは呼べない。

 あくまで空から王城へ一気に攻め入られる事を防ぐための、窮余の手段である。
 
(……時間稼ぎには十分だけど) 

 そんな事を思いながら大きなベッドをひっくり返し、その下に隠しておいたバッグを取り出す。

 その中から長いボロ布を取り出し、己の額にグルグルと手早く巻いていく。
 そうして額の七色に輝く宝石をすっぽりと覆い隠すと、今度は純白のドレスを脱いで折り畳み、
バッグの中に入れておいた冒険者風の衣装へと着替える。
 
 そうして着替え終えると、照明の光を浴びて輝く金髪が古びた衣裳の安っぽさを際立たせるが、
その姿を鏡で確認する本人に気にした様子はない。 
 
 そのまま折り畳んだドレスを手に抱え、

「ワォンッ!? ウォン!?」

 妙に人間味のある驚愕の吠え声を聞き、そちらに振り向いた。
 
 驚愕に固まっているフェンを脇にどけて窓から眼下の光景を眺めると、とんでもない光景が展開されていた。  

「……なに、あれ?」

 目を思いっきり見開き、固まる。

 先程地上に落とされた部隊が快進撃を繰り広げている。
 これはいい。予想していた事だ。

 だが、そのさらに前方に――――二人の化物がいた。

 それは白髪の男女の二人組。
 どちらも顔に皺が出ている割には、妙に若々しく見える。
 それが肩を並べて戦っているのだが、互いの雰囲気は真逆。
 男は野性味に溢れているが、女の方は洗練された佇まいだ。

 唯一つ両者に共通する点は――いかなる魔物も、兵士も、武器を交える事さえほとんど許されていない事。

 まるで集めた埃を突風が吹き散らすかの如く、二人の眼前に立った生物が散っていく。

 男の方の戦い方は、一言で言えば豪快。
 
 手甲を纏った拳で鎧を纏った魔物をその下の強靭な筋肉ごと叩き潰し、足甲を纏った足で蹴り飛ばした魔物で後方の隊列を崩している。
 男がその体を動かす度、数多の魔物や兵士が吹き飛び、直撃を受けた生物は確実に絶命している。
 破壊神、としか形容できない程に理不尽かつ凶悪な戦い方であった。
 
 女の方は、ある意味男よりも派手だった。

 彼女は相方の男のように相手を吹き飛ばすような事はしていないのだが、
その代わりに刀を用いて、立ちはだかる生物全てを輪切りにしている。
 しかも刀を振るう速度が尋常ではなく速く、結果として次から次へとバラバラの肉塊が飛び散っている。
 そのため辺りには大量の鮮血が撒き散らされ、文字通り血の雨と化していた。
 まさに死神と呼ぶに相応しい、凄惨な戦い方である。

 二人の進軍速度自体はさして勢いを感じない、ゆったりとさえ言えるものだったが、
その速度は眼前の敵軍が存在しないかの如く緩む事がない。
 
 その圧倒的理不尽による恐怖は次第に波及していき、戦況が一気に傾いていく。
 
 まだまだ距離的には遠いが、この調子では王城到達までそう時間はかからないだろう。
     
「……急がないと」

 声音に僅かな焦燥を滲ませつつ、必死で手を動かす。
 
 現状を考えれば、一刻も早く逃げなければならない。
 王城に到達されても逃げ切る自信はあるが、あの化物達の事を考えればやはり到達前に逃げる事が最善である。
 まだ、自分は死ぬわけにはいかないのだから。  

 ――己が罪深く、救い難い事はよく知っている。

 それを否定するために多少の努力はしたが、所詮は道楽の域を出なかった。
 それなりの理由があった、などという戯言は言い訳にもならない。
 そんな下らない理由の為に失われた命の数は、百や二百ではないはずなのだから。

 捕まれば国民の意思によって良くて断頭台行き、現実的には公開私刑の果ての絶命だろう。
 それでも生温いかもしれず、その末路は当然だと自分でも認められる。
  
 だが――否、だからこそ、ここで死ぬわけにはいかなかった。
  
 勿論、死は怖い。
 まだ生きていたいし、私刑の果ての絶命など嫌だというのも事実だ。
 ぬくぬくと安穏に育ってきた温室育ちの小娘である自分が、怖くないはずがない。

 しかし、それ以上に今死ぬわけにはいかない理由があった。
 
(……何もできなかったからこそ、せめて最後は……!) 
 
 強い決意と共に、女性――ルクガイア王国王女ラクリア・ベルゼスティアード・トレンドラは荷物を纏め終えた。

 
   

 
 
 
 























 緑豊かな和風庭園に、ぽかぽかと温かい陽光が降り注いでいる。
 若干暗めの色彩が多い場所だが、それでも日光が注ぐと柔らかな温かさが宿る。
 ほのかに漂う緑の匂いと共に、庭園は何とも和やかな空気に包まれていた。
 
 そんな長閑な場所の中心で、天地海人は大の字で寝っ転がっていた。

「……良い天気だな」 

「ですねー。ぽかぽかしてて良い陽気です」

 何気ない海人の呟きに、宝蔵院雫が快活な声で答える。

 彼女は海人とは違い、寝そべりつつも上半身は起こしていた。
 膝の上の盆に載せた緑茶の味を堪能しつつ、日光浴も楽しんでいる。
 一応主であるはずの海人とは対照的に、その姿はやたらと優雅だった。 

「これで徹夜明けじゃなければもっと素直にまったりできるんだがな」

 むくり、と上半身を起こしながら、軽く伸びをする。

 ついでとばかりに雫の持つ盆から自分の分の湯呑を取り一口啜ると、寝不足で重たい頭が少しだけ軽くなる。
 香気を飛ばさないギリギリの熱さを保ったお茶は、目覚ましにはそれなりの効果を発揮したらしかった。
 
「ずっと話しっぱなしでしたからねー。
折角大きな問題もなくルクガイアとの戦争終わったんですから、急ぐ必要なかったと思うんですけど?」

 ほんの少し恨めし気な視線を向け、問いかける。

 徹夜の原因は、数日前に終わったルクガイアとの戦争だった。
 唐突に開戦し、あっという間に終わったそれに自分達はまるっきり関わっていなかったのだが、
主である海人がそれで差し迫った危機感を覚えてしまった。

 そのため急遽屋敷に設置する防衛設備についての説明が行われたのだが、それが難航した。

 設置場所は景観を損ねないよう、かつ二人が覚えやすいよう何日も海人が考えたため問題なかったのだが――いかんせん、性能が凶悪過ぎた。

 何しろ、知らずに不法侵入しようものならいかなる達人でも死が約束されてしまうような代物だ。
 特殊なゴーグルを通さなければ視認できない光に触れた瞬間に光線が貫くなど、悪魔の道具としか言いようがない。 

 海人がこの世界とは別の世界で生まれ育ち、尋常ならざる道具を扱っている事は聞いていたが、
流石にこれは予想の範囲を超えていた。
 しかも海人は自身の極めて珍しい魔力属性によって、魔力の許す限り創造魔法による量産が可能。
 もはや、どこから突っ込めば、と言いたくなるほどの理不尽さぶりである。
 
 そんな話をしていたものだから、雫の姉である刹那がひょっとすると自分達のような護衛などいらないのではないか、と大真面目に落ち込み、
それを宥めるのに時間を食われ、設備に関する詳細な説明でまた時間を食われ、結果として終わる頃には日が昇っていたのである。

 せめて設備の説明を後に回せば徹夜にならずに済んだのではないか、と思わずにはいられなかった。
 
「急ぐに越した事はない。今度は他の国、という可能性もある。
ついでに言えば、問題が残っていないとは限らん。所詮私達は直接関わっていない部外者なんだからな」

「……なんか問題があったとしても秘匿された可能性があるって事ですか」

 なるほど、と感心したように頷く。

 町に行った際に情報は集めていたが、そこで得られる情報は所詮流布されている範囲でしかない。
 国の上層部が秘匿しているような情報ならば流れてはいないだろう。

 一国の滅亡という衝撃的な内容にばかり目を奪われてしまっていたが、
冷静に考えれば問題が秘匿されているだけというのは十分にありえる話だった。
 
「そういう事だ。しかし、誰が主犯だか知らんが随分と凄まじい事をやってのけたものだな」

 くく、と低く笑う。

 カナールの町で話を聞いただけだったが、ルクガイアの滅亡の経緯は凄まじいものだった。

 まず最初に起きたのはかの国の内乱。
 
 元々ルクガイアの貴族の大半は民に重税を強いていたのだが、一部の貴族はそれを良しとしていなかった。
 
 しかし、そういう貴族も王家に税を収めなければならない。
 規定額を収めなければ領地没収、それだけでなく処刑もありえるのだ。
 民に負担を強いず、それを免れるためには自身の生活を極力切り詰めなければならない。
 
 当然のように王家への不満は募り、地方の一部の貴族が反乱を起こしたのである。

 もっとも、それだけならば国が亡ぶ事など万に一つもなかっただろう。
 たかが地方の領主数人が反乱を起こした程度では、より強力で数も多い王家とそれに従う貴族達に敵うはずもないのだから。

 が、ここでおそらくは多くの者にとって予想外の事が起こった。

 内乱開始から三日後、この国シュッツブルグと南の大国ガーナブレストが共同で宣戦布告を行ったのだ。
 理由は、無辜の民を苦しめるルクガイアの王族以下の貴族達を人道として捨て置けぬというもの。 
 
 これは致命的だった。
 
 ガーナブレストは国の規模自体はさほど大きくないが、その軍は総数で数十倍にもなるというグランベルズにすら引けを取らぬと言われる精鋭軍。
 派遣されたのは一部だったが、それでも弱小国相手なら悠々と全軍を叩き潰して占領下に置けるような集団だ。

 しかもそれに比べればはるかに劣ると思われたシュッツブルグが、傭兵団を大量に雇い入れるという恐るべき手段を使った。
 弱体化が著しいと囁かれる正規軍は全く動かさず、代わりに世に名高い傭兵団をこれでもかと揃えたのである。
 綺羅星の如き傭兵団がずらりと並び、その筆頭に立つのは世界最強の傭兵団とも呼ばれるエアウォリアーズ。
 もはや悪夢としか表現のしようがない圧倒的な戦力であった。  

 内乱鎮圧に軍を割かれた上にそんな軍団二つに襲われてしまえば、結果など決まりきっている。
 ルクガイア全軍で迎え撃ったところで、返り討ちにあう可能性の方が圧倒的に高いぐらいなのだから。

 結局ルクガイア王国は開戦から二週間程で王都を含めた全都市を制圧され、滅亡してしまった。

 ――だが、何よりも恐ろしいのは、これまで全く情報が知られていなかった事だ。

 共同の宣戦布告である以上、あらかじめ両国が打ち合わせておかなければならない。
 そしてそういう気配があればどこからか情報が流れるなり、噂が流れるなりするはずだ。
 だというのに、町に行っても誰もが驚いているばかりで自分は予想していたという者すらいない。

 誰がいつから画策していたのかは不明だが、鮮やかかつ悪辣極まりない手並みである事は間違いなかった。

「ん~、主犯がシェリスさんって事は?」

「考えられるな。ガーナブレストの軍事力を考えればこの国と組む必然性はないから、
提案したとすればこの国の方のはずだ。となればシェリス嬢が裏で何かをやっていた可能性は充分ある」

 知り合いの貴族の御令嬢の優雅ながらも油断ならない顔を思い浮かべ、呟く。

 ガーナブレストの軍事力は、非常に高い。
 総力戦であれば、飼い慣らした多くの魔物に支えられたルクガイア軍すら相手にならないであろう程に。
 時間はかかるだろうが、あの国ならば独力でルクガイアを制圧できるはずなのだ。
 ならば、領地の分割などややこしい事柄が絡んでくる共同宣戦布告などを自発的に考えるとは考えにくい。

 そしてこの国側の提案となれば、かの御令嬢が絡んでいる可能性は極めて高い。
 
 なにせ、表向きは唯の公爵家の一人娘にすぎない身でありながら、
裏ではその血統由来の人脈を活用して商業から軍事までありとあらゆる分野にその手を伸ばしている人物だ。

 むしろ、雫が言うように彼女こそが主犯である可能性が高い――そこまで考え、海人はポン、と手を打った。

「そうか、そうだとすれば授業の準備を早めに進めた方が良いか」

 暢気な言葉の内容に対し、海人の顔は大真面目だった。

 海人は件の御令嬢の使用人達に授業を行う契約を結んでいる。
 厄介事に時間がかかりそうなため多少準備に時間をかけても大丈夫とは言われたが、
その厄介事とやらが今回の戦争であるなら、早めに準備しておくに越した事はない。
 
 教室などの準備は粗方終わっているが、教科書の作成が未だ予定通りに終わっていないのだ。
 生徒予定の皆からは楽しみにされているらしいので、その期待には応えたいのである。

 そんなマイペースな雇い主に、雫は思わず苦笑を漏らした。     

「あははっ、今更ですけど海人さん、戦争の事自体はどうでもよさそうですね?」

「ん? ああ、事実がどうあれ公式に終わった以上私達に実害はないだろうからな。
ぶっちゃけ、私に無関係なら他所で何が起ころうがどうでもいい」

 くあ、と大きく欠伸をする。
 その態度は、いかなる言葉よりも雄弁に海人の言葉が本心であると語っていた。

「ま、それもそうですね。変に興味持ったら巻き込まれそうな気がしますし」

 人としてやや問題のある海人の言葉に笑みすら浮かべ、雫はゴロンと横になった。
 丁度良い所に伸ばされていた腕を枕にして。

「……重いんだが。というか、そこに座布団があるんだからそれを枕に使えばいいんじゃないか?」

「いや、ちょっと試しにやってみただけなんですけど……海人さんの腕って高さが丁度良いですね。
ですんで、お姉ちゃんが呼びに来るまで、このまま寝させてくれると嬉しいでーす」

 言うが早いか、より寝心地が良い場所に頭の位置を調整し、そのまま寝息を立て始める。
 最早芸に等しい寝付きの早さであった。

 海人はくーくー、と暢気そうな寝息を立てる護衛の顔を眺めながら、

「……ま、構わんか。どうせもうそろそろ出来る頃だろうし」

 諦めたように体の力を緩めた。

 刹那が朝食を作りに厨房へ行ってから、既に一時間。
 生来の呪いじみた料理下手ゆえに多少手間取っていたとしても、いい加減出来る頃合いだ。

 副菜は昨晩作った御浸しなどがあり、味噌汁も残っているため、
魚を塩焼きにして米を炊くぐらいしか作業が無く、変な事をして恐ろしい料理になる心配もない。
 懸念はせいぜい米を炊き始めると同時に魚を焼き始め、魚が冷めてしまう事ぐらいだ。
 
 そんな非常に真っ当ながらも酷な事を思いながらぼんやりと空を眺めていると、 

「海人殿、お待たせいたしました」

 涼やかな声と共に、刹那が庭へ入ってきた。

 料理が乗った台車を押しながら、海人達の元へ歩み寄ってくる。
 その足運びは実に優雅で無駄が無く、背筋も伸び、表情も凛としていて麗人という言葉が非常に良く似合っている。
 
 が、彼女は歩いている途中で突然脱力する羽目になった。

 その視線の先にあるのは、困ったような顔で自分を見ている雇い主と、
その腕を枕にして能天気に寝ている妹。

 緩みきった顔で眠っている妹に嘆息しながら、刹那は深々と頭を下げた。
 
「……海人殿、愚妹がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「なに、多少腕が痺れるぐらいだ。大した事はない。
ほれ雫、起きろ。朝食が来たぞ」

「さっきから起きてますよ~。何か思いのほか寝心地が良いんでこのまままったりしてたいだけで~す」

 眠気をまるで感じさせない声を出しながら、寝返りを打つ。
 海人の腕の感触が随分と気に入ったらしかった。

 が、海人はともかく刹那はそんな妹の怠惰を許すほど甘くない。

「せいっ!」

 掛け声と共に、妹の横っ腹へと足を踏み下ろす。
 加減はしているが、それでも岩ぐらいなら粉砕できる威力。

 が、それが当たる直前に雫は身を転がして回避した。

 そのまま転がりながら身を起こし、容赦の無い姉に恨み言をぶつける。  
 
「う~、もうちょっとまったりさせてくれたっていいのに~」

「阿呆。百歩譲って朝食が冷めるのは仕方ないにしても、海人殿に御迷惑だろうが。
ほら、さっさと食べるぞ」

「は~い」

 気のない声で返事をしつつ、台車から自分の分の料理を取る雫。
 それに倣い、海人と刹那も自分の分を取る。
 
 そして三人揃って料理に手を合わせ、手を付け始めた。

 料理は海人が懸念していた魚が冷めているというような事もなく、普通に美味かった。
 素材は良い物が揃っているので当然のはずなのだが、雫と海人はささやかな感動を覚えていた。 

 というのも、雫は今まで姉の手料理で何度殺されかけたか分からない程であるし、
海人も一度教えようとして熱々の鍋やすっぽ抜けた包丁の洗礼を受けているためだ。
 最近は決まったメニューならばトラブルもなく作れるようになっていたからこそ任せたのではあるが、
自分達が怪我一つ負わず真っ当な料理が出てきたという事実には、やはり安堵した。

 海人達が本人には気取られぬよう感慨に浸っていると、刹那が口を開いた。

「そう言えば海人殿、結局昨日仰っていた防衛システムとやらは、今日から設置に取り掛かるのでしょうか?」

「そのつもりだ。ああ、遮音魔法と暗闇魔法の術式盤を用意したから、宝石に魔力を注いで寝る前に起動しておいてくれればいいぞ。
作業ロボットも時間が来たら地下に戻るようプログラムしてあるから、片付けの心配もない。
とはいえ万が一という事もあるから、念の為朝の鍛錬をするついでにでも片付いているか確認してくれると助かるが」  

 沢庵をポリポリと齧りながら、説明する。

 防衛設備の設置にロボットを使う以上、誰が来るか分からない昼間には行えない。
 夜間とて突然の来客の可能性は否定できないので、遮音魔法と暗闇魔法による音と視覚の遮断は必須だ。
 さらに言えば、朝には片付いていないと人の目に触れる危険性がある。

 なので、それらを全て最小限の手間で済ませられるようにしたのである。
 もっとも、そのせいでここしばらく寝不足が続いていたのだが。

「かしこまりました。他には何かありますか?」

「いや特には……あ、そうそう、ついでだから浴室を広めの檜風呂にでも変えようかと思っているんだが、君らはどう思う?」

 ふ、と言い忘れていた事を思い出し、訊ねる。

 この屋敷の浴室はやや殺風景なので、海人は温かみのある物に変えたいと常々思っていたのだ。

 本来海人の土木作業ロボットは木などの自然素材を扱えないのだが、
幸い昔妻から要望があったために、風呂と茶室だけは作れるようプログラムを組んであり、
通常よりもデータ入力に時間はかかるものの作成が可能なのである。
 材料となる木材の方も元の世界の屋敷で作った際に見た事があるので、
創造魔法で作り出す事が可能、と製造にあたっての問題は何一つ問題はない。

 とはいえ、三人は同じ浴室を共有している。
 浴室自体は二つあるのだが、片方が狭いので自然と同じ浴室を使っているのだ。
 そんな状況では二人の同意無しに改装するわけにもいかないので、意見を求めようと思っていたのである。 
 
 そして当の二人は数瞬硬直した後、

『是非お願いしますっ!』

 周囲を揺るがすほどの声で、同時に了承した。

 この屋敷の浴室は広いのだが、そもそもこの国には湯船に浸かるという習慣がない。
 浴槽自体は存在するのだが、生まれた由来が無精者が洗剤をぶち込んで体を丸洗いするためというものなので、広さなどは全く求められない。
 この屋敷の浴槽も御多分に漏れず、浴室の隅に小さく置いてあるだけである。

 しかし、刹那と雫の出身国であるヒノクニでは湯船に浸かる事が好まれている。
 特に広い檜風呂に浸かる事は最高の贅沢の一つとされ、多くの人間の憧れとなっているのだ。

 さらに言えば、海人からすれば大した負担ではないだろうとは思いつつも、気が咎めて二人が要求できなかった事でもあり、自分から申し出てくれたのであれば断る理由などどこにもなかった。

「それは良かった。やはり風呂は広い方が良いと思うんでな」

「その通りです。流石は海人殿、分かっておられます。
作成にあたって必要な事があればなんなりと仰ってください。
力仕事でも何でも全力で持って当たらせていただきます」

 いつになく生き生きとした表情で、刹那が熱弁する。
 彼女は食事の事も忘れたかのように、味噌汁をひっくり返しそうな勢いで身を乗り出していた。

「い、いや、別に材料用意してデータを入力するだけだから特に必要な事は……
ああ、電力が足りなくなるかもしれないから発電機をまた川に放り込まんといかんか」

「発電機はどちらに?」

「地下室の最奥の隠し部屋だ。食事が終わってから取りに行こう」

「はっ、承知いたしました! あ、そういえば食後の和菓子を持ってきておりませんでした。
今から取って参ります」

 言うが早いか、刹那はまるでスキップするかのような軽い足取りで厨房へと向かった。
 普段の刹那からは想像し難いはしゃぎっぷりに海人が唖然としていると、
 
「あ~、お姉ちゃんは無類のお風呂好きなんですよ。
冒険者時代たま~に天然の温泉見つけた時なんか、馬鹿馬鹿しいぐらいはしゃぎまくってましたから」 

 雫が苦笑しながら解説した。

 普段は凛とした女性の見本のような態度を崩さない姉だが、風呂が絡むと話が変わる。
 冒険者時代に魔物の生息地付近で温泉を見つけた時など、修羅の如き形相で周囲の魔物を追い払って入浴したほどだ。
 
 元々あまり表に出さないよう努力している事と、ここに住んで以来ごく普通に毎日湯船に浸かれる事で
今まではその執念が表に出ていなかったが、小さな狭い浴槽から大きな広い檜風呂に変わるとなれば、興奮を隠せずにはいられなかったらしい。
 興奮が落ち着いて我に返ったら、さぞかし愉快な反応を見せてくれるだろう。
 
 そんな事を思いながら雫が海人の方へ視線を向けると、

「……となると、風呂の方も急いだ方がいいか。
普段あまり騒がない彼女がああなるという事は、余程だろうからな」

 今日の予定を変更しているところだった。
 教科書の作成と並行して、風呂のリフォーム用のデータの作成を行うために。
 まだ寝不足が続くか、という若干の嘆きを飲み込んで。

 ――とても戦争終了直後の国内の出来事とは思えない、平和な光景であった。 
 
 



    


















































 シェリス・テオドシア・フォルンは自らの屋敷で部下の報告を聞きながら、苛立ちを隠せずにいた。

 三年がかりのルクガイア滅亡計画は概ね成功と言って差し支えない状況だが、
無視できない大問題が二つも残っているのだ。
 
 状況からすればその解決も時間の問題だが、とても油断はできない。
 どちらも、本来ならば残るはずがなかった問題なのだから。

 シェリスはやり場のない激情を堪えながら、震えた声を絞り出した。 

「あの布陣で取り逃がした、ですって……!?」

「は、はい! 予定通り城下町全域を取り囲み、徐々に包囲を狭め、王城に総攻撃を仕掛けたのですが、
ラクリア王女と騎獣のカイザーウルフのみが見当たりませんでした!」
 
 滅多に見る事のない主の怒り顔に慄きつつも、部下――シャロン・ラグナマイトは報告に補足を加える。

「よりにもよって王女を……本当に穴は無かったの!?」

 ギリリ、と強烈な歯軋りの音を鳴らしながら問う。

 他の王都にいた貴族達は一人も逃さず、相手によっては公開処刑用の捕獲に成功したと聞いたが、
その程度の成果で満足できる話ではない。

 逃がした魚は、それほどまでに大きいのだ。

「は、はい! 抜け道の類も全て出口を塞いでいました。
現状新規の抜け道も見つかっていません!」

 その言葉に眩暈がするほどの怒りを覚えたが、そこでシェリスは我に返った。

 ようやく、目の前の部下が自分に慄いている事に気が付いたのである。
 激情が先行するあまり、周囲が全く見えなくなっていた事に。

(……自信を持っての作戦だったとはいえ、予想外の事態の二つや三つで取り乱しては示しがつかないわね)

 シェリスはそう自戒し、報告を続けようとする部下を一旦遮って深呼吸を始めた。
 胸に渦巻く激情の炎が鎮火する様子はないが、それでも繰り返す事で徐々に冷静さが戻ってくる。
 
 ある程度落ち着いたところで、シェリスは普段通りの落ち着いた声音で問いかけた。   

「……元々王城にはいなかった可能性は? 彼女も内乱鎮圧に向かっていたという事はないの?」

 若干冷えた頭で、そんな理由を考える。

 今回、国王と王子も取り逃がしてしまったのだが、逃がした理由はまさにそれだった。
 よりにもよって、王族自らが地方の弱小貴族の鎮圧に向かったのである。
 戦力分散の一手であったのだが、結果としては見事なまでに裏目に出てしまったのだ。
 
 それに王女も加わっていた可能性は、考えられない話でもない。

「……いえ、王城の使用人達の話では間違いなく総攻撃直前までいたとの事でした。
御付の侍女達を始めとする全使用人に厨房で隠れているように命じたのを最後に、姿が見えなくなったのだそうです。
付け加えますと、反乱軍の援軍に向かったガーナブレスト軍からも王女の姿を見たという報告は来ていません」

 主が落ち着いた事に安堵しつつも、その意見は否定する。

 使用人達だけならば口裏を合わせている可能性もなくはないが、
反乱軍の援軍に向かったガーナブレスト軍から報告がない事まで考えれば、
実際に直前まで王城にいたと考えて間違いないだろう。

 なにしろ、その軍隊は国王達の軍勢と直接交戦し、肝心な獲物こそ後一歩で取り逃がしたものの、
国王の軍勢を魔物を含めて出立当時の一割程度まで激減させている。
 死体になったにせよ取り逃がしたにせよ、王女らしき姿があれば気付いているはずだし、
それを隠すような理由もない。  

「……追い詰められて自決した可能性は?」

 嫌そうな顔で、シェリスはそんな可能性を提示した。

 例えば上位の爆破魔法によって自決したとすれば、文字通り塵となって死体も残らない。
 捕らえられる事を良しとせずそんな手段で自決したのであれば、姿が見えない事も頷ける。

 そうだとすれば非常に困った話なのだが、考えられない事ではなかった。

「その可能性も考え、手分けして探しましたが……城内には死体が残らない程強力な魔法を使った痕跡はありませんでした」

「……となると、ガーナブレスト軍と傭兵軍の両方の目を掻い潜って脱した事になるわね。
どんな手品を使ったのかは知らないけれど」

「王女だけならまだしも、カイザーウルフも一緒にとなると可能だとは思えないのですが……」

「確かにね……でも、残る可能性はそれしかないわ。
どんな手段かまでは、流石に分からないけれどね」

 ふう、と溜息を吐く。

 今回ルクガイアの王城を襲った戦力は、気付かれずに逃げ出す事などまずできない戦力だ。

 空間魔法を使ったとでも言うのなら話は別だが、そうであるならば国が喧伝しないはずがない。 
 なにより、件の王女は幾度か基本属性の魔法を振るった姿を目撃されている。
 空間と同じ特殊属性を持つ男――海人の事を考えれば、空間魔法使いという可能性はないだろう。
 
 しばらく考え、シェリスはとりあえず別の事を考える事にした。

「……まあいいわ。ところで、国王達の方はどうなったのかしら?」

「依然として足取りは掴めていませんが、時間の問題かと。
国境からも報告は来ておりませんから、国内にはいるはずです。
それに、取り逃がしたのは自分達の責、という事でガーナブレスト軍が引き続き手伝ってくれるそうですので、
まず逃がす事はないかと思われます」

 自信を持って、シャロンは断言した。

 激減した国王軍相手なら雇い入れた傭兵達だけでも十分殲滅可能なはずだというのに、ガーナブレスト軍まで加わるというのだ。
 普通に考えれば、これで失敗などあるはずがない。
 それどころか、公開処刑の為に捕獲する事さえも可能なはずだ。

 が、その言葉を聞いたシェリスは何故か難しい顔で黙り込み、やがて重々しく口を開いた。

「……念の為、手の空いてる傭兵団は国内に戻しておきましょう。
こちらの要請次第ですぐに出撃可能な状態を整えさせておいてちょうだい」

「は? 何故でしょう?」

「もしも抜け道以外の手段でラクリア王女があの包囲網を潜り抜けたのだとすれば、
国王が同じ手段で国境を突破してくる可能性は否定できないわ。
ならば、用心に越した事はないでしょう?」

 そんな主の言葉に、シャロンは軽く目を見開いた。

 考えてみれば、もっともな話だ。
 抜け道以外の手段であれだけの包囲網を王女が潜り抜けたのなら、王に同じ事が出来る可能性は高い。
 そうであれば、国境の突破など造作もない。 
 戦争にあたって警備は強化しているが、あの包囲網とは比較にならないのだから。
 
 そして、その場合一番やってくる確率が高いのはこの国だ。
 ルクガイアに隣接する国家の中では一番正規軍の力が弱い国であり、
頼みの傭兵軍もルクガイアの制圧や他国への牽制に割いてしまっているため、今はほとんど残っていないのである。

 新たな抜け道が見つかっていない以上、その可能性は考えておかなければならない事だった。

 己の未熟を恥じつつも、彼女は迅速に動いた。

「直ちに手配して参ります!」

 主に一礼した後、シャロンは指示を出すべく急ぎ足で部屋を辞した。

 一方でシェリスは、部下の姿が消えたドアを眺めながら再び王女の脱出法について考え始めていた。 
 
「空間魔法系の古代遺産なら……いえ、ありえないわね」 

 浮かんだ考えを、即座に打ち消す。

 古代遺産。
 これは主に遥か古代の遺跡から発掘される術式盤の事を示す。
 それらからは現代には残っていない術式が色々と見つかっており、今日の研究者の好奇心の的になっている。
 
 だが、それらの大半は唯の術式が刻まれた板にすぎない。
 見つかる術式も今日より優れた、などという物は滅多になく、たまに新たな魔法文字などが見つかる程度である。
 そのため、大概は術式を写し終えたら溶かされて新たな術式盤に作り変えられる定めにある。

 そして空間などの特殊属性系の古代遺産に至っては、数が少ない上に見つかっても研究以外の使い道がない。
 同属性の魔力の持ち主でなければ術式盤は起動できないのだから、当然と言えば当然だが。

 稀に刻まれた魔法が発動する事もあるが、それは任意ではなく勝手に発動するものだ。

 その原因についてはいろいろ論議があるが、現在は長い年月をかけて僅かに残っていた宝石の魔力が次第に増幅していった結果だとする説が有力だ。
 術式盤は、埋め込まれた宝石に魔力が一定以上溜まると自動で発動する事があり、
宝石に宿った魔力は放置しておくと極僅かずつ増幅していくという実験結果があるというのがその根拠とされる。  
 
 この説の真偽は未だ定かではないが、いずれにせよ空間魔法系の古代遺産は勝手に発動する類の物であるし、
任意で発動させられるとすれば、それはラクリア王女が空間魔法の使い手である事に他ならない。

 なんとなく浮かんだ可能性だったが、あまりにも非現実的だった。

(でも、まともな考えで捉えたら正解が掴めないような気もするのよね。
そう、いっそ他の人からは笑い飛ばされるような非常識から考えた方が正解に――――)

 そこまで考え、シェリスは硬直した。

 非常識な観点から考えるのなら、これ以上なくうってつけの人間がいる。
 他者にその話をしても作り話と笑い飛ばされるような、そんな夢幻の如き男が
 歩く御都合主義とでも呼ぶべき、存在自体が全世界の研究者を冒涜しているかのような化物が。
 
 あくまで常識の中が居場所である自分がごちゃごちゃと慣れない事を考えるよりも、
そちらを頼った方が間違いなく有効だ。
 相手の性格を考えるとあまり良い顔はしないだろうし、情報を貰えるかも少々疑わしいが、
試してみる価値は十分にある。

 その程度の事に頭が回らなかった事に、シェリスは自虐的な気分にならずにはいられなかった。
 
(はあ……確かローラは今晩遅くに帰ってくるから――明日の昼食後に出向けばいいわね)

 そう結論を出し、背もたれに身を預ける。

 本来なら予約を取りたいところだが、困った事に現在は全使用人が激務に追われている状況だ。
 あの人里離れた場所に予約を取るためだけに向かわせるような無駄はできない。

 幸い、予約を取らなかったところで目くじらを立てるような人物でもない事であるし。 

「さてさて……どうやって交渉を進めるべきかしらね」

 あの秘密主義の象徴のような男からいかにして必要な情報を貰うか、
対価として何を用意すべきか、ようやく適度に冷えた頭で考えを巡らせ始めていた。 







テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント
第五部開始 戦いが始まり、そして終わった…はやっ!!
更新お疲れ様です。
いやー、ルクガイア攻めが始まった!
と思ったらもう殆ど戦後って感じになって…
ルクガイアが弱かったのか、シュッツブルグ&ガーナブレストが強すぎたのか…両方かな。

一方の海人たち三人は殆ど日常通りの日々を過している模様。
警備システムの強化と檜風呂の作成が始まるみたいですが。

ルクガイアのラクリア王女とやらが何処にどの様な方法で逃げたのかが気になりますが、続きはまたの機会にという事でしょうか?
シェリス嬢は空間魔法の使い手かもと疑い非現実的と思い直していますが、それを言ったら創造魔法の使い手も実在していますからねえ。
非常識男の協力を得られるのでしょうか?

まあルクガイアもまだ王族が生き残っているみたいですし終戦ではないのかな?

そう言えば地味に刹那の料理で朝食がとれる様になっていますね、刹那が頑張っている様子が伺えます。

次回更新を楽しみにしています。
[2011/04/10 21:30] URL | 戸次 #Wjzbkqqg [ 編集 ]


冒頭の人物はまた新たなヒロインになるのでしょうか?
実際ヒロイン格の人物は何人ですか?
現在のヒロイン格の人数だけでも知りたいです。

毎度更新を楽しみにしています。
これからもがんばってください。
[2011/04/10 22:20] URL | fuji #- [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/04/10 23:10] | # [ 編集 ]


今回は半分まったり半分シリアスな感じでしたね
新章のメインの話はルクガイアとの戦争なのか?と思ったら一話で勝負がついてしまってびっくりです(上層部はまだ捕まってないみたいですけど)
もし新しい特殊属性の魔法が見つかって、海人がその式を見たら創造魔法意外を使えるようになるのかなと少し期待してます
まぁ…無いと思いますが(笑)
それと最後に、作者様は国名はどうやってつけてるのでしょうか?
外国語の辞書から引用とかですかね?
国名に限らず固有名詞のネーミングセンス凄い良いなぁと常々思ってます
次話も楽しみにしてます♪
[2011/04/10 23:21] URL | 鳴 #UYppvBwQ [ 編集 ]


Σ(゜д゜;)………ルクガイアが終わっとるやないですか


王女様は輝石族?みたいですね~必ずしも人間が王族というわけではないのかな?何にせよやっと待ちわびた新キャラとペット枠が出てきてますます楽しみです(^o^)/
[2011/04/10 23:25] URL | さとやん #6x2ZnSGE [ 編集 ]


ラクリアが海人の屋敷の防衛装置に引っかかってお亡くなりになりました。……なんてことになったりはしないのでしょうかwwww
[2011/04/10 23:34] URL | 法皇の緑 #XoLF36RQ [ 編集 ]

ご無沙汰しています
ご無沙汰しています。hatchです。
ついに本筋の話が始まりましたね。
実は、本気で心配していました。本筋が始まる前に作者が力尽きるのを。
だって、本筋前の話に作者殿力入れすぎ。
日本の幕末から明治を書きたいが為に、関ヶ原から始めてしまった「風雲児たち」のみなもと太郎さんのことを連想してしまいました。みなもとさんは亡くなってはいませんがお年が心配。
しかし相変わらず、作者殿、キャラの暴走で話が壊れそうな前振りがお好きですね。
大丈夫でしょうか、赤外線の警戒網にレーダー光線のコンボって、しかも「何しろ、知らずに不法侵入しようものならいかなる達人でも死が約束されてしまうような代物だ」なんて、念押しの伏線まではるとは。
「カリオストロの城」の再現ですか?そりゃあ、ルパンは「特殊なゴーグル」なしで「レーダーとレーザーの巣」を感知してますけど、それは前提となる現代知識あっての話です。
まあ、アポなしで(細かいですけど、これもまた伏線ですよね)訪問するシェリス嬢はローラ女士が背負ってくるのでしょうけど、大丈夫でしょうか?
ローラ女士が無双するのでしょうか?
それとも前もって二人の接近に気がついた雫と気配り天然失敗娘の刹那のコンビが暴走爆走混乱収拾無双を発揮するのでしょうか?
いやー、作者殿の苦心惨憺悪戦苦闘が楽しみ、いえ、ゲフンゲフン………、心の底からお悔やみ申します。

追伸 実は、苦心惨憺悪戦苦闘の末、本文から切り捨てられた没ネタが楽しみだったりします。
[2011/04/10 23:48] URL | hatch #QGsADGPw [ 編集 ]


戦争終了はやっ!!
過剰戦力とはいえ消えるの早いですね~
次の話でルクガイアってどこだっけ?と思いそうです。

王女は面白そうな気配がしますね。
額のやつにカイザーウルフただの箱入りじゃなさそうです。

しかし防犯装置すごいですね、セコム以上ですな。
作動するときはオーガスト老が引っ掛かってギャグか、王女を狙う悪い奴ですかね?
[2011/04/11 00:16] URL | 煉恋々 #h2YGRmSs [ 編集 ]

誤字
功を制すという日本語はありません、
功を奏す、ですね。
[2011/04/11 00:49] URL | 通りすがり #- [ 編集 ]

風呂とはいいものだ…。
風呂イベント…うむ。個人的に大いに楽しみだ。
特に、風呂で一献というのがたまらない。海人がどういう趣向を凝らすか楽しみだ。

ああ、それと、「ぶっちゃけ」という表現だが、最近良く見かける。(他のSSなどでも)
あれは、古来からの日本語だっただろうか…?
テレビ等の影響を受けやすい人物が使うのなら、適当なのだろうが
少々違和感を感じたので…。(たしか、某タレントが使い始めた言葉だったような?)
ちなみに、語源は「打ち明ける」が崩れたもの…らしい。
[2011/04/11 02:09] URL | イシカワ #Fu/cmvJM [ 編集 ]


ルクガイアが可哀そすぎる!
戦闘時のセリフが一つもないという……

そういえば、授業の話はかなり前からあったのにまだ始まってないんですよね
ちょっと海人の個人レッスンではなく先生という立場に立った場合の状況が楽しみに思えます
ただ、シェリス嬢の部下たちは急ぎで覚える場合は笑い狂うかもしれませんが(笑)

では、次回の更新も楽しみにしています
[2011/04/11 03:11] URL | 華羅巣 #zR7lJLBY [ 編集 ]


この海人のノンキさ加減だと
シェリスが家に顔出したら王女と狼が一緒にメシ食っててもフシギじゃない気がしてきた。
[2011/04/11 04:19] URL | #- [ 編集 ]


まぁ、戦争は海人と関係もなく早期に終わったのだからこんなものでしょうね。

ところでルクガイアとガーナブレストって何処のどんな国だっけと
第一部の該当箇所付近を読み返してしまった。(第6話)

設定集とかあったらいいなぁとか、むしろここで第何話参照とか
そんな感じの案内も欲しいですね。

あと読み返して気づきましたが最初ローラがいない理由はこれの伏線だったのかな?(第8話)
[2011/04/11 08:40] URL | 黒いハーピィ #KJRT1U.Q [ 編集 ]


お久しぶりです。ずっと何かを見るのを忘れてると思ったらここでした。
なので地震でどうとかいうわけではないです。

いつの間にか戦争が始まってすぐ終わってましたww
新キャラ王女様が世間知らずに見えて、ペット?の背中に乗って進んでたら自分でもここがどこかわからなくなりました、的なことになりそうな予感。

続き楽しみに待ってます。
[2011/04/11 21:55] URL | 神楽 #8Pu.k.n2 [ 編集 ]

ついに念願の嫁候補の登場か!
海人の嫁候補かなー?
[2011/04/11 22:02] URL | メロン #yY6XORug [ 編集 ]


うーん、王女が海人の元にくるのは多分確定wとして、
普通ならそのあとシェリスと対立するんでしょうけど…
なんかうまく立ち回って、王女を手元に置いておくことになりました…となる気がしてならないw
[2011/04/11 22:26] URL | Filith #- [ 編集 ]


こんばんはー

>>ルクガイアェ・・・

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
「本格的にルクガイア攻めが始まるのかと思ったら,
あっというまに終戦してた」なにを(ry

なんというルクガイアいじめ・・・。

>>焼き魚
おお、刹那が順調に料理の腕を上げてる・・・・っ!
薬味は大根おろし辺りが欲しいところですな。

>>自分には関係ないby海人
人、それを巻き込まれフラグと言う。

今回も楽しんで読ませていただきました。
[2011/04/11 23:05] URL | リファルス #- [ 編集 ]


更新お疲れ様です。
新キャラ登場と傭兵団無双、殺伐とした雰囲気かと思えば、海人はのんびりw
シェリスは心労と過労で倒れそうに思えてきます。
シェリスの今後は大丈夫かなあと心配になります。
では次の更新を楽しみにしております。

[2011/04/14 22:24] URL | 光 #- [ 編集 ]


開戦理由に自国への不意打ち侵略行為に対する報復というのは入ってないんでしょうか?
人道をただすとかいうのよりも、大義名分としてはこっちの方がよほど正統性があるような。
皆殺しにしたルクガイアの将軍や正規軍の死体も証拠として確保してるでしょうし。

一部ラストのルクガイア軍の襲撃が、
国内外でどういう反応を引き起こしたのか知りたいですね。
そこのところが今のところほとんど描写されてませんし。
[2011/04/16 11:34] URL | #j4ekpsMA [ 編集 ]


バトル的にはエアウォリアーズVSカイトも見てみたい気が...。
ついでに刹那との風呂イベントもみたい。
[2015/07/25 17:11] URL | ten #iWfHidvU [ 編集 ]


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