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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄第一話前半 改訂版
 人里離れた郊外の大きな屋敷、その地下研究室で若い男がパソコンでプログラムを組んでいる。

 男の髪は連日の徹夜ですっかり乱れ、やや目つきが鋭いながら端整な顔も目の下にできた隈で崩れていた。髭だけは毎朝かかさず剃っているが、それでも少々不潔っぽく見える。
 その高い身長も長い脚も、パソコンの前に座りっぱなしの状態では邪魔にはなっても利点はない。
 身に纏った白衣やその他の衣服も薄汚れていた。

 この男――天地 海人――は自身の恵まれた容姿を思いっきり無駄にしていた。

「う~む……どうにもこのままでは上手くいきそうにないな」

 しばらく作業を続けていたが、唐突に手を止めてそう呟くと、今まで作成していたプログラムのファイルを保存し、パソコンの電源を切った。


「……やはり人の感情を持つ人工知能というのは難しいか」

 現在彼は擬似的な人間の感情を持つ人工知能のプログラムを開発している。
 そのためにありとあらゆる状況での人間の反応のデータを集めたが、 はっきり言って彼の求める物を作るためにはまだまだ足りていなかった。

 最大の理由はこの男の人間関係があまりにも希薄だからである。
 今でこそ人工知能の研究をしているが、彼は子供の頃から様々な分野の研究を行い、 それぞれの分野で何らかの多大な成果を挙げてきた。
 その中には軍事関係の研究なども含まれている。

 そのために様々な国の諜報機関に研究と身柄を狙われているため、うかつに友人を作れないのだ。
 なにしろ単に大学で研究を一度手伝ってもらっただけの男が、誘拐されて人質にとられた事があるぐらいだ。

 ちなみにその時彼は脅しの電話に、馬鹿か? と短く答えて躊躇うことなく見捨てた。
 結果としてその男は助かったのだが、こういう性格も人間関係の構築の阻害になっているのは間違いない。

 もっともこの男は10代の頃から頻繁に誘拐されそうになったり殺されかかったりしている。
 そのたびに自作の発明品などを用いて撃退していれば人格が歪むのも無理はないともいえるかもしれない。

 といってもこの男にも数少ないながら一応友人はいる。
 ただ殺人的に忙しい相手か普段どこにいるかわからない相手しかいないため、 人間の反応のデータをとるのは難しい。
 かといってへたなところに依頼すれば借りを作ることになり、何を要求されるか分からない。

 データ集めすら容易に出来ぬ現状に、天才と称される男は凄まじい苛立ちを覚えていた。

「いっそのこと誰も私のことを知らぬ場所へ行きたいものだ……」

 どうせこの世界にほとんど未練はないしな、と呟き机の上に飾られた二つの写真立てに寂しげに目をやった。
 そしてそれらの写真を撮った時の自分を思い返し、溜息をつく。

「……データが少なくとも、既に雛形ぐらいは出来ていたかもしれんな。 まったく、原動力たる探究心を根こそぎ失った科学者など、何の役にも立たん」

 そう呟き、目を軽く閉じる。
 探究心を失っているにもかかわらず、過去の未練だけで研究を行っている自分を自嘲しながら。
 その時、ふと数日間ぶっ続けの作業で忘れかけていた今日の日付を思い出す。

「そういえばもうすぐ…か、今年は花は…何にするか…」

 スー、スー、と穏やかな寝息を立て始める。
 連日の徹夜で疲労が溜まっていたのだろう。

 そのために気づかなかった。
 熟睡する直前に屋敷全体が微細に揺れ、鳴動していたことを。
 自身の体が穏やかな光に包まれ始めていたことに。









 ―――そしてその日、彼は生まれ育った世界から消えた。










 青々とした空、見渡す限りの草原、そして時折吹き抜けていく涼やかな風。
 そしてなによりも、いかなる人間も爽快な気分にさせてくれそうな清浄な空気。


 ―――実に心地良い場所であった。


 それこそ普段であれば、草原の中心で白衣をたなびかせて立っている男も、何時間いても飽きないだろうと思えるほどに。

「…ここはどこだ?」

 海人は誰にともなく呟いた。

 周囲は明らかに彼が眠っていた研究室ではない。
 というか、彼が住んでいる屋敷の周辺ですらない。
 圏外の表示になってしまっている携帯で一か八か友人にかけてもみたが、繋がらなかった。

 研究室で寝ている間に誘拐でもされたのか、とも思ったが、 それにしては拘束されていないし、辺りに人影もない。

 そもそも彼を誘拐するためには、彼自作の凶悪な防衛システムを突破しなければならない。

 侵入者の人権などまるで考えずに作られたそのシステムは、 以前彼の研究と身柄を狙って忍び込もうとした、とある大国の特殊部隊を進入から10分で全滅させた実績が存在する。

 率直に言ってしまえば、仮に突破できたとしても彼を誘拐できるほどの体力がある人間が残っている可能性はほぼゼロといえる。それを考えれば誘拐の可能性自体が限りなく低い。

「わけがわからん…が、こうしていても仕方ないな。とりあえず、人を探すとするか」

 とりあえずここから一番近くに見える―――それでも数kmはありそうだが―――街らしき影を目指すことにした。

 ―――が、5分もしないうちに足を止めた。


「…虎…か?」


 彼の前方にはいつの間にか虎のような生物が立ちはだかっていた。
 その生物は顔つき、体の模様、大きな体躯、ネコ科特有のしなやかな動き、全てが虎の特徴に当てはまっている。

 ただその額に生えた長く硬そうな角と体毛の基本色が緑色だという点が彼の知る虎とは違っていた。
 ちなみに生えている角は突進されれば彼がほぼ確実に串刺しにされそうなほどに鋭くもある。

「グルルルルル……」

 唸り声を上げながら、虎らしき生物はゆっくりと彼に近づき始める。
 涎をたらしている様子からすれば、どうやら空腹のようだ。

 ―――そして目の前には餌になりそうな人間。

 この生き物の目的は言うまでもないだろう。

「はっはっは、虎くん。まずは話し合わんかね? おそらく私は運動不足で非常に不味い。
それはもう飢え死にした方がマシだというぐらいに不味いだろう。
それよりはむしろ他の獲物を探す方が健全だとは思わんか?」

 じりじりと後ずさりながら、ヤケクソ気味に言葉による説得を試みる。
 表情こそかろうじて笑顔を取り繕っているものの、全身から脂汗が滲み出ている。

 彼は一応武術の心得もなくはないが、それはあくまで一般人相手の護身用程度のもの。
 当然素手で虎殺しなど出来るはずもない。

 つまり―――彼の命は今まさに風前の灯となっている。


「そもそもあれだ。摂食とは考えようによっては究極の愛情表現かもしれんが、
嫌がる相手に無理矢理はよくないと思わんかね。相手が男だろうが女だろうが別の種族だろうがだ。
いや、それを理想とするやつもいるかもおおおおおおおおおおおおっ!?」

 焦りのあまり思考が変な方向にずれ始めた瞬間、捕食者の突進が襲い掛かった。
 海人は咄嗟に思いっきり横に跳び、ギリギリでその突進を避けきる。

 そして虎から視線を外さぬまま迅速に、かつ冷静に自分が生き延びるための方法を考え始める。

 今の突進は運良く回避できたが、次同じことが出来るとは限らない。
 というか仮に出来たとしても、避け続けている間に力尽きて最終的に食い殺される。

 生き延びる方法は二つ。

 脚力と持久力で圧倒的に勝る虎からこの隠れる場所すらない広い草原で逃げ切るか、 戦闘能力で圧倒的に勝る虎の息の根を止めるかである。

「って、できるかあああああああああああっ!!」

 当然といえば当然の結論に思わず泣き叫びながら、再度突進してきた虎を再びギリギリで避ける。

「ん…!?」

 避けた拍子に白衣が翻り、彼はポケットの中の不自然な重さに今更ながら気づき――― ポケットの中に入れてあった物の存在を思い出した。

「……い、一か八かやるしかないか……!」

 幸いというべきか、今までこの虎の動きは速いがかなり単調であった。
 突進を回避し、それと同時にポケットの中の物を使えば倒せる可能性はある。

 ただし失敗すれば、今度こそ彼はこのどことも知れぬ地で眼の前の生物の餌となる。
 どんな些細な動きも見逃すまいと注視しようとした瞬間、虎が地を蹴り跳躍して襲い掛かってきた。

「んなっ……!?」

 間一髪、地面を転がりながら圧し掛かられる前に虎の体の下から逃れた。
 しかしそこに即座に身を翻した虎がその爪で追撃を仕掛ける。

「ぬ……おおっ!!」

 その爪も更に転がり避けはしたものの、完全には避けきれずに黒のYシャツが裂かれ、その下の皮膚からは血が出ている。
 たいした出血ではないものの、やはり自分の血が出ているとなると精神的には負担になる。

「ちっ、やはりそこまでうまくはいかんか……!」

 舌打ちとともに虎の行動に関する認識を改め、更なる追撃が来る前に立ち上がる。
 虎の方も彼を警戒し…というより今度こそ確実に仕留める為に体を丸め足に力を溜めている。

 いざ飛び掛ってくるかと身構えた瞬間―――

「グゥオオオオオオーーーーッ!!!!!」

 虎が鼓膜が破れそうな雄叫びを放った。

「ぐっ……! しまっ……!?」

 反射的に彼が耳を塞ごうとした瞬間、虎が牙を剥いて襲い掛かってくる。
 体勢が崩れているために反応が少し遅れ、今度はまともな避け方では間に合わない。

 しかしその時彼は逆に虎に向かっていき、その下を潜り抜けていこうとした。
 狙った動きではなく生存本能に突き動かされての行動であったが、とりあえず虎の牙は逃れることが出来た。

 それでも彼の体は虎の下にあり、危険な状態には変わりない。
 すかさず彼はポケットの中の物を虎の腹に押し当て、スイッチを押した。

 バチィィッ!! という音と共に虎の動きが一瞬止まり、ゆっくりと横倒しになっていく。
 それを感じ、彼は慌てて体の下から逃れる。

 それとほぼ同時にドサッと重い音を立てて虎の体が地面に完全に倒れた。

「……はあ、試しに作ったスタンガンが役に立つとはな。
世の中何が起こるか分からんものだ」

 虎が完全に息絶えていることを確認し、手に持った自作のスタンガンを見下ろして呟く。

 このスタンガンは護身用に作ってみたものの、科学者らしい…というかマッドサイエンティスト的なこだわりを存分に発揮して作成したため、人間を気絶させるどころか象を感電死させる程の威力を持つ。

 もはや人間相手では護身用どころか文字通りの必殺武器である。

 欠点としては威力ゆえに消費電力が莫大で、フルに充電されていても2回しか使えないことや、そもそも威力が大きすぎて、気絶ですむ生き物が存在するのかという点がある。


「いまさらだが、もはやスタンガンではないか。 それにしても……この虎、随分と動きが鈍かったな」

 冷静に虎の体を見てみると脚にも胴にも多くの傷が付いている。
 古傷もあるが、ごく最近出来た傷の方が多そうだ。

 元々の運動能力が高いわけでもない彼が何とか生き延びれたのはそれらの傷によるものが大きかった。

「まあ、なんにせよのんびりとはしていられんな。早く人里にたどり着かなければ」

 虎の骸から視線を外し、当初の目的地へと向かって歩き出し始めた。










「お……おのれ……こんなところで日頃の運動不足を思い知らされるとは……」

 そして虎との命懸けの戦闘から2時間ほど経過した頃、海人は四つん這いになり、自分の身体能力を呪っていた。 先ほど見えていた街らしき影は多少大きくなってはいるものの、依然として遥か先である。

 もっとも彼の日常生活はここ数年間、そのほとんどが研究室内で費やされ、出かけるとしても食料や実験に必要な材料の調達でしかなかったため、この結果は当然といえば当然…というか運動不足のくせに異常なほどの体力といえるだろう。

 ただ、このままいけば先ほどの虎の仲間や他の危険な動物に遭遇する可能性もあるため、 今度こそ食い殺されてしまう可能性は十分にある。 それを考えれば四つん這いになっている暇などない。

 しょうがない、と立ち上がって街に向かおうとすると、地面に不自然な影がある事気が付いた。
 しかもその影は段々色が濃くなっている。

「こんなとこでなにやってんの?」

 訝しく思っていると頭上から女性と思しき声が掛けられた。

 この場は見渡す限りの草原。
 どう考えても頭上から声がかかる事などありえない。

「なっ!?」

 反射的に上を見上げようとした途端

「どこ見ようとしてんのよこのスケベ!!」

 なにやら白い布地と迫り来る靴底の映像を最後に、海人は気を失った。










「あ……あちゃ~、やっちゃった……なんか怪我してるみたいだし、さすがに放置しとくわけにはいかないわよね…」

 海人を昏倒させた女性はそう言って天を仰ぎ、次いで彼の顔を覗き込む。

「あら? よく見るとけっこう色男ね…しかも身長高いし、足も長い……ちょっと薄汚れてるけど」

 そういうこの女性も相当な美女である。
 気の強そうな蒼の瞳が印象的な均整の取れた顔に、短く揃えた金髪が良く似合っている。
 スタイルも胸はしっかり出ており、腰は細く、腰から尻のラインも綺麗な流線型で、お尻の形も美しい。

 白いアウターの上に特殊な構造になった金属製の部分鎧を纏い、下は皮製のミニスカート、と着る人間を選びそうな格好だが、この女性の場合は全体的にややタイトな作りの服装がむしろそのスタイルの良さを強調している。

「街で普通に会ってたらラッキーだったのに……ま、しょうがないわね。よっ……と!」

 そう呟き女性は海人を横抱きにすると、バサッという音と共に地面を蹴って空高く舞い上がった。


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント
初めまして。
読ませていただきました。

面白い作品ですね♪今後の展開に期待しちゃいます。

批判などは出来ない自分ですが、ただボーッと陰ながら読ませていただきます。

これから宜しくお願いします。
[2010/03/04 19:20] URL | ときん #7/8/acBQ [ 編集 ]


はじめまして。
何気なく立ち寄って,ちょっと読み出したら一気に読んでしまいました。面白いです。
天才も大変な苦労がありますね。
虎と出会ったところ,確かに人間,恐怖の限界に来ると現状とは違うことを考える、そういうことあるかもしれません。

続き、また来ます。
[2012/05/13 12:08] URL | RED #mQop/nM. [ 編集 ]


はじめまして
まだ一話しか読んでいませんが、とても面白いと思います。
まだ更新をされているようなので、頑張って下さい。
[2013/03/10 18:57] URL | #x7dK6Xlk [ 編集 ]


はじめまして。1年前に読ませていただきました。 面白かったのでもう1回読み直します。
[2015/07/24 16:43] URL | ten #- [ 編集 ]

はじめて
はじめまして九重さん。
3年ほど前に一度読ませてもらい、面白かったのでブックマークをしたのを最近になって思い出したのでまた読ませてもらいました。
まだ更新しているようで良かったです。これからも更新楽しみにしてます。
[2017/12/02 20:53] URL | SS #9k1s5a9o [ 編集 ]

初めまして
偶然この小説を見つけ読ませていただきました。私は想像することが好きですが,それを言葉で表すことが出来ないので純粋にこのような文章が書けるなんてすごいなー!って思いました!
続きのお話も読ませていただきます。

[2018/02/24 22:41] URL | カルミア #uxSLC35I [ 編集 ]


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