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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄62
 夕食後の鍛錬を終え自室に戻ったルミナスは、ベッドに寝っ転がっていた。
 時折己の艶やかな翼を撫でながら、物思いにふけっている。
 
 考えているのは、今日の海人への行動。

 感情の赴くまま八つ当たりする事は、そう珍しくはない。
 理不尽だと分かっていても止まらない事もままある話だ。
 終わってから頭を抱えて自己嫌悪に沈んだのもそれなりの回数に及ぶ。

 ――――が、今回は少し事情が違う。

 普段の自分ならば、あそこで海人にお仕置き兼八つ当たりは出来なかった。
 いつもならば、実行以前にシリルの頭に拳骨を入れて諭している。 
 
 というのも、事この手の問題に関しては、海人へのお仕置きは何の意味もないからだ。

 海人という男は、精神力が異常な程に強い。
 一度思い切ればいかなる苦痛も恐怖も枷にはならないし、思い切る前に罰を思い出して躊躇するという事もありえない。
 その程度の事が枷になるような、甘い相手ではないのだ。

 それは、ルミナスが何よりも知っている事。

 危険な事をするなとぶん殴られた直後にもかかわらず、戦争状態のカナールに突っ込んできた事があった。
 ルミナスを守る為、迷いもせずドラゴンの火炎の真正面に突撃してきた事があった。
 無茶をしないと誓う気がない、そして嘘も言いたくないが為に骨折中にもかかわらず鎮痛剤を諦めた事があった。
  
 あそこまでやってしまう馬鹿に、お仕置き程度の事が枷になるはずがない。
 やったところで、単に無意味な苦痛を与えてしまうだけ。
  
 ――――だからこそ、今まで何も言わなかった。

 会って間もない刹那と雫、果てはローラにまで創造魔法の事を知られたと聞いた時も静かに憤りを抑えた。
 秘密主義の権化のような海人があれを開示するなど、命に関わる事件があったとしか思えなかったというのに。
 何をやったところで彼を無駄に痛めつけるだけと分かっていたから、堪えた。
     
 にもかかわらず、今回はシリルの言葉に一理あると考えてしまった。
 そして海人はいつもより一割増しのお仕置きによって目を回す事になった。
 普段ならば、多少愚痴をぶつければ気が済んでいたはずなのに。

 海人本人を含め全員いつもの事と軽く流してはいたが、これは違う。
 まるで、海人にお仕置きする為の口実を探していたかのようだ。 

(……結局、理由つけてここしばらくの鬱憤晴らしたかったって事なんでしょうね。ったく、碌でもない……)

 自嘲しつつ、なんとなく自分の翼を撫でる。

 どうにも最近、調子が狂いっぱなしだった。
 雫やシリルに対してはそれ程でもないのだが、他の人間が海人と仲良くしている姿を見るとかなり感情が荒れてしまう。
 喜ばしい事のはずだというのに、心の奥から醜い感情が湧き出てくる。

 それは今までに一度や二度ではなく、日に数回という高頻度。
 その都度すぐさま我に返り、気付かれぬ間に取り繕ってはいたが、感情が消えていたわけではない。
 むしろ理性的な理由で感情を押し殺す事で、心の奥底で濃縮されていた。
 
 その感情の正体は、既に分析できている。
 子供じみた独占欲から生じる嫉妬心だ。
 
 それのせいで、海人の側に誰かが寄ると自分の居場所を取られたようで腹が立つのである。
 海人に近寄る者達にも腹が立つし、それを許しているように見える彼にも苛立ってしまう。

 特に刹那は、その立ち位置が以前海人が居候していた時の自分と極めて似通っている為余計に苛立ちが募る。
 シリルと雫が気にならない理由は、あの二人の立ち位置が海人にとって妹的なものである為。
 距離的には近いが、自分の居場所と被る事はない。そのおかげで反応しないで済んでいるのだ。
  
 ――――理性では、悪いのは自分だと理解している。

 刹那はルミナスを排除しようとしているわけではないし、
それどころか家事能力その他諸々で敬意さえ払ってくれている。
 海人とて他の人間に構いっぱなしというわけではなく、むしろ接する時間はルミナスが一番長いぐらいだ。 
 それでも足りないと思ってしまう自分が悪いのだと、分析は出来ている。

 だからこそ普段は何でもないように接する事が出来るのだが、ままならぬ感情それ自体はどんどんと蓄積していく。
 そのせいで、それを発散できそうな場面に出くわした途端、冷静さが失われてしまったのだ。
 
 今考えると、この間のメイベルの一件も同様だった。
 無論雫の教育に悪いと思ったのは事実だし、そもそも周囲に人がいる状況でああいう真似をするのはいただけない。
 ゆえに説教の必要性はあったが、ああもみっともなく怒鳴り散らす理由はない。
 軽く拳骨でも入れて懇々と諭せばそれで済む話だ。基本的に、海人は話せば分かる男なのだから。

 それがああなった理由は、溜まっていた鬱憤を晴らす意味合いが強かったからだろう。

 ――――何か少し引っかかるような気はしたが、ルミナスはそれを気のせいと断じていた。

(……これからは気を付けないとね。動いて発散すれば多少収まるし)

 軽く息を吐き、瞑目する。

 正直、この胸で荒れ狂う独占欲をどうにかする方法は思いつかない。
 あまりにも幼いとは自覚しているが、それでも制御が利かないのだ。

 が、感情の鬱積を発散する方法は他にもある。 
 効率は悪いが、鍛錬の最中など体を思いっきり動かしていると少しずつ晴れていく。
 鍛錬の量、あるいは外出の頻度を増やせば今よりはマシになるだろう。 
   
 そんな事を考えていると、部屋のドアがノックされた。
 即座に頭を切り替え、返事をする。

「はーい。どうぞー」

「邪魔するぞ」

 そんな声と共に海人がドアを開けた。

「ありゃ、カイト。こんな時間にどうしたの?」

「いや、たまには二人で晩酌でもどうかと思ってな」

 後ろにある台車を指差し、苦笑する。
 台の中央には何種類ものチーズとクラッカーが乗せられ、脇には赤ワインが二本載っている。
 どれもこれも、ルミナスの大好物だ。

「……へえ、珍しいわね。ま、いいわ。入って入って」

 ドアへ向かい、ルミナスは海人を部屋に招き入れる。
 その顔はこれでもかと言わんばかりの喜色に染まっていた。
 


















 シリルは自室で天井をぼんやりと眺めていた。
 その目には、どこかなげやりで疲れたような色が滲んでいる。

 一応、概ね計算通りの結果になった。

 あんな拙い理由をこじ付けただけで、ルミナスが海人のお仕置きにかかる事。
 あの身内にだだ甘な男が、なんだかんだでそれを仕方ないと碌な抵抗もせず受け入れる事。
 それによって、ルミナスの心の奥に溜まっているであろう澱を多少なりとも晴らせるであろう事。
 そして、自分達の行為がいつもの事と軽く流される事。
 
 どれもこれも嫌になるぐらい、順調に進んだ。

 ルミナスは冷静さをすっ飛ばしていたし、海人は案の定本気で逃げにはかからず、
お仕置きが終わった後の上司の表情にはどこか晴れやかさが漂い、海人本人を含め事後にしこりは感じなかった。
 ルミナスが直後に自己嫌悪に襲われていたようではあったが、成果は十分と言える。

 あの様子ならばルミナスの鬱憤が溜まっても、溜まりすぎて爆発する前にシリルが調節して解消できる。
 これならば今の停滞状況を続けさせても、自分の行動次第で致命的な事態は防げるだろう。
 それを確かめられたのは、十分な収穫だ。 

 ――――が、唯一の誤算はあまりの後味の悪さ。

 お仕置きをされるほど悪い事はしていない友人をルミナスの為に利用する。
 シリルにはこれで罪悪感を感じない品性の持ち合わせはない。
 理由はあってもそれを言い訳にできるような器用な人格ではないし、またそうなる気もない。

 ゆえに覚悟はしていたつもりだったのだが――――いざ実行すると想像以上に不快だった。

(しかも所詮一時しのぎで根本的な解決法ではなし……我ながら、本気で無能ですわねぇ)

 ままならぬ現状に、頭を抱える。

 根本的な解決法、それ自体は分かっている。
 単純にして明快。状況を把握すれば子供でも分かる方法だ。

 が、それを穏便に行う為の前提があまりにも厳しすぎる。
 ルミナス側の問題だけならともかく、海人側の問題まであるのだ。
 
 厄介すぎる現状と足りぬ己の能力を嘆いていると、ドアから音が鳴った。

「どうぞー」

「ども、こんばんはー」

 ドアを開け、雫が陽気な声と共に入ってきた。
 シリルが椅子を勧めると雫は持ってきた茶菓子をテーブルに置き、部屋の主と向かい合った。

「それで、どうなさいましたの?」   

「ん~、ちょっとした確認です。
ルミナスさん煽動した理由って、やっぱ状況次第で憂さ晴らしさせられるかどうかの確認ですか?」

「……良くお気付きになりましたわね」

「いやいや、あんだけあからさまに煽動してたら分かりますって。
ルミナスさんがああもあっさり乗っちゃったのはちょっと予想外でしたけど」

「普段から色々溜め込んでらっしゃいますし、最近ではカイトさんが絡むと途端に冷静さが損なわれますもの。
ああなるのは当然の成り行きですわ」

 物悲しげに、小さく息を吐く。

 海人の事が無くとも、元々ルミナスはかなりのストレスを溜めこんでいる。
 彼女は自他共に認める一流の傭兵ではあるが、それだけに潜った修羅場の過激さも桁が違う。
 今のところ本人は実力と天運で五体満足で生き抜いているが、それについていけない部下は少なくなかった。
 ルミナスの隊は他の隊どころか傭兵業界全体を見渡しても屈指の生存率を誇るが、それでも百ではないのだ。

 死んだのは運命と達観する傭兵も多いが、彼女はそうではない。
 隊長という立場上あまり表には出さないが、毎回毎回誰よりも悲しんでいる。
 勘違いされる事も多いが割り切っているのではなく、堪えているだけだ。

 ルミナスにかかっている心理的圧迫は、並ではない。
 
「ま、いいですけどね。まだ海人さんも嫌がってませんし」

「ああ、やはり気付いてらっしゃいますのね」

「そりゃそうでしょ。あの人が本気で嫌がってたら、お二人が本気出しても捕まえられるかどうか」

 くっく、と楽しげに笑う。

 海人はルミナス達から逃げる際、本気で逃亡する事はない。
 厳密には全力で逃げてはいるのだが、己に多くの条件を課している。

 武器の使用からなにから、致命的な事態に繋がりかねない物は全て封印。
 使うのはほぼ防御魔法と己の肉体のみ。無謀なまでの制約だ。

 そして、逃げ回る範囲も実は広いようで狭い。
 相手の知覚範囲から完全に消える程遠くまでは逃げないのである。
 無論身体能力的に難しいという事もあるのだが、その気になれば魔力砲を活用して高速移動する事も出来なくはない。
 
 つまるところ、現状では海人にとってルミナス達に追いかけられるのは遊びの一種なのだ。
 一撃で意識を刈り取る彼女らの打撃も、たまたま玩具が顔に当たったぐらいにしか感じていないだろう。
 
 そして、海人は本気で嫌な時は迷いなくその制限を外せる。
 友人とはいえ――否、友人だからこそ関係がこじれる前に冷や水を浴びせるだろう。

 それを理解している身からすれば、海人にはまだまだ余裕がある。

「少々腹立たしくはありますが、事実ですわね。
それにこの間の指技を使われれば、至近距離でも逃げ――――いえ、むしろ喰われかねませんわね」

 先日見たメイベルの惨状を思い返し、溜息を吐く。

 本性を見せた彼女からは、男遊びの激しい部下達と共通する物を感じた。
 どれほどかは分からないが、男慣れしているのは事実なのだろう。

 それが、相当手加減していたらしい指技であの有様。
 本気になればどれほど凶悪なのか、想像も出来ない。
 いかな超人でも所詮こちらは生娘二人。
 触れた指が動き始めた段階で敗北だろう。

 今までは防御魔法を使えない至近距離なら必勝出来ると思っていたのだが、今はむしろその距離が一番危険に思えた。
 
「ってかあの時の海人さん凄かったですよねぇ――――あたし、思わず見惚れちゃいました」

 ほう、と息を漏らす。
 その仕草は妙に艶めかしく、年に似合わぬ色気に満ちていた。  

「気持ちは分からなくもありませんわね。不覚ながら、私も一瞬心を奪われましたので。
ふふ、他のメイドがいなくてよかったですわね。いたら本気で取り返しがつかなくなっていたかも知れませんわ」

 軽く、肩を竦める。

 冗談めかしてはいるが、ほぼ本心の言葉だ。
 あの時の海人は、それほどまでに凄まじい引力を放っていた。
 時折お遊び混じりに似たような雰囲気になる事はあったが、それとは次元が違いすぎる。
 ルミナス一筋のシリル、それが遠目に見ただけでさえ一瞬心を完全に奪われる程の魔性の魅力。

 それを元々海人に恋愛感情を抱いている者達、それも仕事上自身の恋愛経験は少ない者達が見てしまったらどうなるか。

 間違いなく、歯止めが利かなくなるだろう。
 脈が無いから諦める、そんな理性的な選択を浮かばせてくれるような生易しいものではなかった。
 最悪、仮に海人が再婚しても横から掻っ攫おうとする者が出てもおかしくない。
 
「そういう点じゃ、ルミナスさんの精神力はぶっ飛んでますよね。
少し見惚れてましたけど、すぐさま我に返って海人さんに飛び蹴りかましたんですから」

「お姉さまはあれで意志力の強さは尋常ではありませんの。
いかに魅力的だったとはいえ、それで完全に呆ける御方ではありませんわ」

 我が事のように、誇らしげに胸を張る。

 感情的な性格ゆえに誤解されがちだが、ルミナスの心は恐ろしく強い。
 誰よりも部下の死を悲しみながらも、部下の士気を低下させない為に仕事が終わるまで涙の一つも零さない。
 敵の部隊が補給を断つために多くの村を無慈悲に焼き払った光景を見ても、冷静さを取り繕って逸る部下達を制する。
 急場で自らが深手を負っても、そこを切り抜けるまでは気合で顔色にさえ出さず果敢に戦う。

 そんな上司だからこそ、シリルを始めとした全部下が敬愛し誇りに思っている。

「でも、どのみちあれで確実に状況悪化しましたよねー」

「ええ……カイトさんにはほとんど非が無いだけに、余計に腹立たしいですわ」

 がっくりと、肩を落とす。

 海人は、何一つ悪い事はしていない。
 ああやって仕掛けてきた相手のプライドを砕く事自体はいつもの事だし、
自分から仕掛けたわけではないので責められる謂れはない。
 強いて言えば、人前でやる事ではないという事ぐらいだ。

 が、それで確実に状況が悪化したであろう事もまた事実。
 なんとも悩ましくやりきれない問題であった。

「ま、悩んでもしょうがないですよ。
どーせあたしらに出来る事なんてないわけですし、事態が動くのを静観するしかないです」

 ポリポリと菓子を齧りながら、能天気に語る。
 その口調からは悩みが感じられず、本当に考えた末の諦観か、はたまたさして興味がないだけか今一つ判別がつかない。
 言っている事それ自体は、正論なのだが。

「その通りではありますが……」

「それに案外、勝手に事態が好転するかもしれませんよ?」

 納得しかねているシリルに、悪戯っぽい笑みを向ける。

「何故そう思いますの?」

「今海人さんの気配がルミナスさんの部屋にありますんで」

「……成程。事態が悪化しない事を祈るばかりですわね」

 あっけらかんと笑う雫に、疲れたような目を向ける。

 雫は暢気にしているが、今の状況で海人がルミナスと二人きりになるというのは少々危険も孕む。
 己の感情の自覚がない者と己に向けられる感情に気付かない者。
 上手くすれば状況が改善されるが、悪化する可能性もある。

 傍から見ている身としては気が気ではない。
   
「ま、さっきも言いましたけど悩んでも出来る事はありません。って事で……」

 雫はすたすたと部屋の棚に歩いていき、そこから何かを取り出した。
 そしてドン、とテーブルにそれ――――ディルステインのセットを置く。
 
「あらあら、先日ボロ負けしたばかりなのに懲りませんわね」

「海人さんに百連敗以上しても諦めないシリルさんには負けますよ」

 にやりと笑い、雫は駒を並べ始めた。  
 心の中で、海人の行動が良い結果になるよう祈りながら。
 
















































 ルミナスの部屋では、静かに晩酌が行われていた。

 二人で取りとめのない話をしながら、ぼんやりと窓の外に見える月を眺めている。
 時折思い出したように赤ワインがグラスに注がれ、チーズの乗ったクラッカーがゆっくりと減っていく。
 静かだが、穏やかで優しさに満ち溢れた時間。

 二人はそれを存分に満喫していた。
 
「ん~、たまにはこういうのも良いわねぇ……でも、何か本題があるんじゃないの?」

「……やはりあからさまだったか?」

 ルミナスの問いに、海人は困ったように笑った。

 一応、海人はルミナスが異性であるという事は忘れていない。
 大事な友人ではあるが、付き合いには多少の節度が必要だと思っている。
 ゆえに、普段は夜更けに部屋に押し掛けるような真似はしない。

 普段しない行動をとっているとなれば、何かそれなりの用件がある事は見透かされておかしくなかった。
 
「そりゃあね。で、どしたの?」

「いや、今日は少し様子がおかしかったからな。
何か悩み事でもあるのなら、相談に乗れないかと」

「……気付いてたの?」

 驚いたように、目を見開く。
 お仕置き中は勿論、夕食の時も全くそんな素振りはなかった。
 
「ああ。さっきのお仕置きは少々らしくなかった。
君の性格からして、普段ならあの理由でお仕置きはしないだろ。
それに、お仕置きが終わった直後にへこんでいたようだったからな。
終わってから我に返って冷静になったんだろう?」

「全部御見通しかぁ……でも、無茶すんなってのは本音だからね?」

「ああ。聞くかどうかは別だが、分かってはいる。で、悩みがあるなら聞くぐらいはできるが?」

「……気持ちは凄い嬉しいんだけど、なんとなく吐き出しても楽になるもんじゃない気がするの。ごめんね」

 申し訳なさそうに、目を伏せる。

 吐き出せば楽になるかもしれない。その思いはある。
 自分の未成熟な独占欲を知られても、海人に嫌われる事はない。そうも思う。
 むしろ吐き出さない方が後々問題になるかもしれない。そんな思いもある。

 だが、それでも吐き出す事は出来なかった。
 言えば何かが終わってしまう。そんな気がして。

「……そうか。ま、気が変わったらいつでも言ってくれ。
何だったら夜中に叩き起こしてもらっても構わんから」

「んな事しないわよ。でも、ま……実は、今日少し安心もしたのよね」

「何がだ?」

「あんたの事よ。前のあんただったら仮定でも、恋人にするなら、なんて考えられなかったんじゃない?」

「……そうだな。まだまだ未練たっぷりだが、少しは前を向けるようになったという事か。
ほとんど君の力なのが少々悔しいが」

「私は何もしてない、とまでは言わないけど……多分、最大の要因はあの二人でしょ?」

 寂しげに、笑う。

 一応、海人に影響を与えたという自負はある。
 以前吐き出せなかった感情を強引に吐き出させた事で、心の負荷は多少軽くなったはずだ。
 居候中も特に意識したわけではないが、仲良く日常生活を送る事で僅かずつ傷を癒せていただろう。
 
 だが、同時に一番影響を与えたのは自分達ではないとも思う。

 ルミナス達が不在の間に雇われていた、二人の護衛。
 彼女らに対して、雇い主として責任を負った事。
 それがなんだかんだで責任感の強い海人にとっての一番の薬になったように思えてならない。
 
「否定はせんが、それもまた君のおかげだと思うぞ。
あの二人が希望してくれたから護衛として雇ったんだが……正直、あの時君に諭されていなければ断っていたかもしれん」

 自嘲しつつ、語る。

 ルミナスに妻の事で諭される前の海人は、生きる屍も同然だった。
 この世界に来てから普通に生きてはいたが、それは目的があればこそ。
 極端な話、それが成ってしまえば自ら首を括ってしまう可能性さえあった。

 そんな状態のままであれば、住み込みの護衛を雇うなどという無責任な事が出来るはずもない。
 見せてしまった創造魔法の口止めだけして、雇う事は拒んでいた可能性が高い。

 ルミナスは、自分が思う以上に海人に多大な影響を与えているのだ。         

「……そ。役に立てたんなら、嬉しいわ」

「そう皮肉な言い方をするな。私は、今本当に楽しいんだ。
君がいて、シリル嬢がいて、刹那達がいる。
まだ存分に楽しむわけにはいかんが、正直これ以上の幸福は考えられんよ」

「楽しみゃいいじゃない」

「そうはいかんさ。私はまだ、最低限のけじめもつけていない。
それが終わるまで、幸福に浸りきるわけにはいかんよ」

「……けじめ?」

 少し震えた声で、問い返す。
 なんの事かは、想像がつくにもかかわらず。

「ああ。そもそもの原因となった研究――――あれを完成させねば、私に幸福になる資格はない。
それまで放棄するのなら、自決して妻に詫びに行く他あるまい」

 会えるかは分からんが、と心の中で付け足しつつ苦笑する。
 
「――――そっか、そういえばそう言ってたわね」

 あっさりとした言葉を放ちつつも、ルミナスの声音は震えていた。

 今まで、それを考えた事がなかったわけではない。
 そもそも以前話を聞いた際、海人は研究を完成させようとしていたと言っていた。
 何の償いにもならないがせめて、と。

 聞いた時はその前の話の衝撃のせいで思い至らなかったが、それはとても恐ろしい話だ。
 どんな研究だかは聞いていないが、それで死者が出たのは事実。
 海人が妻と同じ末路を辿る可能性は否定できない。

 止めたい。

 そうは思うが、止まらない事も理解している。
 思い切れば戦争レベルの戦いにも迷いなく突っ込む大馬鹿者。
 何よりも愛した妻への贖罪ともなれば、例え世界を滅ぼしてでもやり遂げるだろう。  

 そんな事を考えていただけに、次に海人から放たれた言葉には目を丸くした。

「気持ちは嬉しいが、心配はいらん。危険な内容は既に終わっている。どう転んでもそれが原因で死ぬ事はないぞ」

「へ……? そ、そうなの!? ああもう、脅かさないでよ馬鹿っ!」

 一瞬呆けた顔を見せた後、ルミナスは顔を真っ赤にして怒鳴った。
 が、その剣幕とは裏腹に顔には隠しきれない安堵の色が浮かんでいる。

 ――――同時に、ルミナスは妙に心が軽くなったのを感じていた。

 まるで重い枷が一つ外れたかのような、軽快感。 
 心配事が一つ消えた、というだけではない。
 なんとなくだが、悩みが少し吐き出しやすくなった気がする。

 それが何故なのかルミナスが考えようとした時、海人が言葉を続けた。  
 
「……心配させていたか、すまんな。で、残る課題が面倒だったんだが……これも最近事態が好転した。
多少時間はかかるだろうが、遠からず完成するだろう」

 ゆっくりと、噛みしめるように天を仰ぐ。

 海人が開発の為に必要としているのは、人の反応のデータ。中でも会話系が重要だ。
 しかし、残念ながら海人は元の世界ではあまりに敵が多かった。
 データを取ろうと町に繰り出そうにもやたら面倒な手間が必要になり、
誰かに頼もうにもその借りをどう使われるか考えるだけで鬱になる。

 それが、この世界に来てから一気に好転した。

 ルミナス達との日常的な会話から得られるデータも馬鹿にならなかったが、それ以上に外出の制限が緩かった事が大きい。
 おかげで町に行くたび超小型の盗聴器を活用して様々な場所の会話を録音し、屋敷に戻ってからそれを解析して必要なデータに変換することが出来た。
 しかもその盗聴器はただでさえ見つかりにくい上に意思一つで消せるというおまけ付き。
 その上、この世界に盗聴器などない為、もし見つかっても余計な揉め事に巻き込まれる心配はない。
 
 そして、今は授業後の休憩時間のメイド達の会話からもデータを取っている。
 最初は生徒の私的な会話を盗聴するのも気が咎めたので何もしていなかったのだが、
メイベルを切っ掛けに授業後毎回休憩時間に誘われるようになったので、今は自分が関わった会話だけは全て録音しているのだ。
 更にはそれとなく話題を誘導して欲しいデータが得られる状況も何度か作り上げている。 
 
 これらを総合してもまだ必要量には足りないが、この調子で蓄積していけば遠からず十分な量が集まるはずだった。

「……ちなみに、完成したらどうするの?」

「その時になってみないと分からんが……おそらく、今までと変わらんよ。
さっきも言ったように現状生活に不満はないから、性急に更なる改善を求める理由もない。
ま、自分の恋愛の事も多少考えられるようになるかもしれんが……そっちはいつになる事やらな」

 穏やかに微笑み、己の予測を告げる。

 過去にけじめをつけたところで、実際何が変わるわけでもない。
 海人の望みが穏やかな生活である事に変わりはなく、現状それはある程度叶えられているのだ。
 気を許せる友人に囲まれ、衣食住に不自由はなく、その気になれば贅沢も出来る。
 海人としてはこれ以上の生活向上は必要なく、変える必要は無い。
   
 恋愛に関してもまた同様。

 最低限のけじめをつけたところで、亡き妻への思いが断ち切れるはずもない。
 周囲の女性の魅力的と認識しつつも、恋慕に全く発展する気がしない現状が何よりもそれを雄弁に示している。
 自信の色恋に興味を抱けるようになるには、相応の時間が必要になるだろう。

 総合してしまえば、研究の完成はただの区切り。
 それを終えて初めて、海人が本当の意味で前を向き始められるというだけの事だ。 

「そっか……ま、気楽に生きなさい。
今の生活で満足してんなら変える必要は無いし、恋愛なんて無理にするもんじゃないでしょ。
けじめつけたら、ちゃんと人生楽しむ。きっとそれが一番よ」

 優しく、慈愛に満ちた表情で微笑む。

「そうかもしれんな……って君の悩み相談に来たはずが、なぜ私の人生相談になってるんだ?」

「そりゃあ二歳年上のお姉さんの貫録ってもんでしょ。
だいたい、年下の分際で私の悩み相談に乗ろうなんて生意気なのよ」

 コン、と海人の額を軽く人差し指で弾く。
 顔に浮かんだ微笑みには、本人の言葉通り年上独特の寛容さが漂っている。

「やれやれ……君も大概苦労性だな」

「うっさいわね。さて……ワインも切れたし、そろそろ部屋帰ったら? 明日も色々やる事あるんでしょ」

「多少先延ばしでも問題ないが……まあ、本題が終わった以上女性の部屋に長居するのも問題か」

 海人は軽く頷くと、ワインの瓶などを台車の上に片づけ始める。
 忙しなくない程度にテキパキと片付け終えると、そのまま台車を押して部屋のドアへと向かう。
 そして廊下に出ようとしたところで、足を止めた。
 
「――――っと、最後に一つだけ言っておく」

「何?」

「何を悩んでいるのかは知らんが、もし私が力になれる事なら遠慮なく言うように。
私は君の笑顔が好きだからな。その為の労力を惜しむつもりはない」

「……そんな恥ずかしい言葉よく言えるわねぇ。
でもま、覚えておくわ。ありがと」

 皮肉気な言葉とは裏腹に、ルミナスの顔は嬉しげに微笑んでいる。
 そして背の翼もそれに同調するように、パタパタと揺れていた。 



































 ルミナスの部屋を出た海人が自室へ歩いていると、丁度刹那と鉢合わせした。

「おや、海人殿。こんな時間にどうかなさいましたか?」

「少し野暮用があってな。君こそどうしたんだ?」

 海人が首を傾げた。

 刹那の体からはほのかに石鹸の香りが漂い、頬も微かに上気している。
 さらに着物もほとんど皺が寄っておらず、身につけたばかりである事がよく分かった。
 
 が、夕食後の鍛錬からは随分な時間が経過しているはずだ。
 いつも鍛錬後はすぐに女性陣揃って入浴する為、今頃入ったとも考えられない。

「そ、その……言わねばなりませんか?」

 後ろめたそうに、言葉を濁す刹那。
 後ろに回している両手が、不安げに揺れている。

「言わなくてもいいが……いや、やっぱり言え。何か面白い理由だとみた」

「うぐ……海人殿は本当に意地悪ですね」

 悪戯っぽく顔を覗き込んでくる主に、恨めし気な視線と言葉を向ける。
 が、海人はその程度で引き下がってくれるような優しい相手ではない。

「楽しむ為ならいくらでも意地悪になろう。で、何をしていたんだ?
大方後ろに隠しているそれに関係があるんだろうが」

「は、はい。その……風呂でこれを楽しんでいたら、こんな時間に……」

 恥ずかしそうに、徳利と杯を見せる。

 切っ掛け自体は、些細な事だった。
 いつもはそれなりに皆長風呂するというのに、今日に限っていそいそと上がってしまったのだ。
 話し相手がいなくなった刹那も上がろうかと思ったのだが、
折角広い風呂を独り占めできるのだからと湯船で酒を飲む事を思い立ったのである。

 そして、いざやってみると湯船に浸かりながら飲む酒が思いのほか心地良く、
ちびちびと飲みながら歌など歌っているうちにこんな時間になってしまったのである。

「待て。どう計算しても二時間以上入ってた事になるんだが?」

「……正確には二時間二十分程です。途中酒を取りに行くために上がりましたが」

 顔を赤らめ、目を伏せる。

 風呂好きとはいえ、二時間以上の長風呂は流石に常識外れだ。 
 いくら酒が美味く、滅多にない湯船の独占だったとはいえ限度がある。
 
 恥じ入っている刹那に、海人は苦笑した。

「ま、楽しめたなら何よりだ。どうも君は生真面目すぎて、ちゃんと休んでいるのか分からんからな」

「い、いえその点は御心配なく。いつも楽しく生活を送らせていただいてます」

「ならいいんだが……もしも何か要求があるなら遠慮なく言ってくれ。
言い難いのなら仕方ないんだが……」

 言いながら、少し物憂げな目になる海人。
 珍しい主の様子に、刹那は心配そうに声を掛けた。

「……あの、何かございましたか?」

「ちょっと、な。まあ大した事じゃないから気にするな。おやすみ」

 後ろ手を振って、立ち去ろうとする海人。
 その背中に、刹那がおずおずと声を掛けた。
 
「……か、海人殿、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

「何だ?」

 足を止め、不思議そうな顔で振り返る海人、

「よろしければですが、これから拙者の部屋で一献付き合っていただけませんか?
風呂では一人酒でしたので、話ながら飲みたいのです」

「ふむ……それは構わんが、明日の鍛錬に差し支えるんじゃないか?」

「ええ。ですから、ごく短い時間になりますが……よろしいでしょうか?」

 刹那の言葉に、海人は若干考え込んだ。

 刹那達の鍛錬は毎朝早い。
 今の時間から寝なければ睡眠時間が削られてしまう。
 彼女の体を気遣うなら、断って早く眠らせた方が良い。

 が、これは非常に珍しい刹那の我儘だ。
 これをにべもなく断っては、次から我儘を言えなくなる可能性がある。
  
「分かった。喜んで付き合わせてもらおう」

 数秒考えた末に、海人は断らない事にした。
 時計には気を配ろうと考えつつも。
























 シェリスとローラが今日の分の仕事を終え廊下に出ると、何やら賑やかな様相を呈していた。
 馬鹿騒ぎをしているわけではないのだが、視界に入る部下全員が何やら上機嫌なのだ。
 
「何かあったの?」

「あ、実は――――」

「おーっすシェリス様、総隊長。今帰ってきたぜー」

 シャロンの言葉を遮るように、陽気な声が飛んできた。

 声と同時に飛んできたのは、茶髪の女性。
 ラフに整えられた髪と笑った時に見える純白の八重歯が特徴的な野性味のある人物。
 顔立ちは並程度だがその体は女豹のようにしなやかで美しく、
適度に張り出した胸部と臀部がワイルドな色気を醸し出している。
 
「雑な口調ね。もっと気品を持ちなさい――――お久しぶりです、シェリス様、総隊長」

 長い金髪を三つ編みに結い上げた女性が歩いてきて、シェリスに一礼する。
 彼女はいかにもお堅い女性といった雰囲気で、その伸びた背筋は微塵も揺るがない。
 その堅物な風情は、ボロ布にしか見えない衣装の粗雑ささえも打ち消していた。
 
「根っからの野生児に何を言っても無駄よ。服を着てるだけマシというものだわ」

 いつのまにやら姿を現していた可愛らしいソプラノの女性が、皮肉気に呟く。

 小柄で顔立ちも可憐なのだが、服装がよろしくなかった。
 頭には両目を覆う真っ黒な眼帯、両手足にはいかにも重そうな鉄球付きの枷。
 これで衣服がまともでなければ、相当特殊な趣味を持つ主の奴隷と断じられているだろう。 
 
「ほっほう、言ってくれんじゃないか。んなもん普段着にしてるド変態が」

「これは修行用。貴女と違って休暇でも私は努力しているだけよ」

 言葉と同時に殺気をぶつけあう二人。
 牽制程度ではあるが、どちらも迫力は尋常ではない。
 
「好戦的ねぇ、二人共。平和が一番よ?」

 困ったように頬に手を当て、たおやかに微笑む女性。

 シェリスよりも更におっとりとした、優しそうな顔立ち。
 腰を通り越し、膝裏まで伸ばされた絹糸のような金髪。
 柔らかそうな肢体を包む、質素な黒衣。
 
 そんな一見世界平和を望む敬虔な修道女のような女性の発言は、

『あんたが言うな!』

 喧嘩していた二人によって、同時に反論された。
 三年ぶりに目にしたその息の合った様子に、シェリスは嬉しそうに目を細める。
 
「おかえりなさい、相変わらずね。ところで、皆随分早いけどなぜかしら?」

『驚かそうと思いまして』

 一斉に、答える。

 別に、示し合わせていたわけではない。
 各自出張先はバラバラであったし、そんな暇もなかった。
 が、各々勝手に早く帰って驚かせようとした結果、偶然にも道中で合流する事になったのである。
  
「なるほど。でも残念ね、メイベルが最初にやったからインパクトは弱いわ」

「そーなんだよなー。せっかく急いで帰ってきたのにさー」

「いえ、随分寄り道したわよ。グリーンドラゴン狩ったり、追剥潰しがてら山賊団潰したり、
三馬鹿と一戦やって荷運び押しつけたり……」

 帰還の道中にあった出来事を指折り数えていく理知的な女性。
 どれもこれも物騒な内容なのは、流石はシェリスの部下と言うべきか。

「あの子達も腕を上げてたわね。まあ、それでもこの面子相手じゃ勝ち目は……可哀そうに」

「三馬鹿の姿見るなり、荷運び押しつけようって半ば騙し討ちにした貴女が言うのもどうかと思うわ」

 傷ましそうに目を伏せる黒衣の女性に、冷たい声を投げる眼帯の女性。
 馬鹿呼ばわりされている三人組を叩きのめしたのは四人共犯だが、
それでも主犯は白々しい顔をしているこの女性なのだ。
 
「……何があったのかは大体見当つくけれど……三姉妹、生きてるの?」

 シェリスが軽く息を吐き、確認する。

 目の前の者達が三馬鹿と呼ぶのは、一組しかいない。
 全員屋敷上位の武人で、三人揃うと姉妹ならではの連携で更に凶悪化する超人。

 が、今回は相手が悪すぎる。

 眼帯の女性はローラを除けば部下随一の実力者。
 野性的な女性は直感的な戦い方ゆえにメイベルに一歩劣るものの、身体能力だけなら眼帯の女性をも上回る。
 理知的な女性は前衛としての能力こそ高くはないが、後衛としては突出している。
 外見だけなら聖母のような女性はそれらに比べれば少々戦闘能力に欠けるが、
口が上手く四対三という戦いも相手に呑ませてしまう。 
 
 こんな連中を相手にしては、騎士団一つを三十分で壊滅させた事もある化物達も敵うはずがない。
 全員好戦的でもあるので、五体満足かどうか不安を感じずにはいられなかった。

「なあに、大丈夫。目を回しちゃいたけどそんだけさ。どっかのド変態がマジで殺しにかかるとこだったけどね」

「強くなっていたんだもの。どれほどか確かめたくなるのは当然でしょう?」

 眼帯の女性が、嘲笑うように軽く鼻を鳴らす。

「あーやだやだ。これだから戦闘狂は……」

「興が乗ったら我を忘れる未熟者に言われたくないわね」

「……やんのか? 変態女」

「戦いになるとでも思ってるのかしら? 猪女」

 両者がそれぞれ拳と鉄球を構える。

 ピリピリと、空気が震えている。
 まるで二人の気配に怯えるかのように。
 互いに隙を窺うが、容易に攻め込めるほどの隙はない。
  
 痺れを切らして二人が同時に動いた瞬間――――二発の轟音が響いた。 

「そこまでになさい。帰還早々シェリス様の前ではしゃぎすぎよ」

 二人仲良く地面で痙攣している部下に、ローラが冷たく言い放つ。
 そのあまりに淡々とした態度は、今しがた隕石の如き威力の鉄拳を放った人間とは思えぬほどに静かだった。

『は……い、すみません!』

 激痛で意識朦朧としつつも姿勢を正し、シェリスに向かって謝罪する二人。
 痛みでそれどころではないのだが、ここでそうしなければ第二撃が飛んでくるのだ。

「あらあら、別に無理に止めなくても良かったのに。それで皆……仕事はきっちり終えたわね?」

「はい、跡形も残さず。きっちりかっちり始末して参りました。
道中で報告書も書き上げましたので、後程御検分をお願いいたします」

 スカートの端を軽く持ち上げ、恭しく一礼する黒衣の女性。
 それに倣うように、他の三人も軽く頷いた。
 
「分かったわ。皆、三年間御苦労だったわね。では、明日から七日間休暇を与えます。
これまでの疲労を存分に癒し、英気を養ってちょうだい。
それと全員揃ったら祝勝会を企画するから、楽しみにしていて」

『はいっ!』

 一斉に返された返事に、シェリスは嬉しそうに目を細めた。  
 
 

 










テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

またキャラが増えましたけど大丈夫ですか?
ちなみに海人に男友達ができるのはいつごろでしょうか?

いつも楽しく読ませていただいています。
次の更新も待っています。
[2012/05/28 00:02] URL | fuji #- [ 編集 ]


更新を待ってましたあああああ。

今回は晩酌日か?と言わんばかりな内容でしたねぇ・・・

カイトもさりげなく研究を進めまくって危ないところは既に通過済とは思わなんだ・・・

ルミナスと結ばれそうで、結ばれなさそうな気がひしひしとしたのがちと悲しかったですね…


そしてシェリスのメイドに新キャラ増殖…カイトと併せたらどうなるのか非常に楽しみですねw

そしてやっぱりローラは無敵な存在と・・・w
[2012/05/28 00:07] URL | リョウ #X5HgHQV. [ 編集 ]


ルミナスと晩酌したあとに刹那と晩酌ww
またお仕置きされるのかwww

さて、果たしてルミナスと結ばれるのかどうか? いままでよりは芽がでてきたようでwktkしながら続きを待ってますv-345
[2012/05/28 01:41] URL | 法皇の緑 #9gDxS9tk [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2012/05/28 01:54] | # [ 編集 ]


あわ~w またもや新キャラですか。これ大丈夫ですか?
色々大変そうですね。しかもまたもや女キャラ。
広げた風呂敷を上手く包めるのかが技量の見せどころですね。
そしてまたもや刹那と海人に対してルミナスの嫉妬がwww
気になりますね~また新しい展開が起こりそうです。
いやはやどうなるやらw

更新お疲れさまでした。あまり無理はなさらないように!
[2012/05/28 13:50] URL | 『 』の深淵 #sCTdotXw [ 編集 ]


新キャラが出るのはわかっていましたが、随分と増えるみたいですね。
男キャラも出るようですが比率が凄いことに…。
ファニルみたいな男の子がいてもいいんじゃないかと思う…。アニキアニキって懐くようなw

気になったのは海人ってルミナスの気持ちはどう思っているんですかね?
まだ恋愛感情になっているかどうかもわかりませんが

己に向けられる感情に気付かない者

ってところに違和感があったもので。
[2012/05/28 16:52] URL | どんじゅ #UjfQ3LNs [ 編集 ]


 あぁ確かに、他の視点で丁寧に書かれると、また印象が違いますね。

 コレを微笑ましくみるか、うがぁ~(笑)と見るかは読者次第でしょうけどw

 個人的には微笑ましい寄りなんですけど、ここからこの方向の展開がどうなるのか気になりますね~根本的解決するのも大変(キャラに自覚させるのがって意味でw)ですし、
それをしないと理不尽攻撃の頻度が減らなくて大変(天丼ネタって意味で)ですしw

 オマケに新キャラ! いや此方の作品はキャラが魅力的で、キャラは全部把握してますけど(長老衆の名前とかは怪しいですが)、そろそろキャラ一覧のページがあっても良いかな? と思います。


それと読んでてちょっと気になったのが一箇所
>命に関わる事件があったとしか思えなかったというのに。

抑える事が出来なかったのなら、解るんですが、抑えてますから。 ~というのに、だと変だと思います。

抑えた、ではなく憤りを覚えた。であれば ~というのに、で良いと思いますけど
[2012/05/28 21:37] URL | 冥 #heXXx5yE [ 編集 ]


ルミナスとの関係が不安定ながらも良い感じになって来た所で謎の新キャラ。
嵐の予感

帰ってきた三人と不幸な三姉妹、実はカイトがローラに会う前に言った「主人に近づく男は許さない」的な思考だったら面白いです。
[2012/05/30 11:20] URL | 煉恋々 #- [ 編集 ]


回を重ねる毎に、展開がグダグダかつワンパターンになってきてますが、大丈夫ですか?
[2012/06/15 01:22] URL | #- [ 編集 ]


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