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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄68
 ケルヴィンの部下達は、町を練り歩く上司の変貌ぶりに驚きを隠せなかった。

 休暇中に町を歩いているというのに、ケルヴィンは女性を物色していない。
 以前なら確実に声を掛けていたであろう容姿の持ち主とすれ違っても声を掛けようともせず、
ただ共に歩く部下達との談笑に花を咲かせている。

 と言っても、これが一日だけというなら彼らは驚かなかっただろう。
 これまでも第二部隊隊長の悪魔のような罵倒に心をへし折られた時なら、一日ぐらいは大人しい事もあったからだ。

 だが、今回は既に三日以上続いている。
 無理に堪えている様子もなく、ごく自然体のまま。 

「隊長……なんというか、随分落ち着かれましたね」

「あの兄ちゃんは嘘ついてる様子なかったからな。
俺の女運だって、改善の希望が無いわけじゃねえ。
そう考えれば落ち着きも生まれようってもんだ」

「はあ……もー少し早くその悟りに到ってくれれば私らの苦労減ったんですけどね。
彼も言ってましたが、実際隊長は良い男なんですし、本来選べる立場です。
そこらの町のどちらかと言えば美人程度に目が眩んでた事自体おかしいんですよ」

 女性の言葉に、周囲の同僚もうんうんと頷く。

 今までケルヴィンが付き合ってきた相手の大半は、彼らの目から見ても不釣合いな女性ばかりだった。
 容姿が優れていたわけではなく、知性に優れていたわけでもなく、性格は問題有りという者が大半。
 稀にそれらから外れる者もいたが、それでもケルヴィンが熱を上げるに価する程の女性ではない。
 一応、荒い気性さえ別にすれば貴族の娘を娶っても文句は出ないだけの男なのだから。
 
 にもかかわらず、諌めても諌めても聞く耳を持たない。
 より正確には聞いてはくれるのだが、一途さが災いしてそれでも諦めようとしない。
 そして結局毎度のように自棄酒に付き合う事になるというお定まりのパターン。

 正直、他の相手だったらとうに見捨てている程に懲りなかったのだ。

 それが、会って間もない男の説得にあっさりと応じてこの落ち着きぶり。
 彼の話術の上手さ、莫大な人生経験を背負ってそうな言葉の重みなどあってこその現状だとは思うが、それでもこう思わずにはいられない。
 今までの苦労はなんだったのだろうか、と。

「ん、こーして落ち着いてみっとがっついて口説くほどの美人は巷に溢れてねえな。
まーだお前らの方が美人揃ってらぁ」

「本当に今更ですねぇ。あ、ちなみに私は恋人持ちなんで口説いても無駄ですよ?」

 無邪気に笑う上司に、冗談半分に釘を刺す女性。

 彼女はケルヴィンの自棄酒に付き合う頻度がかなり多いが、れっきとした恋人持ち。
 お相手は第二部隊のメンバーなので会える機会は少ないが、それでも順調に交際を続けている。

「知ってら。つーかお前は俺の自棄酒に結構付き合ってくれてっけど、仲大丈夫なのか?」

「二人の時間はちゃんと作ってるんで御心配なく。
ってか、あっちは普段から情報収集で忙しいですし、待ってる間に上司の慰労やってるだけですよ」

「なーる。暇潰しも兼ねてるってわけか」

「心配してるのは事実ですって。恋人との都合も上手く擦り合わせられるんで、心置きなく労われるってだけです」

「そらありがてえな。ま、そんなら今まで心配かけた分の詫びも兼ねて美味いもんで……も……」

「どうしまし――――げっ!?」

 急に沈黙した上司の視線の先を見て、悲鳴を上げる。

 その先には、一人の女性の姿があった。
 率直に言って、身なりはみすぼらしい。
 使い古したボロ布を適当に組み合わせたかのような服が、所々千切れている。
 まるで駆け出しの冒険者の仕事帰りのような衣装だ。

 が、それを纏う女性の容姿はそれを補って余りある。

 穏やかな造形の美顔に、おっとりとした表情。
 ともすれば間抜けにも見えそうだが、気品が宿る瞳が全体の雰囲気を引き締めている。
 スタイルは服で覆われているため分からないが、顔の肉の付き具合からすれば太っても痩せてもいないだろう。

 総合して考えれば、おそらく早々お目にかかれないであろう美女。 
 それなりに長い付き合いの上司が今何を思っているか、想像に難くない。

「……なあ、流石にあのレベルの美女は滅多にいねえよな?」

「そ、そりゃいませんけど! がっつかないって悟り開いたんじゃなかったんですか!?」

 女性の後を追いかけようとするケルヴィンの服の裾を、慌てて掴む。

 今追いかけられてしまうと、とてもまずい。
 昨日配送業者を手配した際、ついでに一通の手紙も送ってしまった。
 その手紙の内容に少々問題があり、今ケルヴィンを見逃すと後で自分が惨殺されかねない。
 最悪、大事な恋人までも。
 
 やたら必死に止めている同僚に、周囲の面々も我に返って協力し始めた。

 先走った手紙を出してしまった同僚への同情もあるが、それ以上に巻き添えが怖い。
 相手が相手なだけに、ここで見逃せば連帯責任でぶち殺されかねないのだ。 

「馬鹿野郎。必要以上にがっつかねえってだけだ。あんだけの美人なら、がっつく価値はあらあ。
それに、声ぐらいかけなきゃ次はねえかもしれん」

 返事を返しながらも、ケルヴィンは部下を引き摺って女性を追いかける。

 あれだけの美女は初めて見た、とまでは言わない。
 客観的に見てルミナスはあれに匹敵するし、もう一人の同僚も美しさでは同等以上だ。
 年さえ考えなければ、副団長も負けてはいないかもしれない。

 だが、それら全員ケルヴィンの好みから外れている。

 彼の好みは、温かさのあるおっとりとした女性。
 優しげで、穏やかそうで、ふんわりとした雰囲気こそが彼の好み。
 例として挙げるなら、御伽噺で魔王にさらわれる御姫様といったところだろうか。
 
 前を歩む女性は、まさにケルヴィンの好みの体現者。
 二十年以上生きてきて初めてお目にかかった、完全な理想形。
 次があるか分からない以上、この場で縁ぐらいは作っておきたい。

「いや、性格分からないでしょ!? 今までで最悪の性悪女だったらどうするんです!?」

「あんなボロ着て、自分の美貌隠してるような女がか?」

 色香に迷いつつも、冷静な意見を返す。

 あの顔の出来ならば、軽く身だしなみを整えるだけで物語の王女様と化すだろう。
 そして、その状態ならばそこらの男に軽く声を掛けるだけで相応の見返りが期待できる。
 それをしていないとなれば、男を誑かして弄ぶ悪女である可能性は低い。
 
「それも別の意味で怪しいでしょう!? わざわざボロな服着て美貌隠すなんてそれこそ犯罪者って可能性も――――ん?」

「どうした?」

 腕の力は緩めぬながらも黙りこくった部下に、怪訝そうな声を掛ける。

「いえ、よくよく冷静に考えてみると彼女見覚えがある気がしまして。どこだったかな?」

「なにい!? どこだ!? どこで見かけた!?」

 足を止め、部下の女性に思いっ切り詰め寄る。
 その剣幕たるや並の女性なら失禁してもおかしくない程であったが、
彼女はまるで動じた様子もなく普通に思考を続けていた。

「ん~……多分最近……でも顔自体には見覚えが無い気が……うーん……」

「ええい、思い出せねえならいい! とにかく俺は声を――――っていねえっ!?」

 悩む部下から再び女性の方へ振り向いたケルヴィンは、思わず悲鳴を上げた。

 女性から視線を外したのは、ほんの数秒。
 逃げるには十分だが、普通に歩いているだけなら見失うとは思えない時間だ。
 つまり、後ろからついてきている事に気付かれていたという事になる。

 距離は、かなり離れていたはずだというのに。

 予想とは違い、相当な達人だったのだろうか。
 ならば部下の言う通り、犯罪者という可能性もあるかもしれない。
 ケルヴィンがそんな事を考えていると、

「いや、真面目に考えてるとこ悪いですけど、あんだけ大声で騒いでたら気付くでしょそりゃ。
しかも武装した獣人の大男が追っかけてきてんだったら普通逃げますって」
 
 ケルヴィンの部下の青年が、呆れたように解説した。

 部下に押し止められていた間ケルヴィンは普通の声を出していたが、部下は違う。
 必死で止めようと全力で上司を掴み止め、大声で騒いでいた。
 そして言葉の内容もケルヴィンが誰を追いかけているのか分かるような内容。

 となれば当の相手が気付かないはずはなく、振り向けば追いかけている相手も分かる。
 ただでさえ粗野な者が多い種族。さらには大柄で武装し、周囲の制止を引き摺っている。
 これで逃げださない女性は、そう多くないだろう。
   
「しまったぁぁああぁあああっ!?」

 当然と言えば当然すぎる結末に、ケルヴィンは心の底から絶叫した。
 全て計算尽くで制止していた部下が小さく舌を出している事にも気付かず。
     
 
 
















 刹那達は、カナールで食料の買い出しをしていた。

 ルミナスが買う素材を見極め、刹那が値切る。
 そんな役割分担をしながら、あちこち買い集めている。

 ちなみに、今日は海人と雫は別行動だ。
 今日は食料の買い出しとは別に海人の買物があるので、
効率良く終わらせる為に二手に分かれたのである。

 そして、その海人の買物のおかげで、シリルはいつになく上機嫌だった。
 その御機嫌っぷりたるや、鼻歌を歌いながら今にもスキップせんばかり。

 ただし――――笑顔だけが、やたら邪悪だった。

「ふ、ふふふ、うふふふ……楽しみですわねぇ」

「シリル、その笑顔怖いから止めなさい。ってか、そこまで喜ぶような事?」

 可愛らしい顔を台無しにしてしまっている部下に、呆れ混じりの声を掛ける。

「当然ですわ! あの美に無頓着なカイトさんが、自ら絵を描きたいと仰ったんですのよ!?
ふふ、この機に美への執着というものをなんとしても植え付けませんと……ふふ、
そうすればいずれは着せ替え人形やりたい放題……ホント楽しみですわぁ」

 ギラギラと目を輝かせながら、シリルは思考に浸る。

 今朝の事だが、海人が唐突に絵筆を買いに行きたいと言い出した。
 理由を聞いてみれば、ゲイツに教える為に木炭画ばかり描いていたらカラフルな絵が描きたくなったとの事。
 そして、動物の毛を使っている絵筆は創造魔法で作れないので、買いに行きたいとの事だった。 

 これは、シリルにとって千載一遇のチャンスだった。

 シリルは海人を着せ替え人形にするのが好きなのだが、あの美に無頓着な男は毎回終始やる気がない。
 山のような手持ちの服があり、彼の容姿を引き立たせるに相応しいコーディネートも色々試したいのに、
滅多に付き合わずやってもすぐに嫌がって切り上げてしまうのだ。
 
 今回の事は、それを変革する良い切っ掛けにできる。
 というのも海人は白黒に飽きたからこそ、色彩豊かな絵を描きたがっているはずなのだ。
 そこには僅かながら美へのこだわりの芽が出ている。
 後は顔を出したそれを育てていけばいい。

 だが、焦ってはいけない。
 あまり強引に押しつければ、あの捻くれ者はかえって拒否反応を示す。
 後々色々口出しはするつもりだが、最初はあくまでも自分の意思で美への意識の改革を行ってもらわねばならない。
 
 だからこそ、今は別行動をしている。
 食料の買い出しと手分けするという名目で。
 側にいると、ついつい美の素晴らしさを熱く語って白けさせてしまう恐れがあった為に。 
 もっとも、ルミナスの側にいたいというのが最大の理由ではあるが。

「シリル殿、あまり無理強いするのはいかがなものかと思います。
海人殿が服に凝るようになれば確かに楽しいとは思いますが……美に執着の無い方に無理強いをしても逆効果かと」

「ふふふ……そうでもありませんわ。
あの木炭画、以前私達が見せていただいた風景画より更に出来が良い物でしたもの。
つまり、かつてはあの方も美を探究した事があるという事――――根っから美に無頓着ではないという事です」

 にたり、と悪戯っぽく笑う。

 ゲイツに教えている時に描いていた木炭画、あれはどれも素晴らしい出来だった。
 手を抜いている事は分かったが、それでも木炭画の色彩が好きでないシリルが思わず目を奪われた程だ。

 そしてなにより――――あれは以前見せてもらった風景画より更に出来が良かった。

 風景画も十分に売り物になる出来だったが、あの木炭画の良さはそれを更に上回っていたのだ。
 おそらく、風景画は大分前の作品で木炭画は最近の作品なのだろう。
 つまり、練習なり研究なりで絵を進化させた事があるという事だ。

 ならば、希望が持てる。

 自発的に身なりを整え、積極的に自分の着せ替え人形を請け負う男に変身させる希望が。
 強引に服屋に引っ張り込む必要も嫌がる海人を脅す必要もなく、
互いに楽しめる最高の環境を整えられるかもしれないのだ。 
 
 ――――そんな雑談をしていると、前方から誰かが走ってくるのが見えた。
 
 それは、やたらと動きが機敏な老人。
 人混みを掻き分け、慣れた様子で突っかかりもせずに走ってくる。
 が、それでももどかしかったのか、その老人は身を屈めると、一気に刹那達の元へ跳躍してきた。
 
 自分達の目前に見事な着地を決めた老人に、刹那が声を掛けた。 

「ハロルド殿。何か御用でしょうか?」

「うむ、ちょっとな。今日はカイト殿は一緒ではないのかのう?」

 周囲を確認し、訊ねる。

 昨日シェリスの屋敷にすぐ人を送ろうとしたのだが、生憎しばらく手が空いている者がいなかった。
 誰かに無理を言って予定を空けてもらおうかと思っていた矢先に刹那達の姿を見かけたので、
わざわざ追いかけてきたのだ。

 もし海人が今日町に来ているのなら、自分の予定を変更するだけで済む、と。

「カイトならシズクちゃんと一緒に画材店回ってますよ」

「画材店……ふむ、彼は絵を描くのは好きなんじゃろうか?」

「現状は好きでも嫌いでもない、だと思いますわ。
才能はあると思いますが、美に関してはとことん無頓着ですので」

 意地でも変えてやる予定ですが、とは心の中でだけ付け加える。

「ぬう……勿体無いのう。あれほどの絵を描けるというのに」

「あれ? ハロルドさんカイトの絵見た事あるんですか?」

「昨日、お主の同僚に見せてもらったんじゃよ。
あの年であれほどの絵を描けるなら、精進を続ければ必ずや大成するじゃろう。
それに、画家としてならわしが協力すれば見知らぬ者と接触する事無く生計を立てる事も出来る。
彼にはうってつけだと思わぬか?」

「あー……それ、無理だと思います」

 嬉しそうに語るハロルドに、ルミナスがばつの悪そうな顔をする。
 彼女からすれば、現状海人が画家になれる可能性は極めて低かった。

「というと?」

「前商売の話持ちかけられた時なら大丈夫だったと思うんですけど、
今はあいつ色々やってて忙しいですし、お金も結構稼いでるみたいですから」

「ふむ……その仕事先がどこか教えてもらえるかの?
なに、必要なら彼の代理でも違約金でもなんとでも……」

「無理ですって、相手シェリスですから。多分向こう以上の条件は出せないでしょうし……
それにそれであいつが仕事やめたら、多分あそこの連中全員の恨み買いますよ?」

 心の底からの善意で、ルミナスは忠告する。

 シェリスという女性は、基本的に仕事を依頼する場合においては破格の報酬を出す。
 採算度外視する程ではないが、それでも他者に競り負ける事がありえない程の額を。
 労働報酬において彼女と張り合うのは、無謀という他ない。
 
 さらに、不定期ではあるが現在シェリスの屋敷から海人が任されている書類の量は非常に多い。
 おそらく海人が仕事を止めたら色々と破綻が出る事になるだろう。
 万が一海人が芸術に邁進するためにシェリスからの仕事を断った場合、ハロルドはこの国最強の戦士団全員の恨みを買う事になる。
 
 と言っても大半はハロルドの重要度を考えて自制すると思えるのだが、約一名自制しそうにない人物がいる。
 一応殺されはしないだろうが、仕事中に謎の襲撃者によって護衛諸共叩き潰される可能性は否定できない。
 老人だからと手心を加える性格でもないので、尚の事。

 仕事先を聞いて全く同じ事を想像したハロルドだったが、彼はそれでも諦めなかった。
 
「……い、いや、まだじゃ! 全く描く暇がないというわけではなかろう。
ならば暇を見て描いた絵を卸してもらうだけでも……!」

「とりあえず、落ち着かれてはいかがでしょうか。
つまるところ、海人殿の御意思が一番重要です。ここで押し問答するよりも、本人に話を聞くのが一番かと。
幸い、待ち合わせの時間まで残り一時間を切ってますので」

 刹那が興奮するハロルドを片手を上げて制し、冷静な意見を述べる。

 実際、ここで話をしても時間の無駄だ。
 本人がここにいない以上、出る結論は諦めるか交渉するかの二択。
 さっさと本人に話した方が効率的だろう。 

 もっとも、彼女が議論を止めたのは、そろそろ値切りしやすい時間帯が終わりつつあるという焦りもあったのだが。

「む、それもそうじゃな。すまんが、一緒に行って構わんかの?」

「それは構いませんが……拙者共はまだ買物が残っていますので、待ち合わせ場所をお教えしたほうがよろしいかと。
海人殿の事ですから、既に到着しておられるでしょうし」

「……いや、ならばわしも買物に付きあわせてもらおうかの。これでも色々な店に顔利くから便利じゃぞ?」

 一瞬迷ったが、ハロルドは刹那達の買物に付き合う事にした。
 幸い今日は後で自分が忙しくなる類の用事しか残っておらず、己の就寝が遅くなる以上の被害はない。
 ならば話に付き合ってもらった礼に、様々な店に顔の利く自分がついていき、食費の手助けをするのも悪くない。

 というのは建前で――――その実は、町の食材店の間で語り草となっている刹那の値切りを見てみたかっただけである。
 かなり苛烈な値切りを行いつつも、店主に不快感どころか満足感さえ与えるという技法をこの目で見たかったのだ。

「では、お言葉に甘えまして。急ぎましょう、そろそろ客が増えて値切りが難しくなってきます」

 そう言うと、刹那は先陣を切るように颯爽と歩きだした。
 話していた時間を取り戻すかのような、早足で。
   












 
 



 
 とある広場のベンチに海人と雫の姿があった。

 海人が絵を描き、雫がそれを横から興味深そうに覗きこんでいる。
 予定よりも早く買い物が終わったので、暇潰しにと海人が絵を描き始めたのだ。

 木炭画の時と同じく海人の手は忙しなく、人間の域を逸脱しているかのような速度で動かされているが、
それによって描かれている絵は繊細の一言。
 まるで絵に血が通っているかのようなリアリティと非現実ならではの可愛らしさを併せ持ち、
そして目が覚めるような、それでいて心和ませる色鮮やかな色彩まで兼ね備えている。
 
 やがて描き上がると、雫の口から感嘆の声が漏れた。

「おおー……凄い良い感じですね~、なんていうか、ひたすらほんわかしてる感じです。
こんなのこんな短時間で描いちゃうってやっぱすごいなぁ……」

 海人が描いていたのは、茶色い毛並みの犬とその周囲に群がる三匹の猫。

 猫の一匹は犬を起こそうとするかのように腹に前脚を乗せ、一匹は犬の顔をじーっと眺め、
もう一匹は犬の尻尾にじゃれつこうとしている。
 そして当の犬はそれを意に介した様子もなく、目を閉じ安らかに眠っている。

 のんびり寝ている犬の姿と元気一杯な猫達の対比が良い味を出していた。
  
「一度描いた物だから早いのは当然だ。
それに、この段階でも結構苦心して描いた物だからな。良い出来であってくれないと困る」

「……この段階でも?」

 機嫌を良くして口を滑らせた主の言葉を、雫は聞き逃さなかった。
 今の口ぶりからすると、もっと良い出来の物を描いた事があるという事になる。

「あー……失言だ。忘れてくれ」

 訊ねてくる雫から目を逸らし、軽く手を振る。
 意外に素直な雫はそれで引き下がってくれるかと思ったのだが、

「やです」

 主の拒絶を、にこやかに却下する。
 そして猫が鼠をいたぶるような笑顔のまま海人の正面に回りこみ、じーっと見つめる。

「……そこをなんとか」

「じゃ、今度最終段階を見せてくれたらってのはどうです?」

「うーむ……見せるだけなら、今度気が向けば」

「確約してくださいよー」

「それはちょっとなぁ……」

「いーじーわーるー」

 うにうにと、海人の頬っぺたを引っ張る。

 海人は雫の手を軽くひっぺがすが、彼女はめげずに今度は顎を海人の頭頂部に乗せた。
 そのままぐりぐりとしてくるが、力は込めていないらしくあまり痛くはない。
 それでも少々鬱陶しいので背中の雫をまるごと引っぺがそうとするが、足を胴に絡めて離れない。

 仕方ないので、海人は手段を変える事にした。
 
 ポケットに手を突っ込み、入れてあったチョコレートを一枚取り出す。
 そのコーティングを外し、頭上にいる雫の鼻先に持っていく。
 雫が齧りつこうとするが、歯が届く寸前で海人は自分の胸元に引き戻した。
 そして再び雫の鼻先に持っていこうとして、その直前で再び引き戻す。
 ガチン、と歯が空振る音がし、続いて雫の唸り声が聞こえてきた。

「ふっふっふ、食いたければ素直に諦めるがいい」

「むう、なんて姑息な手段を……!」

 嘲るような主の言葉に、悔しそうに呻く。

 海人が持っているチョコレートは、雫の好物だ。
 安っぽいのだが、妙に癖になる味が気に入っている。
 
 が、いくら首を伸ばしたところで、位置関係上チョコレートには口が届かない。
 海人がおちょくるように鼻先に持ってきた瞬間に食らいつければいいが、
この性悪男はどこでどの程度の速度で反応するか読んで引き戻している。
 おそらく、このまま続けても虚しく歯を打ち鳴らし続けるだけだろう。
 
「さあ、どうする? 私としてはこのままポケットに戻しても構わんのだが?」

「ん~……そんなに見せたくないんですか?」

「まだちょっとそこまで割り切れん、と言うべきか。
なんで、今回は我慢してくれると嬉しい」

 困ったように笑いながら、海人はチョコレートを持ってない手で雫の頭を撫でる。
 
「……は~い。ま、気になりますけど、無理強いすんのもどうかと思いますし。
お姉ちゃん達にも内緒にしときますね」

「ありがとう。ほれ、御褒美」

 海人が言いながら、雫にチョコレートを差し出す。
 瞬間、彼女はぱくりと噛みつき、もっしゃもっしゃと豪快にチョコを噛みしめた。

「うん、美味しいです。もう一口下さい」

「普通に降りて食えばいいと思うんだが」

「こーやって食べさせてもらうのが楽しいんですよ。はい、もう一回♪」

 楽しそうに笑いながら、雫は次の一口を催促した。 


 

 

 
 
 
 

   


































(…………ふう、ここまで逃げれば大丈夫、と)

 ラクリア・ベルゼスティアード・トレンドラは、歩みを緩めながら安堵の息を吐いていた。

 理由は分からないが、先程まで数人の男女に尾行されていた。
 正確には尾行している一人の獣人を周囲が止めているようだが、詳しくは分からなかった。

 いつものパターンなら獣人が自分の容姿に目を奪われたといったところだろうが、
それならわざわざ止める意味がない。
 周囲の女性が嫉妬で止め、男性がそれに協力しているというなら頷けなくもないが、
一瞬だけ視線を向けた際に見えた彼らの表情は、嫉妬云々以前にここで行かせたら皆殺しになると言わんばかりの必死さで満ち溢れていた。
 会話内容を盗み聞きできればよかったのだが、生憎この賑やかな町の雑踏の中では様々な声が混ざりすぎて分からない。
 結局、何故追いかけられていたのかよく分からないまま逃げてきてしまった。

 一応獣人に悪い感じは受けなかったので少し申し訳ない気もしたが――――今日は関わる暇がなかった。

 ここしばらく、世界最速と謳われる相方の背に乗りあちこちを駆け回り続けていた。
 旧ルクガイア王国領の村を襲った魔物退治、ガーナブレスト王国の貴族の質の見極め、
幾度か商団を襲っていた魔物を遠距離から魔法で仕留めて救う事もあった。
 しかも文字通り御姫様育ちな自らを鍛える為とはいえ、野宿と狩り中心の生活を続けていたせいで絶えず緊張が続き、
肉体的にも精神的にも疲労が極限に達している。
 とりあえず、今日は早めに宿を取ってぐっすり休みたい。

 なのだが、町に到着してからずっと宿を探しているにもかかわらず、一件も宿の空室が見つからない。
 このままでは今日も野宿か、あるいは遠くまで足を延ばして当てを頼る他ない。
 
 当てを頼ればそこの主の性格からして断られる事はないだろうし、
美味しい食事に心休まる環境と良い事尽くめなのだが――――だからこそ、頼り辛い。

 自分に対し多少なりとも厳しくありたいという思いもだが、あのなんだかんだで甘い青年に負担をかけるのは心苦しい。
 なにせ、この間屋敷を出る時も相方に負担にならないギリギリの量の米をたっぷりと持たせてくれたのだ。
 いくらでもあるから気にするなと本人は言っていたが、米というのはこの大陸では希少品だ。
 さして手間をかけずに食べられる為旅で持ち歩くにはとても便利だが、間違いなく他の穀物の比ではない値段だろうし、
何より入手が難しいはずである。

 が――――ここしばらく酷使されている相方を思うと、そうも言っていられないという思いもある。
  
 相方はカイザーウルフというれっきとした上位の魔物なので、宿どころか町に入れない。
 とても良い子で自分から人に害を与える事はまずないが、知らぬ者には恐怖の対象でしかないのだ。
 ゆえに、彼はどんな状況でも野宿以外の選択肢はない。
 唯一、彼を普通に受け入れてくれている屋敷を除けば。

 どうしたものかと考えていると、前方に当の本人達を見つけた。
 二人しかいないが、相変わらず仲睦まじい。まるで実の兄妹のようだ。

 微笑ましく思いつつ、ふと彼らの足元に目をやると、むき出しの絵画がある事に気付いた。
 
(……屋敷に飾る為の絵?)

 小さく、首を傾げる。
 
 海人が抱えている絵は、遠目に見た限りかなり良い絵だ。
 見ているだけで、心にほんわかとした温かさを与えてくれる。
 皆が集まる食堂か居間にでも飾っておけば、きっと部屋の空気を和やかにしてくれるだろう。

 が、持っているのが一枚のみというのが妙だった。
 
 あの屋敷の部屋には絵も飾られていたが、どれも彼が今持っている絵の出来には及ばない。
 決して安物ではないが、あくまで部屋の雰囲気を崩さない程度の物でしかないのだ。

 そして海人に限って言えば、屋敷の中の絵を一枚だけ良い物に変えるというのは妙である。

 泊まっていた期間は決して長期間ではなかったが、それでも海人の財力は窺い知れた。
 この大陸では未だ貴重なはずの米を常食としている事もそうだが、冷蔵庫の中にあった食材もどれも高品質で高級食材も少なくなかった。
 使っている食器も値が張りそうな良い品が揃っているというのに、皿を十枚以上割った刹那に特に怒っている様子もなかった。
 そして屋敷を出立する前日に振る舞われたワインは、元王女であるラクリアでさえ口にした事が無い絶品。
 詳しくは教えてもらえなかったが、相当な資産家である事は疑いようもない。 

 そんな男が、屋敷の絵を変えるのに一枚だけなどという事があるだろうか。
 まして、側にいる少女は可愛らしい見た目とは裏腹に紛れもない超人で、海人を担ぎながら絵を運ぶ程度は難なくこなせるはずなのだ。 

 ――――不思議に思っていると、雫の視線が唐突にこちらを向いた。ついでに、手招きまでしている。

 見つかってしまった以上、慌てて逃げるのもおかしな話。
 ラクリアは静かに二人の元へ歩み寄った。 

「お久しぶりです、御二人共。お元気でしたか?」 

「……その口調は少々落ち着かんな。なんとかならんか?」

「知る者はなくとも、公の場ですので」

 海人の要請を、スパッと却下する。

 この広場にラクリアの顔を知る者などいるとは思えないが、それでも公の場。
 さらに言えば今後長い付き合いになる貴族の御令嬢の御膝元でもある。
 どこに目があるか分からない以上、元王女に相応しい態度と口調で話さねばならない。

 正直、素を知る者に会ってまで演技をするのは疲れるが。 
 
「難儀な話だな。それで、しばらくカナールに泊まるのか?」

「はい、安い宿がたまたま一軒空い――――きゃっ!?」

 言葉の途中で海人のデコピンを打ち込まれ、ラクリアは小さい悲鳴を上げた。

「私に嘘は通じないのを忘れたか? 大方、宿を探して見つからなかったから野宿でもするつもりだったんだろう?
知っての通り部屋の空きはあるんだから、こっちに来ればいい。外れた場所だが、フェンの速度なら大した問題にはならんだろ」

「……そう仰ると思ったから嘘を吐いたのです。
先日からお世話になりっぱなしですし、まだ出て日も浅いですから……」

「気にする必要はないと前も言わなかったか? ん? 
というか、あの程度で遠慮してていつ遊びに来るつもりだ?
ま、嫌なら無理にとは言えんが……フェンもたまには屋根の下で休みたいんじゃないか?」

「……すみません、御言葉に甘えさせていただきます」

 深々と頭を下げたラクリアに海人が満足そうに頷いていると、後方から声がかかった。

「あ、いたいた。カイト、ハロルドさんがお話ある……って、あれ? その人どちら様?」

「この間君らが延々無駄足を踏む羽目になった原因だ」

『……ラクリア王女!?』

 ルミナスとシリルの声が、唱和する。

 それも当然で、ついこの間の仕事で、彼女を捕まえそこなったばかりにルクガイア中を駆け回り、
挙句の果てに全ての労力が無駄になったという徒労感に襲われたのだ。
 その当人がこんな場所にいるとなれば、驚くのも無理はないだろう。

「元、王女です。ルミナス・アークライトさんとシリル・メルティさんですね?
カイトさんからお話は色々と伺っています」

 たおやかな、それでいて優雅な元王女の名に相応しい微笑みで答える。
 あまりにも優しげで育ちの違いが分かるその笑顔に、ルミナス達はしばし心を奪われた。
 
 それをよそに、海人はハロルドに話しかける。

「それで、ハロルド老お話とは?」

「……その前に、その絵を見せてもらってもいいかの?」

 亡国の王女が目の前にいるという驚愕から迅速に立ち直り、ハロルドは海人の足元に目を向けた。
 無造作に転がされてはいるが、色彩豊かな良い絵である。

「ええ、どうぞ」

「ぬう……色を使えばここまで到るか。造形感覚もじゃが色彩感覚がずば抜けとるんじゃのう……」

 海人の絵を見て、ハロルドは思わず唸った。

 木炭画で海人の描く絵の質を量ったつもりでいたが、まだ認識が甘かった。
 多彩な色を使う事で、絵の質それ自体が相当に跳ね上がっている。
 木炭画で抑え込まれていた色遣いの力が爆発したかのような、鮮烈かつ繊細な色使い。
 それは強烈なまでの印象を与えるが、それでいて絵の目的であろうほんわかした優しい雰囲気を崩さず、
むしろ更に引き立てている。

 これなら、それこそ侯爵家に飾られていても違和感はないだろう。 

「おや? 私の絵をお見せした記憶はありませんが……」

「ケルヴィン・マクギネスに木炭画売ったじゃろう?」

「……画廊で彼があれと一緒に送る絵をと見せて回り、それが耳に入ったといったところですか?」

「うむ。ま、立ち話もなんじゃし、良ければ皆でそこのカフェに行かんか?
あそこのケーキは美味いから、お嬢さん方にはお薦めじゃ。無論、勘定はわしが持たせてもらう」

「ふむ……全員、構わんか?」

 海人の問いに、否定を返す者はいなかった。
  





























 所変わってフォレスティアの森近辺の草原。
 ここは見渡す限り緑の海が広がり、時折心地良い風が吹き抜ける実に居心地の良い場所だ。
 生息する魔物も基本的には大人なら退治出来る程度で、割と行きやすい場所でもある。

 が、稀に高位の魔物が姿を現す事がある。
 年に一度か二度だが、なぜか熟練冒険者も裸足で逃げ出すような凶悪生物が現れるのだ。

 そのせいで普通の人間はあまりこの近辺には近寄らないのだが、今日は珍しく一人の青年がいた。

「うーん、良い風だなぁ……大当たりだな、ここ」

 先程狩った魔物の肉を焼きながら、青年が呟く。

 連絡待ちとはいえ、宿に待機しっぱなしでは体が鈍ってしまう。
 なのでどこかで狩りをしようと適当に探し回った先が、この草原だった。

 結論から言えば、ここは彼にとっては最高な場所だった。

 着いて早々適度に足の速い、それもその場で食べて美味い類の魔物と遭遇したのだ。
 即座に逃げに徹された為少々手間取りはしたが、その分良い運動にはなった。
 すぐに味が落ちる肉なので保存は出来ないが、それでも今日の朝食代は浮いた。

 カナールから少し遠いが、二度目の幸運を期待してもう一度来たくなる場所であった。

「っと、そろそろ良い感じに焼けたか……うん、なかなか美味しいね」

 頃合いに焼けた肉に齧りつき、満足そうに微笑む。

 味の質から言えばカナールの屋台に及ぶべくもないが、周囲の景色と心地良い疲労感がそれを補ってくれている。
 男の心得の一つとしてサバイバル技術を叩き込んだ妻に、今ばかりは至上の感謝を捧げたい気分であった。   

 細やかな幸せを満喫していた青年であったが――――――二つ目の肉を焼いている途中で急に後ろを振り返った。

「……? 気のせいかな?」

 ぽりぽりと頭を掻きながら、美味そうな音を立てている肉に視線を戻す。

 ほんの一瞬だが、何か引っかかったのだ。
 妻や幼馴染の魔手から逃れる為に必死で磨いた気配察知技能に。
 才に欠けているのか費やした努力の割に性能は低いが、それなりに信は置いている。
 
 とはいえ、過敏になりすぎて察知しない方が良いような小さい気配を掴んでしまう事もあるので、気のせいという結論もあっさり受け入れられる。
 大方、そこらにいた小鳥の気配でも掴んでしまったのだろうと。
 
 が、再び肉を眺めていると、再び彼の警戒に何かが引っ掛かった。
 即座に立ち上がり、周囲を見回す。

(気のせいじゃない……! 超高速でこっちに移動中、距離は……あれ?)

 気配の正確な位置を探っている間に、ふと周囲が暗くなった。
 まるで、上空に巨大な何かが出現したかのように。

 凄絶なまでの嫌な予感を覚えた瞬間――――青年の上に、何かが落下してきた。

 潰される直前、反射的に肉体強化を限界まで引き上げて支えたが、凄まじく重い。
 それでも本来なら跳ねのけられる重さなのだが、悲しい事に受け止めた際の衝撃で手が痺れてしまっている。
 この状態では、潰されぬよう重さに耐えるのが精一杯。
 それどころか、このままでは遠からず腕の力が抜けて圧死しかねない。

 なのだが――――彼にも意地があった。 

 これでも幾度となく死線を潜ってきている。
 幼少から悪魔のような妻の地獄の鍛錬メニューを潜り抜け、
化物としか言いようのない幼馴染のお遊びに付き合わされてもどうにか生き延びてきた。
 動けない状態で妻に止めを刺されそうになった事は数知れず、
幼馴染の回避不能な速度と防御も迎撃も容易く貫く超威力を併せ持つビンタも数多浴び、
それでも一応五体満足で生き抜いてきたのだ。

 それが、今更この程度で死ぬなど許容できるはずがなかった。

「ぬうぅぅああああああぁぁぁぁっ!」

 気合の籠もった叫びと共に、力を振り絞って頭上に乗った何かを投げ飛ばす。
 
 同時に、青年は戦闘態勢に移るべく腰を落とした。
 手から伝わってきた感触といい直前に感じた気配といい、落ちてきたのが生物である事は明白。
 投げ飛ばした以上、間違いなく敵と認識され戦闘になるだろう。

 痺れたままの腕が懸念だが、それでも大概の魔物は片付ける自信がある。
 剣はまともに振れそうにないが、素手でも低位のドラゴンぐらいなら葬れなくはない。
 青年はいざ戦わん、と魔物と向き合い――――絶句した。

 そこにいたのは、ドラゴン。
 人間十人は背に乗れそうな巨体だが、ドラゴン系の中では小さく、低位ドラゴン程度だ。

 が、低位ドラゴンにしては体がやたら細身に引き締まっている。
 まるで本来もっと大きくてしかるべき巨体を極限まで凝縮したかのように。
 さらに言えば、青、緑、赤などカラフルな色彩のはずの鱗が、やたら無機質な色彩だ。
 その鱗は研ぎ澄まされた刃のように光を反射し、銀色に輝いているのだ。
 
 これらの特徴を持つ生物は、ただ一種。 

「プ、プププププププチドラゴンーーーーーッ!?」
   
 思わず、絶叫する。
 
 腕に覚えはある。上位の魔物相手にも後れは取らないという自信も。
 プチドラゴンは正直厳しい相手だとは思うが、それでも勝てるとは思う。

 が、それはあくまでも万全の状態ならば。
 
 今はまだ腕が痺れており、剣を十全に振るう事は叶わない。
 これならいっそ素手の方がマシなのだが、それがプチドラゴンに通じるとまでは思えない。
 この魔物は鱗の強度もさることながら、筋肉がやたら柔軟かつ強靭で、並の打撃では通じないのだ。
 
 かといって逃げようにも、プチドラゴンの機動力は侮れない。
 しかも案の定投げ飛ばされた事に怒っているらしく、明確な殺気を放っている。
 おそらく、体力が続く限り追いかけてくるだろう。
 体力勝負で勝てるとは思えないので、逃走は生存率を著しく下げる事にしかならない。

「――――――こうなりゃヤケクソだ! かかって来い! 返り討ちにしてやるっ!」

 腹を括り、青年は拳を構えた。

 現状では勝ち目は薄いが、腕の痺れさえ抜ければ勝機はある。
 剣さえ使えれば、一撃で命を断てるだけの攻撃力を出す自信があるのだ。
 そして疲れ切った状態でもカウンターによる一撃を入れられる自信もある。
 痺れが抜けるまで灼熱のブレスや超高速の攻撃を凌ぎきれれば、おそらく勝てるだろう。

 どう時間を稼ぐか考えつつ、青年は牽制用の攻撃魔法をプチドラゴンの眼球に放った。 


テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

もしかしてフェン喰べられた?w
[2012/11/18 01:43] URL | #- [ 編集 ]

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2012/11/18 02:08] | # [ 編集 ]


青年が絡みなくて、毎回出てくる意味が全くわからないです。
[2012/11/18 12:47] URL | #- [ 編集 ]

誤字報告
 更新お疲れ様です。
 最新話「白衣の英雄68」にて、1ヶ所誤字を見つけましたのでご報告いたします。


**** 誤字 ****
> カイトさんからお話しは色々と伺っています
[お話し]
< カイトさんからお話は色々と伺っています
 『話し』は動詞です。この場合は名詞である「話」が適切です。


青年よ、何時に幸いあれ。
 ますますのご活躍を願っております。
[2012/11/18 13:12] URL | MH.GrePon #- [ 編集 ]


更新お疲れ様です。
疑問なんですが最近の話で青年が出てきますけど正直そんなに描写を割く必要があるのかわかりません。
今回の話の登場場面は別になくても良かったような気がします。
[2012/11/18 17:05] URL | #HfMzn2gY [ 編集 ]


更新お疲れ様です。

感想ですが、正直言って青年の話のところが違和感バリバリです。
カイトのところは次につなぐような終わり方をしているのに、青年の話で流れを完全にぶった切ったように感じます。
こういった形で平行に話を進めたいのであれば、カイトが何をやってたときに、ということが明示的に示されていないとよろしくないかと。
なんというか、別の小説の一部が混在しているかのような印象を受けました。

[2012/11/18 17:44] URL | #mQop/nM. [ 編集 ]


 えっと…………油絵って、そんなすぐに描けるものじゃないはずですよ?
 描く速さ云々じゃなくて油絵具が乾く時間と乾いた絵具の上から描いていく都合上。
 日本画のように鉱物を砕いた顔料で描いているとかはどうでしょうか?
[2012/11/19 02:25] URL | 法皇の緑 #USanPCEI [ 編集 ]


>>ラクリア王女再登場
おお、ひさびさに出てきた気がしますね。
というか大分ワイルドな生活送っていたんだなぁ。
そしてケルヴィンのナンパが成功したらアンリとラクリアで取り合いになるわけか・・・モゲロ

>>油彩画はすぐに描けるものではない
ほら、簡単でしょう?で有名な、ボブ・ロスさんの技法とかあるから一応不可能じゃないんじゃないかな。
海人だったらなんか新しい技法考え出していてもおかしくないし。
[2012/11/20 12:41] URL | リファルス #- [ 編集 ]


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