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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄12
 
 久方振りの暖かく柔らかいベッドの上で、海人は意識を取り戻した。
 目を開けて周囲を確認すると、水を用意しているルミナスの後ろ姿が見えた。

「ここは……」

「あ、起きたの? ここはシェリスの屋敷の客間よ」

「……そういえば無事な区画も幾つかあったか。
にしても私なんぞのために今は稀少なはずの部屋を使う意味も無いだろうに。
相当な数の怪我人が出ているはずだろう?」

「お馬鹿。あんたが一番重傷なのよ。左腕だけじゃなくて肋骨まで骨折してんのよ?
ったく、お仕置きとお説教徹底的にやろうと思ってたのに……」

 ルミナスは不機嫌そうな顔で自覚の無い男を睨みつけた。
 
 彼女は戦いの途中で左腕の骨折には気付いていたが、肋骨の方はまったく気付かなかった。
 後でローラからそれを聞かされ、慌てて骨の状態を確認し、手の感覚を疑った。
 
 ――――肋骨は全部で四本折れていた。

 鎮痛剤を使っていようが、普通なら派手に動けるような状態ではない。
 傭兵などのそんな状態で動かなければならない事がままある職業ならともかく、
海人はあからさまに学者系の人間。想像を絶する精神力である。

 だが、だからといって無茶をしていいというわけではない。
「骨折の痛みと全身を蝕んどる猛烈な筋肉痛で十分罰を受けている気がするんだが」

 ルミナスの睨みに若干怯えつつも、海人は微かな違和感を感じていた。
 
 が、何がおかしいのか寝起きの頭で考えようとしたところで、

「筋肉痛も? ふーん。どのくらい痛いのかしらねぇ?」

「んぎゃあああああああああああああっ!?」

 情け容赦一切なく右腕を鷲掴まれて、海人は絶叫した。
 そしてその絶叫によって他の箇所の筋肉痛と折れた骨の痛みも刺激され、さらに悶え苦しむ羽目になる。
 その動きでまた痛みが悪化し、と見事な負のスパイラルに陥っていた。

 魔力を起こされた時に比べれば大した事の無い痛みではあるが、それでも痛い事には変わりは無い。
 が、ルミナスは哀れなほどの苦しみようを見せる男を一瞥し、

「なるほど、断裂まではいってなさそうだけど限界ギリギリってとこね。
ま、適度な肉体強化やってりゃ一日で治るわよ」

 満足そうに頷き、手を離した。
 どうやら相当怒っているらしい。

「……という……か……鎮痛剤……は?
いくら、なんでも、鎮痛剤を使っていて……これほどの痛みは、ない、だろう?」

 息も絶え絶えになりながら、海人はようやくその事実に気がついた。
 いくらなんでも鎮痛剤を使っている状態ならここまでの激痛は無いはずなのだ。
 
 実はこの世界では鎮痛剤はとんでもなく高価だったりするのだろうか、などと海人が考えていると、
ルミナスは黙って背後に置いてあったすり鉢を見せた。
 
 すり鉢の中には数種類の薬草が纏めてすり潰され、それに少量の水を加え溶かした物が入っている。
 見るからに不味そうな緑色の液体だが、この世界の一般的な鎮痛剤である。

「二度とこんな無茶しないって言うなら飲ませてあげるけど?」

「……無責任な約束は、できん」

 海人はルミナスの提案を拒み、痛む体を無理矢理仰向けに戻し、そのまま黙して痛みを堪え始めた。
 これならば悲鳴を上げてのた打ち回るよりははるかに楽ではあるが、それでも十分な激痛だ。  

 そのまましばらく堪え続けるが、その内に脂汗が滲み出てくる。
 だが、それでも海人は黙ったまま呻き声一つあげなかった。

 結局、ルミナスの方が折れた。

「……この頑固者。ったく……ほら、口開けなさい」

 ルミナスが投げやりな態度で海人の口にすり鉢の中身を飲ませた、というか流し込んだ。
 海人は瞬時に口の中に充満した青臭さと強烈な苦味に吐き出しそうになるが、
ルミナスは容赦なく彼の頭を上下から抑え、それを止めた。

 やむをえず、彼は折角の美形が台無しな形容しがたい表情になりつつも薬を飲み下した。
 が、その甲斐あってか十分もしない内に痛みが急速に引き、会話を出来るだけの余裕が出来る。

「ふう、かなり楽になったな……そういえば、私はどうして助かったんだ? 
どう足掻いても墜落死確定だったはずだが」

「最後に残ってた宝石の魔力使って私が全速力であんたを抱えに行ったのよ。
かなり際どかったけど、なんとか間に合ったわ」

「そうか……また君に助けられてしまったのか」

「そんな些細な事気にすんじゃないの。大体その前に私の方が命助けられたでしょうが」

 妙にかしこまっている海人を窘めつつ、ルミナスは水を差し出した。
 それを受け取り、飲み干すと同時に、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 海人の声と同時にドアが開けられ、シェリスとローラが入ってきた。

「おはようございますカイトさん。気分はいかがですか?」

「苦い」

 海人はシェリスの問いかけに迷う事無く即答した。
 水を飲んで多少マシにはなったものの、猛烈な青臭さと苦味はいまだに抜けきっていなかった。

「苦い? ああ、今鎮痛剤を飲んだんですね。
さてカイトさん、幾つか気になっている点があると思いますが、何から答えましょう?」

「気になる点としては……最後のドラゴン戦、何があった事になっている?
それともそちらの処理はまだか?」

「いえ、そちらは最優先でやりました。
部下にはカイトさんが上位魔法の多重起動で粉々に吹っ飛ばした事にしておきましたよ。
町の人達は遠すぎた上に逃げるのに必死だったはずですから、
そもそも何が起こったのかも分かっていないでしょう。
で、カイトさん。私としては真相をお訊ねしたいのですが。
ローラと一緒に戦っておられた時間もあるようですので、できればそちらも」

 ずい、と身を乗り出して訊ねる。
 
 シェリスからすれば、攻撃魔法で無い事は明白だった。
 海人に攻撃魔法は使えないし、ルミナスもあの時の状態では上位魔法一発放つ事も出来なかったはずだ。
 そして魔力砲でやったのであれば、爆発はありえない。
 スタンガンと同じく、彼女の想像を超える攻撃用の武器を海人が用意した事は疑いようも無かった。

 そしてローラからは海人と一緒に戦ったと聞いている。
 詳細は一切教えてもらえなかったが、彼女はかなり称賛していた。
 いくらなんでも魔力砲だけで戦ったはずは無いので、その時にも何らかの武器を使っていたはずなのだ。

 ドラゴンを倒した武器、ローラが認めるだけの戦果を挙げた武器、どちらも気にならないはずがなかった。

「話すと思うか?」

「無理でしょうねえ。
あ、そうそう、ついでですので、部下達にカイトさんに関する事柄の緘口令を布いておきました。
おそらく余計な騒動の種は全て刈り取れたはずです。部下の体に入れていた赤いお薬の事とか、黙らせるのは結構大変でしたけど」

「赤い薬? ……っ!?」

 何気なく語られたシェリスの言葉で、海人は自分の失態に思い至った。
 
 輸血用の血液を薬と言っているという事は、間違いなくこの世界に輸血の技術は無い。
 文明レベルから考えれば数百年単位のオーバーテクノロジーを披露してしまった事に、彼はようやく気がついた。   
 
 これから起こるであろう騒動を想像し、海人は人目もはばからずに両手で頭を抱えた。
 
「何を心配なさってるのかは想像がつきますが、私が緘口令を布いた以上背く者はまずいません。
感謝の証に何か話して下さってもいいですよ?」

「……まずはありがとう。だが、話さんぞ」

 じーっ、と期待を込めた眼差しで見つめてくるシェリスから海人はぷいっ、と子供のように顔を背けた。  
 それでも彼女は諦めずに見続けていたが、あまりに無視を貫き続ける海人にやがて根負けした。

「……仕方ありませんね。今日のところは諦めます」

「結構。で、話の続きだが敵の生き残りはいるのか?」

「確実にいません。迂回しようとした敵との区別などつきませんでしたので、
逃げようとした者達も皆殺しにしましたからね」

「……そういや、今回結果としては問題なかったけど敵がほとんど退かなかったわね。
普通あんだけの数をあの勢いで蹴散らされれば、正規兵はまだしも傭兵はとっとと逃げるもんだけど。
つーか聞いた限りじゃ私らが着く前にローラさんが相当片付けてたんだから、その段階で逃げて無い理由が無いはずなんだけどね」

 ルミナスは今回の戦いを思い返し、首を傾げた。

 正規兵だけであったのならば、まだ理解できる。
 彼らは愛国心や忠誠心などの関係で今回の件に関する心構えや執着が強い。
 しかも仲間が死んでいる以上、尻尾を巻いて逃げれば死体を検分されて今回の侵略行為が発覚し、各国からの攻撃の口実を作る事になる。
 それを考えれば、命を投げ打ってでも任務を果たそうとする可能性は考えられる。

 だが、傭兵や冒険者は違う。
 彼らは金や何らかの条件で仕事を請け負っただけである。
 仕事に執着して命を捨てるとはとても思えなかった。
 
「思い当たる点はありますよ。あくまで推測ですが」

「どんな理由?」

「私たちが到着する前に逃げている人間がいなかったのは単純です。
ローラは北の敵を始末した後に門の外に潜んでいた敵兵の一掃に向かったそうですから、
町の内部にいた敵が知りえた被害は実際よりはるかに少なかったはずです。
魔法で連絡する暇などローラが与えるはずありませんし」

「無論です。流石に全速力で駆け抜けつつの殲滅は骨が折れましたが」

 事も無げにローラが答えた。
 言葉にすれば単純だが、彼女が行った芸当はまさに人外のそれである。
 
 ローラは最初こそ比較的余裕をもって敵の殲滅を行っていたが、すぐに思った以上に数が多い事に気付き、戦法を変えた。
 それ以降の彼女は常人では視認する間も無い速度で町や森を駆け抜けつつ、敵が自分に気付く前に始末し続けた。
 だからこそごく短時間で長老たちの安全を確保しつつ街の外の敵を一掃し、再び内部の敵の処理に向かうという怪事が出来たのである。
 
 予定より早いローラの帰還は、間違いなく今回の戦いの大きな勝因の一つであった。

「そして私たちの到着後に逃げようとする者が少なかった理由としては、
第一にこちらの数。多勢に無勢という視覚上の優越感は正常な判断力を失わせます。
第二に雇われていた者達の質。あの程度の実力では引き際の見極めを間違える者の方が多いでしょう。
そして、第三にローラとカイトさんが組んで東西の門以南の敵を全滅させた事です。
まあ、そのせいでこちらの負担が激増したわけですが」

 そう言ってシェリスは二人の怪物の馬鹿げた活躍に頭を抱えた。

 今回の敵方の心情からすれば、まず時間をおかずにやって来るはずの増援がいくら経ってもやってこない。
 その代わりに増援が来るであろう方向からは何度も激しい爆発音が聞こえてくる。
 そのために、雇われた傭兵達は強力な敵の援軍がやってきて挟み撃ちにあったと考えてしまった。

 だが、そちらを見てもいるのはたった二人。
 普通に考えれば伏兵、あるいは姿がまだ見えていないだけの兵がいる。

 そして横から逃げようとした者はルミナス達によって迂回しようとした者達と一緒くたに優先的に始末されていた。
 逃げるにしてもどのみち戦いは避けられない。

 後方には人数も力量も正確に計れないが確実に強力な敵、前方には既に疲弊してボロボロのルミナス達。

 しかも前方を突破できれば一番重要な仕事を果たす事が出来る可能性が高い。
 
 さらに言えばルミナスとシリルは倒せば確実に名が上がる一流。
 それがこれ以上無いほどに疲弊しきった状態だったのだ。

 後方への恐怖、前方の敵の疲弊によって見えてきた希望、そこに欲が加わって、
傭兵達は己の判断ミスにも気付かぬまま自ら地獄の穴へと落ちていった。

 が、そのせいで本来なら逃げるであろう敵までルミナス達に向かって攻撃を仕掛けたのである。
 
 エルガルドへの見せしめとしての皆殺しには都合が良かったのだが、
まかり間違えば自分達がそうなっていただけに、シェリスは素直に喜べなかった。

「それはすまなかった。今回、とりあえず敵を減らす事しか考えていなかったんでな」

「あ、すいません。責めるつもりはないんです。
部下の治療から何から、むしろ平身低頭してお礼を言わねばならない立場……」

 シェリスの謝罪を遮るようにして、ドアがノックされた。
 主と目線を交わす事も無く、ローラがドアへと向かう。

「なにかあった?」

「はい。ハロルド様達がお見えなのですが……」

 ドアの外にいたメイドは自分の後ろにいる三人を示し、上司に目線で用件を伝える。
 ローラは軽く頷き、海人に訊ねた。

「カイト様。貴方様が助けた方々がお見えですが」

「ああ、通してくれ」

「はい。ではどうぞ中へ」

 海人の許可を得てローラがドアを開けると同時に、あの時の母子が入ってきた。

「先日は本当にありがとうございました」

「お兄ちゃん、この間はありがとう!」

 海人の間近に来るなり、母親は折り目正しく一礼し、娘は元気一杯に笑顔でお礼を言った。
 海人は気にしなくて良い、と軽く手を振り、同時に二人の背後にいる老人に気がついた。

「おや、貴方はたしか花屋の……」

「そうじゃ! 娘と孫を助けてくれて、本当にありがとう!
いくら感謝してもしきれん……!」

 花屋の老人は海人の手を握り、涙ながらに感謝の言葉を言った。

「いえ、ある意味成り行きの面もありましたので、礼には及びません」

「それではワシの気が済まん! ほれ、頼まれたゼオンシュライツじゃ!
代金はいらん、せめてもの礼じゃ!」

「それはありがたいのですが……注文は三日後では?」

 海人は渡された美しく高価な花を不思議そうな顔で見つめつつ、訊ねた。
 彼はギリギリ三日後に届くと思っていた物が、今この場にある事に驚きが隠せなかった。

「ん? 確かに一日早いがまずかったかの?
この花は寿命が早いが、明後日あたりまでなら摘み立てと変わらん状態を保っとるぞ。 
無論気に入らんのなら今から手配して明日の朝一で摘み立てを届けるが……」

 老人の方も不思議そうな顔になる。
 
 が、海人の方はよりいっそう困惑していた。
 彼の予想より二日も早く物が届いた。だが、どういうわけか目の前の老人は一日早いと言っている。
 とりあえず目の前の老人との言葉のズレの理由を確認するため、ルミナスに問いかけた。 

「おいルミナス、私はどれぐらい寝ていたんだ?」

「丸二日以上。あんだけ無茶やったんだから、それぐらいならマシな方よ」

「……そういう事は先に言ってくれ。
失礼しました。てっきり数時間寝ていたぐらいだと思っていましたので」

「いやいや、気にせんどくれ。……ローラ嬢ちゃん、君もこの真摯な若者を見習わんか?」

 素直にペコリと頭を下げた海人に嬉しそうに頷き、次いで無表情なメイドを恨めしげに睨んだ。

「先日の件であれば、ハロルド様が聞く耳を持ちそうに見えなかったからです。
あなた方を迅速に避難させる必要があったあの状況では、あれが最善だったと自負しております」

 あくまで淡々とローラは告げる。

 実はあの日、この老人は行方が分からなかった娘と孫を探しに戦場の只中へと向かおうとしていたのだ。
 が、やって来たローラによって意識を刈り取られ、そのまま近くにいた人間に身柄を預けられたのである。

 ちなみに、彼女は予告も何も無しに問答無用で手刀で昏倒させた。恨まれるのも無理は無い。

「気付いたら両手両足縛られた挙句、麻袋に放り込まれ取ったんじゃが?」

「私は昏倒させただけです。その後は近くにおられた他の長老方に引き渡しました」

「なんじゃとおっ!? あ、あやつらワシを何だと思っとるんじゃ!?」

「あ~、シェリス嬢、まさかとは思うがこの御老人は……」

 ローラの言葉に憤慨する老人を尻目に、海人は会話の内容から予想できた正体を、シェリスに問いかけた。
 彼の予想が正しければ、これだけの速度でゼオンシュライツを調達できる事も頷ける。

「はい、カナールの長老のお一人です。国内でもトップレベルの商会の創業者なんですよ」

「今はただの花屋のジジイじゃよ。
長老などといっても実際に町を動かしておるのは若い者達じゃ。
っと、そうじゃ。お主今身動きとれんのじゃよな?」

「ええ。身の程を忘れた肉体強化の代償は大きかったですな」

「ならば明日、奥方のお墓までベッドごと運ばせよう。
場所さえ教えてもらえれば、どんな遠距離でも構わんよ」

「いえ、お気持ちはありがたいのですが、墓は無いのです。
生前の妻に自分が死んでも墓は作るなと言われてまして」

「む? それならその花はどうするんじゃ?」

「墓はいらないから、代わりに美しい花を活けて自分を偲べ、と」

「……そうじゃったか」

 懐かしそうに笑う海人に老人は人好きのする笑みを向けた。

 その後これだけでは礼がしたりない、ともどかしそうにしている老人相手に、美味しい屋台の店を教えてもらう事で手を打ってもらったり、ゼオンシュライツの手入れ法を教わったり、蚊帳の外になった少女が海人に寄りかかって彼が痛みに悶えたりと色々あった末、三人は帰っていった。

 そして、部屋の中は当初いた四人だけになった。 
 
 賑やかだった部屋が、今はやや重い静寂に包まれている。 
 そんな中、花を寂しげに眺めている海人を気遣うように、シェリスが口を開いた。 

「カイトさん、なにかご要望はありますか? 可能な限りお応えいたしますよ」

「ならば花瓶を一つ貰えるか? この花が映える物だとなお嬉しい」

「分かりました。幾つか候補を持ってきますので、その中から選んでください。
どれも気に入らないのなら別の物も持って来ますので、ご遠慮なくどうぞ。他には何か?」
 
「それでは、我侭ついでにもう一つ頼んでいいか?」

 シェリスの厚意に感謝しつつ、海人はもう一つだけ頼む事にした。

「なんなりと」

「明日一日だけ、部屋に誰も入ってこないように取り計らってくれ。
妻の生前の言葉でな……自分が先に死んだ場合、命日だけは私を独占させろと言われているんだ」

「……分かりました」

 寂しげに笑う海人に、シェリスは重々しく頷いた。












 翌日の深夜。
 真っ暗な部屋の中で、海人はじっとゼオンシュライツを眺めていた。
 彼は朝からずっとその場から動かず、どこか空虚な顔でその美しい花を見ていた。
 どこか神聖な儀式のような近寄り難さを放ちつつ、海人は石像にでもなったかのように動かなかった。
 
 唐突に、コンコンと窓ガラスを軽く叩く音が聞こえた。
 
 海人はその音でようやく我に返った。
 一日ろくに動かさなかった体をほぐしながら窓の方へと歩み寄り、
外にいた黒翼の女性を部屋に迎え入れた。

「こんばんは。カイト」

「こんばんは。もう日付が変わったのか?」

「ええ、一時間ぐらい過ぎたわ。……座ってもいい?」

 海人の座っていた椅子の向かい側を指差す彼女に、海人は軽く頷いた。
 暗い闇の中でもかすかに黄色く輝いてその美を誇る花を挟み、二人は向かい合った。

「……ねえ、どうしてあんな無茶したわけ?」

 ルミナスは真剣な面持ちで訊ねた。
 
 自分が海人の手助けに対して礼を言ってしまったから、という理由は既に消えている。
 それが理由ならば、もう無茶をしないと約束すれば鎮痛剤を飲ませると言ったルミナスの言葉を断る理由が無い。
 あれはルミナスがどう思おうと同じ事があれば同じ事をすると思っているからこその態度であった。
 そうでなければルミナスに心配をかけた事を謝罪しつつ、薬を受け取っていただろう。

 本来ならば理由を追及するべきではない。そんな事は百も承知だ。
 そもそも下心無しで命を助けられたのだから、感謝こそすれ文句を言うのはお門違いである。

 だが、ルミナスはそれでも追及せずにはいられなかった。
 
 落下している海人を抱きとめた時、彼はやや満足気な、不思議なほど穏やかな顔をしていた。
 ルミナスがいなければ墜落死が確定していた状況だったにもかかわらず。
 
 まるで己の死を厭っていない、あるいはそれを望んでいるかのような印象が、彼女の脳裏から離れなかった。 
 
「身の程知らずに英雄願望に酔った、では納得できんか?」

「当たり前じゃない。あんたは馬鹿じゃないし、英雄願望があるなら魔法の事ばらしてるでしょ」

 海人の冗談めいた言葉を、ルミナスはまったく受け入れなかった。
 が、彼を咎める様子は無く、ただブルーの瞳が悲しげな光を放っている。

 しばしその瞳に見つめられ、海人は観念したかのように口を開いた。

「……ルミナス、すまんがつまらない愚痴を聞いてくれるか」

「ん、聞かせて」

 どこか申し訳なさそうな表情の海人を見つめながら、ルミナスは姿勢を正した。
 おそらく、今から聞く話が海人が抱える心の傷に関する物だと漠然と予感しつつ。

「……私はな、二年前まで失敗という物を知らなかった。
いや、失敗そのものは幾度となく経験していたが、取り返しのつかない失敗の経験がなかったというべきか」

「…………」

 ルミナスは海人の独白を神妙な面持ちで聞いていた。

 取り返しのつかない失敗の経験が無い。
 それがどれほど危険な事か、彼女はよく知っている。

 故に、先日立ち聞きした海人の事情と合わせ、おおよそ話の先の見当がつく。

 なんとも救い難い、重い話だと。

「そのせいで万難を排しようとしたときに、どうしても詰めが甘かった。
自分で言うのもなんだが、普通ならば取り返しがきかない失敗も取り返してしまえるだけの能力があったから、己の欠点に気付いていなかった。
……そして、二年前。自分の欠点に自覚の無いまま取り返しのつかない失敗をした」

「……奥さんを、その失敗で亡くしたのね?」

 予想通りの話に、ルミナスは痛ましげな目を海人に向けた。
 
 彼女も自分の判断ミスで部下を死なせた事がある。
 最善の判断をしたはずが、それを敵に読まれて裏をかかれ、挟撃を受けたのだ。
 結果、それをカバーするための彼女の捨て身の活躍にもかかわらず、新入りの部下が一人死んだ。
 その時でさえ、食道楽の彼女がかなりの長期間食が細くなった。
 
 それが最愛の人間であれば発狂するほどの苦しみだったはず、そう思っていた。

 ――――だが、彼女の予想ですら、まだ海人の絶望には遠かった。
 
「ああ……さらに言えば妻の腹には、もうすぐ生まれるはずだった子供がいた」

「なっ……!?」

 ルミナスは、絶句した。
 
 新しく家族が増えるという喜びから一転して、生まれるはずの子供と最愛の妻を失う。
 
 それがどれほどの絶望だったか彼女には想像も出来ず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。 
 
 そんな彼女を眺めながら、海人は先日カナールの広場で誘拐されかけた時の事を思い出していた。
 あの時、彼の視界にはお腹の大きな妊婦の姿があった。
 それが一瞬、最後に見た妻の姿とかぶり、周囲一帯を覆う毒ガスのスイッチを押そうとしていた彼の手を止めた。
 妻ではない、赤の他人だと分かっていても、その手を再び動かす事はどうしても出来なかった。

 どこまでも未練を引き摺り続けている自分を嘲笑いながら、海人は言葉を続けた。

「……しかもその失敗を犯した研究は、生まれてくる子供が不幸にならないように、と始めた物だ。
滑稽だろう? 子供の幸せを願って研究をしていたというのに、子供に生まれる事すら許さなかったばかりか、妻の命までも奪い去った」

 海人が子供の幸福のために始めた研究。それは感情を持つ人造人間の作成だった。
 
 もし自分や妻に万が一の事があっても、子供が寂しさを紛らわせられるように。
 自分の両親が失踪し、広い屋敷に一人残されたと漠然と確信した時の空虚感を味あわないように。
 なにより、自分の子供として狙われるであろう我が子の護身のために、彼は研究をしていた。

 バランサーや人工筋肉など、多くの要素は既に完成していた。
 残っていたのは人の感情を持つ人工知能――――そして動力炉だった。

 その動力炉の研究の途中で、彼は全てを失った。

「で、でも失敗って事は事故なんでしょ!? それなら全部あんたのせいとまでは……!」

「事故には違いないかもしれんが……事前に徹底して対策していれば防げた事故だったろうさ。
その時使っていた研究室が文字通り根こそぎ消し飛んでしまったから、推測の域を出ないがな」

 ルミナスの縋るような叫びをやんわりと切り捨て、海人は己の愚かさを嘲笑った。

 その日、海人の妻は身重の体で夫に差し入れを作って研究室にやってきた。
 が、飲み物を持ってくる事を忘れていた。
 取りに戻ろうとしたところを、身重の体に無理をさせるわけにはいかない、と海人が代わりに取りに行った。

 その間に、事故は起きた。

 紅茶のセット一式を持って戻ってきた彼が見た物は、内部が根こそぎ消し飛んだ研究室。
 なまじ防音が完璧だったため、屋敷の地上部分に行っていた海人には爆発音が聞こえなかった。

 安全対策は完璧なはずだった。万に一つの事故も起こらないはずだった。
 
 そのせいで己の眼前にある光景が信じられず、海人は必死で妻の名を呼び続けた。
 が、当然返ってくる答えはない。そして否応無しに現状を理解させられ、海人は慟哭した。

 本気で全力を傾けていれば、既に動力炉は完成していておかしくなかった。
 それを、必要になる頃には十分間に合うという理由で怠けていた。
 完成させてさえいればこんな惨劇は防げただろう。

 身重の妻が差し入れを持って来る事は前からしばしばあった。
 その度に叱ってはいたが、もっと強く言っていればこの事態は防げたかもしれない。
 そもそも出産が終わるまで研究を中断していれば、こうはならなかったかもしれない。

 ありとあらゆる可能性が彼の頭を駆け巡り、自分の愚かさを徹底して突きつけた。

 そして、彼は理解した。いかなる能力を持っていようと、全力を尽くさねば何の意味もない。
 能力を活かしきらなかった自分はただの愚者にすぎなかった、と。

「…………」

 ルミナスは沈黙せざるをえなかった。
 目の前の男は自分の小賢しい予想など、はるかに上回る絶望を味わっている。
 いかなる言葉も、海人の痛みを和らげる事が出来るとは思えなかった。
 
 そんな彼女の内心を知る由もなく、海人は独白を続けていた。

「あれ以来、私は延々と無為に過ごした。だが、流石に一年半近くも経ったら多少は立ち直ってな。
何の償いにもならんが、せめてその時の研究ぐらいは完成させようと研究を再開したんだ。
が、そこでようやくもう一つ大事な物を失っている事に気づいた……妻に比べればゴミのような物ではあるがな」

「……何を?」

「探究心だよ。研究をしていても、熱中できない。楽しさをまるで感じない。つまらない。
それまではどれほどしょうもない研究でもやっている間は楽しめたんだが、
今は研究の先にある物を見つけたところで何になる、と思って空しくなってしまう。
人間としては救えない愚物、研究者としても死んだも同然……我ながらどうしようもない人間だな」

 凄絶なまでの笑みを浮かべ、海人は言葉を切った。
 その底知れぬ狂気を秘めた自嘲を見て、ルミナスは悟らざるをえなかった。

 たった一度。
 だが取り返しのつかないミスで妻子を失い、それに伴って研究者の命に等しい研究意欲まで失った。

 目の前の男は、文字通り全てを失っているのだと。

 ルミナスの常識では助かりようも無い致命傷を瞬く間に治療できるほどの医療知識を持ち、
世に出せば世界の軍事バランスを崩壊させるほどの武器を作れるような研究者であり、
その恐るべき知識を更に凶悪化させる伝説の魔法を操る。

 それほどの怪物でありながら、この男の手には何も残されていないのだと。
 あまりに残酷な海人の過去に、ルミナスは愕然とする他なかった。

 そんな彼女の様子に気付き、海人は慌てて普通の笑顔を取り繕って言葉を続けた。

「ま、まあそういう事があったんでな。今はやれるだけの事は全部やっておこうと思ってるんだ。
私は君の事もシリル嬢の事もシェリス嬢の事も気に入っているからな。
どうせもう失う物は無いんだし、気に入った人間を助けるためなら命を懸けても惜しくは無いというだけだ」

 やや早口になりつつ明るい口調で語り終えるが、ルミナスの様子に変化は無い。
 むしろ先程よりも沈んでいるように見える。

 どうにかして立ち直らせようと、海人はさらに言葉を紡いだ。

「あ~……とりあえず君らが死ななかったのは何よりだ。
私のような己の能力もまともに活用できないクズにしてはそれなりに役に立った方だろう。うん。
だから、その~……」 
 
 一向に顔を上げる様子の無いルミナスに海人がしどろもどろになっていると、

「……私、シリル、シェリスとその使用人、長老の娘と孫、ついでにゲイツ。
最低でもこんだけ助けたのに、それなりに役に立った止まり?」

 ルミナスはようやく顔を上げ、不満そうな顔で海人を睨みつけた。
 やや暗いが、普段の彼女とさして変わらない表情だ。

 どうにか元に戻ったか、と内心で安堵の息を吐きつつ海人は答えた。

「あの程度では助けた内に入らんだろう。
そもそもローラ女士と会わなければ途中で殺されていた可能性もあるし、
最後のドラゴンにいたっては君の力を借りてようやく倒せただけだ。
……ついでに言えば、先日三人組に絡まれていた女がいただろう?」

「ん? ああ、あんたが助けた人ね」

「今回の敵方だった」

 海人は思いっきり肩を落とし、頭を抱えた。
 善意で助けたわけではないため怒りは無いのだが、それでも複雑な気分は拭いきれず、彼は未だにそれを引き摺っていた。
 
「……気に病むこと無いわよ。知らなかったんだし」

「そうかもしれんが、どのみち受けた助力と与えた助力を比較すれば、良くて相殺、悪ければ私の受けた助力の方が大きい。我ながらなんとも情け無い話だがな」

 あまりに自虐的になりすぎ、先日己のやった事の正当な評価すら出来なくなっている海人に、
ルミナスの目が据わった。
 が、項垂れている海人からはその表情は見えなかった。

「……カイト、ちょっと顔上げてみてくれる?」

「ん、なんだ?」

「おやすみなさい♪」

 瞬時に背後に回ったルミナスの声と鈍い痛みを最後に、海人の意識は途切れた。










「んぐ……」

「あら、お目覚めですの?」

 気絶から覚めた海人が重い頭をなんとか起こすと、すぐ横にいたシリルが心配そうに声をかけてきた。

「シリル嬢か。ルミナスはどこだ?」

「お姉さまなら先程大広間に向かわれましたけど……どうかなさいましたの?」  

「いや、会話していたら唐突に昏倒させられたんでな。理由を聞かせてほしいだけだ」

 海人の言葉に、シリルは首を傾げて考え込んだ。
 彼女の敬愛する女性は理由もなくそんな事をする人物では無い。
 となると、それに繋がりそうな可能性は一つしかなかった。 

「……ひょっとして今日のあれと何か関係が……いえ、とりあえず置いておきましょう。
カイトさん、少しじっとしててくださいな」

 とりあえず疑問を飲み込み、シリルは海人の頭に手を伸ばし髪を整え始めた。
 唐突なシリルの行動に困惑しながらも、海人はとりあえずされるがままになっていた。
 妙に慣れた手つきでテキパキと髪を整えられ、若干伸びていた髭なども綺麗に剃り落とされる。
 
 十分もしない内に、海人は生まれ持った容姿を活かした見事な美青年に仕立て上げられた。

「ん~、やっぱり元は良いですわね。なかなかやりがいがありましたわ」
 
「で、結局これはなんなんだ?」

「後のお楽しみですわ。それとカイトさん、後ほど少しお時間を……」

 シリルの言葉を遮るように、部屋のドアがノックされる。
 海人が返事をすると、ローラが足音も立てずに入ってきた。

「失礼します……あら、ちょうど良かったようですね。かなり素敵ですよ」

 海人の顔を見て、ローラは無表情を崩さずに称賛した。
 褒めているようには見えないが、口調は社交辞令には聞こえない。
 なんとも真意が分かりにくい女性であった。    

「あ~、何か用か?」

「付いてきて下さればわかります。せっかくですのでこの服をお召しになってください。
シリル様もお部屋に何種類かドレスを用意いたしましたのでお召しかえを」

 ローラは海人に服を手渡し、シリルを伴ってさっさと踵を返した。
 海人が言葉を発する間もなく、二人は部屋を出てしまった。 
 拒否する間もなく去ってしまった二人に溜息を吐きながら、海人はとりあえず素直に着替える事にした。 
 












 着替え終えた海人がローラに案内されてやってきた大広間では、盛大なパーティーが開かれていた。
 先日の戦闘で天井や壁の一部が壊れてはいるが、それでも綺麗な物であった。
 
 中央近くに設置された即席の調理スペースでは、鉄板で食べ物が香ばしく焼かれ、
なくなってしまった料理の補充を忙しなく行っている。
 
 周囲を見渡せば色とりどりのドレスを纏った女性がそこかしこで談笑しながら料理を摘んでいる。
 一見優雅な上流階級の女性達に見えるが、食べるペースが尋常ではなく早い。
 決して下品ではなく、むしろ上品に見えるのだが、数秒目を離すと皿に多めに盛られた料理が半分になっている。
 
 マナーにも外見にも服装にも問題ないのだが、どうしても上流階級の人間には見えない女性達だった。
 というか、よく見れば先日彼が輸血を施した人間を始めとしたシェリスの使用人たちであった。
 
 が、この場にはざっと見ただけでも手のかかった高級そうな料理がずらっと並んでいる。
 しかも海人が納入した果物も数多く存在する。 
 使用人達の宴とはとても思えない豪華さだ。

 海人が困惑していると、横からシェリスがやって来た。

「ちょうど良かったシェリス嬢。これはいったいなんだ?」

「今回の戦いの勝利を祝っての祝賀会ですよ。せっかくですので、使用人達も無礼講で参加させています。
さあ、我が屋敷自慢の料理長が最高級の食材を使って存分に腕を振るっています。
飲み物も全て最高級品を用意しています。どうぞお楽しみください」

「なにがなんだかよく分からんが……まあいいか」

 一礼してローラを伴って去っていくシェリスの後姿を見送りながら、とりあえず手近にあったサラダを皿に盛る。
 そして一口味見して、目を見開いた。

「ほう、美味いな。なるほどスカーレット女士の腕前は超一流だな」

 野菜の質もさることながら、かかっているドレッシングが素晴らしかった。
 野菜の味を引き立てるという役目を果たし、かつ食欲をそそる。
 食べれば食べるほどお腹が空いてくるような、理想的な前菜だった。

 味の質の高さに感心して、思わず頷いていると、

「あっはっは、そう言ってくれりゃあ作った甲斐があるってもんだよ」

「よ~っす、カイト楽しんでっか?」

 スカーレットとゲイツが背後から声をかけてきた。

「噂をすればか。君らこそ楽しんで……その様子では無理そうだな」

 海人が振り向くと、片手に肉料理の皿を持ちながら、
もう片方の手で魔法で浮かせたボウルでサラダにドレッシングを和えているスカーレットがいた。
 しかも頭や肩の上にも別のボウルが乗っている。どう見ても楽しむ暇はなさそうである。
 
「そんなこたぁないよ。腕は存分に振るえるし、日頃から忙しいこいつに私の料理食わせてやれるし、文句なしさ! ほら、こいつも食ってみな。焼き立てだから美味いよ!」

 海人の言葉を豪快に笑いながら否定し、スカーレットは肉料理の皿を手渡した。
 乗っている料理はシンプルといえばシンプル。
 付け合せの野菜と切り分けられたステーキの上に、赤茶色のソースがかかっているだけである。
 が、目の前の料理長の表情を見る限り、相当な自信が窺える。

 どんな味か期待しつつ、海人は切り分けられた肉の一切れを口に含んだ。

「……これは美味い! 肉質や焼き加減の完璧さもさることながら、かかっているソースがまた素晴らしい。
しかも脂身はほとんど入っていないというのに、このしっとりとした柔らかさ……極上の逸品だ」

 咀嚼した料理を飲み込み、海人は感動していた。
 
 おそらく味からすれば肉は牛肉の赤身だが、噛むとあっさりと口の中で官能的にほぐれる。
 同時に溢れ出す肉汁と赤ワインをベースとしたソースが絶妙に絡み合い、なんとも言えぬ味わいを出している。
 しかも肉の脂身がほぼ皆無なため、いくら食べてもしつこく感じる事が無い。
 
 これまで海人が食べた料理の中でも最高と言って差し支えない、まさに絶品の一皿であった。

「ふふん、あたし自慢のメニューの一つさ。
ここしばらく材料が一つだけ足りなくて作れなかったんだけど……それがなんだか分かるかい?」

「むう……まさか醤油か?」

「大当たり! そう、醤油をソースの隠し味と肉の下味に少量使って……あ、ちなみにこの肉は……」

 スカーレットは嬉々として料理の説明をしていく。
 牛の産地、年齢、性別から、使ったワインの産地と葡萄の品種、熟成法や熟成年数に至るまで事細かに解説し、調理法に関しても材料の比率を除いて懇切丁寧に説明している。

 放っておけば確実に二、三時間はぶっ通しで解説していそうな彼女だったが、
  
「お~い、スカーレット。そろそろ副料理長が悲鳴上げてるぜ?」

 横からかけられた婚約者の言葉に解説を止められた。
 
 少し不機嫌そうにゲイツの指差す方向を見ると、次から次へと差し出される皿を相手に必死で奮闘している女性がいた。
 彼の言うとおり、悲鳴を上げながら縋るような目でスカーレットを見ている。

「ちっ、情けないねえ。すまないね、ちょっくら行ってくるよ」

 ドレッシングを和え終えたサラダを無くなったサラダの代わりに置きつつ、スカーレットは小走りで去った。
 その最中にも二つのボウルを魔法で浮かせながら片手で生クリームのホイップ、もう片手で十数個の卵を溶いている。
 なんとも忙しい婚約者の後姿を見送り、ゲイツは海人に向き直った。

「わりいな、あいつ料理の話始めると止まんなくてな」

「いや、なかなか楽しめた」

「そうか……えーっとだな、ちと話付き合ってもらってもいいか?」

「構わんが、なんだ?」

「いや、この間お前に絡んだ三人組が変貌してたっつっただろ?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「あの三人が、逃げる途中で片足痛めたお袋を担いで避難させてくれたんだ。
しかも、弱いなりに殿も務めて足の遅いガキ共とかが逃げる時間も稼いでたんだよ。
だから、お前に礼を言わなきゃいけねえと思ってな」

「……そうか、何がどう作用するか本当に分からんものだな。
が、この場合感謝すべきはあの三人だぞ?」

 幾分、海人の表情が和らいだ。

 まがりなりにも助けた女性が町の人間を虐殺せんとする敵であった一方、不意打ちで急所を攻撃したり催涙スプレーをかけたりした挙句、悪辣極まりない洗脳まで行った三人が人助けに目覚めて町の多くの人間を助けた。

 なんとも皮肉な話ではあるが、イリーナと相対していた時の複雑な気分を引き摺っていた彼には多少なりとも救われる話だった。

「何言ってんだよ。何やったのか知らねぇが、お前があの3人を変えてなけりゃいの一番に逃げてたはずだ。
本当ならすぐにでも何か礼をしたいとこなんだが……俺が無事に結婚するまで待ってもらってもいいか?
今結婚資金貯めてるせいで金がねえんだ」

 すまん! と両手を合わせて頭を下げるゲイツに苦笑しつつ、海人はひらひらと手を振った。
 
「いや、礼はいらんよ。その分お前の母上への親孝行とスカーレット女士へのプレゼントにでも当ててやれ。
お前の職業上、どちらにも日頃から気苦労をかけてるはずだろう?」

「……お前、マジで良い奴だな……分かった。じゃ、せめて今度一杯酒でも奢らせてくれ。
それぐらいならかまわねえだろ?」

「ああ、ありがたくいただこう」

 ゲイツの提案に海人が快く頷く。
 その後しばし話した後ゲイツと別れ、各種料理をチョコチョコと摘んでいると、

「あの~……」

 恐る恐るといった様子で、ベージュのドレスを纏った女性が声をかけてきた。

「ん? ああ、先日の……たしか名前は聞いてなかったな」

「は、はい。シャロン・ラグナマイトと申します。
先日は散々ご迷惑をおかけして真に申し訳ありませんでした」

「気にするな。監視の件は納得は出来ずとも理解はできるし、君の精神異常を引き起こしたのは他ならぬ私だ。
さらに言えば君に命を下したのはシェリス嬢。その彼女が謝罪した以上、私としてはどうとも思っとらんよ」

「そう言っていただけるとありがたいです……ですが、その……おそらく私は貴方様に相当な重傷を……」

 顔を俯かせて、消え入りそうな声で呟く。
 
 シャロンは海人に正気に戻されてから混乱し、人格反転中に行った所業の記憶は完全に抜け落ちていたが、それでも四日経った今では海人の顔を間近で見た時からの記憶は戻っていた。
 思わず海人を突き飛ばした時に感じた、何かをへし折った鈍い手応えの事も。

「これはカナールで敵と戦っている最中にやられた。それでいい。
あの恐慌状態から考えればただの反射行動だ。君に非は無い」

「そ、そういうわけには……せめてシェリス様に報告しませんと」

「自戒の意味で報告するにしても今はやめておけ。折角の祝勝会に水を差すのは本意では無いだろう?」

 海人の言葉にシャロンは呻いた。
 
 周囲を見渡せば、生きている喜びを噛締めながら滅多に食べられない大御馳走に舌鼓を打っている同僚の姿が見える。
 シェリスにこの失態を報告すれば、いくら取り繕ったところで確実に一瞬は雰囲気が激変する。
 いくら浮かれているといっても、それを感じ取れないような鈍い人間はこの場にいない。
 
 海人の言うとおり、今この場で報告すれば折角皆が楽しんでいる宴に水を差すことは明らかだった。

「申し訳ありません……つくづくご迷惑おかけします」

「だから気にするなというに。ほれ、彼女らは君を呼びたいんじゃないか?
折角生き残ったんだ、つまらん事など気にせず楽しめ」

 海人はシャロンを眺めている女性達を首で示す。
 どうやら彼女を自分達の輪に入れたいようだが、海人と話しているので遠慮しているらしかった。 
 シャロンはしばし迷っていたが、最終的に恐縮しきりで海人に何度も頭を下げながらそちらへと歩き去っていった。
 
 それと入れ替わるようにして、ライトイエローのドレスに身を包んだシリルがやって来た。
 なんとも可愛らしい外見と相まって、まるで妖精のように見える。 

「……何か用か?」

「少しお話があるのですが、向こうのテラスまで来ていただけます?」

 夜風とパーティの中心から離れた位置のせいで誰もいない二階のテラスを指差し、シリルは訊ねた。
 やんわりとした口調、優しげな笑顔だが、妙に有無を言わせぬ雰囲気があった。
 海人は頷き、先に歩き出した彼女の後ろをついて行った。









 テラスに着くなり、シリルは遮音魔法を唱えて周囲の音を遮った。
 これで二人の会話が誰かに漏れる事は無い。

「さて、話とは何かな?」

 思いっきり悪い予感を感じつつも、海人は何気なく訊ねた。
 極めて低い確率だが、現段階ではシリルの話が彼が懸念している内容以外の可能性も否定は出来なかった。

「……そもそも、最初から違和感は感じていました。
飛翔魔法は子供でも使える魔法。カイトさんの年齢で使えないとすれば地の属性特化ぐらいです。
と言ってもこれだけなら、疑念には至らなかったでしょう。
属性特化は珍しいですが、数は少なくはありませんから。
ですが、この屋敷で皆さんの治療をした時の道具。あれを見て疑念が湧きました。
あの短時間でどこからあんな物を持ってきたのか、と。
どう考えてもカナールに持って行ってはいませんでしたわよね?」

「たしかにそうだな。で、何が言いたい?」

 海人は平静を装いながらも、分の悪すぎる賭けが失敗した事を確信していた。
 
 だが、そこに驚きは無い。
  
 彼はシリルがあの状況下で唯一、そして高確率で秘密の一つに辿り着くと、最初から覚悟はしていた。
 シリルは海人が戦利品以外の荷物を持っていなかった事を知っている。
 それに関して追求される前にカナールへの襲撃が発覚したため、何とかごまかせるかと期待してはいたが、やはり甘かった。

「おそらく貴方はあの場で魔法を使って道具を作り出したのでしょう。
――――カイトさんの属性は創造。魔力を対価に無から有を生み出す特殊属性。訂正はありますか?」

 シリルは朗々と己の導き出した海人の秘密を指摘した。
 その顔にはカマかけなどの小細工ではなく、紛れも無い確信が満ちている。 

「短絡的だな。あそこから少し離れた所に各種道具を隠しておいただけとは思わないのか?」

「既存の医学では蘇生不可能な患者を生還させる薬。
お姉さまを助けた時に背負っていた道具の速度。どちらも破格の効用を持つ神がかった道具ですわ。
他者に知られるだけでろくでもない結果をもたらしかねないあれらを、慎重な貴方が誰が見つけるとも分からない森の中に隠したと?
そんな妄言を信じるほど、私は貴方を過小評価しておりませんわ」

 シリルは論ずるまでもない、と海人の言葉を冷たく一蹴した。
 
「いやいや、君が思うほど私は優秀では無いぞ? 
実を言えば君の言うところの薬に関しては、君が言うほどの評価を受けるだろうという事を失念していたからな」

「あら、そうでしたの? ですが先日お姉さまが口を滑らせたというのもありますわ。
お姉さまは貴方を拾った、と仰いました。ならばどこからあの果物を持ってきたんですの?
最初にお姉さまと会ったのがあの草原ならば、貴方はあれだけ大量の果物を持って草原をうろついていた事になりますわ。
仮にそうだったと仮定しても、貴方を抱えたお姉さまがどうやってあんな膨大な量の果物をどうやって家まで持ち帰ったんですの?」

 海人の発言に軽く驚きつつも、シリルはさらに疑うに至った材料を突きつけた。
 一向に諦める気配の無い彼女の追及に海人は、

「……ふむ、色々と抜けはあるが、これ以上君をごまかすのも面倒か……ま、大目に見て及第点をやろう。
いかにも私の属性は《創造》だ。で、それを暴いて何がしたい?」

 彼女の言葉を肯定しつつ、真意を問いかけた。
 わざわざ呼び出して会話している以上、それなりの理由がある事は確実。
 そして遮音魔法まで使っている事を考えれば、条件次第ではシリルにも沈黙を守ってもらう事が可能だ。 
 そう考え、海人は彼女の答えを待った。

「少なくとも、それが理由で仲間外れにされるのは嫌ですわね。
おそらく先日仰っていた《問題》というのは私の事でしょう?
私に魔法の事を隠すのなら、お姉さまの家で作る事は出来ないでしょうから」

「正解だ。ちなみにこれについて知っているのはルミナスとシェリス嬢だけだ。
……できればこの事は他言しないで欲しいんだが」

 海人は話しながらどの程度の交換条件ならシリルに沈黙を誓わせられるか、と思考を巡らせていた。
 それだけに次の彼女の発言には意表を突かれた。

「心配せずとも、いちいち人様の秘密を触れ回るほど低劣な品性は持ち合わせていませんわ」

「は……? ならばなぜわざわざ確認に?」

 一気に毒気を抜かれ、海人は変に間の抜けた顔になった。
 彼は沈黙の代償を何も求められないとは思っていなかった。
 しかもシリルの表情を見る限り、裏がありそうには見えない。

「私なりの誠意ですわ。気付かなかったふりをするのは容易。
ですが、それでは貴方の方に疑念が残るでしょう。それは、あまりに恩知らずというものです」

「恩?」

「ええ……お姉さまを救ってくださったという、返しても返しきれない、大きな恩ですわ。
あの時私は何も出来ませんでした。ただお姉さまが焼き殺されるのを見ている事しか。
本当に、ありがとうございました」

 深々と、頭を下げる。
 普段の外見通りの子供っぽい態度が信じられないほどに、完璧な御辞儀だった。

「……いや、大した事はしとらんが」

「いくら防ぐ自信があったとはいえ、ドラゴンのブレスの射線上に突っ込むなんて普通出来ませんわ。
その直後にドラゴンと真っ向から対峙して打ち倒すなどという事も。胸を張ってくださいませ。
今回の戦いにおいて、貴方は紛れもなく英雄ですわ」

「そうか……」

「まあ、その恩に多少でも報いるため、というわけではありませんが……」

 そう言って、シリルは手を伸ばして海人の耳を引っ張り、優しく耳打ちする。

「カナールでの凄まじい遠距離からの援護に関しても、見なかった事にして差し上げますわ」

「!?」

 海人は魂が吹き飛ぶかと思うほどに驚愕した。
 
 まさかあの距離、あの混戦で気付かれているなど夢にも思っていなかった。
 それも念を入れて狙撃位置を小まめに変えていたのに、だ。
 
 彼といえど驚かないはずが無かった。
  
「ふふ、これでも遠距離戦は専門ですので。
まあ、あんなとんでもない距離とは思っていませんでしたので、
狙撃点を見つけるのに時間がかかりましたが。
御心配なく。シリル・メルティの名にかけて沈黙を守りますわ。どの秘密に関しても」

 しー、と人差し指を軽く口に当て、悪戯っぽく微笑み、シリルは宴の中に戻っていった。

「……」

 海人はらしくもなく絶句していた。
 
 シリルは可愛らしく冗談めかしてはいたが、内心がそんな平然としているとは思えない。
 海人の使った狙撃銃は、彼女の弓兵としての存在意義すら揺るがしかねない物だ。
 それを創造魔法で大量生産できる事も考えれば、衝動的にこの場で殺されていてもおかしくなかった。

 だが、彼女はそれら全てを胸の内に収め、海人に優しく笑いかけた。
 最後に見せた笑顔を出すために、どれほどの精神力を要したのかを考え、彼は思わず呟く。

「本当に……こちらに来て以来、会う女性会う女性、素晴らしい女性ばかりだな」

 幼い外見に見合わぬ高潔な精神を持つシリルに敬意を抱きつつ、海人は宴へと戻った。
 
 









「いかがでしょうカイトさん。楽しんでいただけていますか?」

 海人が階段を下り、ちょうど一階に着いた辺りでシェリスが声をかけてきた。
 その斜め後ろにはローラが控えている。
 主より目立たぬようにするためか、ローラの服装は控えめに言っても地味であった。 
 
「ああ、楽しませてもらっている」

「それは何よりです。改めまして、この度の貴方の御助力まことに感謝いたします。
使用人の治療に始まり、カナールでの戦いの一連。
此度一人の犠牲者も出なかったのは、ひとえに貴方のお力によるものです」

「そんな事は無いと思うがな。
聞いた限りでは最初にローラ女士が独力で凄まじい数の敵を倒していたんだろう?
なら、今回最大の功労者は彼女だ。私は後から手伝った程度だよ」

 恭しく頭を下げるシェリスの言葉を、海人はやんわりと否定した。

「カイト様の御助力は『手伝った』程度の物ではございませんが、概ねその通りかと存じます。
ですが、何故か主から労いの言葉もありません。悲しい事です」

 表情を動かさぬまま顔だけを僅かに伏せ、ローラは言葉で主を責めた。
 が、シェリスは眉一つ動かさず言葉を返した。 
 
「休暇を作るために全力疾走して予定より早く帰還していた事を隠していなければ褒めていたでしょうね。
あなたが町にいる事をもっと早く知っていれば戦略の立て方も変わったのに」

「日頃休暇が無いのが悪いのです。
休みが年に一日あるかないかの使用人など私一人しかいないと思いますが?」

 主の言葉に対し、ローラは無表情からやや半眼になってシェリスに視線を向けた。
 思いっきり不敬な態度ではあるが、彼女の職務を考えればそれも無理は無い。 

 ローラの職務は過酷、その一言に尽きる。
 シェリスの身の回りの世話や護衛は基本的な職務であるため問題は無い。
 だが、部下の訓練メニューの調整、シェリスが出向けない場合の交渉の代理、新しい使用人を入れる際の選別作業、屋敷内の清掃のチェックなど他にも多数の仕事がある。
 結果として彼女の一日の睡眠時間は平均五時間弱。
 そして素直に休暇と呼べる日は年に一日あるかないか。
 その分給料は高いが、肝心の使う暇が存在しない。
   
 実は今回の彼女の規格外の大暴れっぷりは、やっとの思いで作り出した休日をぶち壊した連中に対する怒りによるところも大きかったりする。  

「う……それは、まあ、悪いと思ってるわ」

「それに、そのおかげで開戦直後から私があの場にいる事が出来、
しかもほぼ力尽きた後もそちらに行くはずの増援を片したのですから、結果としては良い方に……」

「こら、さすがにそれは聞き捨てならんぞローラ女士」

「なにがでしょう?」

「それを片付けるために人にナイフを突きつけて協力させたのはどこのどいつだ」

「あれほどの力をお見せになっておきながら、すぐさま逃げようとした御方が悪いかと。
数十人以上の集団相手に立ち向かうと言っている健気な女性を見捨てるなど、男の風上にも置けないでしょう。
そもそも、協力させたのは私なのですから、私の手柄と言って何一つ問題はないかと」

「ほほう。君の性格がもう少し穏やかならもっとスムーズに事が運んだとは思わんかね?」

「あれだけの暴言を吐かれて笑って流したのですから、十分に穏やかかと存じます。
それとも、やはり暴言を償っていただけるのでしょうか?」

 とんでもなくギスギスとした言葉の応酬が交わされる。
 二人の背後にそれぞれ大魔王でも幻視しされそうなほど、不穏な雰囲気だ。
 が、両者共に唇は僅かに楽しげな笑みの形を作っていた。

「あらローラ、何を言われたの?」

「肥溜めで溺れ死ぬよりは私と床を共にして死ぬ方が幾分マシですとか、
私が結婚できない理由は致命的に破綻した人格のせいだとか……状況次第では問答無用で挽肉に変えていたほどの暴言を」

 相変わらずの無表情だが、思い出して怒りが湧き上がったのか微妙にこめかみが引き攣っている。
 が、そんな彼女に対し周囲の反応はなんとも冷たいものだった。

「はあ~……凄いですね。知らなかっただろうとは言えローラをそこまで罵倒できるなんて」

「総隊長相手にそんな事を言って生きてるなんて……」

「ある意味今回の戦いを一人で戦って生き抜く以上の偉業では……?」

 シェリスを含めた周囲から、感嘆の声と共に海人へと盛大な拍手が送られた。
 
 同時に、並大抵の胆力では到底不可能な偉業を成し遂げた男に尊敬の眼差しが送られる。
 よほど普段から恐怖を刷り込まれているのか、感極まって涙を流している者もいる。
 一部のメイドなど、思わず握手を求めているほどだ。
 
 と言っても全員冗談半分である。
 たしかに彼女らではとても出来ない芸当なのは間違いないが、ここまで反応するほどの物ではない。
 それを口実にして日頃から頭が上がらないローラへのささやかな意趣返しをしているのである。

 が、当の女性はそれを笑って見ているほど寛大ではない。

「なるほど。皆の気持ちは良く分かりました。
そこまで冷酷な人間だと思われていたとは。これからはきちんとその期待に応えさせていただきましょう」

 淡々とした、だが疑いようも無い激怒を込めた言葉が投げかけられる。
 その声に思わず全員が硬直した。

「や、やあねぇ、ローラ。冗談よ?」

「いえ、そのように思われていたというのは私の不徳のいたすところ。
以後はこれまでがどれほど慈愛に満ち溢れていたのか、理解できるように努めさせていただきます。
さしあたっては訓練の密度を倍にいたしましょう。
今回の戦いを見て、今までの訓練が生温かった事を痛感いたしましたので。
今まではなるべく体を壊さないように余裕を持ってと考えていましたが、
明日からはその甘さは捨てさせていただきます。
私の睡眠時間もまた減る事になるでしょうが、皆のためと思えば甘んじて受け入れましょう」

 ローラは及び腰で宥めようとする主を冷たく切り捨て、淡々と宣告した。
 
 ちなみにこの屋敷の人間の戦闘訓練は、既にそこらの軍隊の訓練が安らぎに感じるほどに達している。
 時間自体は他の仕事がある関係上一日四時間ほどと短いのだが、密度が殺人的なのだ。
 それが倍となると、冗談抜きに屈強なこの屋敷の人間でさえ何人生き残るかという次元である。

「あの~、ローラ?」

「何でしょう? 勿論シェリス様の訓練メニューも組み直させていただきますが」

「あれ以上厳しくされると、流石に死ぬかな~なんて思うんだけど」

「大丈夫です。密度を倍にするといっても、それほど難しい話ではありません。
他の仕事がある以上、あまり下手なメニューの組み換えは出来ませんので」

 ローラの言葉に一同がホッと一息つきかけたところで、

「月一の私との試合を週に一度に変えるだけです」

 シェリスを含めた屋敷の人間全てが一斉に土下座した。
 全員が床を抉るかのような勢いで頭をこすり付けている。
 そして、一斉に唱和した。

『すいませんでしたぁっ!!!』

「……まあ、いいでしょう。代わりと言ってはなんですが、今度カイト様も一緒に訓練なさいませんか?
ある程度時間をいただければ才能皆無であっても二流の隅っこにギリギリ引っかかる程度までは鍛え上げますが」

「その手には乗らんぞ。きっと次に揉め事が起こったときは、実戦訓練とか言って逃げる事も許さず巻き込むつもりだろう?」

「あら、悟られてしまいましたか」

 即座に企みを看破されたローラは若干つまらなそうな顔で呟いた。
 それに対し、海人は不敵な笑みを浮かべている。
 どちらも分かりづらくはあるが、このやりとりを楽しんでいるようだ。 

 が、無礼講とはいえローラの言葉はいささか使用人としての分を超えすぎている。
 そう思ったシェリスが窘めるために口を開いた。 

「ローラ、あんまり……」

「残念です。受けていただければ訓練を適度に緩くする加減を学べるかと思ったのですが」

 窘めるような主の言葉を遮り、ローラはいかにも残念そうに息を吐いた。

「カイトさん、引き受けていただけるとすれば条件は何でしょう」

「その変わり身の早さが不安を煽りまくるわ! 絶対に引き受けんからな!?」

 あっさりと方向転換したシェリスに寒気を覚えつつ、海人は叫んだ。
 そんな傍から見たらコント以外の何物でもないやりとりに、周囲から笑い声がこぼれ始める。
 
 シャロンのエピソードによる畏怖で、それまで使用人の大半が海人に若干近寄り難い物を感じていたが、
イメージよりはるかに人間味のある姿を見て次第に彼の周囲に人が集まり始める。 

 海人は集まった者達に次々と治療に関しての礼や、ドラゴンのブレスから守ってくれた礼などを告げられ続け、終始照れくさそうに頬をかいていた。
 










 宴もたけなわになり、海人はあてがわれた部屋と戻っていた。
 煌々と輝く月の光を浴びながら、テラスに置かれた椅子に腰掛けていた。
 目の前の小さなテーブルに頬杖をつきながら満月を眺めていると、

「やっほ~、カイト。パーティーはどうだった?」

 空からルミナスが降りてきた。
 今日彼女が身に纏っているのは翼の色と同系の黒のドレス。
 それに海人からプレゼントされたペンダントを着けていた。
 黒一色のシンプルな服だが、彼女のプロポーションと唯一のアクセントである炎をモチーフにしたペンダントが印象を引き締めている。

「ああ、楽しめた。料理も美味かったし、何より皆笑顔が溢れていた」

「あれだけの戦いで味方に死人が出なかったんだからね。そりゃあ笑顔にもなるわよ。
で、カイト。自分がやり遂げた事、少しは自覚できた?
念の為言っておくけど、私はシェリスに美味い物食いたいから祝勝会開けって言っただけよ」

「……いや、非常に言いづらいんだが、今回君らを救うことに全力を尽くしたとは言い難いんでな。
活躍したと言われても今一つ実感が無いし、どうにも引け目がある」

「んなこと分かってるわよ。あんな連中のために手札ばらしたくなかったんでしょ?
そんなもん後の事考えりゃ当たり前じゃない。気に病む事なんて無いわ」

「気付いていたのか?」

 海人はルミナスの言葉に軽く目を見張った。
 シェリスやローラならまだしも、ルミナスに手札を温存している事を気づかれているとは思っていなかった。
 思ったより鋭いな、などと感心していたが、返ってきた言葉で彼は思わず脱力した。

「当然。あんたがなりふり構ってなければ、最後に使った爆弾を味方全員に渡してもっと簡単に決着着いたでしょ」

「うーむ……単に考え無しだっただけか。
あの爆弾味方全員に使わせたら、どんなに上手く使っても町が更地になってたぞ?」

「あっ……」

 海人の言葉に、ルミナスは思わず赤面した。
 ドラゴンの頑丈な巨体を内部からとはいえ粉々にするような威力の爆弾である。
 普通に使えば家一軒どころか町の一区画を吹き飛ばしてしまう。
 そんな物騒な物を全員が使っていれば、町の原型など微塵も残っていなかった事は明白である。

「いやいや。恥じる事は無い。確かに辿り着き方は致命的なほどに間違っていたが、
頭を働かせずに答えだけ出すというのはある意味天才だぞ」

「そこまで言う事ないでしょ!?」

「冗談だ。まあ、君の言いたい事やりたかった事は分かる。
本当に、世話ばかりかけてしまうな」

 むきー、と悔しそうに怒鳴るルミナスを微笑ましく思いながら、海人は呟いた。

「……その様子なら、一応成功したみたいね」

「ああ。昨日は流石に自虐的になりすぎていたな。今回助かった命に対してあまりに失礼だった」

 海人はパーティーで次から次へとかけられた感謝の言葉を思い返し、昨日の自分を反省していた。 
 そんなつもりはなかったが、あれでは自虐が過ぎて自分だけではなく彼が助けた人間をも侮辱していた。 

「ん~……それもあるんだけどさ」

「他にも理由があるのか?」

「いや、大した事じゃないんだけど、あの時のあんた今にも消えちゃいそうな感じだったからさ。
ああやってお祭り騒ぎの中に放り込めば、少しは元気になるかと思って」

「……そうか。それに関しても成功しているよ。
ああやって活力に満ち溢れた人間と触れ合うと、たしかに元気を分けてもらえるな」

「それなら良かったわ。ところでワイン一番良いのをがめといたんだけど、一緒に飲まない?」

「ああ、いただこう」

 ひょい、と背後からグラス二つと赤ワインのボトル一本を取り出したルミナスに、海人は頷いた。





 











 ワインと同じくパーティからこっそりと持ち出しておいたつまみを口に運びつつ、
二人は無言でワインを飲んでいた。
 静かに、言葉を交わすこともなく、月を眺めながら二人はワインの味を楽しんでいた。
 
 やがてボトルの中身が半分程になったあたりで、ルミナスがおずおずと話しかけた。

「……ねぇ、カイト」

「なんだ?」

「余計な事かもしれないけどさ、あんたが今生きてて、普通に楽しんじゃいけないって事は無いと思うわよ?」

 ルミナスは、努めて淡々と自分の意見を述べた。
 
 海人が自分やシリル達といて楽しいというのは嘘ではないと思っている。
 
 だが、海人はどんな時も最後には一瞬何かを堪えるような表情を覗かせる。
 それはおそらく彼自身の自戒から来る物だと、彼女はなんとなく悟っていた。

「……そこまで見透かされていたか。
だが、自分の怠惰で妻子を死に追いやった男が、余生を楽しんでいいはずが無いだろう。
私は非常に惰弱だから全ての喜びを否定する事はできんが、せめて楽しむ己を常に自戒するぐらいはしないとな」

 嘆息とともに、海人は月を見上げた。
 思い出すのは妻子ばかりか文字通り全てを失っていた事に気づいた日。
 妻子を亡くすまで一瞬たりとも途切れた事など無かった探究心が根こそぎ消えていた事にようやく気づいた日。
 
 彼はそれを己の怠惰への罰だと思った。
 世界で一番大切な者を失い、二番目に大切だった物も消え、残ったのはどうでもいい物ばかり。
 これは残りの生涯を悔やみ、絶望し、苦しみながら生きろ、という意味だと思った。

 故に、彼はルミナス達と出会った事も罰の一環だと認識している。
 これだけ楽しめる環境を整えられつつも、それを心の底から楽しんではならない。
 快楽主義的な自分にとっては非常に過酷な罰なのだ、と。

「奥さんに恨まれてると思ってる?」

「それはそうだろう。幸せにすると誓いながら、命を奪った男を恨まぬはずが無い」

「ん~……奥さんとの仲ってあんまり良くなかった?」

「おそらくは、良かったはずだ。寝室の物の大半を叩き壊すほどの大喧嘩をした時でさえ、
あいつは不機嫌な顔ながらも食事を作り、仕事中の私に差し入れをしてくれていた。
ただ、その場合私が謝るまで背後からずっと睨み続けていたがな」

 その光景を懐かしみつつ、海人は心の中で戻らぬ時への絶望に悶え苦しむ。
 そんなたわいも無い日常がどれだけ大切だったのか、失うまで分からなかった己への呪詛を唱えながら。

「……なら、きっと違うと思うな」

「なに?」

「そんだけ思ってくれてた奥さんが、予想外の事故で死ぬ羽目になったからってあんたの不幸を願うとは思えないもの。むしろ、あんたが自分の事で苦しみながら生き続ける事は悲しいんじゃないかな」

 ルミナスの言葉に、海人の表情が揺れた。
 その反応を見て彼女は己の考えに確信を持ち、優しく、残酷なまでに優しく言葉を紡ぐ。

「あんたも、本当は分かってるんじゃないの? 奥さんと子供を失った事が辛くて、苦しくて、悲しくて。
なによりそれを防げなかった自分が許せなくて、自分が幸福になる事が許せない……違う?」

 そして、突きつける。
 海人が意図的に目を逸らしているであろう真実を。
 後悔、自戒、絶望、ありとあらゆる自責から逃れようともしない真の理由を。
 それを妻が恨んでいるに違いないから、と思い込んでごまかしている事を。

「だったら……だったらどうしろというんだ!?
妻の事も子の事も忘れて幸せになれとでも言うのか!?
そんな無責任で恥知らずな事が許されるはずが無いだろう!」

 思わず席を立ち、海人はルミナスの胸倉を掴み上げた。
 普段の彼からは想像もつかない感情の爆発。
 強すぎる感情のせいか、掴んだ手が小刻みに震えている。

「……ようやく、素の感情を見せてくれたわね」

 初めて見る海人の激昂に気圧される事なく、ルミナスは優しく微笑んだ。
 そのまま、胸倉を掴んでいる海人の手を両手で柔らかく包み込む。
 己の首を圧迫する手を払いのけるためではなく、目の前の男をそこまで突き動かした激情を癒すために。

「……!?」

「それでいいの。怒りたい時は怒ればいい、楽しいときは楽しめばいい。
あんたは肝心なところで感情を押し込めすぎるのよ」

 そっ、と海人の頬を優しく撫でる。
 その仕草は、疑う余地など無い深い慈愛に満ちていた。

「くっ……!」

 あまりに穏やかなルミナスの態度に、海人は感情の捨て場を失った。
 苦々しげな表情で、乱暴にルミナスの胸倉から手を離す。

「あんたは本当に心が強い。でもきっと、そのせいで耐えられない事にあった経験がなかったのね。
だから、耐えられない時にどうすれば良いのか分からない……泣きたいなら、泣けばいいの。
そんな当然の事も変に堪えるから、余計に辛いのよ」

 先ほどから目尻に光る物が滲んでいる男に、穏やかに語りかける。
 耐える必要など無いのだと。自分から苦しみを増やす意味は無いのだと、優しく諭す。

「……いい大人が人前で泣くわけにもいかんだろ。
それに、涙などとうに枯れ果てている。君の錯覚だ」

 ふん、と息を吐き、海人は荒々しく椅子に座りなおす。
 幾分落ち着いたのか、声は平時の物に戻っていた。
 
「ん~……これならどう?」

 ルミナスは立ったまま海人を背後から抱きしめ、自身の大きな翼ですっぽりと覆った。
 ほのかに甘い彼女の香りが彼の鼻腔をくすぐり、心地よい翼の感触が頬に当たる。
 なにより、久しく忘れかけていた人のぬくもりが、堪え続けていた物を誘い出した。

「……御節介め」

「性分なんで変えられないのよ。悪いわね」

 海人の憎まれ口に、ルミナスは笑いながら応じる。
 そして月を見上げながら、遮音魔法で周囲の音を消し去った。











 しばらくしてルミナスが海人から離れると、どこか拗ねたような顔が現れた。
 が、先程までとは違い幾分表情が晴れやかに見える。

「むう……また君に借りが出来てしまったな」

「何でもかんでも貸し借りで考えないの。友達でしょ。
悩んでたら悩みを聞く、困ってたら相談に乗る、出来る事なら力になる。そんなの当然じゃない」

 なんとも水臭い事を言う男の額を軽く指で弾きつつ、ルミナスは椅子に座った。
 やや他人行儀な海人の態度に、今度は彼女の方が拗ねた顔になっていた。

「ふむ……友達、か。たしかに言われてみればそう言って差し支えない関係だな。
会って数日しか経っていないから今一つ違和感が拭えんが」

 懐かしい言葉に、海人の目が優しげに細まった。
 
 基本的に彼の10代以降の交友関係でいう友人とは、相応の利害関係あっての物。
 信用の程度の差はあれど、誰一人として気の置けない友人という者はいなかった。
 
 素直に誰かを友達と呼べたのは、せいぜいが小学校の低学年の時まで。
 以降は研究への没頭と学力を隠している後ろめたさもあり、人間関係は悪くはなくとも確実に希薄だった。

 自覚は無かったが、間違いなくルミナスは海人にとって久方振りに出来た『友達』であった。   

「あ~……そういえばそうね。会ってまだ一週間ちょっとぐらいか」

 短い付き合いとは思えないほど親しくなっている事を自覚し、ルミナスが不思議そうな顔になる。
 年齢性別問わず友人の多い彼女ではあるが、流石に一週間程でここまで親しくなった人間は同世代の同性でも少ない。
 
 まして慰めるためとはいえ、男を抱きしめた事など実は人生初である。
  
 先程は自然にやっていたが、今にして思えば単に背後から翼で覆うだけで十分だった気がする。
 余計な行動を加えた自分が理解できずに頭を捻ろうとした矢先、

「さて、飲み直す……と言いたいところだが、この有様か」

 海人の言葉で思考を遮られた。
 
 そちらを見ると海人は気まずげに後頭部を掻き、目の前のテーブルを見下ろしていた。
 先程海人が激昂した際、ワインの瓶が倒れて中身がかなり流出し、テーブルクロスに大きな葡萄色のシミが出来ていた。
 幸いグラスは無事だったが、それに入っている量も残り少ない。

「別に良いじゃない。綺麗なテーブルで飲まなきゃいけないってわけじゃなし、
ワインだってゆっくり飲めば一時間ぐらいは持つわよ。ほら、改めて乾杯しましょ」

 風情もへったくれも無いテーブルの惨状も気に留めず、ルミナスはグラスを掲げた。
 海人も苦笑しつつ、それにならう。
 
 そんな二人を包むように、天の月が優しい輝きを放っていた。





テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント
更新お疲れ様です
毎回楽しく拝見させていただいてます。

キャラ1人1人が活き活きとしていて場面を盛り上げてますね。

これからも楽しみにさせていただきます。

ちなみに思ったのですが、ショットガンを使えば怪我も少なく大人数を殲滅できるのでは。
と、勝手に想像してました(笑)
[2009/11/07 05:00] URL | クマ #Xergcpac [ 編集 ]

更新おつです
 相変わらずいい仕事してます。
 何だか今回の話でキャラクターが、ぐっと掘り下げられたような感じがしました。

 シリルにも属性バレしたし、また創造魔法で色々できますね。
[2009/11/07 10:57] URL | エーテルはりねずみ #mQop/nM. [ 編集 ]

12話
更新お疲れ様でした

みな笑顔でいられるのが良かったです。

シリルが素敵だった(笑
[2009/11/07 17:37] URL | 通りすがり #3/VKSDZ2 [ 編集 ]

海人の過去にビックリ!
タイトルどおり、暗くなるのにも納得。

ですが、何より、そうして暗くなる海人を実力行使という腕力で墜とすルミナスの男っぷりに一番びっくりしました。

この作品に出てくる女性衆はみな、魅力的ですね。ローラ嬢は別の意味で、ですが・・・

海人の意外な一面を「自分だけ」で見れたルミナスはどういった心境なのだろうか・・・
と妄想しつつ、次回、新章を楽しみに待ってます。
[2009/11/15 22:57] URL | Gfess #knJMDaPI [ 編集 ]

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[2010/01/09 13:41] | # [ 編集 ]


感動した…。

久方ぶりにこんなに質のいい文章をネットでみました。これからも応援させていただくので、どうか頑張ってください
[2013/04/08 22:26] URL | にんにく #- [ 編集 ]

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[2013/11/08 13:12] | # [ 編集 ]


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