ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
旧白衣の英雄 三話

寒々しく空が曇り、朝だというのに部屋に日差しも差し込んでいなかった。
普段なら外から微妙にうるさい鳥の声が聞こえてくるのだが、今日は聞こえてこない。
なんとも寂しい風景ではあるが、ある意味静寂に守られた安らかな朝ともいえる。

が……


「おっはよ~っ!!」


そんな静寂などお構い無しとばかりにバタンと大きな音を立ててルミナスは海人の部屋に乱入した。
時刻はまだ早朝だったが、今日は早く出るつもりだった彼女は気持ち良さそうに寝ていた海人を激しく揺り起こす。


「んむ…もう朝か…おはよう」


ムクリと起き上がって欠伸をこらえながら返事を返す。
まだ眠気が覚めきってはいないのか目をゴシゴシと擦っている。

彼は寝巻きが無かったため、シャツを着たまま眠っていたのだが見苦しい皺ができていない。
アイロンをかけたばかりの如くパリッと、とまではいかないものの着たまま寝たとはとても思えない。

このシャツも彼の発明品で、以前徹夜明けに人前に出なければならなくなった時に思いついて開発した物だ。
よほどグッチャグチャに折り畳みでもしない限りは皺が残らないトンデモ発明品である。


「ほらほら早く起きなさいって。今日は魔力判別所行くんでしょ?」

「ああ、そうだが…少し待ってくれ」


海人は布団を引っぺがそうとするルミナスに対して静かに抵抗する。
上半身だけはしっかり起き上がっていることからすると、二度寝したいというわけではなさそうだが、
その抵抗は静かでありながらも非常に強固だった。

まるで今起きたら命に関わるとでも言わんばかりに。




「なんでよ?」

「…そこの椅子にかけてある物を見てもらえれば分かると思うんだが?」

「椅子? あっ!? あははっ、し、失礼しました~、は、早く着替えてね…?」


指で示された方向に目をやり、頬を軽く染めながら慌てる。
そしてごまかすように笑い、赤い顔のまま静かに部屋を出て行った。

それを見届けて海人はベッドから出て、椅子にかけてあったスラックスを履く。

そのまま白衣を羽織って部屋の外に出ると、ルミナスが頬をまだ紅潮させたまま待っていた。
傭兵という職業のイメージとは裏腹に意外に彼女は純情なようだ。


「わ、悪かったわね。でも今日はちょっと急ぎたいから、すぐに行くわよ。
朝食はこれ。ハムとチーズのサンドイッチ作ったから、行く途中で食べてちょうだい。
あと、水はここで飲んでって」

「わかった」

ルミナスからサンドイッチと水の入ったグラスを受け取り、リビングに向かいながら水を咽ない程度に急いで飲む。
外に出る前に台所の流しにグラスを置き、先に外に出て待っているルミナスの元に急ぐ。


「待たせたな。時間は大丈夫か?」

「そこまで神経質にならなくても大丈夫よ。そんじゃ、行くわよ」


ルミナスは海人の脇を抱えながら地面を蹴り、その黒い翼で空へ舞い上がった。

正面から時折吹いてくる心地よい風に目を細めながら空を滑るように飛んでいく。
稀に旋回したり高度を変えたりと、海人を抱えながらでも存分に空の散歩を楽しんでいるようだ。

抱えられている海人としては自分の命綱が脇を抱えている2本の腕のみという状況で急な動きの変化があると落ち着かないのだが、
まさか背中に乗るわけにもいかず、さりとて楽しそうなルミナスの邪魔をするのも気が引けた。
仕方なく目を閉じて下を見ないようにすることで、空にいるという恐怖感を薄れさせていたが、
急な動きの変化による一瞬の浮遊感などの恐怖はその分増大した。


―――当然ルミナスがせっかく作ってくれたサンドイッチを食べる余裕などない。


「あれ? カイト、食べないの?」


手を付けられていないサンドイッチに気付いたルミナスが不思議そうに問いかける。
彼女に悪気は一切ない。
むしろ食欲がないのかと彼を心配する善意に満ち溢れている。


「…いや、慣れていないので空の上というのは落ち着かなくてな」


心配しているルミナスに彼女の行動のせいで食べる余裕がないなどとはさすがに言えなかった。
それに仮にも恩人が楽しんでいるのにそれを邪魔するというのは彼の主義に反する。
弱音を吐きたいのをこらえ、この時間が早く終わる事を祈りながらただひたすらに耐え続けた。


結局その後一時間以上にわたって彼は悲鳴をこらえるために全精力を注ぎ込んだ。











魔力判別所フォレスティア西支局。

魔力判別所は魔力分析協会という組織が運営しているもので、大概の国には最低一都市に一箇所は存在する。
かなり儲かっている組織なので、大部分の建物はそこそこ綺麗な外観を保っているが、この場所はかなりぼろっちい。
三階建ての木造建築だが、白く塗られた外壁の木材は一部剥がれ落ち、建物全体が今日の強風に煽られてギシギシと悲鳴を上げている。
しかも入り口へと続く階段の途中には踏み抜かれてしまった跡があり、大きな穴が開いている箇所がいくつかある。
嫌がらせで左遷するのであればこれ以上最適な場所はないのではないかと思えるほどにボロい外観だった。


「はい、魔力判別所にとうちゃ~~く♪」

「よ…ようやく着いたか…」


楽しそうに目の前の肝試しに使えそうな建物を紹介するルミナスとは対照的に、海人は消耗しきっていた。
肉体的にはそれほど疲れていないが、生身でパラシュート無しで一時間以上空を飛ぶというのは精神的にきつい。
もしも抱えている彼女の手が滑って、落っこちでもしたらと思うと生きた心地がしなかった。


「はいはい、さっさと行くわよ」

「いや、そんな引きずらんでも立てるんだがっ!?」


自分の回復も待たず、白衣の襟首を捕まえて引きずっていくルミナスに抗議の声を上げる。
長く頑丈すぎる白衣のおかげで一本しかないスラックスがボロボロになることは避けられたが、痛いことには代わりが無い。


「立てるまで待つの面倒だもん」


抗議の声を気にするでもなく、そのまま入り口へと入っていく。

判別所の内部は外観とは裏腹に、比較的綺麗な状態だ。
古びてはいるし良い材料を使っている様子も無いが、目立つ所は丁寧に補修されており、
ソファーや机の配置などで巧みに醜い部分を隠してある。
外観を修理しないのは何か深い理由があるのではないかと思わせるほどの手の込みようである。

しかも……


「魔力判別所へようこそ」


入るとすぐに礼儀正しい若い女性が丁寧に出迎えた。

女性はお辞儀一つ、些細な仕草一つとっても相当な気品を感じさせ、この建物の古びたちゃちな内装とはとてもそぐわない。
よく手入れされた日当たりの良い庭で侍女をはべらせながら紅茶でも飲んでいる方が自然だと思わせる雰囲気を纏っている。

言い方は悪いが、掃き溜めに鶴を絵に書いたような状態だ。


「って…あら、ルミナスさんでしたか」

「なによ~、なんか文句あるの?」

「いえ、ないですけど。たまには違う顔も見たいって思うだけですよ。
それでその引きずってる人は?」

「うちの居候になった、カイトよ」

「初めまして、シェリス・テオドシア・フォルンと申します」


そう言ってシェリスはにこやかに微笑んだ。

彼女の容姿は軽いウェーブのかかった長く輝くような金髪に加え、全体的に細身ながら体型も芸術的にバランスが取れていて非常に美しい。
さらに愛らしいとさえいえる、ややおっとりとした顔立ちが見る者を和ませる。
服装も少々シンプルながらも気品があり、良い生地を使っていると容易に想像できる。

まさに男にとって理想的な深窓の令嬢というべき女性である。


「初めまして、天地 海人と申します」


が、この男は大して気にも留めず、どもることもなく普通に挨拶を返した。
横でルミナスが少し呆れている。


「あら、ルミナスさんが名字で人を呼ぶなんて珍しいですね?」

「ああ、こいつカイトが名前なんだってさ。
言い忘れてたけど、この国じゃその名乗り方やめといた方がいいわよ」

「ん? なぜだ?」

「家名を先に名乗って、後に自分の名前ってのは自分に自信がないってみなされるのよ。
自分の名より家の名の方が価値が高いと思ってるから先に家名を名乗るんだ、ってね。
私は他の国の習俗も多少知ってるから、そうとは限らないと思ってるけど…」


ま、この国の大半の連中には嘗められるからやめといた方が賢明よ、と付け加えて言葉を切る。

彼女が見る限り海人はとても自信がなさそうな男には見えない。
自信に満ち溢れ、という感じでもないが少なくとも他者に無意味に侮られるような事をよしとするタイプではない。

この場で説明しておかなければ後でどんなトラブルになるか分かったものではなかった。


「なるほど。そう思われるのは不愉快だな。
では改めまして…海人 天地と申します。 以後よろしく、シェリス嬢」


ルミナスの言葉に納得し、シェリスに名乗り直す。
一度実際に名乗ってみれば次から間違えることは無い、との判断からである。


「あ、はいこちらこそよろしくお願いします」

「今日はこいつの属性調査と魔力量測定、それに私の魔力量測定頼むわ」


ルミナスは財布から10000ルン紙幣を取り出し、シェリスに手渡す。
お釣りとして1000ルン紙幣6枚と420ルンが小銭で返ってきた。

ちゃんとお札はピン札だし、小銭も汚れが見当たらない物であった。


「……相変わらずしっかりしてるわね。こんなとこに来る客がいちいち気にするわけないでしょうに」

「お客様が気になさるかどうかではなく、こちら側の心構えの問題なんですよ。
こうやって細かいところで気をつけていれば、自然手落ちも少なくなりますから」

「そんなもんかしらねえ…」

「ええ、そんなもんです。では、測定室へご案内いたします」


シェリスはルミナスの疑わしげな声に答えつつ、二人の前に立ち、二階の個室へと案内していった。










「それではカイトさん、そこに立って魔力を出してください」


彼は軽く頷くと指示された場所に立ち、魔力を出した。
昨夜覚えたばかりにもかかわらず、ほとんど淀みない動作だ。


「はい、それでは始めますね……なに、この色? しかも色の変化がない…?」


映写機のような機械越しに海人の魔力の色を見て軽く首をかしげる。

シェリスが使っている機材は特殊な物で、魔力の属性を色として見ることができるものだ。
だが彼女は今まで様々な人間の魔力を見てきたが、色が純白というのは見たことがなかった。

さらに、通常は魔力の属性を示す色は六色の色が現れ、その分量の多寡は僅かずつではあるが常に変化している。
得意属性というのはその中で最も強く現れている色の属性のことなのだ。
例外として六色の内何色か欠ける事が稀にあるが、それも最大三色までで色の変化がまったくないということはまずない。


「すみません、測り直してみますね…あら、変わらない?」


彼女は機械の間違いを疑いカチャカチャといじってからやり直すが変化はなかった。
不可思議な現象に首を傾げ、機材を調べるが特に異常は見当たらない。

一番の要である各属性の魔力を見ることの出来る6枚のレンズにはなんら異常はなく、各レンズの間の隙間にも汚れ一つない。
レンズに罅が入っていると見える色がおかしくなったりする事があるのだが、この様子ではその可能性は低そうだ。


「ん~……ルミナスさんの属性を調べさせていただけますか? 故障の可能性があるので……」

「いいわよ」


ルミナスの了承を得て彼女の魔力の色を見ると、様々な色が混ざり合い、混沌とした魔力の色が見えた。
一番多く出ているのは緑系の色―――風の属性色で、以前測ったルミナスの得意属性と一致する。
その他の色も通常の属性色である。

つまり、普通に考えれば故障ではない。


「正常ではあるみたいですね……。
う~ん…申し訳ありませんがちょっと失礼します、私の上司を呼んできますので…」


そう断るとシェリスは急いで部屋を出て行った。















「オーガスト局長、よろしいですか?」


コンコン、とノックをして部屋の中にいる上司――オーガスト・フランベルに尋ねる。
その声は事務的で平坦な口調だったが、どこか気が重そうな響きがあった。


「おう、かまわんぞい」


すぐに野太い声で入室が許可される。

―――なぜか同時に聞き覚えの無い若い女性の声も小さく聞こえたが。


「失礼します…またですか?」


シェリスは部屋に入るなり予想通りの光景に深いため息をつく。

部屋に入ってまず彼女の視界に入ったのは若い女性である。

一番目を引くのはその大きな胸。
特大のオレンジ以上はありそうなほどに大きい。

顔は美人ではないものの標準程度の顔立ちで、胸の辺りや太股の部分などが過度に露出した服を着ている。
その扇情的にすぎる服装からすれば風俗嬢だろう。


次に視界に入ったのは、その女性をゆったりとした椅子に座りながら自分の膝の上に乗せている老人。
やや小柄ではあるが、服の上からでもその鍛え抜かれた肉体が分かるほど筋骨隆々としている。

肉体だけを見れば歴戦の老戦士なのだが、好色そうにニヤニヤ笑った顔とその年の割には皺の少ない手が
女性の太股と胸に伸ばされていることで、ただのエロジジイにしか見えない。


「勤務時間中に、というのは言い飽きましたが…まあとりあえずいいです。
それよりも少々問題が起きましたので、同行を願います」

「え~? あと一時間くらい待ってくれんかのう?」


そう言いながら、老人はその手を女性の衣服の中に進入させようとする。
しかし進入する寸前に鋭く怜悧な声がその手を止めた。


「御客様をお待たせしていますので、今すぐにお願いします」


言葉こそ敬語だが目に見えるほど大量の魔力が込められた両腕と、いつの間にかその手に握られていた数本の投げナイフは、
断られたら即実力行使に移るつもりである事を雄弁に語っていた。


「…仕方ないのう…すまんがワシの自宅で待っててもらえんか?」


そう言って膝の上の女性を下ろし、自宅の鍵を渡す。
名残惜しそうに女性の柔らかそうなお尻を撫でながら。


「はい、かしこまりました」


撫で回している老人の手を気にする事も無く慣れた手つきで鍵を受け取ると女性は柔らかく微笑み、
厚い生地のロングコートを羽織って服の前をしめるとシェリスに軽く会釈をして部屋を出て行った。


「では、ついてらしてください」


事務的な口調でそう言うと、シェリスはさっさと歩き出した。







「お待たせいたしました」

「失礼するぞい。 ……で、シェリス嬢ちゃん。何があったのじゃ?」


海人にペコリと頭を下げるシェリスの後ろから、オーガストが顔を出した。


「げっ…オーガストのくそじじい…そういやそうか、シェリスの上司ってこいつしかいないのよね…気の毒」


その瞬間ルミナスは嫌そうに顔を顰め、シェリスに哀れみの眼差しを向ける。


「…い、いきなりご挨拶じゃのう、ルミナス嬢ちゃん。
年上への敬意を忘れるようでは、なんぼ美人でもよい男は寄り付かんぞ?」

「初対面でいきなり尻撫でようとしたエロジジイに言われたかないわよ」

「老い先短い年寄りの戯れを笑って流せぬとは…これだから最近の若い者は…」

「オーガスト局長、そんな寝言や腐りきった妄言はとっとと仕事を終わらせて、速やかに地獄に行ってからにして下さい。
本題ですが、この方の魔力の色が変です…測り直しもしましたが、まったく変化がありません。
そしてルミナスさんの方は正常に結果が出ました」


さらっと笑顔で苛烈なことを言うシェリス。
しかも反論する隙すら与えず本題を述べている。


「…あ、相変わらず容赦ないのう…ま、まあよい。
自己紹介が遅れたのう、ワシはここの責任者をやっておるオーガスト・フランベルじゃ」

「海人 天地と申します」

「おお、最近の若者にしては礼儀正しいのう。
さて、見せてみなさい…色は純白、魔力の属性色としては見たことがないのう…しかも色の変化がない…うーむ……」


オーガストは判別機越しに海人の魔力を見て首を傾げる。
彼はこの仕事について二十年ほどになるが、その彼でも見たことの無い状態だった。

が、オーガストの頭の中で何かが引っかかっていた。


「でしょう? 属性色で白なんて聞いた事もありませんし……」


シェリスは難しい顔で腕を組んで考え込む。
一番疑わしいのはレンズに肉眼で確認できないレベルの罅が入っている可能性だったのだが、
ルミナスは何の異常も無かった事からするとそれも考えにくい。

属性色の混ざり方で稀に変な色に見える時があるが、どう色が混ざっても白に見える事はないし、そもそも色の変化がない説明がつかない。
プロの名に恥じない程度の知識は持ち合わせている、と自負している彼女にはいたく自尊心を傷つけられる話だった。

それは目の前の上司も同じ事だろうと考えていると……


「いや、待ちなさい…たしか何かの文献で似たような事例を……ん? まさか…!?
シェリス嬢ちゃん! 地下書庫にある《泥血の時代》の資料を全部持ってきとくれい!!


オーガストが唐突に何かに気付き、彼女に鍵の束を投げ渡して指示をした。


「は、はいっ!」

「…私は病気か何かなのか?」


猛烈な勢いで部屋を飛び出して行ったシェリスをしばらく呆然と眺め、海人は誰にとも無く呟く。

《泥血》などという不吉な香りがぷんぷんとする言葉は、この世界の歴史を何も知らない海人の不安を煽るには十分すぎた。


「いや、そうではないのじゃが……」


オーガストが明らかに勘違いしている海人の考えを訂正しようとした矢先―――


「も、持ってきました!」


息を切らせながらシェリスが巨大な本と大きな分厚い封筒をいくつか抱えて戻ってきた。

本は閉じた状態でも枕ほどのサイズの本で、皮製の背表紙が薄汚れて擦り切れている。
それだけでなく変色した紙の色や毛羽立ちから判断しても相当に古い本だと推測できる。

封筒の大きさも全て本と同じぐらいのサイズであり、封筒に入れるより紐で縛っておいた方が良いんじゃないかというほどに分厚かった。
本と同じく古びているがこちらの方がより古そうで、封筒のあちらこちらに破れがありいつ中身がこぼれてもおかしくない有様である。


「ありがとう! 《城塞王》に関する記述は…っと、あったあった。
ふむふむ……やはりそうじゃったか…!!」


手早く封筒を机の端に置き、本を真ん中に置いてページをめくり目当ての記述を見つけ出すと、興奮して目を輝かせた。
そしてゆっくりと本を閉じると、真剣な目つきで海人に視線を向ける。


「なんなんだ?」

「…お若いの、お主の魔力属性は《創造》じゃ」


胡散臭そうに自分を見る海人に対し、オーガストは重々しく告げた。


「「んな…っ!?」」


シェリスとルミナスが驚きに目を見開いて海人を振り返る。


「何かの間違いじゃないのか?
たしか数百年に一度ぐらいでしか現れないのだろう?」


あからさまに疑いを隠さぬ目つきでオーガストに問いかける。


「計りなおしてもまったく同じ結果が出とるからな。
お主は数百年に一度の稀少極まりない人間だと言うことじゃろう。
しかし普通は子供の時の属性調査で判明しとるはずなんじゃが…」


オーガストも訝しげに海人を見る。

彼の知る限りでは、今まで後天的に魔力の属性が特殊属性に変化したという記録は存在しない。
だが《創造》属性の魔力を持つ者が現れたという話も聞いたことがなかったのだ。

そしてこの世界では一般的にどこの国でも子供の内に1回は魔力測定を受ける。
協会の方針で8歳までの子供は魔力測定も属性調査も無料という事になっているので、例え孤児であっても大概の場合は受けている。

受けていないとすれば本当に人里どころか人界から離れた僻地に住んでいたか、
戦災孤児で生き抜く事に専念するうちに、今の年齢になってしまったかぐらいである。
どちらも海人の雰囲気や立ち居振る舞いからしてありそうにない。


「自慢ではないが、今まで私は魔法とは無縁な所にいたのでな。 魔力測定など今回が初めてだ」

「……どんなド田舎に住んどったんじゃ?」

「まあ気にしないでくれ。で、属性が判明したんだから次は魔力量の測定か?」

「いや、そうじゃがお主…伝説の属性じゃぞ?
なんというか普通もっと興奮せんか?」


あまりにあっさりとした海人に戸惑ったような目を向ける。
仮に自分が若い頃に同じ事を言われていたら、自慢げに語りながら酒場と娼館を何軒もはしごするほどに興奮しただろう、と思いつつ。


「そう言われてもな。具体的に何が出来るのかもわからんし…」

「《創造》属性の魔法は一度見た物を作り出す魔法と言われておる。
《城塞王》などは自分の城塞をいくつもコピーし、一日で10の城塞を築いたそうじゃ。
他にも限りなく武具を作り出し、自軍に無限の武具の補給を行ったとも言われておるな」

「…要は一度見さえすれば魔力の続く限りいくらでも物を作り出せるということか!?」


海人は思わず興奮して目を輝かせる。

オーガストの言を信じるならば創造魔法を使えば、彼が今まで見た事のある物が全て作成できるということになる。
彼の研究室においてあった道具全て、屋敷にあったもの全て、さらには少し高かったので買わなかった実験器具までも。
それどころか見たことはあるが、建設に国家レベルの予算が必要な大規模な施設も土地さえあれば作れるかもしれないのだ。

金を稼ぐことも一気に楽になるはずだ。
道具を作らずとも食料を作れば食費は要らず、しかもそれを売るだけでも間違いなく利益になる。
今まで培った知識がほとんど役に立たないと思っていたところにこの話は、まさに天恵であった。


「そうじゃ!」

「素晴らし…いや、待て。そんな数百年に一度などというドマイナーな魔法の術式が現存してるのか?」


ここでふと少し冷静になる。

数百年間で一人だけ存在したらしい人間が使っていた魔法の術式など残っているのか、と。
滅多に現れない存在のために、そんな普通はまるで役に立たない知識が保存されるものだろうか、と。
が、とりあえず彼の心配は杞憂であった。


「うむ。ほれ、この紙の束に魔法の概要を含めて記載されとる。
記されている術式は全部で三つじゃ。しばらく貸してやるから覚えればよい」


そう言ってシェリスが本と一緒に持ってきた全ての分厚い封筒から大量の紙の束を取り出して渡す。
一つ一つの束の厚さ自体は相当なものだが、よく見ると十数枚折り畳んだ紙が混ざっているため、
記されている内容自体は見た目ほど大量ではなさそうに見える。


「オーガスト局長! それは持ち出し厳禁ですよ!?」

「ワシの権限で特別に許可する。それに…」


慌てるシェリスを自身の権限を使い押しとどめ――


(どう転んでも彼は最終的には世界に多大な影響を与えるじゃろう。ならば恩を売っておくのは悪くないはずじゃ)


こっそりと耳打ちした。
意外にしたたかな老人らしい。


(いや、そうかもしれませんけど…!)


なにやらこそこそと激しく話し合っている二人を横目に、海人は渡された紙を開こうとしている。


「…気持ちはありがたいが、術式三つしか載っていないなら…?」


一つ目の術式が記された紙を開き、眼を見張る。

そう、たしかに渡された物には三つしか術式が記載されていない。
しかも各魔法の効果の違いは最大でどの程度の大きさの物を作り出せるかのみ。

そのうえ術式が記された紙とは別の紙に書いてある創造魔法についての説明によれば、
一番簡単な術式でも大きな本棚サイズの体積の物が作り出せるし、一番複雑な術式だと大規模な城が作り出せてしまう。

これならそもそも全ての術式を覚える必要はないともいえる。


ただし…


「たしかにそうじゃが、その術式は非常に複雑じゃろう。
いくらなんでもこの場で覚えるのは不可能だと思うのじゃが?」


オーガストの言うとおり、ここに描かれている創造魔法の術式は非常に複雑である。
簡単な術式でも大きめの枕ほどのサイズの紙にぎっしりと図形、文字、数字などが所狭しと描かれている。

複雑な物だと書かれている紙が何十枚かに分割されており、全て繋げるとキングサイズのベッド三つ分程の大きさになる。、
しかも同じように術式がびっしりと描かれているという、覚えることが可能なのかどうか本気で怪しいシロモノである。


「こんなもん覚えられるわけないじゃない!!?」


全ての紙を横から覗き込んでいたルミナスが思わず叫ぶ。 

この術式は彼女が今まで見た中で一番複雑…というか一番ぶっ飛んでいた―――特に最も複雑な術式は。
友人の魔法使いに見せてもらった事のある最高位の魔道書でも、ここまでとんでもないものは載っていなかった。
最上位魔法何個分だか考える気にもならない巨大かつ複雑精緻な術式。 
見ているだけで頭痛や吐き気すら誘発するその術式からルミナスは嫌そうに顔を背けてしまう。

そんな彼女を尻目に彼はひたすらに紙に目を通していた。


「世界を構成する全元素に命ず…」


何度か全ての紙に目を通し終わると、ゆっくりと目を閉じて魔法の詠唱を始める。
それと共に彼の体を純白の光が覆う。
そして彼は前にルミナスに説明されたとおり、術式の図を頭の中に作成し、その中に魔力を流し込んでいくイメージを作る。
イメージが鮮明になるにつれ、彼の体を覆う白い魔力の輝きが強くなっていき…


「…我が意に応え我が望みを顕現せよ!《クリエイション》!!」


詠唱を終えた瞬間、彼の纏っていた魔力の光は消え、空中から白衣が突如出現した。
彼はそれを床に落ちる前に掴むと今着ている白衣を脱ぎ、慣れた動きで魔法で作成した白衣を羽織った。


「ふむ…とりあえずは成功か…? 肌触りにも違いはなさそうだが」


呆然としている周囲に構うことなく、着ていた物と違いが無いかを確認する。
丈、色、着心地その他諸々先程まで着ていた物と区別が付かないことに、満足そうに頷く。

なにやら勝手に納得している海人に、ルミナスが分かりきってはいるが聞かずにいられない質問をぶつける。


「ちょ、あんた今何やったのよ!?」

「創造魔法で白衣を作ってみた」

「もう覚えたの!? っていうかあんなもんホントに覚えたの!?」

「一番簡単な物だけだがな。
他の物はさすがにじっくり覚えていかんと無理だ」

「あ、あんた、つくづくとんでもない男ね…」

「ふむ、お若いの…その紙の束を貸す代わりといっては何じゃが…ワシのためにボンキュッボンな美女を…」

「何ぬかしてんですかこのエロジジイ!?」


海人の魔法の効果を見て試しに年甲斐も無く欲望全開な頼みをしようとする老人に対し、かなり言葉が荒くなっている見た目深窓の令嬢。
馬鹿な発言をする上司を睨み殺しそうな視線で貫いていると…


「エロの何が悪いか! エロなくば子孫繁栄は前提から破綻し、性別の存在意義すらなくなるのじゃぞ!?
性欲は生物である以上当然の欲求であり、生きている以上はエロくて不思議はないのじゃ!!!
さらに言えば滾る性欲あればこそ男も女も己を磨き続ける!
つまり理性的活動と言う意味においてもエロは世界に不可欠! 否、むしろ積極的に全生命体がエロくなるべきなのじゃ!!!」


硬く拳を握り、ドドーンと効果音がつきそうなほどの勢いで熱く語った。
迫力はまるで独裁者の演説のようだが、言ってる内容はダメダメである。


「えーっと…とりあえず死にます?」


シェリスは実用性を重視したシンプルなデザインの投げナイフを取り出して構えた。


―――狙うはいまだに熱弁を振るい続ける老人の心臓と喉。


有無を言わせず永久に黙らせるつもりのようだ。


そしてナイフが投擲されようとした瞬間―――


「まあ待ちたまえ。 御老人、なぜボンキュッボンな美女なのだ?
単に美女で十分だと思うのだが?」


思いもよらぬ相手からの予想外の発言でズベシャッ、と派手にこけた。
彼女の横ではルミナスも同じようにずっこけている。

2人が鼻の頭を押さえながら立ち上がると…


「若いの、女性の魅力というのは乳にありじゃ。全ての男は最終的に母性の象徴たる乳房に惹かれる。
つまり乳が大きいほど男にとって魅力的な女性だということじゃ。薄い胸など魅力無き女性の象徴と言ってもよい。
いちいち説明せねば分からんとは…まだまだ修行が足りんな」


海人を見下すように嘲笑し戯けた事をほざく老人の姿が視界に入った。

その直後シェリスが微妙に震え始めこめかみに井桁を浮かべ、その細い手で近くにある机の脚を握った。
どうやら自身のやや平坦な胸をかなり気にしているらしい。

投げナイフによる刺殺ではなく、より苦しい撲殺で始末するつもりのようだ。


「ふっ……それはこちらのセリフだ!!」

「なにっ!?」

「確かに全ての男は最終的に女性の乳房に惹かれるかもしれん。
だが大きければ大きいほど魅力的などというのは、性に目覚めたての若造でしかない!
女性らしい肉体の柔らかささえあれば、胸の大小など大きな問題ではない。
小さい胸には小さい胸の、大きい胸には大きい胸の美点があるのみ。
真に求めるべきは総合的なボディラインの美しさ! 胸の大小などその後に来る個人の好みにすぎん!!」


海人の言葉を聞き、シェリスは机を持ち上げようとしていた手をゆっくりと離す。
ややたじろいでいるオーガストをギロリと睨みつけながら気を落ち着けるようにゆっくりと深呼吸を始める。


「な…何を言うか若造が! ならば貴様は平坦な胸でも微かな柔らかさがあれば欲情できると抜かすか!?
欲情できぬ肉体の持ち主が魅力的なはずがなかろうがっ!!」


オーガストの背後で今度こそシェリスが無感情な瞳で金属製の机を振りかぶる。
その両腕にはこれでもかと言わんばかりに凄まじい魔力が集結している。
さすがにまずい、とルミナスが止めようとするがシェリスの腕は微動だにしない。


「笑止! ならばシェリス嬢を見てみるがいい!!
たしかに胸こそ大きくはないが顔立ちの美しさも、体形の総合バランスにおいても素晴らしく均整が取れている!
御老人、あなたには彼女が魅力的に見えぬとでも言うのか!?」


海人の熱弁の直後、オーガストが振り返る前に、シェリスは振りかぶっていた机を元に戻していた。
こころなしかその頬がほのかに赤い。


「ぬうっ……!? そうか、そうじゃな…お主の言う通りじゃ。
ふっ、この年になって若い者に諭されるとはな…」


海人の言になにやら感銘を受け、己を未熟を悟らされたかのようにガクリと膝をつく。
やはり老兵は死なずただ去るのみか…などとニヒルな笑みで呟いている。


「人生死ぬまで勉強だ。今回はたまたま私があなたを諭しただけだ。
今度は私があなたに諭されるかもしれん」


海人が項垂れるオーガストに優しげな顔で手を差し伸べた。
窓から差し込む光の効果もあり、その光景は前の会話さえなければ結構良いシーンにも見える。


「そうじゃな…よし! これに懲りずこれからもエロの道を極め…」

「「極めんでいいっ!!!!」」


二人の美女の咆哮と共に強烈極まりないハイキックが入れられ、
グチャッ、と妙に湿っぽい音を立ててオーガストが崩れ落ちた。
そしてシェリスが老人の襟首を掴みズルズル引きずって部屋の外に出て行った。


「あんたも真面目に何言ってんのよ!」

「まあ、どうせ要求されたことは実現できんしな。合わせた方が面白いかと思ったんだ」


言った事は何一つ偽り無い本音だが、と心の中で付け加えながら肩を竦める。
流石に口に出すほど愚かではないようだ。


「へっ? 実現できない?」

「ああ。ほれ、この一番簡単な術式の紙の裏いくつか注意書きがあるだろう。
その中の一つに《創造魔法は非生命体ならばほぼ例外なく作成できるが、生命体は植物以外作成できない》と書いてある、ここだ」


そう言って紙の一箇所を指差してルミナスに見せる。
内心上手く誤魔化せた、とほくそえみつつ。


「あ、ほんとだ」

「大体、仮に出来たとしても魔法を使うなぞ私の美学に反する。
自分で身も心も美しい女性を探し出し、口説き落として生涯を添い遂げてこそ真に価値があるだろう」

「…あんた、結構真面目なのね」

「たわけ。真面目もくそも、それをやらん、やれんというのは自分に自信がないと公言するようなものだろうが。
多少なりともプライドがあれば当然のことだ。 
まあ、例外としてはどう頑張っても口説くに値する女性との出会いがない場合があるが…」

「待った。ひょっとしてあたしが口説かれてないってのはあんたの眼鏡にかなってないってこと?」


若干頬を引きつらせながら、にじり寄って彼を問い詰める。
別に海人に気があるわけではないが、彼女としては歯牙にもかけられてないというのはプライドに触る。


「いや、間違いなく君は魅力的だと思うぞ。
ただ、少し事情があってな…当分誰かを本気で口説く気にはなれんだけだ」

「…そ、ならいいけどさ」


一瞬海人の顔に差した深い影にルミナスは罪悪感に駆られる。

だがここで謝ってしまうと、彼が言葉を濁した内容を掘り返すことになりかねない。
彼女にはやや素っ気無く彼から離れるぐらいしかできることがなかった。


「ふう、お待たせしました。
あ、そういえば魔力の測定まだでしたね。ちゃっちゃとやっちゃいましょうか。
ルミナスさんは魔力が多いから、大型測定器っと…」


少し重くなった空気を吹き飛ばすかのようにシェリスが戻ってきた。
そして彼女は机の上に置いてある20個ほどのカメラのような機材の内四番目に大きな機材を手に取ってなにやらいじくり始めた。


「それではルミナスさんから…魔力値おおよそ163万強、多分163万3000ぐらいです。
一ヶ月前よりも2万近く増えましたね。 流石としか言いようがありません」


レンズの中に写る目盛りを見てルミナスの魔力量を測定し、結果を述べる。
彼女が使っている測定器は魔力値100万から250万までの測定を行う物で、一万ごとに一目盛りとなっている。
目盛りで判断するため細かい数字は出ないが、これぐらいの魔力量になると千以下の端数はほとんど意味がないため特に問題はない。


「魔力が増えてるのは嬉しいんだけど…術式がね…」

「一応中級までは一通り覚えてるじゃないですか。
後はライフメタルの武具でもあれば万全だと思いますけど」


ライフメタルとは魔力を通すことにより強度を飛躍的に増していく金属の総称である。

通常、魔力による強化が出来るのは生命体のみで、非生命体はできない。

ライフメタルだけは例外で、金属にもかかわらず生命体のように魔力により強化されるためにその名が付けられた。
しかもこの金属は他の金属よりもしなやかで強靭、かつ熱に強い。

さらに通す魔力の量に比例して強度を増していくために、
魔力量次第では、剣ならば刃こぼれすらしない剣となり、鎧ならばまさに不破の鎧と化す。

そのため戦いに関わる者であればライフメタル製の武具は誰もが欲しがるのだが…


「国宝級の武具をどうやって手に入れろってのよ!
大体お金に換算したらいくらすると思ってんの!? 今使ってる武器の数万倍の値段よ!?
そんな金あったらとうの昔に引退して悠々自適に暮らしてるわよ!」


あまりに稀少な金属であるため、大きな国家に数点ある程度なのである。
無論、それらの武具は全て国宝級であり、国の重大な監視下に置かれているか、
あるいはその国で最も強く、愛国心の強い者のみが身に着ける事を許されている。


「ですよねえ…あ! ひょっとしてカイトさんなら…!」

「そうか!」

「ああ、それも無理だ。
ライフメタルは非生命体の中で作成できない物の一つだ。
これも注意書きに書いてある」


創造魔法ならば…と少し目を輝かせた二人に率直に告げる。


「ほんとだ…残念」


ルミナスが肩を落とす。
うまくすれば作ってもらえるかもと少し期待したのだ。
まあ、結局世の中そこまで甘くないということである。


「う~んちょっと残念ですが、気を取り直して…今度はカイトさんの魔力量ですね。
それじゃそこに立ってください……あれ? ちょ、ちょっと待ってくださいね」


なにやら慌てながら測定器を元の場所に戻し、替わりに一回りサイズの大きい測定器を使って再び測定する。
海人の横でルミナスの顔がかなり引きつった。


「…う、嘘……!? す、すいません、もう1回」


目盛りを見た途端、シェリスは目を見開き慌てて再び別の測定器を用意する。
ルミナスの海人を見る目がもはや化け物でも見るかのようなそれになった。


「こ、今度こ…そ…あ、あの…ま、魔力値700万ちょうど…です」


震える声でなんとか測定結果を伝える。

その結果を聞きルミナスも呆然としている。

ありえない数字とまでは言わないが、彼女が知る限りでは人間の中では最大の数値。
これ以上となるともはや一番上の測定器を使いかねないレベル―――絶対的な世界最強種たるマスタードラゴン級である。


「あ~…高いのか?」


何がなにやらよく分かっていない海人が、ルミナスたちにとっては間抜けすぎる質問をする。


「高いって言葉じゃ私らの驚きを表現できないぐらいにね……」

「そうですよ! どこまで異常なんですか!?
しかもさっき使った魔法で魔力が減ってるだろうから…すいません、もう一回さっきと同じように白衣作ってもらえます?」

「構わんが…世界を構成する全元素に命ず、我が意に応え我が望みを顕現せよ!《クリエイション》!!」

「はい、そのままもう一回計りますね…は? 魔力値625万…!?
あ、あのすいません…もう一回だけ魔法使ってもらえます?」


分かった、と短く答えて再び魔法で白衣を作る。
魔法を続けて使ったせいか軽い脱力感を覚えたが、立てなくなるほどではなかった。

その横でシェリスは紙に計算式を書き、魔力量の計算を行っている。


「魔力値549万強だから…え~っと…一万弱の違い…でも全体からすれば多分誤差範囲。
となると、元の魔力値は775万!?」

「とんでもない魔力量だけど…創造魔法の消費はそれ以上にいかれてるわね。
並の魔力量じゃ一回も使えないじゃない」

「一回で75万の消費か…そんなに多いのか?」

「一流って呼ばれてる魔法使いで総魔力量がせいぜい100万弱って言えば分かる?
一応魔力量だけなら私もそこらの一流魔法使いよりはるか上なのよ?」

「…よく分かった。ところでちと試したいことがあるんだが、もう一回魔法を使うから、また計ってもらえるか?」

「あ、はいわかりました」

「白衣に…果物とナイフと…お皿とフォーク?」


今度彼が作成したのは白衣を2枚に、大きなマンゴーと果物ナイフを一つずつ、それに磁器の皿とフォークを三つずつ。
先程までに比べて作成した量が格段に多い。


「ああ。さて、今の魔力消費はいくつだ?」

「え~っと…ほぼ同じです。75万弱…なるほど、どうやら何をどれだけ作っても魔力消費は変わらないようですね。
これの確認がしたかったんですね?」

「ああ、それともう一つな」


そう言うと作成したマンゴーの皮をナイフで剥き始めた。
皮を剥き終わると種を除き、果肉の一部を切り分けて皿に盛って一口だけ食べた。


「ふむ、美味いな。前食べたのと味も変わらんようだ」


そう、彼は作成した物の味の確認をしたかったのである。

見た目は同じでも、味が違った場合は確実に成分が違う。
もし見た目だけしかコピーできないのであれば、作った物をいちいち分析してから使わなければならなくなる。
作成した薬草を組み合わせて薬を作ったつもりが、実は毒草を組み合わせて猛毒を作っていたなどというのは洒落にならないのだ。

無論、この確認方法は最悪の場合命を落とす危険性もあったわけだが、
成分の分析に使う機器もない場所では、これ以外の確認法は思いつかなかった。
結果は彼の杞憂だったわけではあるが…。


「ね、ねえ。一口だけ私にもくれない?」


先程皮を剥いた瞬間から放たれ始めた甘い香りにルミナスは堪えきれなくなっていた。
実は彼女は甘い物が大好物なのだが、その中でもフルーツ系には特に目がないのである。
目の前にこれだけ良い香りのする果物があって、我慢しろというのは酷な話であった。


「ああ構わんぞ。というかそのためにフォークも皿も複数出したのだが…」


そういうと残りの果肉を切り分けて別の皿に盛り、フォークと一緒に二人に手渡した。


「……お…お…お、美味しい~~~~~っ!!
何これ!? この甘みの濃密さ、口の中に広がる良い香り、
こんな美味しい果物初めて食べるわよ!?」


感動で身を震わせ、目を輝かせて次を食べ始める。
量自体はそれほど多くないため、今度はじっくりと噛締めながらよく味わって食べる。

まあ当然だろう、と海人は思う。

なんせ彼が作ったマンゴーは、一個で良いレストランのランチコースを二人で食べられるような値段で取引されているものだ。
市販されている果物としては間違いなく最高の物の一つである。

生産者のかけた手間や苦労を思うとこんな簡単に作れていいのだろうか、と思う。

一方シェリスは…


「ああ、もうなくなってしまいました!?」


思わず夢中で一気に食べてしまったため、すでに皿が空になっていた。
もっと味わって食べればよかった、というような表情で涙を流している。


「あ~、よかったら私の分を食べるか?
正直私は甘い物はそれほど好きではないから、一口食べれば十分なんだ」

「いいんですか!?」

「ちょっと待ったぁ!!」


歓喜に目を輝かせ、手を伸ばしたシェリスをルミナスの怒声が押し止めた。
上手く隠してはいるがいまだ口の中にマンゴーが少し残っていて、いささか下品に見える。


「ひえっ!?」

「ちょっとカイト、順序が違うんじゃない?
普通はお世話になってる家主に先に聞くのが筋でしょうが!」

「いや、君の皿はまだ残ってるようだし…」

「そうですよ! ここは譲ってください!」

「譲らない、譲れはしないわ…これを逃したら次はいつこんな美味しいものが食べられるか…!」


そう言いながら2人から視線を逸らさずに自分の皿を平らげる。
そして皿を少し傾け、残った果汁も残さず飲み干した。


「単に私が作ればいいだけなんだから、いつでも食えるだろう?」


海人はジリジリと近寄ってくるルミナスに若干腰が引けながらもなるべく冷静に語りかける。
ホーンタイガーに遭遇したときもこんな気分だったな、と心の中で呟きながら。


「それも急に仕事が入ったらアウトなのよっ! 
下手したら二度と食えなくなる可能性だって十分にあるわ…!
だいたい最近の仕事の過酷さは異常なのよ…半年前のガグラール盗賊団の殲滅を皮切りに、
五ヶ月前は全滅した国境警備隊の代わりにグランベルズ第三軍の足留め一ヶ月…この前なんかルクガイアの第二軍と正面衝突よ!?
今度はガーナブレストの《守護三公》とでも戦えっての!?
そんなことになったら今度こそ間違いなく死ぬわよっ!! 団長と副団長の馬鹿あああああああああああああっ!!!」

「あ、あはは…相変わらず《エアウォリアーズ》の皆さんは無茶やってますよねえ…並の傭兵団だったらとうの昔に全滅してますよ」


突如起こったルミナスの魂の叫びにシェリスが冷や汗を流す。

なにせガグラール盗賊団は隣国エルガルドの騎士団の手におえなかった筋金入りの武闘派盗賊団、
グランベルズ帝国第三軍は帝国の中でも個々の実力こそ下位の軍ではあるが、そこらの国の軍の数倍の数を誇る。
ルクガイア王国の第二軍は数こそ少ないものの、個々の実力が一騎当千とまではいかないものの、一騎で二十は相手取れる精鋭軍。
どれもこれもとんでもない連中で、本来一介の傭兵団が相手取れるような相手ではない。

ちなみに《守護三公》というのはガーナブレスト王国の三人の大公爵の事で、各公爵がそれぞれ専属の軍隊を持っている。
その各軍隊はどれも他国の第一軍を圧倒できる戦力を誇り、それを率いる大公爵たちの家系は代々化け物じみた戦闘能力の持ち主だが、
今代は特に凄まじく全員が比喩ではない一騎当千を可能とする超人である。

たかが一傭兵団がまともにぶつかれば全滅は必至だ。


「…自分で言うのもなんだけど、私たちってマジで凄いと思うわ…ふふ、次は死ぬだろうけどねー」


笑ってはいるが声も表情も思いっきり虚ろである。
あははー、などと言いつつ目の焦点が合ってない。


「いまいちよく分からんが…まあ、強く生きろ」

「ええ、生きるわよ! 生きて見せますとも!! だからそれちょう…だ…い?」


海人の手にある皿を見て唖然とする。
いつの間にか皿の上に何もなくなっていた。


「え~っと、もう食べちゃいました」


テヘッ、と舌を出す。
どうやらルミナスが呆けている隙に食べ尽くしていたようだ。
ごめんなさい、とちょこんと頭を下げる。
その姿は大概の男は…否、女性であっても母性本能が強ければ思わず許してしまいそうな程可愛らしかった。

しかし、ルミナスはそのどちらでもなかった。

ゆっくりと腰の剣を引き抜き……


「遺言は?」


にっこりと、なんら不純物の混じらぬ純粋な笑顔で尋ねる。

そう―――その笑顔には殺意以外の要素など欠片ほどにも混じっていない。
交渉の余地などどこにも残っていない事を証明するかのような笑顔であった。


「え~っと…ごちそうさまでしたぁーーっ!!!」


瞬時に身を翻しダッ、と駆け出す。
ドアを手早く開け、廊下に躍り出てそのまま出口へと向かう。


「逃すかああああああああああああっ!!」


無論ルミナスとてそれを黙って見逃すはずはない。
ドアを開けるなどとまだるっこしいことはせずに蹴破り、逃げるシェリスを追撃する。


「う~む…こうなるのなら余分に作っておけばよかったか」


部屋の外からは2人以外の人間の悲鳴も聞こえる。
おそらく出口に先回りされたシェリスが建物の内部を逃げ回っているのだろう、
と2人が部屋から出て行くときの速度の差を思い返して予測する。

ちなみにこの男、外の惨状を予測はしていても部屋からは動こうとしていない。
しばらくすれば落ち着くかもな、などと思いながら先程渡された紙の束に目を通している。
外から若い女性の断末魔っぽい悲鳴が聞こえても一切気に留めることなく、記された内容に目を通し続ける。

なかなか薄情な男である。












「きゅうううううう…」

「…次はないからね」


まるで鹿煎餅を持って鹿の群れに突っ込んで行ったかのようなボロボロ具合のシェリスをぶら下げて、ルミナスが戻ってきた。


「おや、おかえり」


床に広げていた紙をまとめながら、二人に視線を移す。
手際よく紙を拾い集め、手慣れた動きで全てを元入っていた封筒に戻していく。


「助けてくれてもよかったのでは…」


ぷ~らぷ~ら、と揺れながら最後まで我関せずを貫いた男に恨み言を言う。


「自慢ではないが私は貧弱なんだ。
ああまで怒り狂ったルミナスを止めに入ったところで一瞬で蹴散らされて終わりだよ。
ならば私という被害を加えぬことが私にできる最善ではないかね?」

「うう…たしかにその通りですが…」


海人は単に巻き込まれたくなくて見捨てただけだというのは分かりきっているが、
彼の言ってる事はなんら間違っていないためシェリスは反論できなかった。


「まあそれはともかく、ルミナスの暴走でどれだけ怪我人が出た?
一応傷薬ぐらいなら作れんこともないぞ」

「いえ、怪我人は一人も出てませんよ。
そもそも勤めてる人数が少ないですし、ルミナスさんはそのあたり器用ですから」

「ほう、意外だな。
外から聞こえてきた悲鳴からすると、周りを気に留めることなく暴れ回っているのだろうと思っていたんだが」

「あんたあたしを何だと思ってんの?」

「…触れるな危険?」

「よし、ちょっとじっくり話し合いましょう。 大丈夫、傷は残さないから」


ルミナスは笑顔のままこめかみに井桁を浮かべていた。
しかも話し合いと言いつつすでに海人の頭を片腕で鷲掴み、万力のような力で締め上げている。
このままいけばどうなるかなど想像するまでも無い。


「後半の言葉がとても話し合いでは起こりえない現象のような気がするんだが!?」

「気のせいよ。さあ、さっきの言葉は間違いでしたと言えるようになりましょうね?」

「わかったっ! 悪かった! さっきの言葉は取り消す!!

「…それでいいのよ」


ぱっ、と手を離す。
離される直前の表情が心なしか残念そうに見えたが、彼は気のせいと思うことにした。
誰も藪を突付いて蛇を出したくなどない。


「ふう…それにしても先程の果物はそんなに美味かったのか?」


少し不思議そうな顔で尋ねる。
彼も美味いとは思っているが、元々甘い物が好きなわけではないために女性陣の反応が今一つ理解できないようだ。


「当然でしょ! あんなの王宮の晩餐会でも食べたことないわよ!」
「あの味であれば王室の方々にも御満足いただけると思いますよ」


取り方によっては罰当たりとも言える発言に2人が即座に反応した。


「…シェリス嬢はまだしも、実はルミナスも貴族か何かか?」

「ああ、違いますよ。ルミナスさんの所属してる傭兵団は世界的にも有名で、
今までこの国でも多大な功績を挙げているので、王宮に招待された事も何度かあるんですよ」

「ちなみにシェリスは本当に貴族のお嬢様ね。しかも国内最大規模の有力者の一人娘」

「一人娘といっても兄が5人いますから家を継ぐ事はまずありませんけどね。
ただ、家の関係で王宮に招いていただく事はしばしばあります。
その私が保証しましょう。先程の果物は間違いなく王室の方々でさえ召し上がった事がないと思えるほどの美味でした」

「ふむ、そうか。どのぐらいの値段で売れると思うかね?」

「そうですね…おそらく我が家で買い上げるとしても、一個2万ルンは堅いでしょう。
この果物はこれだけで完成した極上の料理とさえ言えますから」

「…ルミナス、君の一ヶ月の食費はどれくらいだ?」


シェリスが真剣な表情で良いレストランでも一人ではそうそう払わない額をつける。
その金額がどれほどのものかは、目を剥いて固まっているルミナスを見ればよく分かる。

が、海人は具体的にどれほどの金額か分からなかったため、参考のためにルミナスに尋ねることにした。

なぜか彼女は尋ねられた瞬間に海人から目を逸らしているが。


「……言わなきゃ駄目?」

「頼む」

「8万ルンよ。ねえ、カイト早まっちゃだめよ。
そんな値段のもん買うのは上流階級か大商人ぐらいだわ。
どちらも鼻持ちならないやつの方が多いんだから、商売上でも毎回付き合うのは面倒よ?
それよりは安い値段で数多い普通の人たちに食べてもらう方がいいと思うわよ、うん」

「何寝ぼけたこと言ってるんですか。 こんな物を安い価格で食べようなどと、そんな罰当たりなことは私が許しません。
高品質な商品はそれに見合った値段を出して買うのが当然です。
そうでなくば努力して良い商品を生み出そうという者がいなくなってしまう危険性さえあるんですよ?」


なんとか安い値で手に入れられるよう海人を説得しようとするルミナスを、シェリスが冷たい口調で窘める。
落ち着いた口調ではあるが、ルミナスを見る目は非常に厳しい。 どうやら彼女なりの強い価値観があるようだ。


「たしかにその通りだが…これに関しては私はほとんど努力をしとらんのだよなあ……」


自分がした努力は術式を覚えたことのみ―――そう考えると海人には高い値段を取るのは気が引けた。
儲けた金の一部を彼が食べたマンゴーの生産農家に渡せるのであれば素直に納得もできたかもしれないのだが。


「そうかもしれませんが、そもそもこんな果物を安く流通させられてしまっては、高級な果物を作っている他の生産農家が大打撃を受けます。
考えてみてください。どう考えてもこの果物より美味しい物はないのに、この果物のほうが安いなどとなったら…」

「種類が多くあっても買ってはくれなくなるか、少なくとも売り上げは確実に減少するだろうな。
競争によってより良い物が生み出される可能性もあるが、最悪の場合その前にほとんどが破産する危険性もある、か」

「ご理解いただけて何よりです」

「…となると他のさくらんぼだの柿だのもやめておいた方がいいか」


囁き声のように小さい声で呟く。
この世界の果物の品質がどのようなものだか彼には分からなかったが、
あまり良質な果物を無闇に流通させない方がよさそうだ、と結論を出したためだったが…


「カイトさん…まさか、他にもこれと同等に上質な果物が作れるのですか?」


ボソリと常人には聞き取れないほど小さく呟かれた言葉をシェリスは聞き逃さなかった。
にんまりと笑い、言い逃れを許さない迫力で確認する。


「…あ~、聞こえてたか。 多分な。これと同等かは分からんが、良いグレードの果物が数十種類ほど作れるはずだ」

「…もし魔力を使い果たして昏睡に陥っても私が責任を持って世話をしますので、一通り作って下さいません?」

「う…それは………いや、いい」


一昨日の魔力を放出しすぎたための脱力感を思い出して躊躇しかけるが、シェリスの強烈な迫力に早々に諦めることにした。

実際のところ一昨日の脱力感は、短時間で際限なく魔力を放出し続けてしまったがゆえのもので、
魔法で消費する分には全魔力を使い切りでもしない限りはあまり実害は無い。

が、それを知らない海人は無駄に緊張したまま魔法を使い始める。
知らぬが花、という言葉もあるがこの場合は知らぬが故に無駄な気苦労をする羽目になっていた。


膨大な魔力を持つ伝説の魔法の使い手という、いかにも凄そうな人間なのにどうにも締まらない男である。







「今までの人生でこれ以上の至福に浸ったことはないわ…」

「ああ、神よ、今日は今までの人生最良の日です…明日からより一層信心に励みますので、お恵みを…」


ルミナスはおいしかった~、と満足そうにお腹を撫で、シェリスは神に感謝して祈りを捧げている。
なんとなく育ちの差が分かる光景であった。


「よく飽きないな」

「カイトさん、もうこれは是非にでも、私の家に果物を卸していただきたいのですが…」

「……価格と条件次第だな」

「価格は御満足いただける額を用意できると思います。
ですが、条件とは…?」

「私が創造魔法を使えることを他人に漏らさないでほしい」

「何故です? それこそ私が王室に進言すれば確実に宮廷魔術師クラスの給金……
いえ、それどころか叶わぬ望みはほとんど無くなりますよ?」


シェリスが不思議そうな顔で首をかしげる。
創造魔法に限った話ではなく、特殊属性というのは全てがこの世界の人間にとって特別な意味がある。
今まで歴史上に現れた特殊属性の人間は全てが稀代の英雄・勇者・覇王・聖人などとして偉大な功績を残している。

そういう可能性のある人間を召抱えているという事実は国家にとって非常に大きな意味を持つ。

さらに過去の事例による期待というだけでなく、特殊属性の魔法はどれもが軍事的にも政治的にも大きな価値がある。

創造魔法ならば食糧難の回避・戦争の際の物資の補給・その他諸々、治癒魔法ならば対象が死んでいない限りは治癒できるため、
術者の魔力が続く限り不死身に近い軍団を可能にでき、国中を回らせて病人を治療させて国民の信望を集めることもできる。

空間魔法にいたっては使えれば単独で空間ごと敵軍を裂いて屈強な軍隊を一瞬にして全滅させる事も可能、
しかも空間転移によって他国の重要人物の暗殺も容易く行えてしまう。

言い換えればどの特殊属性も現れれば国家にとって絶対に手放すわけにはいかない人材。
給金一つとっても交渉すれば確実に天井知らずに上がり続け、その他の望みも国家が全力で叶えるために尽力するだろう。

普通の人間であれば魔法の公開を躊躇うほどの理由は無いはずだった。


「他に道がないのならばそれも仕方ないのだがな…極力私は権力者とは関わりたくないのだよ。
大体が厄介事に巻き込まれるし、しがらみが多くなる」

「たしかにそうですけど、まったく魔法を使わないのであればともかく、
使うのであればいずれは誰かに知られ、広まっていきます。
問題の先送りにしかならないと思いますよ?」


そう言いつつも内心シェリスは、正確に魔法を公開する事のデメリットを把握していた海人に感心していた。

たしかに特殊属性の魔法を公開することはメリットも大きいが、他者の妬みを買い、暗殺の危険なども多くはらむ事になる。
わざと彼女がメリットだけを強調して説明したにもかかわらず、危険性を頭から離さなかった事は評価できた。

が、どこまで考えての発言なのかを確認するため、あえて彼の言葉に疑問を投げかける。


「だが先延ばしにする間に力を蓄え、大概の厄介事に対処できるようにすることはできる。
下手に手出しができないようにすることもな」

「なるほど…そういうことならば、私は口を閉ざしましょう。
ついでですのでオーガスト局長にも口止めしておきますね。
早くてもあと2時間は脱出できないでしょうから、問題ありません」


自信に満ちた海人の言葉に確信めいた物を感じ、口を閉ざす事を誓う。
どれほどの力を蓄えられるのか見て確かめるのも悪くない、と思わせるだけの強さを海人の態度から感じ取っていた。

さらりと不穏な発言をしつつ。


「…脱出?」


残念ながら海人はシェリスの不穏な言葉を聞き逃せなかった。
聞かない方がよさそうだとは思いつつもついそれについて尋ねてしまう。


「ええ。ロッカーに放り込んでロープでぐるぐる巻きにしたうえ、
枯井戸に投げ込んで上から土被せましたから、しばらくは出てこれないでしょう」

「医務室に連れて行ったんじゃなかったのか?」

「ここの医務室は綺麗な女医さんが勤めてるんですよ。ですので局長は入室禁止です。
どうせあの老人は魔力で自己治癒力を強化すればすぐに回復しますしね」

「だ、大丈夫なのかあの御老人」

「大丈夫よ。あれでも昔はこの国最強の魔法戦士だったんだし。
そもそも、その程度で死ぬほどやわだったら苦労はないわよ」


流石に心配する海人にルミナスが軽く肩を竦めて答える。

実際、オーガストは今までセクハラかますたびに様々な目にあっている。
判別所の女性職員の胸や尻を撫でては両手両足を縛られて激流の川に叩き込まれ、
シェリスの尻を触ってはとっとと大地に還れと言わんばかりに棺桶に叩き込まれて森の中に埋められたりしている。

それだけやっても大体一時間前後で何食わぬ顔で脱出し、自分の部屋に戻っているのだ。
いまさらこの程度でどうにかできるようなスケベ老人だとはとても思えなかった。


「……ま、まあいい。ではあの御老人の口止めはシェリスさんに任せるとして、ルミナスも黙っててくれるか?」

「週一回、食後のデザート用のフルーツ一個で手を打つわ」

「了解。しかし意外に条件が緩いな?」


毎日3食一個づつと言われるぐらいは覚悟していたのでやや拍子抜けする。

その言葉を聞き、ルミナスは意地悪げに笑う。
ひっかかった♪ と楽しげな声が聞こえてきそうなイイ笑顔である。


「ふふん、カイト。創造魔法はたしかに凄いけど、何か重要な事を忘れてない?」

「重要な…? あっ!?」

「思い出したみたいね? さて、私のところに居候するカイト君はどうするのかな?」

「…どういうことです?」

「私の家の場所。そしてこいつの魔力属性、合わせて考えたらどうなる?」

「あっ!? そうですね。伝承が正しければ、他の魔法が…」

「い、いや、まだ本当に使えないと決まったわけではないっ!
空を飛ぶための術式が書かれた物はどこかにないのか!?」

「え、えっと…このパンフレットに…」


そう言って机の上に置いてあったパンフレットを海人に差し出す。
これはここで無料配布している物で、主に子供向けの初歩の魔法の術式が出ている。


「貸してくれ! …よし、覚えた!」


異常なほどに早い。
所要時間、実に数秒である。

と言っても先程覚えたものとは違ってかなり単純な図形で、文字や数字はほとんど描かれていなかった。
先程覚えた時の速度を考えれば当然と言えば当然である。 


「汝は空を踊るための靴、汝は我を包む風の抱擁! 《フライ》!」


先程と同じように術式の中に魔力を流し込むイメージを構築する。
体を魔力の光が包むのも同様である。


しかし今度は―――


ボンッ!!


という音と共に軽い爆発が起き、彼の体が壁に叩きつけられた。


「ぬ…ぬぐぐ…術式を覚えられていなかったのか?」

「…いえ、あれは術式と魔力が適合しないときに起こる反応です。
覚えていようがいまいが、あの反応が出た以上は少なくとも風属性の魔法は使えないはずです。
ちなみに術式が不完全なせいで使えない場合は魔力が霧散するだけで、何も起こりません」

「くそっ…ん? ちょっと待て。特殊属性以外の者なら誰でも基本属性の魔法は全て使えるんじゃなかったか?」


術式と魔力が適合していない、と詳しく話している以上前例があるという事になる。
つまり特殊属性の者に関する詳しい記録が残っているか、特殊属性以外の者でも基本属性の魔法が使えなくなる事があるということだ。


「いえ、稀にですが、属性特化といって一つの属性の魔法の効果が飛躍的に高くなる代わりに、
それと相反する属性の魔法が使えなくなる人がいます。その時も使おうとするとああいう反応が起きるんです」

「つ、つまり…」

「私にお願いしない限りは家から出られないわね。それとも野宿する?
魔物に食い殺されるかもしれないけど」

「ぬぬぬ…いや待て! まだ手はある! 外に行くぞ!」

「へ? ちょっと…!?」


実に楽しそうに笑うルミナス相手に海人は意地になって止める間もなく外に駆け出していく。
その後を二人が慌てて追いかけていった。










海人は判別所からしばらく走って開けた場所に出ると、周りに誰もいないのを確認し


「ふっふっふ…空が飛べないのならば飛べる物を作ればいい!
世界を構成する全元素に命ずる、我が意に答え我が望みを顕現せよ!《クリエイション》!!」


自信たっぷりに呪文を唱え、一人乗りのヘリコプターと燃料を作ろうとした。
どうやらヘリなどという目立つ事この上ない物を使ったらどうなるかは頭の中から消えているようだ。


しかし…


「…失敗だと!?」


燃料は現れたが、肝心のヘリは現れなかった。


「ちょっと、何やってんのよ?」


訝しげなルミナスには構わず、再び魔法を唱えるが、やはりヘリが現れない。


「ま、まさか…」


ある可能性に思い当たり、再び魔法を唱えると、今度はちゃんと目当ての物が現れた。
ブルーのラインが入ったピュアホワイトの流線型のフォルムの車体と燃料、そして防護用のヘルメットも現れた。
無駄に高性能を求めて作ったはよいものの、あまりに凶悪な性能ゆえに貧弱な彼では乗りこなす事ができなかった化物である。


「な、なにそれ?」


ルミナスは見たことのない物体に目を丸くする。

そんな彼女を気に留めることもなく、海人は白衣を脱いでヘルメットを被り、試運転のために車体に燃料を注ぎ、跨ってエンジンをかけた。
自分の視線の先に比較的平坦な道が長く続いていることを確認した瞬間、
昨日木の板をぶち抜いた時と同程度の肉体強化を行い、最高速度で直進せんとアクセルを全開にする。

そして彼が作成したバイクは、轟音とともにあっという間にルミナス達の視界から消え去り、巻き上げていった土煙だけが残った。


「な、なんなのよあれ!? 私の最高速でもあそこまで速くないわよっ!?」

「わかりませんよ! というかどんな生き物でもあんな速度で走れるとは思えませんよ!?」


二人がパニックに陥っていると…

ブオオオオオッ!!

という爆音と共に海人が戻ってきた。
去っていったときと同じかそれ以上の速度で―――二人目掛けて一直線に。


「「きゃあああああああああああ!?」」


スピードを緩める様子が見えないバイクに二人仲良く悲鳴を上げる。
恐慌のあまり、二人はそろってとっさに横に飛ぶが…

キキィッ…!!

実際には二人がいた場所の少し前の位置でバイクは止まった。


「くそっ…バイクは作れるということは、機械系は最低でも分解したことがないと作れないということか…!?」


海人はヘルメットを外し苛立ち紛れにガンッ、とバイクに拳を叩きつける。

ヘリが作れないという事に関して彼の思い当たる理由はそれぐらいしかなかった。

まずバイクは作れた。
バイクに関しては設計図から何からよく熟知している。
自分で設計図面を引いたオリジナルのバイクを信用できる製作所に作らせ、何台か所有してもいた。

ヘリの設計図も詳しく知っている。
実際に一人乗り用の物を設計した事もあり、それの完成品も見た事がある。
体積も総合すれば大きめの本棚よりも小さくなるため、サイズの問題ではない。
だが、見た事のある物は作れるはずの創造魔法では作れなかった。

違う点はバイクは好きで所有していたためビス一本に至るまで分解した事がある。
しかしヘリの方は設計者の責任として完成品の試乗はしたが、自分の分の購入はせず分解した事は無かった。

この事から機械系は部品一つ一つまで見た事が無ければならないのではないかという仮説が浮かび上がる。
だとすれば場合によっては戦車や戦艦、戦闘機などを作成して自衛に使うつもりでいた海人は、当てが外れてしまったことになる。
ちなみにこの男、水爆の現物も見た事があり設計図も微細漏らさず覚えている―――さすがに分解した事はないが。


……この世界の平和のためにはむしろ良かったかもしれない。


「あ、あの…カイト、これはいったい…っていうかどうしたの?」

「…当たり前と言えば当たり前だが、創造魔法は一度見た物なら何でも作り出せるわけではなさそうだ。
空を飛ぶための道具を作ろうとして作れなかった」

「…そ、そうなの?」

「ああ、だから結局君に頼むことになるな。 ……条件はなんだ?」

「い、いや、まだ特に決めてなかったけど…合わせてデザート週2でどう?」

「わかった」

「って、それよりもそれ何なのよ!? メチャクチャ速いじゃない!?」

「バイクといって、移動用の道具だ。見ての通り相当な速度が出る」

「…あ…あの、それがあったら早馬が過去の遺物になりません?」


シェリスは震える声を出しながら、内心先程の海人の自信に納得せざるを得なかった。
こんな物が自由自在に作れるのなら脆弱なこの国の軍隊が手出しできないような力を蓄える事はそう難しくない、と。


「それはそう…ふむ、これも誰にも話さんでくれないか? というか話したら多分えらいことになるぞ」


ここまできて海人はようやく冷静さを取り戻した。

このファンタジーな世界で最高時速500kmを超えるバイクなどオーバーテクノロジーにも程がある。
公になればかなり深刻な事態になる事が目に見えている、という当然すぎる結論に今更気がついた。

ポリタンクの上に被せておいた白衣を再びその身に纏いながら、二人にやや軽い口調で頼む。


「…そんな物が急に出てきたら、世界が大混乱ですしね…この国を起点に大戦争が起こりかねませんし…わかりました」

「…私も傭兵稼業だからって区切りすら見えない戦争はごめんだし、黙っとくわ」

「理解してもらえて何よりだ…ま、とりあえずこれは消しておくか」


次の瞬間、バイクが元々そこには何もなかったかのように唐突に消え去った。
燃料が入っていたポリタンクもヘルメットもいつの間にか消えている。


「創造魔法ってそんなことまでできるわけ?」

「ああ、作り出した物は消えろと念じれば消すことができるらしい」

「…場合によっては暗殺者もできますね?」


シェリスの目がスッと少し鋭く細められ、探るように海人を見る。


「どんなに警戒が厳重でも生身で行ってボディチェックの後凶器を作れるし、それを消せば証拠も残らないからな。
が、自慢ではないが私の武術の心得は触り程度なのでな、まともな護衛がいればもし暗殺に成功したところで確実に捕まる事になる」

「あれ? あんた多少でも武術かじったことあるの?
まったくそんなふうには見えないけど…」

「だから触り程度だ。受身は一応とれるという程度のものだ。
まあ技の形を知っているというだけなら柔道は一通りのものは知っているが…」

「ジュードー? 聞いた事ないわね…ちょっと形だけでいいから技見せてくんない?」

「ふむ…ではやったことのある技で…大外刈りにするか。
シェリスさん、すまないが技をかけられてもらえるか?」

「はい、いいですよ」


その返事を聞くと海人は白衣を脱いで地面に敷いた。
投げ技なので土で服が汚れるといけないという配慮だ。


「で、この技だが、まず相手の襟の奥を取る」

「ついで相手の袖を引きながら前進し…足を掛け、投げる」


ゆっくりとシェリスが海人に投げられるが、勢いはついていないため痛くはなさそうだ。
白衣の上に投げられたため服も汚れていない。


「へえ…なるほど、相手の体勢を崩しながら足を掛けるから、多少力が弱くても投げられる。
それに相手が武器を持っていても、懐に潜り込んでればあんま関係ない、か」

「まあそういうことだな。一対一のとき以外はあまり使えんだろうがな」

「他には?」

「う~む…シェリスさん、受身は取れるか?」

「ええ、もちろん」

「で、今度はまず袖を取る」

「そしてそのまま袖を引きながら回転しつつ、もう片方の腕を相手の脇に入れながらやや下方に潜り込み、
相手の体を腰に乗せ…袖を引き落とし、脇に入れた手を持ち上げつつ腰を跳ね上げる」

「かはっ…!?」


それなりの勢いで地面に落とされて今度は少し息が漏れる。


「一本背負いという技だ…大丈夫か?」


気遣うように手を差し出す。


「え、ええ…魔力で全身を強化しましたので」


シェリスは少し恥ずかしそうに差し出された手に掴まって立ち上がる。
それほど痛くはないため、なんとなく立ち上がらせてもらうというのは気恥ずかしいようだ。


「へえ…面白いわね…力の使い方が上手くできてるから非力でも使える。
しかも相手を地面に叩きつけるわけだから、威力自体も高い…欠点は一対多数にはあんま向かない事かな?」

「そうだな。達人なら一対多数でも問題ないそうだが…相当の鍛錬が必要だろう。
当然だが、私はまだ使えるなどというレベルではないし、技の数はかなりの量だ」

「そうじゃなきゃ武術として成立しないわよ。 でも、面白かったわよ?」

「それはなにより」

「…ところで、もう用件は終わってしまったわけですが、これからどうします?」


二人のやり取りが終わったところでシェリスが尋ねた。


「そうね、カナールへ食料の買出し行った後に帰るわ。 カイトは荷物持ち頼むわね」

「わかった。っと、そういえばあの紙の束を置いてきてしまったな」

「その事なのですが、あなたはルミナスさんの家に居候なさってるんですよね?」


取りに戻ろうとする海人を制し、確認する。


「そうだが?」

「オーガスト局長がああ言った手前言いにくいのですが、
貴重な資料なのであんないつ盗まれてもおかしくない場所に持って行かせるわけにはいかないんです」

「ふむ、もっともだな」


申し訳なさそうなシェリスの態度にあっさりと納得する。

あのような古い本がすぐに出てきたという事は、きっちりと管理されている事を意味している。
さらにいかにも古そうな本であるにもかかわらず、中身の状態はかなり良かった。
となると貴重な資料として丁寧な扱いを受けていたと考えるのはなんらおかしくない。

彼にはどれほどの価値の物なのかは分からなかったが、盗難されかねない場所に持っていかれたくないというのはよく理解できた。


「ですので、私の屋敷の図書室でお預かりするというのはいかがでしょう?
ここに置いておいていつでも閲覧できるようにするのは簡単ですが、大勢の人がいるので横から見られる可能性は高く、
それであなたの魔法がバレてしまうことは十分考えられます」

「ここ自体あまり人が出入りしているようには見えんが…?」

「実はここの職員の大半は本の管理のために地下書庫にいるんですよ。
それに閲覧は有料ですが、地下書庫には魔法関係の本が数多く収められているので利用者もそれなりに多いんです」

「あ~、そういえばそうね。多い時はあの埃臭い部屋に密集状態になる事もあるし……」


以前利用していた時の地下書庫の様子を思い出し、シェリスの言葉に納得する。

最近は利用していないが、一時期はルミナスも頻繁にここの地下書庫を使っていた。
ここの地下書庫はそれほど広いわけでも多様な本があるわけでもないが、中級と上級の魔法に関する本は比較的揃っている。
そのためある程度の腕の傭兵や冒険者などはここを利用する事が多いのだ。

目当ての本を誰が持っているのか確認するためにこっそり横から本を覗き込む人間も珍しくは無い。

確かにシェリスの言う通り、ここで読むのはリスクが大きいと言えた。


「その通りです。その点、私の屋敷の図書室には私の許可が無ければ誰も入れませんのでうってつけです。
果物を卸すついでに寄れますから特に労力もかかりませんし」

「私としてはありがたいが、いいのか?」

「ええ、もちろんです」


そんなもので貸しが作れるなら安い物ですよ、と冷や汗をかきながら心の中で付け加える。

先程海人が作ったバイクははっきり言ってぶっちぎりの大陸最速だ。
しかも見た目からして相当な重量がありそうで、あれで突進されれば肉体強化していようが並の戦士ではひとたまりもなさそうに見える。
そんな物を量産できるような物騒な人間が野放しになっているのは、彼女からすれば洒落にならない。
せめて何がしかの貸しは作っておかなければ安心はできない。

この程度の貸しがどれほど有効かは分からないが、作らないよりはマシ。そんな打算も手伝っての提案だった。


「ならばお言葉に甘えさせていただこう」

「はい、ではお預かりしておきますね。それでは私はこれから局長を掘り出して口止めしますので、ここで失礼します。
あ、それと明日は柿という果物を40個お願いします。
私の家はルミナスさんが知ってますので彼女に聞いてください、執事たちには話を通しておきますので」


頭を下げる海人に、内心で安堵の息を漏らしつつ、話を進めていく。


「承知した。いつ持って行けばいい?」

「できれば朝のうちにお願いします」

「ルミナス、構わんか?」

「ええ、問題ないわよ」

「では、それでお願いします。オーガスト局長が這い出し始めている可能性もあるので、
申し訳ありませんがお先に失礼させていただきます。お二人ともお気をつけて」


シェリスは二人に手を振りながら判別所の裏手に駆けて行く。
彼女の姿が完全に視界から消えると、ルミナスは海人を抱えて食料の買出しに向かった。





目的地に着くと、どうやってここまで徹底して閉じ込めたオーガストを掘り出すか考えつつ、近くの木に向かって話しかける。


「シャロン、ルミナスさんと一緒にいる男性を尾行してその行動を後で報告書にまとめなさい。
尾行はカナールの街を出るまででかまわないわ。ルミナスさんに気付かれないようしっかり距離を保ってね」

「はっ!」


主の命に木の陰に隠れていた女性が姿を現し、ルミナスたちの去って行った方向へと駆ける。
視界の悪さなどものともせずに、地上から尾行対象を捉え続けるべく息も切らさず森の中を走り抜けていく。


「……とりあえず人柄を見極めないとね」


自分の部下が走り去った方向に視線を向け、呟く。

彼女は海人の能力は極めて危険性が高いと判断している。
創造魔法に加えて得体の知れない、とんでもない未知の乗り物。
テロリストにでも変貌されれば国の滅亡ですら考えられない話ではない。

が、それは言い換えれば上手く自分の味方につける事さえできれば、この上なく心強くなるという事でもある。

人を味方につけるためにはその人格を見極める必要がある。

善人であれば大義名分、奇麗事、情、それらを上手く利用する事で味方につけやすくなる。
悪人であれば味方につく事によって得られる利益、あるいは純粋に金、酒、女などの娯楽で釣る事が可能。
流石に快楽殺人鬼や完全な狂人では味方につけるのは至難だが、海人を見る限りではそうではないと判断していた。

そう、やり方次第では彼女が所持しているいかなる手札よりも凶悪な切り札になる、と。

そこまで考え、まずはオーガストの口止めをしようと思い、固まった土の感触を確かめ……


「アーリア、ハンナ…悪いけど、局長掘り出すの手伝って」


かなり強く押し固めてしまってある土を掘り返すべく、部下二人に溜息を吐きながら指示を出す。

彼女が埋めた時はこんなに固くなかった。
おそらく屋敷に来るたびにセクハラかますエロ爺に腹を立てている部下達がトドメとしてやったのだろう。

まるで岩のように固まっている土の感触と不満そうな部下達の顔からして、口止めよりも掘り出す方に時間がかかりそうだ、と嘆息した。







コメント

 読み直してふと思ったんですけど、レア属性(創造と治癒と空間でしたっけ?)の術式って誰が考えたんですかね? 数百年に一人じゃサンプルもそうそう居ないだろうし、一番簡単な術式でさえルミナスが匙投げ出すレベルのを0から考えた奴って海人レベルなんじゃ
[2014/04/28 00:42] URL | 冥 #vXeIqmFk [ 編集 ]


さんざんリクした者です。面白かったです、有難う御座いました

一つ思ったのは創造魔法の資料をシェリス邸への件は本編のどっかに挟んでほしかったかも。確か無かったと記憶してるので
例の資料を見せてくれないか→え、何でここにあんのと思った気がする
[2014/04/29 00:40] URL | #- [ 編集 ]


このころはカイトが調子乗ってふざけてる上にいろいろ荒かったんですね。現行版の質の高さがあらためて分かります。第三話にかぎらず。

思いきり第一印象最低のオーガストもですが、カナールから離れた森の中とはいえ原付バイクってのはありえんでしょう。
[2014/09/06 13:09] URL | #6XmX6QsM [ 編集 ]


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