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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄92
 待ち合わせ場所に向かっていたルミナスと刹那は、その途中で思わず息を呑んだ。

 向かっている方向から、えらく物騒な気配が漂い始めている。
 戦闘直前、むしろ戦争直前と言った方が適切なぐらいの緊迫した空気が。
 
 ルミナスと刹那は頷き合うと、気配を消しながら地面を強く蹴り、近くの屋根に飛び乗った。
 そのまま、最速で空気の発生源へと向かう。
 いざという時、すぐ戦闘に移れるよう武器を抜きながら。 

 そして目的地に辿り着いた時、二人は思わぬ光景を目にする事となる。

 そこにいたのは、海人とシリル。
 どちらも無言だが、険しい表情で睨み合っている。
 互いに相手の視線で切り裂かんとばかりの眼光を交わし、一瞬たりとも目を逸らしていない。

 普段の喧嘩と違うのは、一目瞭然。
 シリルが殺気を出しているし、海人も普段とは桁違いの威圧感を出している。
 ちょっとしたきっかけ一つで、殺し合いになりかねない雰囲気だ。

 呆気に取られている二人に、雫が声をかけてきた。

「……どもー。あれ、なんとかできます?」

「ってか、そもそも何があったの?」

「あー、それがですね……」

 ルミナスの問いに、雫は手短に説明を行った。
 ナーテア教の神官戦士が、シリルの命を狙って来ていた事。
 持ち物からして、ほぼ確実にイナテアの人間である事。
 大した腕ではなかった為、雫が一人を残してあっさり仕留めたまではいいものの、
生かしておいた人間にみすみす自爆させてしまった事。

 そして―――その後海人が協力を申し出たところ、シリルに拒否されてしまった事を。

 海人が幾度受ける時の利を説き、受けない時の不利益を説いても頑なに拒まれた。
 シリルも幾度自分の問題だから関わるなと諭しても、拒まれた。
  
 そうしている間に二人の言葉が尽き――――否、言葉が無駄だと悟り、この状況になったのだと。
   
「……なるほど、そういう事か。そりゃ、こうなるわよね」

 無言で睨み合う二人に視線を向け、ルミナスは溜息を吐く。

 どちらの気持ちも、よく分かる。

 シリルとしては自分の事情、それも命懸けが前提になるような話に海人を関わらせたくはないだろう。
 確かに理不尽の権化で何もかもを蹂躙しかねない男だが、同時に呆気なく息絶えかねない男でもある。
 本人まで攻撃を届かせる事自体が至難の業だが、それさえできれば海人の防御は無に等しい。
 そして、イナテアの連中がシリルの居場所を特定し本腰を入れてきたのであれば、
数にあかせて大まぐれを起こされる可能性も否定しきれない。
 
 海人からすれば、自分の手の届く範囲内で友人が命懸けの戦いに赴いて帰ってくるのを待つだけなど耐えられないだろう。
 ルミナスとて全貌は想像もつかないが、海人の保有する力はおそらくガーナブレスト全軍にも匹敵するはずだ。
 どんな小細工を弄しようが、頭数が少なかろうが、一宗教が秘密裏に集めた程度の軍勢ならどうにでも出来る。
 にもかかわらず手の届く範囲にいる友を助けないなど、彼に出来るはずがない。
 そんな事が出来る程、彼にある心の傷は浅くない。
  
 二人の心情をしばし考え、ルミナスは己の行動を決めた。

「はいはい、そこまでにしときなさい。
事情は聞いたけど、あんたらが睨み合ったって何の意味もないでしょうが」

 パンパンと手を叩き、二人の意識を自分に向けるルミナス。
 それで我に返ったのか、二人共決まり悪そうな顔でそれまで放っていた空気を緩めた。

「よろしい。とりあえず私の意見だけど、当面はシリルに賛成。
今すぐあんたの力借りるのは、今後考えると間違いなく悪手よ」

「どういう意味だ?」

「力貸してくれれば頼もしいんだけど、今回は間違いなく戦闘の規模が大きくなるからね。
どう足掻いてもどっかであんたの手札さらす事になるだろうし、そうなると今後が大変よ。
普段ならともかく、今回はアンリがいるからね。あの子にあんたの戦力をこれ以上見せちゃうと、
最悪好奇心を抑えられなくなる可能性もあるから」

「……それ、隊長として問題あるんじゃないか?」

「普段なら間違いなく自制するし、今回も自制するとは思うわ。
でも、あんたの戦力は次元が違いすぎて確信までは届かない。
あんたに面倒かけるのも嫌ってのもあるけど、アンリに何かあったら私らの今後も大変なのよ」

 呆れ混じりの海人の言葉に、ルミナスは淡々と答える。

 普段ならばアンリは余計な詮索で身を滅ぼす馬鹿ではない、と信頼できるのだが、
対象が海人となるとかなり怪しくなってしまう。
 この間も、会話の合間に所々探りたくてたまらない様子が見受けられたのだ。

 実際、海人は普通に研究しているだけで凡人の努力を踏み躙り、何百年もかけて築かれた常識を粉砕し、
その能力の片鱗を垣間見せるだけで弱者の心を滅殺する、そんな男だ。
 そして、助力するとなれば自分や周囲の安全を考えて、これまで伏せている札すら使いかねない男でもある。

 となると、アンリの好奇心が危機感に勝る可能性が否定しきれない。
 エアウォリアーズで一番の慎重派だが、同時に最悪の愉快犯でもあるのだ。

 ゆえに、ルミナスとしては涙を飲んで断る他なかった。
 海人に迷惑をかけぬ為、そして仲間を無駄死にさせないために。

「それに、あんたには言ってなかったけど、こないだアンリが来る前に私らに接触してきたのよ。
多分前兆は掴んでて、ある程度準備もしてるはずよ。
今この町には第三部隊の連中もいるし、大概は何とかなると思うわ」   

「ふむ……私の、というか私達の手があった方がより確実で安全なのは間違いないと思うが?」

「それは重々承知の上で、よ。ま、正直言って想定外はありうるし、
場合によっちゃ助けて欲しいけど……最初から関わらせるとあんたのリスクがデカすぎるわ。
ヤバそうだったらすぐにお願いするから、当面は大人しくしててくれない?」

「……君がそこまで言うならば、と言いたいところだがこの状況で全く手助けしないというのは私の矜持に障る。
だから、当面は限定的な範囲で手を貸させてもらおう」

「限定的?」

「ああ。今から万全の準備を整えるのは難しかろう? 君はまだしも、シリル嬢はな」

「なるほど、それならば……いえ、是非お願いしますわ。
流石に今回は準備不足ですので」

 海人の言わんとする事を察し、シリルは深々と頭を下げた。

 ルミナスはまだしも、弓兵であるシリルは矢が尽きれば戦闘力が激減する。
 そして矢は消耗品である為、敵の数によっては早々に尽きかねない。
 
 が、今から万全と言えるだけの数の矢を揃える事は実質不可能に近いだろう。
 シリルが愛用している特注の矢はもちろん、普通の矢も調達できる量などたかが知れている。
 前もって店に注文しておけば普通の矢は揃えられただろうが、今からでは到底間に合わない。
 なにより、手持ちの矢もルミナスが受けた大量の仕事に付き合ったせいで心許ないのだ。

 しかし、海人の協力があるならば、シリルはほぼ無制限に最上級の補給を受けられる。

 シリルの愛用する特注の矢は破壊力を重視している為に値が張り、
仕事でも気兼ねなく連射できる類の物ではないのだが、素材は木材と金属なので創造魔法で量産可能だ。
 つまり、普段は資金的に絶対に出来ないような広範囲の乱射なども行えるようになる。

 当然シリルにとっては極上の援護だし、あらかじめ準備していたという事にすれば創造魔法の事も気付かれないはずだ。
 数百年ぶりに現れた伝説の魔法より、虎視眈々と戦いの準備を進めていたという方がまず最初に頭に上るはずだし、
なにより説得力が強い。

 これならばシリルも納得できる範囲だし、海人もとりあえずは納得できる。 

「別にその程度ならどうという事もない。それで、今日はこれからどうする?
アンリ女士や第三部隊と接触して今後の打ち合わせをするのか?
それとも屋敷に戻って装備を整えるか?」

「両方ね。今日はとりあえずアンリ達と連絡取れるか試して、取れたらそのまま打ち合わせ。
んで、どっちにしても今日は装備整える為に一度屋敷に戻るわ。
ひょっとすると帰りが深夜になるかもしんないけど……大丈夫?」

「別に問題ない。ま、打ち合わせで手に余りそうだと思ったら泣きついてこい。
宗教関係者はしつこいから面倒だが、それでもその気になれば駆除しきる自信はある。
別に対価として金を寄越せとかエロい事させろとは言わんから」

 言いながら、海人は悪戯っぽく微笑んだ。
 からかうように、ルミナスの胸元を見ながら。

「エロい事はともかく、お金ぐらい要求してもいいと思うけど?
ってか、さっきの助力だけでもかなりの対価要求していいと思うんだけどね」

「別にいらんよ。こっちから申し出た事だし、友誼による無料奉仕だ。
それに、先程ついでとはいえ目の保養をさせてもらった事だしな」

「……確かに頭は冷えましたが、もうちょっとマシなやり方ありませんでしたの?」

「単に引き止めるだけでは止まらんかっただろうが。
かと言って普通に攻撃すれば加減を忘れた攻撃が飛んできかねなかったし、あれが最善だったと思うんだが?」

 恨めし気に睨みつけてくるシリルに、海人は皮肉気な口調で応じた。

 シリルのスカートをめくって止めたのは、ただの茶目っ気ではない。
 あの状況では、シリルを止めるのにそれ以上の手段がなかったからだ。

 あの時のシリルは、完全に戦闘態勢に移行していた。
 体を掴んで止めようとすればそのまま投げ飛ばされていただろうし、
ただ服を掴んで止めただけでは、強引に振りほどかれた可能性もある。

 が、スカートを掴めば位置関係的に飛んでくるのは回し蹴り程度だしその打点も予想できる。
 それならば防御魔法でガードできる為、リスクはかなり低い。
 そしてそのスカートをめくっていれば、驚愕で最低でも一瞬は我に返る。
 シリルの羞恥を煽る為に感想を述べれば、より確実に。

 だからこその、あの行為だった。
 無論少々似つかわしくないとはいえ、黒いアダルティな下着に包まれたシリルのお尻はなかなかの眼福だったが、
それはあくまでもおまけである。
  
「……まあ、その通りですわね。我ながら情けない話ですが」

「自覚はあれどどうにもならない、と言ったところか。
ま、仕方あるまい。状況一つで己の感情全てを制御できるなら苦労はないからな」

 図星を突かれて落ち込むシリルに、海人は気がなさそうに感想を述べる。
 
 が、シリルを見つめるその目は、穏やかで優しげだ。
 シリルもそれに気付いたのか、どこか安堵のようなものが滲む微笑みを浮かべている。
 
 そんな二人を眺めていたルミナスが、何やら意を決したように口を開く。 

「……カイト、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかしら?
それなりの対価は用意するし、かなり……いや、
多分とんでもなく無茶な上にあんたにとって嫌な内容だろうから、断ってくれてもいいんだけど」

「ほう、君にしては珍しいな。聞こう」

「……ちょっとこっち来て」

 ルミナスは少し離れた場所に行き、海人を手招きする。
 海人が素直に従うと、彼女は遮音魔法の結界を張った上で耳打ちを始めた。
 
 耳打ちを始めてすぐ、海人の体が傍から見ても分かる程に強張った。
 が、ルミナスは思わず向き直りかけた彼を押し止め、耳打ちを続ける。
 時間が経つごとに海人の表情は加速度的に険しくなっているが、なぜか話を打ち切ろうとする気配はない。
 
 やがて語り終えたルミナスはゆっくりと海人を解放すると、遮音魔法を解いて彼をまっすぐに見据えた。
 言うべき事は言った、後は返答を待つのみとばかりに。 

 数瞬物憂げに頭を抱えていた海人は、やがて重々しく口を開いた。

「……本気、いや正気か? そこまで分かっているのに」

「正気だし、本気も本気よ。使うかは分からないけど、準備はしておいた方が良いわ。
んで、これに関して私はあんたに頼む以上の手はこの世に存在しないと思ってる。
さっき言った内容全てを前提にしても、ね」

 ルミナスは重圧さえ感じる海人の視線を真っ直ぐに受け止め、見つめ返す。

 その目にあるのは、絶対的な信頼。
 海人という人選こそが紛れもない最適。
 その判断に砂粒一つ程度の疑念すら抱いていない目だ。

 ――――それを見て、海人は呻いた。

 確かに、ルミナスの判断は間違っていないだろう。
 あらゆる要素を鑑みて、彼女の頼み事に海人より最適な存在はない。 
 単純な能力だけなら分からないが、立場的にこれ以上がありえそうにないのだ。
  
 とはいえ、それだけなら即断で断った可能性が高い。
 信頼は嬉しいが、だからこそ結果が約束できそうにない頼みは引き受けられないと。
 最悪、ルミナスが解決しようとしている事は解決しても、その後最悪の結果に結びつきかねないのだ。  

 だが――――今回ほどの好機は、おそらく二度とない。

 解決は早いに越した事はなく、それでいて長年解決出来なかった問題。
 今回解決できなかったとしてもそれで終わりではなかろうが、年単位の時間がかかる可能性が高い。 
  
 ならば、自分の負担程度は度外視するべきだろう。
 釘は、刺しておく必要があるが。 

「…………全力で努力はする。すまんが、それが限度だ」

「ありがとう、十分すぎるわ。正直断られると思ってたし」

「気にするな。それと、君の言う対価は重すぎる。
もっと軽い……そうだな、ちょっと耳を貸せ」

 ルミナスの頭を引き寄せると、海人は短く耳打ちした。
 その内容に、ルミナスは思わず目を見開いてしまう。

「いやいや、流石に軽すぎるでしょ。ってかそれ対価にする必要すらないわよ?」

「それで私が納得できる。というか、ただでさえ懐事情が厳しい君から大金をむしり取るなぞ夢見が悪くなるわい」

「いや、それにしたって限度ってもんが……」

「アホか。分かっとらんようだが、君は今回私を意図的に動かすんだぞ?」

「そうよ、だからこそ―――」

「限度を弁えて、君が対価を支払えると思うか?」

「……っ!」

 海人の言葉に、ルミナスは思わず目を瞠った。

 確かに、その通りだ。
 海人をその能力に見合った対価で動かすなら、ルミナスの収入でもとても足りない。
 それほどに海人の能力は高く、桁外れだ。
 
 まして今回の頼みは、かなり無茶な内容。
 どう考えても内容自体が海人に相当な負担を強いるくせに、
期限は早い程よく、遅くなれば最悪意味がなくなるという時間制限つき。
 その分も加味すれば、もはやシェリスでも支払えるか分からぬレベルになるだろう。

 どう転んでも、ルミナスが支払えるのは海人の厚意に甘えた大赤字レベルの対価だけだ。

「ま、気にする必要はない。たっぷり貯蓄しながらでも生活には困っとらんからな。
ならば対価は友人の為に働いたという自己満足だけでも十分なぐらいだ」

「……分かった。今回は御言葉に甘えるわ。
代わりと言っちゃなんだけど、この件片付けたら特製シチュー作るわね」

「楽しみにしている。さて、名残惜しいがそろそろ行動すべきだろう。
動くなら早い方が良かろうしな」

「そうですわね。ああ、最後に一つだけ―――」

 ふと思いついたかのように、シリルが足を止め振り返った。
 その目は、真っ直ぐに海人を見据えている。

「何だ?」

「……止められたのに自分から首を突っ込む馬鹿など知った事ではありませんけれど、
それでも最低限の事情ぐらいは知る権利があるでしょう。
私の口から語る気はありませんが、調べるのは御自由に。
おそらく、シェリスさんなら素性を含めとうに調べは付いていると思いますわ」

「……いいのか?」

 どこか儚い笑顔で微笑むシリルに、海人は問い返す。
 知られたくないなら無理に穿り返すつもりはない、そんな意思を込めて。

「ええ。そもそも、本来なら私の口から語るのが筋ですもの。
好きなだけお調べなさいませ」

「君も義理堅いな、まったく」

「貴方ほどではありませんわ」

 海人とシリルは、互いに微笑むとコン、と拳を軽くぶつけ合い、それぞれ違う方向に歩き始めた。 























 シェリスの屋敷に来た海人は、屋敷の主を前に淡々と先程起きた事を説明していた。

 最初は急な訪問に戸惑っていたシェリスだったが、話が進むにつれその表情は移り変わっている。
 まず表れたのは驚愕。ついで表れたのが、焦り。最後に自責。

 一通りの説明を聞き終えたシェリスは、海人に向かって深々と頭を下げた。

「……まずは、謝罪させていただきます。
私の読みが甘すぎた事、それで不意を打たれた事、誠に申し訳ありません」

「気にするな。君がああ言い切ったという事は、相応の根拠があったという事だろう。
その上で聞きたいんだが……どう思う?」

「解せない、どころの騒ぎではありませんね。
まずは、こちらをご覧ください」

 表情を引き締め、背後に控えるローラに命じて海人の前に書類を置かせる。

 内容は、今回の件についての調査資料。
 海人が来たと聞いて、彼の意見も聞いておこうと準備しておいた物だ。
 一週間は大丈夫と言い切ってしまった根拠となる物でもある。   

「……おい、これは確かなのか?」

 手早く全てに目を通した海人は、珍しく驚きも露わに確認した。
 それほどに、資料の内容は信じ難い内容だったのだ。

「ええ。今朝アンリさんと面会し、あちらの情報とも照会しました。
少なくとも、丸が二つ付いているページに関しては信頼していただいて問題ないでしょう」

「なるほど……先程の謝罪だが、やはり不要だ。これを掴んでいればその判断は無理もない。
しかし確かに解せんな……これだけの仕込みを行える人間が、馬鹿の先走りが可能な状況を作るとは思えん」

 資料を置くと、海人は厳しい表情で考え込んだ。

 資料の内容を要約すると、シェリスが把握している敵の人員とその位置関係、そして潜入したと思われる時期。
 相当前から力を入れて仕込みをしていたらしく、現在国内にいるだけでも脅威的な戦力だ。
 救いは、バレぬよう徹底した仕込みをしたせいか、戦力が各地に分散している事ぐらいか。
 
 それに加え、現在各国との国境から入国しようとしている戦力がいるという。
 そちらは数こそ少ないが、資料を読んだだけでその卓越した技量が窺えるような人間が揃っている。 
 仮に入国拒否をしたとしても、力尽くで突破しかねない程の人材が。

 これがただ一人を殺す為に差し向けられた戦力とは、とても思えないレベルだ。

 が、だからこそ疑問が湧く。
 
 長い時間をかけてこの国の内部に戦力を集め、そしておそらくはそれを隠す意味も含め国外からも少数精鋭の戦力を集結させる。
 言えば易いが、実際に実行するとなれば相当な労力と知略が不可欠だ。
 まして、シェリスの情報網をある程度は潜り抜けているとなれば、尚更。

 そこまで見事な仕込みを行った者の掌の上で――――何故先走りが起きたのか。 

 そしてここまでの仕込みを行っての先走りは、悪影響が大きすぎる。
 成功すればいいが、失敗すればいたずらに標的の警戒を強めさせ、あらゆる策の効果が減少してしまう。
 そんなリスクは真っ先に排除していてしかるべきだし、していないはずがない。

 それでもシリルを確実に仕留められるような人員が揃ってからなら理解できなくはないが、
今回襲撃してきたのはたかが六人、それも雫によれば一人を除いて大した戦士ではなかったという。
 冷静さを欠いたシリルでも、せいぜいてこずる程度の戦力で、負けの可能性は限りなく0に近いと。  

「その通りです。全ての戦力が揃うまで、先走りをしそうな人材は周辺から除けておく。
たったそれだけの作業でこの事態は防げます。まして、イナテア本国の神官戦士となれば性格はきっちり把握しているでしょうし」

「となると……期せずして相手の企みが潰れたのかもしれんな」

「と言いますと?」

「雫。確認するが、手強そうなのは一人だけだったんだな?」

「はい。それだけ念の為気を逸らしてからやりましたけど、
あとは正面から片付けた方が早かったかもしれないレベルでしたね。
さっきも言いましたけど、あのままシリルさん行かせても余裕で返り討ちに出来たと思います」

 海人の問いに、軽い調子で答える。

 先程の連中は、雫から見れば質が低すぎた。
 身のこなしからなにから、隙が多すぎて逆にどう攻めるか悩んでしまうレベル。
 念の為大半を暗殺で片付けたが、死角に回り込む手間などを考えれば、
正面から斬った方が圧倒的に時間短縮になったのではないかと思わずにはいられないぐらいだ。
 
 唯一の例外は、最後に刺した男。
 あの男だけは、他の連中と違い身のこなしに隙が少なかった。
 だからわざわざ物を投げて気を引いた上で、背後から刺したのだ。
 
 とはいえ、その男も特段脅威というわけではない。
 一般的な観点で言えば達人の域に入っているが、その程度。
 雫はおろか、シリルにさえ同レベルの人間六人で奇襲をかけても、
造作もなく返り討ちにされるぐらいでしかない。 
 
「となると捨て駒としては最適だな。
一人だけ強かったのも、それが向こうにとっての本命だったと考えれば筋は通る。
他の可能性もあるが、これが一番現実味がありそうだ」

「……なるほど。情報のかく乱、ですね?」

 一人納得した海人の思考を、ローラが迅速に察する。
 そんな彼女の問いを、海人は軽く頷いて肯定した。

 そんな二人のやりとりで、シェリスも気付く。
   
「ちょっとまさか……!?」

「ああ、大した強さでもない駒六個が代償なら、非常に効果的だろう。
あえて誤情報を伝えておいた捨て駒を尋問させる、というのは」

 海人の言葉に、まだ気付いていなかった護衛二人の表情が引き締まる。

 言われてみれば、もっともな話。
 海人達が語るような周到な準備を行う人間が、
駒の先走りなどという初歩的なミスをやらかすとは思えない。
 
 ならば、そこには確実に意図がある。

 襲って来たのかシリルに返り討ちにされる事が目に見えている戦力となれば、
彼らは返り討ちになる事が前提と考えて問題ないだろう。
 
 そして、生け捕りに出来る程度の相手なら、襲われた側は生かして情報を絞り出す事を狙うはずだ。

 人間往々にして尋問や拷問によって得られた情報は疑いにくい。
 吐いた当人が真実を話しているつもりであれば、尚の事だ。  
   
 だからこそ――――捨て駒にあえて偽情報を伝えておけば、誘導できる。
 
 実際と異なる合流地点を伝えるだけでも、奇襲も時間稼ぎも自由自在。
 間違った戦力の多寡を伝えれば、大戦力で寡兵を磨り潰す事や捨て駒に大戦力を向けさせることも可能となる。
 今回のように敵の頭数が多い場合なら、状況次第ではこの策の成功一つで勝負が決まりかねない。
  
 失敗のリスクもあるが、それでも対価が弱兵六人程度なら行う価値がある戦略だ。

「……確かに。掴んでる情報が多かったので怪しい事この上なかったですが、
国内に伏せられ続けていた戦力を把握していなければただの先走りと判断し、
運良く情報を絞り出せたと考えた可能性が高い……いい勉強になりましたね」

「まあ、あくまでも今ある情報からの推測にすぎんがな。
しかし、当たっていればこの指揮官は相当性質が悪い事になる。
言うは易いが、実際に実行するのはかなり面倒な策だからな」

 海人は、そう言って一際眼を鋭く細める。

 当たっている可能性が高そうだが、あくまでも現状の情報からの推測。
 未だ明らかになっていない情報があり、それで覆される可能性も皆無ではない。

 が、当たっていればこの構図を描いた人間は非常に危険だ。

 この案は、大前提として捨て駒が捨て駒の自覚を持ってはならない。
 僅かでもそんな疑念を抱かれていれば、尋問の際に発覚する恐れがある。
 そして疑念を全て打ち消しておくというのは、非常に大変な作業だ。
 本人達がまるっきり気付かなかったとしても、その情報を伝えた人間が気付けば、
それが呼び水になりかねない。

 それを防ぐには徹底した情報管理が不可欠で、それを実行する為の高い能力も求められる。
 当然、味方を戦略の為に捨て駒に出来る冷徹さも持ち合わせているだろう。

 可能なら、敵に回したくない相手だ。  

「まったくです。流石グラウクス家と言ったところですか」

「……待て、ナーテア教絡みでグラウクス家というと」

「はい。イナテアにおいて代々多くの神官戦士団長を輩出している名家です。
家名の由来に恥じぬよう、幼い頃から文武両道が義務付けられるとか」

「らしいな。本で読んだ程度の知識しかないが、今代の人間も相当優秀なのか?」

「ええ。能力面においては間違いなく手強いでしょう。
武才にやや欠けると言われている長女でさえ、中位ドラゴン三匹を同時に相手取って葬れるようですので。
知略においても、私に最近まで碌に気付かれる事なくここまでの仕込みを行ったのですから、到底侮れません」

「能力面においては、か?」

「ええ。長女は模範的すぎる程のナーテア教徒ですが真面目すぎて融通が利かず、
その両親は逆に傲慢が強く他者の意見をあまり聞き入れないのだとか。
もっとも、これはプロイムスのとある組織から得た情報で、私の手の者が直々に調べたわけではないので、
間違いないとまでは申し上げられませんが……信を置ける情報源ではあります」

「となると、付け入る隙はありそうだな。
しかしグラウクス家か……また大きな相手だな」

 紅茶を一口啜り、天を仰ぐ。

 グラウクス家は、歴史書に載っている程の名門だ。
 代々多くの優秀な神官戦士を輩出し、神官戦士団長に上り詰めた者も珍しくはない。
 単なる神官戦士団長ならそう大騒ぎする程ではないのだが、イナテアの、と付けば話が変わる。

 力と知恵を司る女神を崇める宗教の総本山だけあって、あそこでは神官戦士にも相応の質が求められる。
 武勇に優れていなければ神官戦士団に入団すらできず、どれほど優秀でも武勇のみが取柄では平団員止まり。
 それに優れた知力が加わって初めて出世が望める環境だという。 

 そんな環境において、グラウクス家の者は八割以上が神官戦士団に入り、最低でも師団長まで出世しているのだ。
 そればかりか入団しなかった、あるいは出来なかった者も学者として歴史書に名を残している者が複数いる。
  
 多少人格面に隙があったところで、気を抜いていい相手ではないだろう。
 実際、シェリスの目を掻い潜って仕込みをやってのけているのだから。   

「……その割には、落ち着いていますね?
まるで前々からこんな事態を想定していたかのように」

「まぁ、な……」

 シェリスの問いに、海人は軽く溜息を吐く。

 シェリスの言っている事は、当たっている。
 海人は前々からシリル絡みで厄介事が発生する可能性を考えていた。
 その懸念は彼女との付き合いでどんどん深まり、最近ではほぼ確信だったが、
その始まりとなったのは些細な事。
  
 基本的に真っ正直な人格の彼女が吐いた、小さな嘘だ。

「――――あのシリル嬢が偽名を名乗っている理由なぞ、相当に厄介な内容しか考えられまい」

 海人のぼやきに、護衛二人の表情が驚愕に染まった。
 シェリスはどうやら知らされていなかったらしい二人を一瞥すると、海人の目を見据える。
 
「いつから御存じだったんです?」

「最初からだ。ま、人間抱えるものは多々あるだろうし、深く突っ込むつもりはなかったんだがな。
私にとっては現在の彼女が一番重要なわけだし」

「今は違う、と?」

「……あそこまで冷静さがぶっ飛んだシリル嬢を見ると流石に、な。
それに、彼女から先程調べるのは好きにしろと言われた。
御丁寧に、君なら調べを付けているだろうとも付け加えてな」

 物憂げに、息を吐く。

 普段のシリルなら、この状況に陥った以上自分の口から狙われる理由を語る。
 海人が勝手に首を突っ込んでいるとはいえ、それで納得できるほど器用な性質ではない為、
そうしなければ気が済まないはずだ。

 それをこんな形にしたのは、冷静に語る自信がなかったからだろう。
 最悪、語っている間に再燃した怒りに呑まれ、無謀な特攻を仕掛けかねないのかもしれない。
 
 普段なら一笑に伏す見解だが、そう思わずにはいられない程に先程のシリルは危うかった。
 姿が垣間見えただけで周囲の確認もせず殺意を撒き散らしながら追おうとするなど、普段の彼女ではとても考えられない。

 今回は雫が動いたし、相手も大した事がなかったから実害はなかったが、
はるかに強力な敵を多数用意した場所に誘い込まれていた可能性も十分あったのだ。
 その可能性にあの場で思い至れない程、シリルは馬鹿ではない。

 つまり、普段の知性と理性を発揮出来ない程に我を忘れていた事になる。

 あのシリルの心をそこまでかき乱すほどの事情。
 本人の許可をもらった以上、調べずにはいられない話だ。  

「あの……シリルさんが偽名って……」

 雫が、おずおずと訊ねる。

「そのままの意味だ。おそらく家名はまるっきり違うが、シリルという名は元の名に近いか、
その中に含まれているだろう」

「……よくそこまで分かりますね」

「なに、嘘を見抜く技術の一環だし、大して役に立つわけでもない。
あくまで偽名が分かり、本名との差異が多少読める程度だ。
ま、それでも家名を音が近い偽名にしているぐらいなら見分けられるんだがな?」

 戦慄するシェリスに、海人はなにやら含みのありそうな笑顔を向ける。
 その意味を正確に察したシェリスは、深々と溜息を吐いた。
 
「……十分すぎますよ。是非一度御教授願いたいものですね。
話を戻しますが……そういう事であれば、私の知っている限りの事をお話しましょう。
もっとも、私も全てを知っているわけではありませんが」

「それで十分だ。頼む」

「承知しました。
ではまず彼女の本名ですが――――シリルティア・グラウクス。
既に勘当されてはいますが、今回指揮を執っている一族の次女です」


 

























 ルミナスとシリルは、無事第二部隊の面々と接触を果たしていた。

 ただし、少しばかり予定とは違っている。
 第二部隊はカナールにいたものの、肝心のアンリが出払っていたのだ。
 事情を説明したところ場所は予想がつくのですぐに呼びに行くと言ってくれたが、ただ待つのももどかしいものがあった。

 特に、シリルにとっては。
 意味がない、むしろ害悪と分かっていても、どうにも気が急いてしまう。
 いても立ってもいられない、そんな心境だった。 
 
 そんな彼女に、テリーが頼み事をしてきたのだ。
 もどかしいなら時間潰しを兼ねて、機会があればやるようにとテリー達が言われていたアンリの命令に付き合ってくれと。
 シリルとしても何もせずにいるより気が楽なので、素直にその提案を受け入れた。
 
 そして現在、シリルはカナール付近の森でテリーを始めとした第二部隊の面々四人と対峙していた。

「私の冷静さがどれだけ失われているかのチェック……趣旨はわかりましたが、皆さん本気でやりますの?」

「すんません、命令なもんで」

「いえ、私は構いませんけれど……まあいいでしょう。いつでもどうぞ」

「では、始め!」

「りゃあああああああっ!」

 ルミナスの合図と共に、テリーが真っ先にシリルに斬りかかった。
 その踏み込みの速度は非常に速く、斬撃は鋭い。

「ふっ!」

 シリルは、上段から振り下ろされるテリーの斬撃を剣に当てながら受け流す。
 そのまま相手の懐に潜り込みつつ、相手の腿に膝を叩き込もうとするが、
その瞬間彼女の軸足めがけて槍の柄が払われた。

 が、それを読んでいたかのようにシリルは軸足だけで跳躍し、
ついでとばかりにテリーの側頭部に膝を叩き込んだ。

 凄まじい衝撃にぐらつくテリーだが、この程度で倒れてはエアウォリアーズ第二部隊副隊長は務まらない。
 彼は気合で即座に姿勢を立て直すと、未だ空中にいるシリルに再び剣を振るった。
 それに合わせるように、他の方向からも逃げ場を潰すべく槍、棍、槌が一斉に振るわれる。
 
 攻撃後の僅かな硬直を狙われたシリルの反応は間に合わないかと思われたが、

『んなぁっ!?』

 周囲の驚きの声が、一斉に響き渡った。

 シリルはまずテリーの剣の腹を蹴り飛ばし、その反動で強化した剣撃を槍に叩き込んで押しのけ、
その勢いのまま加速して棍と槌をかわして包囲を突破したのだ。
 言葉にすれば単純だが、僅かでもタイミングが狂えば全ての攻撃が直撃しかねない、途轍もなく高度な技。
 まして、今回攻撃を仕掛けたのは最低でもエアウォリアーズの中堅、テリーにいたっては十位以内に入る実力がある。

 弓兵の近接戦技術としてどころか、最前線に立つ戦士としても卓越している。

「この程度こなせずしてお姉さまの副官は務まりませんわっ!」

 吼えながら、テリー達に向かって駆ける。

 即座にテリー達も構え直し襲い掛かるが、シリルの勢いは止まらない。
 払いにきた槍を足場にして手元まで駆け抜け、顔に向かって前蹴り。
 ギリギリで回避されるが、足の向きを変え肩を踏み台にして軽く跳躍。
 直前までシリルがいた空間を横に薙ぎ払った槌に乗り、その速度を利用して棍使いの女性に向かって飛ぶ。
 あまりの超反応に驚いた女性は咄嗟に最速の突きを放つが、シリルはそれを身を逸らして避けきり、
剣の腹を彼女の頭に叩き込んだ。

 ほぼ無防備に強烈な一撃を受けた女性の体が、ゆっくりと崩れ落ちた。  
 
「ふう……ようやく一人、ですわね」

「いやいやいや! ようやくじゃなくてもう一人だし、そもそも反応速度がおかしいでしょ!?」 

 緊張感を漂わせながら重々しく呟くシリルに、テリーが思わず物申す。

 冗談ではない。
 確かにシリルは副隊長中最強の女性だが、ここまでイカれてはいなかった。
 前回トーナメント形式で戦った際もボロ負けはしたが、その底ぐらいは見えたのだ。
 その後ケルヴィンに勝ったとも聞いたが、相性を考えればありえない話でもなく、
成長も常識的な範囲だろうと思っていたのだ。
  
 それが、まるで違った。
 うっすらと汗を掻き、表情に疲労が滲み出ているので絶望する程ではないが、
どこからどう打ちこんだところで、攻撃が当たる気がしないのだ。

 そもそも先程からの連携はエアウォリアーズの隊長級の戦士単独を相手取れるよう考え磨いたものであり、
あれをああもあっさり破られてしまったとなると他が通じるとは思えない。 

「それは誤解ですわ。単なる反応速度任せなら私もあんな芸当はできませんもの」

「現実にやってんじゃないですか!」

「貴方方の構えと立ち位置と視線と足の動きから動きを推測したからですわ。
予測が外れる可能性もありましたし、思った以上に攻撃が速くてかなりギリギリになりましたもの。
誇れるほどの芸当ではありませんわね」

『十分化物ですっ!』

 しれっとのたまうシリルに、一斉に反論する。

 相手の挙動からの攻撃予測、それ自体は珍しくない。
 技術の練度に差はあれど、一定レベル以上の戦士なら誰もがやっている事だ。

 が、シリルの言を信じるなら、彼女のそれは次元が違う。
 仮にテリーが己の予測を全面的に信頼し、それに従って体を動かしたとしても最初の集中攻撃で潰される。
 一瞬のタイミングのズレ、ほんの僅かな軌道のズレ、あの連携の前ではそんな物が命取りになるのだ。
 
 正直、テリー達としては未来予知と言われた方がまだ納得できる。
 
「まあ、いずれにせよ無駄話はここまでです。
あの程度の打撃ではすぐに起きてしまうでしょうし、時間稼ぎに付き合って差し上げるつもりはありませんわ」 

 不敵に笑って剣を構えたシリルを前に、テリー達の背を冷や汗が伝った。

 どれぐらい平常心を保てているかのチェックだったはずだが、明らかに冷静だ。
 無論彼女にとっての怨敵と遭遇しているわけではないので安心はできないが、
ほぼ臨戦態勢となっているはずの現状でこれなら、交戦時もある程度は期待できるだろう。

 が、それは今シリルに自分達がボッコボコにされるのとほぼ同義。
 残念ながら、彼らはアンリから腕試しも兼ねて降参厳禁と言われているのだ。  

 半ば諦観が混じった思いで、テリー達はシリルに再び襲い掛かった。
 せめて足掻けるだけ足掻こう、そんな心持ちで。

 そんな激戦を離れた所で眺めていたルミナスは、ふと背後に視線を向けた。

「……アンリ、いるわね?」

「ういっす。よくお気付きで」

 ルミナスの後方にある木の背後から、ひょっこり顔を出すアンリ。
 その表情には、軽い称賛が浮かんでいた。

「イナテアの連中が絡んできたせいで、警戒が強まってるだけよ。
んで、あんたはあれどう見る?」

「杞憂だった、とはとても言えないっすけど、代わりに素晴らしい朗報があるってとこっすかね」

 シリルと部下達の戦いを見て、アンリは笑みを零す。

 心配が杞憂だった、とは言えない。
 予想よりははるかにマシだったが、それでも良くはないのだ。
 僅かではあるが、動きに普段のシリルには見られない荒さがある。
 おそらくイナテアの、特に見知った顔と接触すれば一気に溜め込んでいる感情が噴き出してしまうはずだ。
 
 が、朗報もあった。

 シリルの動きに、以前にはなかった特徴が出始めているのだ。
 彼女の事情を深く知る者達が、長らく待ち望んでいたものが。

 今回の件は不本意な事が重なっているが、それと合わせれば千載一遇の好機になる。
 全面的なものではないが、シェリスの協力も取り付けられた為、安全もある程度確保できているのだから、
結果としては良い方向に転びそうだ。

 無論、到底油断できる相手ではないが。 
   
「そっか……良かった。あんたが言うなら、私の気のせいじゃないみたいね」

「一応物は準備してあるんで、必要になりそうならいつでも言ってください」

「ありがと。でも、そっちは使わないと思うわ」

「へ? こう言っちゃなんですが、かなりの名品っすよ?」

「元々、名品自体はあんのよ。必要なのは、むしろそれ以外の要素。
んで、それを加えられる奴に頼んであるわけ」 
  
「……なるほど。ま、とっときますんでその後必要なら言ってください。さっきも言いましたけど、物は良いんで。
それと、さっきシリルさんが狙われたって聞いたんっすけど、詳しい状況聞いても良いっすか?」

「ええ、私はその場にいたわけじゃないんだけど……」

 ルミナスは、アンリに雫から聞いた情報全てを語り始めた。
 シリルが狙われた状況、敵の戦力、それら全てを。  
 
「……この状況でその先走り……ああ、そうか。
流石グラウクス家。かなり性格悪いっすねぇ」

「何か分かったの?」

「多分捨て駒っすよ。こっちに偽情報掴ませる為の、ね。
残った人間が自爆かましたのは、多分生き残らせる予定だった人間は他にいたんだと思うっす」

「……そこまでやる?」

「やるっしょ、その程度。シリルさんのお兄さんの事を考えりゃ」

「そうね……あんな事平気でやる連中なら、捨て駒ぐらい平気で使うか」

 平然と答えたアンリに、ルミナスは思わず天を仰いだ。
  













 














 シェリスは紅茶で喉を軽く湿らせると、おもむろに話を続けた。

「グラウクス家には、かつて非常に優れた男性がいました。 
武勇においては個人で千の兵を薙ぎ払い、知力においては学者も参謀も舌を巻き、
性格も優しく温厚でありながら決断力に優れ、多くの人を惹きつけたといいます。
それを裏付けるかのように、競争の激しいイナテア神官戦士団において最年少で騎士団長に就任した時も、
異論が出なかったそうです。名は、ゼオード・グラウクス。シリルさんのお兄様に当たります」

「……かつて、という事は」

「ええ、既に亡くなっています。
ある戦場で膠着状態に陥ったところで敵指揮官からの一騎討ちに応じたようですが、
ギリギリの仕合の果てに槍で相手の心臓を貫いたものの、自分も相手の槍に腹を貫かれ亡くなったそうです。
両軍共に副官が指揮を継ぎましたが、名勝負を繰り広げた英雄二人を弔う為、その場は痛み分けという事で決着が着きました。
シリルさんのお兄様の御遺体は、迅速にイナテアに戻れる事になったわけです」

「……問題はその後、か」

「ええ。『梟の神子』という言葉は御存じですか?」

「ああ、ナーテア教のでっち上げプロパガンダだろう?」

「……でっち上げ、と断言できるんですか?」

「ここの図書室で読んだ本からすればな。
あそこで読んだかぎり、ナーテア教の古い教典だと現代のとは違いそれほど細かい事は書いていない。
大雑把にまとめてしまえば、女神を崇める者として不条理に晒された弱者を救済せよ、
教徒の力と知恵は女神が与えてくれたものなので感謝を忘れず日に一度祈りを捧げよ、
争いこそ世界の正しい姿とし血と殺戮を神命とするスーレア教を滅ぼせ。この程度だ。
梟についても記されているが、ナーテアの使いである梟が天災の訪れを知らせてくれるというだけだぞ。
どこをどうすれば、ナーテアの使いたる梟が選んだ人間に力を与えるなんて話に繋がる。
大方、七代目教皇が当時落ちていた権威浮揚の案として考えたんだろう」

 言い終えると同時に、海人はふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす。

 宗教というのは時を経て変化しやすいものだが、ナーテア教のはそれを踏まえても大きすぎる。
 古い、それこそ起源に近い教典の内容はいたってシンプルで、内容のほとんどが平和的。
 記述の大半は、力があるなら困ってる人を助けてあげましょうとまとめてもよさそうなぐらいだ。 
 例外がスーレア教絡みの記述だが、それについては当時幅を利かせていたスーレア教徒の所業を考えれば無理もないとも言える。
 極論、毎日強盗を働く人間は賄賂を渡されてもちゃんと処刑しましょう、ぐらいに要約して問題がないレベルだったのだ。
 
 なのだが、時代が進めば進むほど歪みが酷くなっていく。
 神話の曲解程度ならまだ可愛いもので、古い教典には影も形もない記述なども多く存在する。
 
 例えば、教皇や枢機卿などの地位だ。
 古い教典では教徒は等しくナーテアの愛し子とされ、そこに優劣はないとされていた。
 それが現代では教皇を始めとした他の信者に対して無闇に強い命令権を持った存在が公認されている。
 
 《梟の神子》もその一種だ。

 確かに古い教典でも梟はナーテアの使いとされ、人の世に訪れる事があるとされているが、その役目は助言。
 それも人の力ではどうにもならない洪水や竜巻などの災害などを、前もってその近隣の人々に知らせてくれるというもの。
 どこをどう曲解しても選んだ人間に超常の力を与え、人々を救済するなどという話にはならないはずだが、
現代ではナーテア教徒に広く信じられているという。
 
 一応これらは公式には当時現存していた最古の教典よりもさらに古い教典が見つかり、
そこに記されていたという事になっているが、その根拠となる教典とやらがあるのはイナテアの教皇庁の地下最深部に一冊のみ。
しかも、歴代教皇以外誰も見た事がなく、これまで多くの名立たる学者が厳重な監視と検査の元での閲覧を懇願したが、
一度たりとも受け入れられていないという。

 教典に記述が追加された当時の状況などを加味すると、
もはや後付どころか単なるでっち上げにしか思えない、というのが海人の見解であった。   
  
「同感ですね。
まあ、それでも認定を死後だけにすれば問題もあまり起きないのでしょうが、
シリルさんのお兄様が優秀すぎたのが仇になりました。亡くなる少し前に認定が内々に確定しており、
それは公になっていなかっただけでイナテア中で知られていた、それが最悪の結果を生んだんです」

「む……? おい、まさか……」

 シェリスの言葉に一瞬怪訝そうな顔をした海人だったが、すぐにその意味を察した。

 《梟の神子》はナーテア教においてほぼ神格化されている。
 それが戦場で殺されたなど、現在のナーテア教信仰の土台を揺るがしかねない。
 シェリスの言葉からすれば誰もがその称号に相応しい者と思っていたのだろうから、尚更だ。
 公式に認定されていなかったところで、認定が事実上決まっていたと誰もが知っていれば同じ事である。

 そして、そうなった時に権力者がやる事など、決まりきっている。 

「ええ。御察しの通り――――彼は死後、全ての名誉を剥奪されました。
それも、イナテアに隠れ潜んでいたスーレア教徒に仕立て上げられて。
なんでも教皇や枢機卿は彼がスーレア教徒である事を見抜いていたけれど、他の教徒には見抜けなかった。
ゆえに《梟の神子》認定の噂を流し、それを確かなものとすべく新たな戦場で功績を上げようとするよう差し向けた。
すると彼はやはり自ら過酷な戦場へ赴く事を志願し、そこで殺戮を楽しむスーレア教徒の本性を見せたが、
所詮は悪しきスーレア教徒、あえなく討ち死にした、と。
その時彼と対峙した敵軍は彼を敵ながら敬うべき強く気高い戦士であったと誰もが言っているのに、
こんな話が通じるなんて、実に不思議な話だと思いません?」

「……異教徒の言う事など信に値しない、という事じゃないか?
かつてのナーテア教ならともかく、現代なら十分ありそうだ」

「そのようですね。さらに言えば、グラウクス家の彼の部屋からは彼がスーレア教徒であった証拠品が数多く出てきたんだそうです。
なんでも両親が息子の部屋でその死を悼んでいたところ、偶然発見したのだとか。
そしてそれを教皇に提出し、いかなる裁きでも受けると申し出た所、知らずにいた家族に罪はないと赦免されたそうです。
情報によると、元々両親は子供を家名を高める道具程度にしか思ってなかったようなんですけどね。
遺骸を見た瞬間、唾を吐きかけたなんて話もあるそうですし」

「……それはシリル嬢もさぞ怒り狂っただろうな。
だか、少し腑に落ちんな。正直、それでも今のシリル嬢があそこまで冷静さを失うとは思えん。
いや、それだけその兄を慕っていたという事なのかもしれんが……」

「ええ、それだけならば。おそらくですが、シリルさんが起こした事件の時に何かがあったのでしょう。
なにしろ――――教会で民間人二十人と神官戦士十二人を殺害、さらにその場にいた自分の家族に重傷を負わせて火を放ったようですから」

 シェリスがさらっと放った言葉に、海人達主従は思わず息を呑んだ。

 神官戦士やシリルの家族はともかく、民間人。
 普通に考えれば、力を持たない人間だ。
 それを、あのシリルが二十人も殺害した。
 
 何の理由もなかったなど、ありえない。
 イナテアの人間に激しい憎悪を燃やしている事からしても、余程の事があったのだろう。
  
「…………何があったと思う?」

「そこまでは分かりません。その件については情報統制が厳しく、今言った情報以外碌な情報が出てこなかったんです」

「そうか……しかし、まだ解せん事があるな」

「なぜそこまでやって公的に背神者として扱われていないのか、ですか?」

「ああ。放置するつもりならともかく、命を狙っているならその方が効率が良いはずだ」

「おそらくですが、教会の権威失墜を恐れたのでしょう。
シリルさんのお兄様を貶め、教会の権威を守る事には成功したものの、
その直後にたかだか小娘一人にそれだけの被害を出したとなれば、再び疑念が生まれます。
それにグラウクス家は代々優秀な人間を派出してきた名家ですし、
そこが二人も背神者を出した、などという事態になれば他の名家も、とやはり疑念が生まれかねません。
それはどこも避けたかったのでしょう」

「…………碌でもないな、本当に」

 どこまでも救い難い話に、海人は思わず頭を抱えた。 


















 たっぷり五分ほど沈黙した後、海人は気分を切り替えるように口を開いた。 

「……色々と参考になった、ありがとう」

「いえいえ。それに、少し気が早いですよ。まだ一つ大きな情報があります」

「一つなら、多分私が知っている情報だな。
意外性はあるが、シリル嬢がグラウクス家出身という事を踏まえれば予想は可能な話だろう?
そして先程言ったのとは別の疑問、かなり昔なはずのあの話で生じるそれを解消する話でもある、違うか?」

 思わせぶりな態度のシェリスを真っ直ぐ見据え、確認する。
 自分の知っている情報で間違いない、そう確信はしつつも。

「……なるほど、御存じのようですね。なら、私が渡せる情報は以上です」

「そうか……改めて礼を言わせてもらおう。それと、これは今回の助力分の対価だ。
おそらく、シリル嬢の情報を加えても十分に見合う価値があると思う」

 そう言って、海人はここに来る途中に創造魔法で作った本を差し出す。
 シェリスはそれに一瞥もくれる事無く、困ったように笑った。

「これまで散々助けられてますし、そろそろ借りを返したいんですが?」

「ま、とりあえず表紙を見てから決めてくれ」

「見てからと言われ、て、も……!?」

 海人から差し出された物を見たシェリスは、思わず絶句してしまう。

 本当は、今回海人から対価を受け取るつもりはなかった。
 これまで彼がしてくれた協力は、どれもシェリスにとって多大な利益をもたらしているが、
それに対し支払っている対価は少ないと言わざるをえない。

 特に大きいのは、ルクガイアの残党狩りの協力。
 彼は勝手にやった事と一切の対価を求めなかったが、
その働きは本来なら多大な褒章を用意すべきものだった。
 
 確かにあれは彼が勝手にやった事であり、貴族としてのシェリスは恩に着るべきではないのかもしれない。
 資金や資産が無尽蔵に存在しない以上、その節約は貴族としての義務でもある。

 恩賞を一切不要と断言し、かつそれを恩に着せない。
 そんな都合の良い男の厚意は利用すべきなのだろう。

 だが、それは同時にシェリスの貴族としての矜持をいたく傷つける。
 
 能力はどうあれ、この国に住まい税を納めている海人は本来シェリスの庇護対象だ。 
 庇護を与える対価に税を受け取っている貴族が、守るどころか守られて素直に喜んでいいはずがない。
 むしろそんな事をさせてしまう己の無力を反省すべきだろう。

 ゆえに、今回は彼から対価を得ずに力を貸し、これまでの借りの返済という事にするつもりだった。
 それでも足りぬぐらいの働きを、海人はしているのだから。  

 しかし、今差し出された対価はシェリスが喉から手が出る程に求めていた物。

 これを貰える機会を逃すなど、これまた貴族としてあってはならない。
 しかもそれで不利益を被るのは、シェリス以上に彼女が守るべき国民だ。
 これによってもたらされる利益を逃す事もだが、将来的に出る死者を防げない可能性がある。
 
 己の矜持の板挟みにあったシェリスが硬直していると、海人が悪戯っぽく笑う。
 
「遠慮するな。ずっと欲しかった物だろう?
今回、君にとってはかなりの譲歩をしてもらってるだろうし、この程度なら安いものだ」

 言いながら、海人はそれをシェリスの胸元に軽く放り投げる。

 ――――新型の肺死病の特効薬が記された書籍を。 

「くっ……そ、そもそもあの時、製法は教えられないと……!」

「教えられる内容に作りかえた。ちなみに、念の為数十人程度だが人体実験も行っている。
あ、勿論実験に使ったのは私に絡んできた連中だけだからな」

「つくづく徹底してますね、まった……く?」

「どうした?」

「……数十人も、都合よく発症者がいたはずありませんよね?
しかも、絡んできたという事は年齢もそれなりに高い、少なくとも幼児ではないはずです」

「その通りだ」

「つまり、カイトさんは病の原因を既に突き止め、自由に発症させる事さえ可能にしている、と?」

「実質、相手を洗脳状態に置くのが最低条件だがな。
なにせ、初期状態なら普通は肉体強化であっさり完治してしまう」

 事もなげに、海人は答える。

 肺死病は発症すれば恐ろしい病だが、初期状態なら大概は肉体強化で完治する病でもある。
 例外は子供や虚弱体質の人間、あるいは魔力を使い果たして昏睡に陥った人間ぐらいだ。

 ゆえに、人為的に発症させるなら実質洗脳下に置いて肉体強化を解かせる必要がある。

 今回の場合では、洗脳するついでに発症させる為の細菌を体内に大量注入し、
一人だけ注入しなかった人間に暗示をかけ、発症させた人間の世話をさせつつ、経過観察日誌を書かせた。

「……その分も上乗せで対価を支払いますので、そちらも教えてください。病の原因を断てるなら―――」

「断る。ついでに言えば原因を完全に断つ事は実質不可能だから、気にするだけ無駄だ」

「試すまでもない、と?」

「ああ。それが出来る可能性よりは、肉体強化しない君が全力で殺しにかかってくるローラ女士を秒殺できる可能性の方がまだ高い」

「……はあ、分かりました。ですが、やはりこれまでの貴方の貢献を考えれば、負債が大きくなりすぎます。
せめて多少なりともお金ぐらいは払わせていただけませんか?」

「だから不要……あ、ちょっと待った。そういえば一つ頼み事があったのを忘れてた」

「頼み事? これはまた珍しいですね」

「ま、折角なんでな。例の音楽狂三人組とやらだが、演奏の腕は確かか?」

「はい、演奏技術において彼女らの上を探すのは私でも手間です。
レパートリーも幅広い為、流れの吟遊詩人から王宮の楽士までなんでもこなせます」

 海人の問いに、シェリスは自信満々に答える。

 コグラスト三姉妹は筋金入りの音楽狂だが、それだけに演奏技術は確かだ。
 音楽家として潜り込ませる分には、どこに潜入してもまずバレない程。
 それどころか、全力で演奏すると潜伏先でほぼ確実にスカウトされる。

 問題児ではあるのだが、優秀な音楽家であるのもまた事実だった。

「それは素晴らしい。では、この件が終わったら私の屋敷で演奏を頼みたい。
日取りは状況によって変わるんだが……」

「あらかじめ分かっていれば、いつでも出れるように予定を組む事は可能です。
能力的には頼もしいので多少痛手ですが、カイトさんの頼みであれば目をつむりましょう」

「助かる……いや待て。ひょっとするとエアウォリアーズの面々も招待せにゃならんから料理の人手も必要か……?」

「エアウォリアーズを招待? なんでそんな事……あっ! そういう事ですか!」

 ここにきて、ようやくシェリスは海人の考えている事に気付いた。
 
 そして、この頼みが海人にとってとても大事な事にも気付く。
 シェリスとしてはまだ安すぎるが、彼は確実に恩に感じてくれるだろう。

 ならば、それをより盛り上げる為、シェリスとしても協力は惜しめない。

「であれば、スカーレット達も動かせるように手配しておきましょう。
なんでしたら、この屋敷を会場にしても構いませんよ?」

「いや、気持ちはありがたいが会場についてはお断りする。
私が準備している企画の関係上、私の屋敷の方が適切なんでな」

「準備している企画?」

「ああ、ちょっとな。もし暇があれば、君らも来るといい。見て損はないと思う。
もっとも、技術の提供は勿論、定期的な催しもするつもりもないんで実利はないと思うがな。
ただ、君やローラ女士の時ならやっても構わん」

「……詳しくは秘密、ですか?」

「そうしたいんだが……念の為話を通しておかんといらん混乱を招きかねんからな。
そうだな……ローラ女士、ちょっと耳を貸してくれ」

 言うと、海人はローラを手招きした。
 
 ローラは軽く頷くと海人の所へ歩み寄り、遮音魔法をかけて海人に耳を近づける。
 彼女は海人の話が進む度小さく頷き、彼の話が終わると逆に耳打ちを始めた。
 それを聞いた海人が再び耳打ちを返し、といったやりとりを幾度か繰り返したところで、
ローラが遮音魔法を解除した。

 そして、ローラはゆっくりとシェリスに向き直る。

「シェリス様、非常に面白そうな催しですので時間を作った方がよろしいかと」

「……中身は問題なかったの?」

「問題がないわけではありませんが、あそこならそう大きな問題にはならないでしょう。
ルクガイアとの国境も無くなった事ですし」

「……詳細は?」

「秘密です。ですが、当日まで知らない方がよろしいかと。
言葉の上でとはいえ、あらかじめ分かっていては感動が半減してしまうでしょう」

「悪いな。流石に内容が内容なだけに、確認取らんわけにはいかんからな」

「分かっております。それに、カイト様の事ですから半減してなお素晴らしい感動を与えて下さると期待しております」

「くっく、そこまで期待されては張りきらざるをえんな。
ま、時間制限つきが重なるがせいぜい頑張るとしよう」

 どこか挑むようなローラの言葉に、海人は不敵な笑みを返した。

 
コメント

いやぁ~宗教は恐ろしいですねぇ。ここまででっちあげの話を鵜呑みにして今までの全てを覆すような事を平気でするんですから。そして、まだまだ裏がありそうな状況ですね。
後、今後の話次第ではシリルが海人に関する戦いに参戦しそうですね(笑)

追伸
しゃぶしゃぶネタはいかがでしょうか?
[2016/08/22 08:21] URL | コスモ #Y2SfxCmk [ 編集 ]

誤字報告
> 弓兵の近接戦技術としてどころか、最前線に立つ戦士とレベルだったとしても卓越している。

> 弓兵の近接戦技術としてどころか、最前線に立つ戦士だったとしても卓越している。
の間違いかな?
[2016/08/22 09:50] URL | 名無し #4ph23zis [ 編集 ]


待ってました。
更新お疲れ様です
[2016/08/23 01:33] URL | #- [ 編集 ]


一気に話動いてきたかな? あと最近個人的に関心あるせいか、なんかシェリスにとってカイトはクレジットカードみたいな存在なのかもと過った
(精神的矜持的)利用可能額はとっくに振り切りまくってるのに尚延々とバカスカと向こうから実質無利子無催促で貸しまくってきてもう頼むから返済させてくれと涙目になってるような(自分でも何いってるかわからんくなってきた)

どうでもいいけど宗教系が敵だと至極単調且つつまらなくなりがちって認識だから大丈夫かな~と思わなくもなかったり。※我々は正義! 悪魔めタヒね! みたいなのばっかり(敵として最もつまらないタイプ)なイメージ
[2016/08/24 03:38] URL | #- [ 編集 ]


エアウォリアーズが、足手まといになりそうだったけどアンリのせいでチート級スキルに制限がかかって連中を殺しきれるか怪しくなってきましたね。 
 
それにしても話を聞いた限り国ごと腐っているみたいで攻めてきた下っ端を全滅させてもたいした意味がなさそうですね。

それと疑問なのが、仮にも人間不信だった海人が民間人二十人と神官戦士十二人を殺害、さらにその場にいた家族に重傷を負わせてだなんて大本営放送を信じて民間人がいたなんて判断しているのが正直平和ボケしすぎで正気を疑いますね。
一般的に考えてそういった国家の場合南京大虐殺みたいな事件そのものがでっち上げだったか尖閣諸島の一件みたいに民間人とは名ばかりの軍と一体となった連中なのだから皆殺しにしたと聞いたところでむしろ当たり前のことだと思いますね。


正直連中が腐りきっていて蹂躙が待ちきれないのでさっさと国ごと皆殺しにしてくれないかなって気分ですね。
ということで早く戦闘シーンをみたくて待ち遠しいですね。
[2016/08/28 19:13] URL | シャオ #xDU5tAck [ 編集 ]

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[2016/08/31 06:15] | # [ 編集 ]


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