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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
番外編セット17


 番外編81



 ジグソーパズル、というパズルがある。
 一枚の絵を複数の小片に分けた物を組み立て直すという物だ。
 海人の世界では一般的だが、印刷技術も未熟なこの世界ではまだ存在していない。
 
 そんな珍しい遊びに、雫は夢中になっていた。

「よしっ! これで完成~~~♪」 

 組み上げた絵を見て歓声を上げる雫。

 絵の題材は、海岸。
 輝かんばかりに美しい砂浜、そこに打ち寄せる波、そして遠くに沈んでいく夕日、
と構図自体はシンプルだが、不思議と人の心を惹きつける雰囲気がある。
 名画には程遠いまでも、部屋に飾ってあれば少しばかり箔が付く、そんな絵だ。

 が、雫が喜んでいるのは組み上がった絵の美しさではなく、
計2000ものピースを組み立て終えたという、達成感によるもの。
 同じようなピースばかりで判別がし辛かった為、
完成した時の喜びが一際大きくなったのである。

「かなり慣れてきたようだな。
随分早く組み上げられるようになったじゃないか」

 海人は完成したパズルの表面に糊を塗りながら、雫を軽く褒めた。

 最初は300ピースもそこそこ苦戦していた雫だが、  
徐々に組み上げる速度が速くなっていき、今や1000ピースでも物足りないとのたまうレベルに達している。
 ならばとこの2000ピースに挑戦させてみたのだが、時間はかかったものの比較的すんなり完成させていた。  

 海人から見ても、なかなかの上達具合である。 

「ふっふっふ、どんなにピースが多くても基本は一緒です。
一番外側からじわじわと侵食していくかのように組み上げていけば、そんなに難しくはないんですよ。
ま、お姉ちゃんはそうもいかないみたいですけどねー」

 けっけっけ、と意地悪気に笑いながら、海人の背後に視線を向ける。


 そこには、難しい顔で唸りながらパズルを組み上げている刹那の姿があった。
 雫はパズルをやっている間中上機嫌だったのだが、それとは対照的である。
 
「あれに関しては仕方あるまい。
刹那は始めたばかりだし、そもそもあれは普通のパズルよりかなり難度が高い、
というか君の言ってる基本すらあまり意味がない状態だぞ?」

 雫の言葉に、軽く肩を竦めながら反論する海人。
 
 刹那が梃子摺るのは当然と言えば当然だ。
 なにせ、彼女は一昨日妹に触発されて試しにやり始めたばかり。
 ここしばらく連日パズルに熱中している雫とは圧倒的に経験値が違う。
 
 が、それでも普通の300ピースならばとうに完成させていただろう。 
 彼女は間抜けなところはあるが決して馬鹿ではなく、むしろ頭が回る方だ。
 初体験とはいえ300ピース程度のパズルなら、未だに完成していないはずはない。 

 とはいえ、本来刹那のやっているパズルは、取り立てて難しいわけではない。
 ピースは少なく絵柄もピースごとに特徴が出やすい、比較的組み立てやすい物。
 難度的には、集中して組み立てられれば子供でも一日で完成させられる程度なのだ。   

 が、今刹那がやっているパズルの難度は本来のそれとは比較にならない。
 
「確かにそうなんですけどねー。つーかなんで諦めないんですかねー。
あんなの最早遊びじゃなくて精神修業の域じゃないですか」

 呆れ混じりに肩を竦めながら、奮闘する姉を見つめる雫。

 事の発端は、刹那がパズルを始める前、海人がぽろっと零した一言。
 これは改造さえしなければ入門には丁度良い難度。
 彼は、そう言ったのだ。

 その言葉に興味を引かれた刹那がどういう意味か訊ねると、
かつて海人は通常難度ではすぐに物足りなくなり、自分で難度を上げていたという返答が返ってきた。

 そして、珍しく冒険心を発揮してしまった刹那がその仕様でやってみたいといい、
海人がそれを受け入れてしまった事で現状がある。

 もっとも、これで刹那を浅慮というのは少々気の毒な話だ。
 いかな海人仕様とはいえ、十にも満たない時にやっていた物と聞かされれば、挑戦心が出てしまうのも無理はない。
 向上心の強い刹那ならば尚の事である。

 が――――雫であれば、あのパズルを見せられた段階で即座に降参しただろう。

 あれに比べると、今しがた組み上げ終えた2000ピースはまだ楽に見える。
 それほどに、刹那が組み立てようとしているパズルは難度が高いのだ。

 なにせ、刹那がやっているのは元は300ピースだが、実際は1200ピースになっている。
 それも元のピースを全て2本の直線で4分割してから混ぜているため、
元の1ピースを作るのも一苦労という鬼畜仕様だ。
 元の難度が低いので時間をかければ決して不可能だとは思わないが、断じてやりたいとは思わない。 

「……いやまあ、確かに初心者があれは無謀だと思うが、
あれで精神修業となると、結局あれでも物足りずさらに難度を上げたパズルを作って遊んだ私はどうなるんだ?」  
 
「あれ? あたし、人間の場合の話してるんですよ?」
 
「さらっと酷いな!?」

 可愛らしい笑顔で小首を傾げる雫に抗議する海人。
 が、雫はそんな怪人の寝言など聞こえなかったかのように話を続けた。

「でも、あれより難度上げるってどうやったんです?」

 ついに自慢の黒髪を掻きむしり始めた姉を眺めながら訊ねる雫。

 ピースの分割は単純だが、難度の上昇具合は尋常ではない。
 あの4分割より難度を上げるとなると、雫もすぐには分割数を多くするぐらいしか思いつかないが、
この歩く出鱈目とも呼ぶべき主がそんな芸のない事をするとは考えにくい。

 どんな答えが返ってくるか興味深く思いながら待っていると、 

「……別に、大した事はしとらん。
というか、さらに酷い事言われそうだから言いたくない」

 ぷい、と海人はそっぽを向いて答えを拒んだ。
 その不貞腐れたような表情はどこか子供っぽく、妙な愛嬌がある。

「もう、しょーがないなぁ……大丈夫ですよ。
どんなに常識外れで出鱈目でイカレた発言が飛び出してきても、
あたしは一言で割り切れる究極の言葉を知っています。
たった一言耐えるだけでオッケーです」

 聞き分けのない子供に言い聞かせるように、優しく語りかける雫。
 そんな彼女に半眼を向け、海人は静かに言葉を返す。

「そこはせめて、口には出さないと言うべきじゃないか?」

「いやー、やっぱ一言ぐらい口に出さないと精神的に良くないですし」

「……別にいいがな。単に絵を均一に黒で塗り潰しただけだ」

「ぶっ!?」

 事もなげに放たれた言葉に、雫は思わず噴き出した。

 絵は、パズルを組み立てる上で必須と言っても差し支えないヒント。
 分かり辛い物でも色の濃淡などを元にどの部分か見当をつける事が出来る、極めて重要な手がかりだ。
 それを真っ黒に塗りつぶしたという事は、分割されたピースの形状のみを頼りに組み立てたという事になる。
 
 もはや、人間業ではない。

「ち、ちなみに所用時間は……?」

「さて、5000ピースを改造したやつで丸一日ぐらいだった気がするが……記憶が曖昧だな」

 記憶を探り、途中であっさり諦める海人。  

 ジグソーパズルに関しての記憶は、かなり曖昧だった。
 最初は楽しんでいたのだが上達していくにつれ飽き始め、
最終的に全てのピースを表にして並べ、それを高い所から見下ろしてから組み立て始めるという手法を思いついたところで、
飽きが一気に加速した。
 なにしろ、海人の場合それをするだけで組み立て手順は決まり、後はその通りに動いていくだけなのだ。
 
 そして最後の抵抗として難度を上げる為絵を塗りつぶした物を組み立てた時、本格的に飽きた。
 難度は上がったものの、海人にしてみればそれほどでもなく、
また真っ黒なだけの絵を組み立てるのは想像以上に味気なかった為である。

「流石とゆーかなんとゆーか……出鱈目だなぁ」

「やれやれ……別にいいが、一言で割り切るとか言ってなかったか?」

「おっと失礼しました。それじゃ、一言で割り切っちゃいます。
きっと、海人さんをよく知る人間だったら全員賛同してくれる言葉です」

 むん、と自信満々に胸を張り、雫は軽く息を吸い込む。

 その時ふと、刹那の表情が視界に入った。
 気合と根性で初心者には断じて向かないパズルに挑み続けた女性の目は、虚ろになっている。
 実を言えば今日何度も似たような表情を目にしているのだが、今まではすぐに正気に返っていた。
 しかし今回は、ふーらふーらと頭が船を漕ぎ続けている。 

 もう限界だなー、などと暢気に思いつつ、雫は海人と付き合う上で必須の言葉を口にした。

「海人さんだからしょーがない」

 雫が単純にして明快な諦観の言葉を口にしたと同時――――刹那がパタンと力尽きたように倒れた。





 番外編82




 シリルは、海人に対し憤慨していた。
 
 先程からディルステインで連敗を続けている事に、ではない。
 初めてやるという人間に初戦から敗北を喫し、その後も負け続けな事は腹立たしいが、
それ自体は己の無力が悪いと割り切れる。
 負けず嫌いは自覚しているが、それでもその程度の器量は持ち合わせているのだ。

 問題は、今眼前で思案している男の様子。

 普段の尊大さが滲むそれではなく、やや余裕に欠ける面持ち。
 真剣にこの勝負に臨んでいる事がありありと分かる表情だ。
 明らかな格下相手にもかかわらず気を抜いていない証拠である。
 
 ――――数分前まではシリルもそう評し、感心さえしていた。
 
 が、よくよく観察してみれば所々様子がおかしい。
 
 まず、駒に伸ばす手の動きに僅かな淀みが生じた時、海人はほぼ確実に悪手を打っていた。
 明白なミスと分かる類のものではなく後々地味に響いてくる類で、
ハイレベルな指し手でなければ気付けない程度のものだが、偶然にしては回数が多すぎる。
 
 これが他の相手なら、精神的な脆さで迷いが生じると能力が低下するのだろうと考えたかもしれないが、
相手は他ならぬ海人。
 脆弱な身であのローラを真正面から罵倒し、その恐ろしさを知った後も自然体を崩さないという、
筋金入りに肝が座っている男だ。
 それが、命を取られるわけでもないこんなお遊びで動じるはずがない。
 
 加えて、時折こちらに向ける視線。

 最初は顔色から感情を読み、思考を探ろうとしているのだと思ったが、
注意深く見ているとそうではない事が分かる。
 
 というのも、シリルが駒を動かす時にはまるで気にした様子が見当たらないのに、
海人が動かした時に限って時折視線がほんの僅かに鋭くなっているのだ。
 まるで、気になるのは自分の手にシリルがどう反応するかだけと言わんばかりに。
  
 止めは、これまでの結果。
 十戦して十連敗。一見、容赦がないように聞こえるだろう。
 実際海人の駒は遠慮の欠片もなく叩き潰しに来ている。
 ルールさえ知らなかった人間に熟練者が連敗する屈辱感なぞ知った事か、
そんな幻聴が聞こえてきそうな程に。

 にもかかわらず――――今までの連敗でシリルは一度も戦意を挫かれていない。

 例えば、初戦の敗北。
 若干大きく負けたが、前半でルールも知らない初心者と侮っていた為もあると受け入れられた。
 むしろ遊戯とはいえ己の慢心を戒める良い機会だったと思えた程だ。
 
 それ以降も負けはしたものの、ある程度善戦を続けた末の敗北。
 それも全てどの時点でどの手を打っていれば、と自分で気付ける程度の差で、着実に腕が上げられていた。
 およそ理想的と言っても差し支えない、良い負け方だ。
 それが毎回など、とても偶然とは考えにくい。
 
 ここまで揃えば、答えは一つしか考えられない。

「―――――カイトさん、貴方相当手加減してますわね?」

「何の事だ?」

 シリルの唐突な問いに、海人は不思議そうに首を傾げた。
 その表情に、動揺は一切見当たらない。

「とぼけなくとも結構ですわ。おそらく本来貴方はもっとあっさり私を叩き潰せるのでしょう。
それを、私のプライドを傷つけぬ程度の負け方に抑えている……違いますの?」

「はっはっは、過大評価は嬉しいが―――この私がそんな慈愛に満ち溢れた事をすると思うか?」

「思いますわね。貴方、変なところで甘いですもの」

 小馬鹿にしたような海人の態度に眉を顰める事もなく、シリルは静かな言葉を返した。

 海人という男は、性悪だ。
 人をおちょくる事とからかう事が趣味と言っても差し支えない程に。
 実際同居して以来幾度となくその被害を受けているので、誰に問われても自信をもって断言できる。
 
 が、この男その割には変なところで甘く、相手を本気で怒らせる事はしない。
 同様に本気で傷つけるような事もなく、相手の限度を見極めた上で遊び、
時折は優しげな気遣いも見せる。
 だからこそ余計に性質が悪いのだが、それゆえに今回のような事をやっても不思議はないのだ。

「む……」

「ま、それは貴方の人格的に数少ない美点ですし、
基本的には好感を抱いていますが―――今回は最悪ですわ。
私にとっては遊びであろうが何であろうが、
手を抜いて戦われるなど最大級の侮辱と覚えておいていただきたいですわね」

「……別に、手を抜いていたというわけでもないんだがな」

 鋭く睨みつけてくるシリルに対し、居心地悪げに頬を掻く海人。

 確かに、全力で勝ちに行ったわけではない。
 もしそうであれば、今までの半分の時間で勝負を決めている。
 一般的にはシリルも十分強いのだとは思うが、
海人から見れば彼女の策略は掌の上で踊っているのを眺めているのに等しい。 

 が、手を抜いていたかと言われれば否。
 力の方向性が盤面の迅速な勝利に向いていなかっただけで、
ゲーム自体には全力を尽くしていた。
 シリルのプライドを極端に傷つけない範囲で、確実な勝ちを得る為に。 
 悟られれば今のようにかえって傷つける事も分かっていたので、
バレないよう態度の偽装にも気を遣った。

 海人にとっては、ただ圧勝するよりもはるかに力を費やしていたのである。
 
 これで適度に負ける事が出来ていれば完璧だったのだが、
生憎海人もシリルと同等以上の負けず嫌い。
 演技でも負ける、という考えは端っからなかった。

 やはり一度ぐらいは負けておくべきだったか、などと海人が考えていると、
それまで黙っていたルミナスが口を開いた。

「あー、カイト。一応言っとくけど、仮にわざと負けてて気付かれたら、問答無用でぶん殴られてたかもしれないわよ?
遊びでもなんでも、勝負する以上は全力で叩き潰しにいくのが礼儀ってのがこの子の主義だから」  

 言いながら、少し疲れたように息を吐く。

 シリルの勝負に対する姿勢は、ある意味純粋だ。
 部下の訓練の時も指南といえば適度に加減して組手に付き合うのだが、
勝負というと相手の実力も関係なく己の力を叩き付ける。
 これで格上相手には意見を翻すぐらいなら可愛げがあるのだが、
相手がルミナスだろうが副団長だろうが全力で潰しに来る事を望む徹底ぶりだ。

 見方によっては、勝負というものを神聖視しているとも言える。

「まあ、殴りはせずとも締め上げるくらいはしたかもしれませんわね。
全力で叩き潰さぬなら、そもそも勝負をすべきではないと思いますの」

「ふむ……まあ、そういう事なら全力で潰しに行っても構わんがな」

「よろしい。それでこそ勝負というものですわ」

「意気やよし。ただし……後悔するなよ?」

 にいっ、と海人の唇が邪悪に吊り上がった。

 それを見て、シリルが一瞬背筋を震わせる。
 起こしてはならぬ怪物を叩き起こしてしまった、そんな予感に。
 
 が、シリルはそんな弱気をすぐさま切り捨てると、果敢に勝負に臨んだ。
 例えかつてないあっさりとした惨敗を喫したとしても、何度でも立ち向かい勝利を掴んでやると決意を秘めて。

 ――――後に、シリルはこの時の事を深く後悔する事になる。
 
 なぜ、自分はあそこでああも身の程知らずな発言をしてしまったのか。
 なぜ、よりにもよってあの性悪な怪物に全力など求めてしまったのか。
 なぜ、この時にその後辿る自分の苦難を想像しなかったのか。

 ――――この後陥る終わりなき無謀な挑戦において、彼女は幾度となくそんな事を思ったという。
 
 
   


 番外編83





 ルクガイア王国のとある場所。
 そこでは、数多くの人間が疲弊した様子で項垂れていた。
 中にはまだ夕刻前だというのに睡魔に敗北している者さえいる。

 ――――見る者が見れば、その光景に目を丸くしたことだろう。

 なぜなら、本来の彼らの姿はまるで違うのだ。
 疲弊はしても決して表に出さず、余裕を装える者達。
 それどころか、そもそも疲労しないのではないかとも言われる事もある。
 それがこんな平穏な場所で揃って疲弊している姿など、誰も想像すらしないだろう。

 そんな中、一人の男が気だるげにぼやく。

「……今日で何日目だっけか?」

「俺の記憶が確かなら、丁度一ヵ月だな……」

 隣にいた隻眼の男が、律儀に答える。
  
「そうか、もう一ヵ月か……ちくしょう、ホントなら今頃は良い女でも抱いて……」

「仮定の話なんぞぼやいても仕方ねぇだろ。
ってか、毎回遊びが過ぎて狩りで生計立ててんのちったぁ懲りろや」

 やれやれ、と肩を竦める隻眼の男。

 隣でぼやく同僚は既に三十を超えているが、なんと貯蓄が皆無。
 一応財産はあるが、それは今身につけている装備品であり、仕事道具。
 売れば一財産になるが、それをすれば仕事が出来なくなってしまう。
 
 その最大の原因は、女遊び。
 仕事がない時は大体女を抱いていると言われる程の好色家で、
始末の悪い事に面食いでもある為毎度高級娼婦相手に金をつぎ込み、金を浪費している。

「ふ……女を、それも美女を求めんのが男本来の姿ってもんだ。
さらに言えば金は使ってこそ価値がある。ちまちま溜め込むよりよっぽど有効活用してるってもんだ」

「ま、その通りだな。が、そういう事は俺からの借金全部返してから言いやがれ。
百万もあんだから、忘れんじゃねえぞ?」

「ちゃんと毎回利子つきで返してんじゃねーか」

「そーだな。毎回仕事終わる度にちゃんと返して、次の仕事が入る少し前にまた借金の繰り返しだがな。
貯めろとは言わねーから、次からは装備の費用ぐらい残しときやがれ」

「しゃーねーだろ。毎回忘れんだから。
んな細かい事気にしてっからモテねえんだよ」

「はっ……お前にだけは言われたかねえな。
モテねえから毎回高級娼婦に金つぎ込んでんだろうが。あ?」

 嘲笑混じりの言葉に、隻眼の男が挑発的な言葉を返す。
 控え目に言っても、その口調にはかけられた言葉の倍以上の毒が込められていた。
 
「ぐっ……少しでも多くの美女を抱く為にゃ、口説いてる時間がもったいねえんだよ」

「負け惜しみだな。口説いて成功する自信がねえからやらねーだけだろうが」

「んだとこら……! 喧嘩売ってんなら買うぞ!?」

「ふん、喧嘩売ってるつもりなんざなかったが、やるってんなら――――」

「やめなさいっての」

 溜息交じりの声と共に、男二人の頭上に拳骨が落とされた。 
 
 ごく普通の語気と共に放たれたその拳だが、威力は絶大。
 歴戦の猛者たる二人が咄嗟に防御して尚、それを軽々と貫く。
 結果、二人は悲鳴も上げられず地面をのたうち回る羽目になった。

 それを見下ろしながら拳の主―――ルミナスは、静かな口調で言葉を続ける。

「喧嘩すんなとは言わないけど、売り言葉に買い言葉の末ってのはやめときなさい。
どっちも引っ込みがつきにくくなるでしょーが」

「……す、すみません……でも、いきなり頭をぶん殴る必要はなかったのでは?」

「あんたらの場合言葉で止めるよりこっちの方が早いし効果的でしょ。
ほら、頭冷やすのも兼ねて二人でスープ飲んできなさい」

 パンパンと手を叩き、先程完成したスープ入りの大鍋を指差す。

 それを見て、男二人の顔に焦りが浮かんだ。
 今日のスープは、ここしばらくで一番具材が贅沢だ。
 というのも、今日は狩りに行った者がそこそこ良い獲物を獲ってこれたからである。
 贅沢と言えるほどの物ではないが、それでもここしばらくで一番美味くなっていそうな事は間違いない。
 付け加えるなら、既に食べ始めている同僚達の顔は昨日までに比べ幸福感に満ちている。

 殴り合いを始めかけていた二人は、そんな事など忘れたかのように一目散に駆けて行った。

「……事なきをえましたが、やはり皆疲れていますわね。
このままの状態が続きますと、少々問題ですわ」

 ルミナスの後方からやって来たシリルが、難しい顔でルミナスに話しかけた。

 ルミナス率いる第一部隊は癖の強い人間が揃っているが、仕事中に互いが衝突する事はあまりない。
 隊長たるルミナスの人望ゆえに、彼女に迷惑をかけぬよう心掛けている為だ。
 それが殴り合い一歩手前までいくというのは、かなり珍しい。

 ―――とはいえ、無理もないとも思う。

 元々気性の荒い者達だし、今回は仕事は仕事でも戦闘ではない。
 王城を攻め落とした際取り逃がしてしまった王女の捜索である。
 しかもこれまで目撃情報すら一切なしというおまけ付。
 得意ではなく、成果もなく、終点の影すら見えないとなれば疲弊し、苛立ちも募るだろう。
 むしろこの不毛な生活の中、一月も問題を起こさなかった事を褒めるべきかもしれない。
  
「そうね……もっと美味しい物作れれば多少緩和出来ると思うけど、それは難しいし……」

 副官の言葉に、思わず考え込むルミナス。

 この辺りは食用の魔物自体はいるが、どれもあまり美味しくはない。
 野草の類もあまり期待できず、近くにある村も長く続いた悪政の影響で良い食材を置いていない。
 遠出すれば手に入れるアテはあるが、料理ではその時間に見合う程の効果は期待できない。 

 一番の薬は探し人の確保、せめて正確な目撃情報の入手だが、狙って手に入るなら苦労はしない。
 一日の捜索範囲を広げる事などで確率を高める事は出来るが、それはさらなる負担を部下に強いる事になる。
 最悪、不満を増大させるだけに終わってしまう。 

 となれば今ルミナスが下せる中でもっとも効果が望め、比較的安全な対策は、

「……しょうがない。明日一日、全員休ませましょっか」

「よろしいんですの? 副団長からの指示は見つかるまで全力捜索との事でしたが」

「いーのよ。このまま休みなしで捜索続けても、かえって効率落ちるもの。
それよりは一日休んで気分切り替えさせた方が良いわ。
ま、副団長もこの程度の独断は見逃してくれるでしょ」  
 
 あっけらかんと、シリルに返事を返すルミナス。    
 
 手がかりすら得られていない現状で上司の許可なく一日休む、というのは褒められた事ではないが、
部下達の様子を見ている限りこれ以上ただ捜索を続けてもかえって重大情報を見落とす可能性が高くなる。
 であれば、いっそ開き直って一日休暇を与えて回復させ、その後捜索を続行した方が効率的だ。

 これは事実であり、彼女らの上司もまず咎めない判断だが、

(……お姉さま、絶対に自分だけこっそり捜索続けるおつもりですわね)

 上司の本音を見透かし、内心で溜息を吐くシリル。

 ルミナスの性格からして、部下達と一緒にただ休むとは思えない。
 適当に口実を作って外出し、休んだ部下達の分を補う勢いで捜索を続けるだろう。
 それが非効率と分かっていてもやらずにはいられないのが、ルミナスという女性なのだ。  
    
 そして、そんな上司だからこそシリルの役目がある。

(さてさて、どうやってお姉さまも休ませるべきでしょうか)

 色々と抱え込んでしまいがちな上司をいかにして休ませるか、シリルは静かに考えを巡らせ始めた。




  
 番外編84




 海人の地下室にて、少し珍しい光景があった。

 といっても、海人がパズルゲームをしているのは珍しくはない。
 基本研究以外では地下室に入らない海人だが、雫から対戦相手になって欲しいとせがまれて相手をする事は多く、
そのジャンルは大体パズルなのだ。

 雫が燃え尽きているのも、特別珍しくはない。
 彼女は海人にゲームで挑んでも、毎回大人気ない主に返り討ちにされているのだ。
 そのいくら練習しても届かない圧倒的な差に打ちひしがれる姿は実に愛らしいが、
目新しい光景ではない。

 ―――珍しいのは、刹那がゲームをしている事。

 普段は主の側で黙して座っているだけの彼女が、
今日は真剣な目でパズルを組み立て、主に立ち向かっているのだ。

「……よし、やっときたか」

 画面を見ながらうっすらと笑う刹那。

 視線の先にあるのは、赤と青の花火玉が繋がった落ち物。
 ゲーム開始から積み上げてきた連鎖の起爆になる物が、ようやくやって来たのだ。
 
 ここまで、実に長かった。
 
 楽しそうな主と妹の姿を見てやってみたくなっただけだったのだが、
海人相手のゲームは傍目で見ている以上に大変だったのである。

 なにせ、ハンデとしてつけてもらった最初の妨害ブロックの山が瞬く間に消されてしまった。
 妨害ブロック自体も海人側は非常に消しづらい設定にしてあるというのに、だ。
 そしてあまりの速度に驚く間もなく、次々に妨害ブロックが送り込まれてきたのである。
 
 設定で海人が送れる妨害ブロックは通常の三割程度にしてあるのだが、
それでも矢継ぎ早に五連鎖以上を叩き込んでくる化物には大して役に立たず、
刹那は防戦一方に追い込まれた。
 
 が、それもここまで。
 
 妨害ブロックを消しながらどうにか積み上げた六連鎖は、逆転の切っ掛けには十二分。
 無論互角の条件ならこの程度はささやかな抵抗にすらならないが、
設定で海人に送られる妨害ブロックは七回花火玉を隣接させて消さなければ消えなくなっている。
 それでもすぐ消されてしまうだろうが、それまでに新たな連鎖を組み上げ止めを刺せれば勝てるはずだ。
 
 そう思って喜色を浮かべる刹那に、海人は苦笑する。
 
「忘れとるかもしれんが、私はまだ固有技を一度も使ってないぞ?」

「問題ないでしょう? そちらの固有技は直後の連鎖の妨害ブロック増加。
拙者の連鎖開始には間に合いません」

 答えながら、目当ての花火玉を狙い通りの場所に運ぶ刹那。

 海人の操作キャラの固有技は脅威だが、現状ではあまり意味がない。 
 次から次に長い連鎖を叩き込んでくる海人だが、今回は連鎖が終わった直後。
 新たな連鎖を積み上げるには多少時間がかかる。

 当然、今から始まる刹那の連鎖を防ぐのは間に合わない。
 そして実際刹那の予想した通り、海人側に大量の妨害ブロックが送り込まれた。

「おー、これはまた大量に送られてきたものだな」

 並の人間なら戦闘放棄してもおかしくない量の妨害ブロックを見ても、海人の顔に動揺はなかった。
 その表情は諦めて開き直っているなどというものではなく、どこか余裕を感じさせる。
 
「……ここから逆転できる、と?」

 訝しげな顔で、刹那が海人に尋ねる。

 いかな海人とはいえ、画面の半分が妨害ブロックで埋め尽くされた現状は厳しいはずだ。
 逆転不可能とまでは言えないのが恐ろしいところだが、それでも刹那が油断せずミスもなく連鎖を作っていけば負けはない。
 
 そう思っていた刹那に、雫が哀れみたっぷりの声で忠告をしてきた。

「……お姉ちゃん、全速力で細かい連鎖作ってさっさと叩き潰さないと駄目だよ。
あたしもやられた事あるけど、その状況はむしろ追い詰められてる」

「なに?」

「やれやれ……雫、そんなヒントを与えられては全力を出さざるをえなくなるじゃないか」

 海人は言葉とは裏腹に愉しげに嗤うと、次々に花火玉を積み上げ始めた。

 その速度は、先程までの比ではない。
 瞬く間に画面が埋まっていき、ゲームオーバー寸前まで花火玉が積み上がっていく。
 ただ出鱈目に積んだのではなく、次の大連鎖の為の布石であり、次の花火玉で七連鎖が完成する。

 今までですら完全に手を抜かれていた事を悟り、刹那の顔に焦りが浮かぶ。
 
「んなっ……!? くっ、しかしこの状況ならば……!」

 慌てつつも、刹那は冷静に連鎖を組み上げていく。
 いかなる速度で連鎖を組み立てようが、海人側には未だ大量の妨害ブロックが残っている。
 それが消える前に決着を着ける事は決して不可能ではない。

 そう刹那は己に言い聞かせていたのだが、海人は無情な宣言を行った。

「いや、これで終わりだ」 

 話しながら固有技を発動させ、ついでに連鎖を起こす海人。
 予定調和のように七連鎖が発動し、刹那の方へと妨害ブロックが送られた。

「――――は?」

 送られた妨害ブロックを見て、刹那が間抜けな声を漏らす。

 それもそのはずで、妨害ブロックが画面を埋め尽くしている。
 七連鎖程度では出せないはずの妨害ブロック、それもシステム上一度に送れないはずの量でもあった。
 唖然としている内に上から『敗北!』という文字が落下してきて、画面を跳ねまわり始める。

 そして何が起きたのか理解できない刹那の耳に、海人の解説が入ってきた。

「一応最初に説明したはずだが、このゲームは上の段で積み上げる程送れる妨害ブロックの量は多くなる。
そして、先程のようなゲームオーバー一歩手前ぐらいの状態での連鎖では、送れる妨害ブロックの量の制限が消える。
今のように一気に息の根を止める事もできるわけだ」

「な、な、なあぁぁぁぁぁあああああっ!?」

 ようやく状況を理解し、刹那は思わず叫んだ。
 勝利への一手だと思っていたのが、実は敗北への片道切符だったと悟って。  

「はっはっは、ちなみにあの場面だと二連鎖程度を積み上げて細かく妨害していくのが正しい。
妨害ブロックの強度が跳ね上がってたから、それをやられると負けてたかもしれん」

「あたし、それやっても負けましたけどねー」

 半眼で主を睨む雫。

 以前に雫も同じことを言われ、実行した事があった。
 上の方に積み上がった段階で小さな連鎖を重ね、ハンデを活用して一気に押し切る。
 それなら勝てる可能性はあると思っていたのだが、まだ甘かった。 
 
 妨害ブロックの設定は、落ちてこない限りは無意味。
 何度も隣接させて消さなければ消えないブロックも、待機状態なら同数のブロックで打ち消せる。
 そこを利用して、海人はその頭脳任せの二連鎖の乱打で押し切ってきたのだ。

 つまるところ、いかなる戦法を取ったところで勝てる確率は極少だと思い知らされるだけに終わったのである。

「当たり前だ。そう易々と勝ちを譲る程私は寛大ではない」 

 どこまでも規格外な知の怪物でありながら変に大人気ない男は、そう言って楽しそうに笑った。





 番外編85




 ふと、ゲイツの鼻孔を香ばしい香りがくすぐった。

 主たる香りは、醤油。 
 生ではキツささえ感じるが、焼くととんでもなく良い香りになるのだ。
 それに隠れ気味だが、嗅ぎ分けるとにんにくの香りも混ざっていた。
 それらが、肉の焼ける匂いと絡まってなんとも食欲をそそってくる。
 
 それを嗅ぎながら、ゲイツはむっくりと体を起こす。

 そのまま、軽く伸びをする。
 少し固まっていた体の筋肉が、程良くほぐれていく。
 それでも一度ではほぐしきれなかったのでもう一度、大きく伸びをする。
 すると体に血が巡り、意識が徐々に覚醒していく。

 いまだ重さを感じる重たい瞼を上げ、周りを見渡す。

 そこは思いもよらず、綺麗に片付いていた。
 床に散らばったかろうじてベッドまでの道を空けていた道具の山は綺麗に整頓され、
各々あるべき場所に収まっている。
 昨日持ち帰ったまま汚れを拭っていなかった道具も、綺麗に手入れされていた。
 
 昨日まで物置と化していた机の上を見れば、これまた綺麗に畳まれた衣服。
 軽く匂いを嗅いでみれば、明らかに洗い立ての洗剤の香り。
 それも嗅覚の鋭い彼にキツくない、柔らかく弱い香りが漂っている。

 それを持って、ゲイツはのそのそと浴室に向かう。

 指先ほどしか残っていなかった石鹸は真新しい物の上にくっつけられ、
減っていたシャンプーやリンスも継ぎ足されていた。
 それを使って体を洗っている内に、意識が明確に目覚めていく。  

(……あーっと、確か昨日はグレイウルフの群退治に行ったんだったな。
んで、全滅後に寄ってきた他の魔物との戦いになった、と)

 髪を洗いながら、昨日の事を思い返す。

 受けた依頼は、グレイウルフの群退治。
 一匹一匹ならどうという事もないが、群となると少し厄介。
 弱くとも魔物の群は一斉に襲い掛かってくる為、対処の難度が上がる。
 群に気付かれる前に一気に数を減らすのが常道だが、
それが無理なら群がってくる相手の牙が到達する前に全てを迎撃する事になるのだ。
 また、往々にして狼系の魔物は勘が鋭く、余程気配消しが上手くなければ襲撃前に悟られてしまう。
 それなりに覚悟を決めて臨むべき依頼なのだ。

 だが、それゆえに本来は集団戦が基本となる相手の為、
一人で仕事をしているゲイツにとってはその分割が良い依頼でもある。

 それで引き受け完遂したのだが、その後がツイていなかった。
 どういうわけか、その場に寄ってくる魔物が多かったのだ。

 片っ端から迎撃した後で気付いた事だが、原因は木陰に落ちていた破れた匂い袋。
 おそらく血気盛んな馬鹿が腕試しに魔物を集めようとしたはいいものの、集まりすぎて逃げ出したのだろう。
 せめて持って帰れと言いたいところだが、匂い袋を持っていれば魔物が追ってくるので、無理な話ではある。
 
(で、無事に帰れはしたが依頼完了報告して家に帰ってきたら、そのまま爆睡した……と。
毎度の事ながら、とんでもねぇ生活してんなぁ……)

 ふう、と溜息を吐く。

 冒険者の仕事は、予定外のトラブルが付きものだ。
 探索依頼に付随していた情報が古くて役に立たなかったり、
討伐依頼を受けるまでの間に別の魔物が近くに住みついていたり、
そんな事はそう珍しくはない。

 が、ゲイツの場合受ける仕事の難度のせいもあるが、トラブルによる被害が大きい。
 討伐の魔物の数が多めに想定したはずの数の倍いたり、数は少なかったものの代わりにより強力な魔物が紛れ込んでいたり、
探し物が指定された森の奥で見つからず別の森に行く羽目になったり、色々と大変なのだ。

 一応大概の場合追加報酬が出されるのだが、それでも割に合わないと思う事は数多い。
 実際たまに他の冒険者と組んだ時にその手のトラブルが発生すると、
ほぼ全員がもうこの仕事は無理だと言って逃げたり、仕事終了後に生の喜びに涙していたりするので、
決して大袈裟な事ではないはずだ。

(……ま、それでも俺の場合は、泣き言言ってばかりもいられねえわけだが) 

 そんな事を思いながら、浴室から出て用意されていたタオルで髪と体を拭く。
 
 水分を一通り拭き終えたところで、熱風の魔法で乾かしていく。
 髪の生え際まで隙間なく、丁寧に。
 
 程なくして水気を飛ばしたゲイツは服を着て、台所へと向かう。
 そこには、見慣れた光景があった。

「やっと起きたのかい。もうすぐ昼だよ?
まったく、たまにはあたしが来た時に寝顔以外も見せてほしいもんだね」

「わりぃわりぃ。いつも世話かけるな、スカーレット」

 自慢の腕を振るってくれている恋人に感謝を述べるゲイツ。

 実際、スカーレットには感謝してもしきれないとゲイツは思っている。
 シェリスの屋敷の料理長として忙しい身でありながら、
こうしてゲイツの所に来るたびに料理は勿論部屋の掃除から何からやってくれているのだ。
 それも、疲れて泥のように眠り込んでいるゲイツを起こさぬよう細心の注意を払って。      
 
 感謝しなければ罰が当たるというものだ。

「ふん、まぁいつもの事だからいいけどね。ほら、それ飲んどきな」

「ん? こりゃなんだ?」

 スカーレットが指差したグラスを見て、首を傾げるゲイツ。

 グラスの中身は、毒々しいまでの緑色。
 軽く振ってみると中身は重々しく動き、粘度の高さをうかがわせる。
 美味しそうな色ではなく、またえらく飲み辛そうな飲み物だ。

「疲労回復用の特製ジュースだよ。色々ぶち込んであるから味は保証できないけど、
その分効果は期待できるよ」

「そりゃありがてえな。いただきまーす」  
    
 言うが早いか、グラスを一気に煽るゲイツ。
 あっという間に中身を飲み干し、タン、と小気味良い音を立ててグラスを置いた。

「……なぁ、スカーレット」

「なんだい?」

「味は保証しないって言ってたわりに美味かったんだけど?
言ってた通り色んな材料、えぐみの強いのとか入ってるみてえなのに」
   
「そらあたしも料理人だからね。人に出す以上は多少味も改良するさ。
ほら、もうすぐ料理出来上がるからリビング行って待ってな」

 ぞんざいな言葉を返しながら、ゲイツを台所から追い出すスカーレット。 

 そんな恋人の背中を見て、ゲイツは思わず苦笑する。
 先程の飲み物、全ての材料を把握できたわけではないが、癖のある食材が多い事は分かった。
 あれらの味をまとめ、飲みやすくする事はかなり難しいだろう。
 ましてなんだかんだで味にうるさいゲイツに美味いと思わせるなど、一朝一夕で出来るとは思えない。 
 
(……幸せ者だよなぁ、我ながら。俺も頑張らにゃあ、な)

 小さく鼻歌など歌い始めた恋人の背中に向かって、ゲイツは穏やかに微笑んだ。




    
 













     





 
 
 










  
 
 
 
 
 
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