ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄18

 翌朝、海人は柔らかい重みと、それによって刺激された全身を蝕む筋肉痛によって目を覚ました。
 悲鳴をどうにか堪え、己の胸を見ると、ルミナスが気持ち良さそうに寝ている。
 さらに足の腿の辺りにも重さを感じる。状況から判断するとシリルの頭だろう。
 
 一瞬なんでこんな状況になっているのか分からず、混乱する。
 が、すぐに思い出した。というか思い出させられた。
 周囲に転がる空き瓶の群と、背中から伝わる冷たく固い床板の感触によって。

 ルミナスの部屋に連行される最中に、海人は苦し紛れに交換条件を持ち出した。
 美味しい酒を色々飲ませるから許してくれ、と。
 その言葉を聞いた瞬間、彼女の動きは止まり、リビングへと引き返した。

 その後は言わずもがな。リビングで優雅にワインを味わっていたシリルを巻き込みつつ、
海人が作り出した酒による豪快かつ贅沢極まりない酒盛りが行われた。
 出された物の一部を列挙していくと、百年物の強化ワイン、同じく百年物の砕米原料の蒸留酒、
さらには大吟醸中心の数々の清酒、貴醸酒など超極上の美酒群がたった三人の一夜の宴会のために取り揃えられた。


 ルミナスはどんな酒でも実に美味そうに、まさにうわばみの如く空けていった。
 シリルは結局アイスワインや貴腐ワインのような極甘口のワインしか口に合わなかったが、それらは次から次へと瓶を空にした。
 唯一海人だけは己のペースを守ってチビチビと飲んでいたが、元々彼は酒に強いため、それでもかなりの量を飲んでいる。

 結果として、海人の世界の酒好きが見たら確実に発狂するような、希少価値の極めて高い空き瓶の海が完成した。   
 流石に飲みすぎたのか部屋に戻ろうとしたところで全員眠くなり、そのままリビングで倒れるように寝て現在に至るわけである。
 
 とはいえ現状分析が出来た所で海人にとってはあまり意味が無い。
 飲み過ぎによる二日酔いは防いだものの、昨日の無茶な強化が祟り全身筋肉痛で、かなり痛い。
 さらに自分を枕にしている二人の気持ち良さそうな寝顔。
 どのみち、動けない事には変わりないのである。 
 
 仕方なく二度寝をしようと思った矢先、ルミナスが起きた。

「ん……あれ、なんで私リビングで寝てんの?」

「ルミナス。すまんが起きたんだったらどいてくれ」

「あ、ごめん。えーっと、なんでこんな状態に……あ゛」

 周囲に転がる大量の酒の残骸を見て、昨日の狂態を思い出す。
 いくら美味い酒だったとはいえ、ついつい飲みすぎてしまった事を反省しつつ、ルミナスは魔法で水を出した。
 口元に直接出したそれをがぶがぶと豪快に飲み干した後、肉体強化を行う。
 全身に満ちた魔力は彼女の肝機能も極限まで強化し、体内に残ったアルコールを瞬く間に分解した。
 体が楽になった事を確認すると、ルミナスはそのまま立ち上がり、体をほぐすために柔軟を始めた。

「んみゅ……これに合うつまみがありませんわ……」

 一足先に素面に戻った上司をよそに、シリルはいまだ夢の中だった。
 海人は彼女を起こさないように気をつけながら体を起こす。
 が、流石と言うべきか、海人の努力も空しくその振動に反応して起きてしまった。

「……あら、カイトさん? えーっと……あ゛」

 自分が干したワインの空き瓶の群を見て、頬が引き攣る。
 今までは酒をあまり飲まなかったため気付かなかったが、シリルは間違いなく酒豪であった。
 酔うには酔うのだが、彼女は自分の飲んでいるペースが把握できなくなる程度までしか酔わないのだ。
 とはいえ、飲みすぎれば眠くなるのは人の性。最終的には床で一足先に寝入っていた海人の足を枕にして爆睡したのである。
 
「おはよ、シリル……つーかカイト、体はどうなの?」

 柔軟を終えたルミナスが、未だに床に座っている海人を心配そうに見やる。
 見たところ激痛を感じている様子は無いが、油断は出来ない。
 目の前の男はやせ我慢に関してはかなりの達人なのだ。

「案の定全身が悲鳴を上げてはいるが、十分動ける範囲だ」

 差し出されたルミナスの手をとり、軽く勢いをつけて起き上がる。
 一瞬痛みに顔を顰めはしたものの、その動きに不自然さは見当たらなかった。

「いよっし、そんじゃ二人共、朝食作るから軽く片付けながら待ってなさい」

 言うなり、ルミナスは即座に身を翻して台所へ向かった。

 それを見送りながら、海人はシリルと協力して片づけを始めた。
 
 まずは海人が創造魔法の特性のおかげで自分の意思一つで消せる大量の空き瓶を消した。
 次にシリルがつまみが乗っていた皿をまとめて重ね、台所へと運んでいく。
 そして海人はテーブルの上にあるフルーツ入りのバスケットをどけ、乾拭きを始めた。
 それと同時に台所の方からパンの甘い香りが漂い、少しして香ばしく焼かれた肉の食欲をそそる香りがそれを上書きする。
 
 雑巾を片付けてバスケットを元の位置に戻すと、丁度二人が台所から朝食の乗ったプレートを持って戻ってきた。 
 本日のメニューはパンとサラダ、そしてスクランブルエッグと肉厚のハムだった。 
 そして三人は出来立ての朝食の味を堪能しながら、今日の予定を相談し始めた。

「そういえば、昨日仰っていたお土産はどうなさいますの?」

「ん~、あの子も美味しい物が好きだからこの果物幾つか持ってこう思うんだけど、それだけじゃ寂しいわよね」

 デザート用のフルーツの入った籠を見た後、しばし視線を宙に彷徨わせる。
 
 見舞いに食べ物は定番だが、それだけではありきたりすぎる。
 まして姪は地元では有名なお転婆娘。病気で弱っているのでは退屈で死にそうな思いをしているだろう。
 食べ物とは別にそれを紛らわせる物を持っていってあげたいところだった。

 その旨を二人に話すと、海人が提案を出した。

「何か玩具でも持っていくか?」

「玩具、ねえ……カナールで売ってんのは姉さんが買ってるかもしれないし……なんか面白いのある?」

「一つだけ時間潰しにもってこいで、女の子でも楽しめそうな物に心当たりがある。作ろうか?」

「ありがと……結局全部あんた任せになっちゃったわね。ごめん」

 ルミナスが身を縮めながら頭を下げる。
 持っていく果物は海人が魔法で作った物、そしてもう一つのお土産も海人に作ってもらう事になった。  
 自分の姪の見舞いだというのに、結局一面識すらない海人に全部負担を押し付けた形になってしまったのだ。
 彼女はなんとも申し訳ない気分でいっぱいだった。  

「構わんよ。代わりと言ってはなんだが、見舞いの前にシェリス嬢の屋敷に寄ってもらってかまわんか?」

「別にいいけど……なんで?」

「いや、先日頼まれた和菓子を届けに行くついでに、屋敷の鍵を受け取っておこうと思ってな。
いつ引っ越すにせよ、準備をしておくに越した事は無いだろう?」

 ルミナス達に不審に思われないよう、不自然では無い程度に笑顔を作る。
 一応嘘は言っておらず、演技自体もなかなかの技術であった。
 が、その唐突で怪しすぎる提案自体、同居人二人の視線を冷たい物に変えるには十分だった。

「たしかにそうだけど……またなんか隠してない?」

 ジトリとした目でルミナスが海人の瞳を見据える。
 嘘を言っても即座に見抜いてやる、と言わんばかりの猜疑心に溢れた目つきだ。
 彼女の横ではシリルもチクチクと刺さりそうな視線を送っていた。

「はっはっは、秘密だ」

 疑い深そうな二対の瞳から逃れる事無く、海人は笑ってごまかした。
 背中にたっぷりと冷や汗をかきながら。











 シェリスの屋敷の応接間。日頃静かな交渉戦が行われる事の多いその一室は、完全に静まりかえっていた。
 中に人がいないわけではない。それどころか、部屋にいる人間の数としてはいつもよりも多い。
 が、各人話をするわけでもなく、黙ってただ一点を見守っていた。

「そろそろ頃合だな。ローラ女士、先程言った通りに注いでくれ」

「かしこまりました」

 恭しく一礼し、ローラが急須を手に取った。
 そして四人分の湯飲みに少しずつ注ぎ、最後の一滴を搾り出すかの如くシェリスの器へと注いだ。
 誰ともなく溜息がこぼれる。目の前にある物は紛れもなく飲料。
 しかし、その宝石も、否。宝石でも決して出せない魅惑的な淡緑は飲む事が憚られるほどに美しい。
 が、控えめな甘い香りに誘われて、やはり誰ともなく口をつけ始めた。

「……これはまた素晴らしい味わいですね」

 喉を通り過ぎた玉露の味に、ほう、と息が漏れる。

 紅茶とはまた異質な味わい。だが、これもまた極上の飲料であった。
 飲み慣れた紅茶の味を皇帝の如き威容と表現するのなら、このお茶の味は女神の抱擁。
 それが過大評価ではないと思えるほどに、全身を柔らかく包み込み安らぎを与えてくれる味だった。

 その評価を補強するかのように、対面ではルミナスがまったりとし始めていた。

「……あ~、このままぽけ~っとしていたいわ」

「こらこら、姪っ子の見舞いに行くんだろうが」

 ぐた~っとだらけ始めたルミナスの頭をすぱんとはたき、シャンとさせる。
 まだ日は高いため時間の余裕はあるが、今の彼女は放っておけばここで夕方まで熟睡しそうな勢いだった。

「そーいやそうだったわねぇ~……あ~でもこれってやっぱり駄目だわ。和みすぎちゃって気力が萎える」

「だから寝るなっつーに」

 今度は背筋を伸ばしたまま瞼を下げ始めたルミナスを、海人が再びはたく。
 遠慮なく二度もはたかれた彼女は、恨めしげな目を向けた。
 
「ポンポン叩かないでってば。私の頭をなんだと思ってんのよ」

「分かった。シリル嬢、次にルミナスが目を閉じたら対応は任せる」

 にやりと笑いながら告げると、シリルは恭しく頷き、血走った目でルミナスの瞼が重くなるのを待ち構え始めた。
 鼻息荒く今にも襲い掛かってきそうな部下を見て、ルミナスはあっさり降参した。

「すいません私が悪かったです。ってか涎を垂らすな手をワキワキと動かすなぁっ!」

 トチ狂った目つきで徐々ににじり寄ってくる部下の頭を押さえる。
 数秒の膠着の後、シリルは涎を拭いて残念そうな顔で引き下がった。
 ルミナスはそれに安堵しつつも、勝ち誇った顔をしている海人に軽くチョップを入れる事は忘れなかった。

「相変わらず仲が良いですねえ。ところでこれ、御代はどうしましょう。
出来れば器も譲っていただきたいんですが、器の値段も付けた方がよろしいですか?」

 今日海人が持参した品を見て頭を悩ませる。

 彼女の視界にあるのは和菓子の入った漆塗りの御重、そして急須と湯呑み。
 どれもこれも装飾一つなく、飾り気がないので客用には出来ないが、自分が個人的に使う分には好みに合っていた。
 しかし値をつけるとなると困った話になる。
 見たところ高級品ではなさそうだったが、あまり安い値を付ければ自分の度量を疑われてしまう。
 かといって高い値段を付けるにはあまりにも装飾がなさすぎる。

 そんな彼女の悩みは、海人の返答であっさりと解決した。
 
「菓子と茶は一応味見用のつもりで持ってきたし、茶器をはじめとした器も比較的安価な物だ。
今日のところは全てプレゼントにしておこう」

「それはありがたいんですけど……いいんですか?」
 
「なに、屋敷の手配から何から世話になっているからな。この程度のサービスはするさ。
今後の付き合いで稼げる金額を考えれば尚の事な」

 やや恐縮気味のシェリスにそう言って笑いかける。
 実際、今日持ってきた物は食料品以外は大した物ではない。
 御重も急須も湯呑みも、安物ではないが、高級品には程遠い物。
 一応和の雰囲気を整えるためだけに用意しただけの器だ。

 最初は茶目っ気を出して国宝の御重と茶器でも用意しようかと思ったのだが、
それを見せた時のシェリスの反応を想像してやめたのである。
 
 内心で悪戯心を出さなくて良かった、と冷や冷やしていた海人に気付くこともなく、シェリスは嬉しそうに微笑んだ。
 
「商魂逞しいですね。そのわりには定期収入を得られる良い話を蹴ってしまわれたようですけど」

「……耳が早いな。蹴った理由は分かってるだろうに、何が言いたい?」

 シェリスの言葉に一瞬虚を突かれたが、海人はすぐに座り直しながら気を取り直した。
 それと同時に表面上は笑顔を浮かべ、何気なくシェリスの表情の観察を始める。
 何らかの企みや嘘が顔を出したら即座に看破するために。
 
「確かに現在のカイトさんでは就労は難しいでしょう。
ですが、事情を知り貴方の都合に合う条件を提示できる人間がいれば別です」

「そこまで言うという事は、あらかじめ仕事内容も準備していたのかな?」

「ええ、この間屋敷を空けた時に判明したんですが、
今は私とローラが急に抜けただけで全員徹夜になるような危うい状況なんですよ。
それに、それだけの負担を使用人に強いているという現状も問題があります。
なので、仕事の一部を部外者に委託して負担を軽減してやりたいのですが、残念ながら信を置けて余裕がある人間はいないんです。
カイトさんはおそらく事務仕事もこなせるはずですよね?」

「人並みには出来ると思うが、私が信を置くに値するかどうかは考え直した方が良いと言っておこう」

「それは私が決める事です。私は十分に信ずるに値すると評価しています。
裏切られたのなら、それは私の見る目がなかったというだけの事でしょう」

 何でもなさそうに言い放つシェリスに、海人は感嘆の息を漏らした。

 陳腐なセリフではあるが、それをシェリスのように真っ直ぐな瞳で言える人間は滅多にいない。
 実際に裏切ればけじめはつけるだろうが、それで感情を乱す人間ではなさそうだった。

 ――恐ろしくはあるが、敬意を払うに値する女性。海人はシェリスをそう評していた。
 
「話を続けますが、仕事は定期的な私の屋敷の事務作業の手伝い、内容の口外は禁止です。
御要望があるなら処理していただく分はカイトさんの屋敷まで運ばせましょう。
前提条件上、仕事開始はルミナスさんの家を出てからという事になりますが、
給料は仕事に見合った額に口止め料も上乗せさせていただきます」 

「すぐにでも飛びつきたい破格の条件ではあるが……交換条件は栽培法かな?」

「話が早くて助かります。カイトさんの事です、御存知でしょう」

 見透かすように笑う海人に笑顔を返し、確認する。

 今回のシェリスの目的は海人が作る果物の栽培法だった。
 彼の作るそれは彼女が知る限り最高と断言できる超高品質。
 これを普通に生産できるようになれば国の貿易力の強化を図れる。
 
 が、海人は比較的金銭に執着が薄そうではあるものの、さすがに唯一の収入源を容易に手放すとは思えなかった。
 そのため、栽培法を教えてもらうために彼に安定した定期収入を作ろうと前々から考えてはいたのだ。
 
 そこに海人が商才を発揮し、ハロルド達が商業に勧誘するという願ってもない好機が巡ってきた。
 これ幸いとシェリスは長老方に協力し、急に人が一人減った場合の海人の立ち回りを見たいという要望に応えて、ゲイツに依頼を出した。
 この結果いかんでは、まぐれ当たりと判断して何も言わず手を引くつもりだったらしいが、海人はそれを難なくこなした。

 とはいえ、海人の事情を知るシェリスにはハロルド達が最終的に失敗する事は分かりきっていた。
 
 それをあえて止めなかった理由は二つ。

 一つはハロルド達をすっぱりと諦めさせるため。
 海人の秘密を守るためにはハロルド達にも極力関わってもらっては困るのだが、
彼らはもしもシェリスがやるな、と言って止めたところでかえって燃え上がってしまう人間だ。
 ならば好きにやらせて海人にきっぱりと断ってもらった方が後の面倒の可能性は断ち切れると考えたのである。

 そしてもう一つ――というより主目的は海人に改めて現状を考えさせるためだ。
 慎重な海人の性格上最初から今回の話を持ちかけても成功した可能性は高かったが、
万が一彼が果物の卸しを続けていけば良いと楽観視していた場合、交渉が難航する事が考えられた。
 その可能性を封じるためにワンクッション置きたかったのだ。

 実のところ、今日海人の方から出向いて来なければ、
一気に畳み掛けるために昼あたりにシェリスはルミナスの家を訪れるつもりだった。
 
 手間が省けた上に美味しい物にありつけた幸運を内心で喜びつつ、シェリスは海人の回答を待った。

「……ま、一応はな。教えるのはこの土地で生産可能な物だけで構わんな?」

「勿論です。この土地で栽培できない物を教えられても仕方ありません」

「ならば交渉成立だ」

「ありがとうございます。それと、簡単にですが処理能力のテストをさせていただきたいんですが」

 シェリスの言葉と同時に、ローラが書類の束と筆記具を海人の前に置く。
 書類の厚さはおおよそ十cmほど。なかなかボリュームがある。
 
「これから用事があるんだが……おや、随分と単純な計算だな」

 上から数枚の書類に目を通し、海人は拍子抜けしたように呟いた。
 電卓を使わずに計算しなければならない事を含めても、さほど難しい物ではない。

「はい。テスト用なので単純な収支計算のみを用意しました。どうなさいますか?」

「これぐらいならさほど時間はかからんと思うが……ルミナス、構わんか?」

「ま、急がなきゃいけないわけじゃなし、構わないわよ」

「問題は無いようですね。では、早速始めて下さい」

 シェリスの声を合図に、海人は書類に向かった。
 せめて羽根ペンではなく万年筆が欲しかった、と内心で愚痴りつつ。











 ほどなくしてルミナスとシリルは呆然としていた。
 その目はあまりに人間離れした速度で書類を仕上げてしまった海人に固定されている。
 目の前で暢気に伸びをしている男は、まるで最初から答えが分かっているかのように一瞬たりとも筆を止める事無く
全ての書類を書き上げてしまったのだ。 
 どこまで万能超人だこの化物は、彼女らの目にはそんな思いがありありと表れていた。 

 一方でシェリスとローラはやや血走った目で書類に目を走らせ、ミスの有無を確認していた。
 実はこの書類、海人のテスト用に用意した物で、数年前の収支報告書の数字の一部を抜き取った物だ。
 正答と照らし合わせていくだけなので、目は忙しく動いているが、検証に時間はかからない。
 
 ほどなくして二人の目と手の動きが止まり――主従間の静かな戦争が始まった。 

「さて、ローラ。やはりカイトさんには私の直轄事項主体に振り分けるべきだと思うんだけど」

「それはいけません。シェリス様の直轄であれば他者の目に触れてはならない重要書類が紛れてしまう事も考えられます。
やはりここは仕事量は莫大であっても目に触れても問題にならない書類が多い私の直轄にすべきかと存じます」

 にこやかな笑顔を浮かべつつも目が全く笑っていない主に対し、ローラは無表情のまま返した。
 が、彼女もまた目がこれ以上無いほどに真剣であり、その声には断固として譲らぬ意思が宿っている。

 静かに、だが全身から臨戦態勢寸前の魔力を滲ませながら睨み合う主従。
 ルミナス達が冷や冷やしながら見ているそれを、海人は欠伸をかみ殺しながら能天気に眺めていた。
 
「その反応からすると合格のようだが……そこまで威圧しあうような事か?」

 自分の能力の自覚も薄く、海人はぼやいた。

 元の世界では自分の記憶違いなどの可能性を嫌って電卓などの機械を使っていたが、海人は計算能力も極めて高い。
 電卓に慣れすぎていたため、今回筆算という基本的な計算方法を忘れて暗算だけで計算してしまったほどに。
 結果、彼はその驚異的な暗算能力と集中力によって、横に置かれていた白紙の紙が筆算用であった事に終わるまで気付かなかった。 

 そんな化物に、即座に返答が返った。 

「無論です。シェリス様、最初の話では使用人の負担軽減のためという話でした。
大貴族の長女ともあろう御方が前言を翻されるのですか?」

 強烈な威圧感を放つ静謐な瞳がシェリスを射抜く。
 が、普段ならば即座に窓ガラスをぶち破って最速で逃亡するその眼光にも、彼女は怯まなかった。
 腰を軽く浮かせながら、真っ向から視線を受け止め不遜に返す。

「事態に臨機応変に対応できない貴族なんていうのはただの無駄飯食いよ?
むしろ迅速に対応を変えた事を評価してほしいぐらいだわ」

「使用人の負担をまるで顧みない貴族というのは無駄飯食い以上に性質が悪いかと存じます。
率直に申し上げますと、いい加減一日六時間ほどの睡眠はとりたいのです」

 両者一歩も引く事無く睨み合う。
 ローラの足元の床が微かな悲鳴を上げ、シェリスの顔から笑みが消えた。
 危険を感じたルミナスが海人の襟首を掴んで自分の背後に庇おうとした瞬間、

「どーでもいいが、私が怪我する事になったら困るのは君らだぞ」

 嘆息と共に吐き出された言葉に、睨み合っていた主従がはっとする。
 今この場で戦闘を行った場合、小競り合いだろうがなんだろうが海人は巻き添えを受ける。
 そして彼の貧弱さを考えればルミナス達に庇われたところで何らかの怪我は免れない。
 それがもし腕だったりすれば――そこまで考え、双方は矛を収めた。

「賢明だ。それと、私見を述べさせてもらうとローラ女士の方に振り分けるのが最善だろう」

「げっ!? カ、カイトさん駄目です。ローラの人使いは凄い荒いんですよ? 過労死させられちゃいますよ?」

 貴族の令嬢にあるまじき下品な呻き声を上げつつ、必死で海人に食い下がる。

 シェリスは必死の書類作業の合間にも面会客に会って疲労を表に出さず笑顔を振りまき交渉を行っている。
 その場で始末したくなるほどクズな貴族相手に笑顔を取り繕わねばならない場合も多く、それは極めて多大な精神力を要する。
 しかし、海人一人いれば事務処理に関しては所要時間二割以下になるのは確実。
 そうなれば笑顔を取り繕うにも余裕が出る。最終的にローラと分け合う形ならまだしも、完全に持っていかれてはたまらなかった。
 やたら必死な御令嬢をどうどうと押し止めつつ、海人は苦笑を浮かべた。

「いやいや、人使いに関しては君もかなり荒そうだが……っと、そうそう、忘れるところだった」

 ふと、和菓子などのついでに作っておいた物を思い出し、海人は白衣のポケットから円柱状の金属ケースを取り出した。
 そして軽く手首を返し、ローラに投げ渡す。

「これはなんでしょうか?」

「大した技術だが、ごくうっすらと色の違いが出ている。
それを寝る前に塗っておけば翌朝には悩みの元が消えているはずだ」

 意地悪げに笑いながら、海人はローラの顔を見つめる。
 彼女は軽く目を見開いて驚いていたが、残りの女性一同は訳が分からない、と首を傾げている。 

「その言葉が本当ならば非常にありがたいですが……素晴らしい観察力ですね」

「君の場合元が良すぎるからな。小細工で色を近づけるには限界があるんだろうさ」

 海人が低く笑いながらローラの顔を見ると、なかなか複雑な顔をしていた。

 パッと見は普段通りの無表情にしか見えないが、良く見ると唇の端が上がるべきか下がるべきか悩んでいるかのように忙しなく動いている。
 目の方も非常に分かり辛いが、冷たく細めるべきか少し力を緩めるべきか悩んでいるかのような動きをしている。

 見かねた海人が苦笑しながら「皮肉ではない」と断ると、両方しかるべき方向に動いた。
 先程から蚊帳の外になっている三人にはまるで判別が出来ないほどのささやかな動きだったが。

「えっと、何の話でしょうか?」

 二人のやりとりが理解不能な人間を代表し、シェリスが問いかけるが、二人はその問いに答える事無く、曖昧に答えを濁した。
 その後三人はしつこく追及したが、妙に息が合った様子で追及をかわす二人に、最終的には根負けして諦めた。
 唯一シェリスだけは、その過程でどさくさ紛れに海人の仕事の振り分けが折半になってしまった事に最後まで文句を言っていたが。

















 カナールの宿の一室で、リリー・メオルディは忌々しいまでに爽やかな青空を眺めながら黄昏ていた。
 
 大人しくしている事は苦手だが、勉強以外で何かやることがあれば気にはならない。
 が、現状は勉強以外にやれることが無い。勉強を始めると五分で眠くなる彼女は既に普段の倍近い睡眠時間をとっている。
 もはや睡眠薬代わりに本を読んで眠るという事すら不可能だ。
 
 大体年若い乙女である自分がベッドで横になってグータラしているだけという青春の無駄遣いが許されるのだろうか。
 尊敬する叔母のようになるべく日頃から鍛錬を重ね、ようやく村の同世代において最強を誇れるようになったばかりなのだ。
 しかも元最強と呼ばれていた男は乱暴で、女だてらに強い彼女にいつものように突っかかっている。
 ようやく股間を集中攻撃という必勝法を見つけたというのに、この調子では村に戻るまでにはそれを破る手段を講じられてしまうかもしれない。
 本来ならばこんな所でのんびりしている暇は無いのだ。
  
 そんなことを思いながら、御年五歳の少女は、背中の翼をパタパタと動かしながら一人ごちた。

「う~……退屈だよ~」

「大人しくしてなさい。遊びすぎて魔力を使い果たした事が原因かもしれないのよ?」

 先日遊んでいる途中でぶっ倒れた娘の姿を思い出し、アリスは顔を顰める。
 リリーは彼女が少し夕飯の支度で目を離した隙に魔法を使って遊びすぎ、魔力切れで昏睡状態になったのだ。
 それ自体はさほど珍しい事ではない。魔力の制御が上手く出来ない幼少時に、誰もが何度かやる経験だ。
 
 が、それが娘のかかった病の有力な原因の一つとされているのも事実。
 魔力切れとは関係なさそうな事例も多く報告されているので確定には程遠いが、
実際にかかってしまっては母親としては悔やまざるをえない。 
 もっと気をつけて見ていれば問題は起こらなかったかもしれない。その思いは拭いきれなかった。

 そんな母の苦悩を知る由もなく、リリーは気の無い返事をする。

「は~い。げほっ、ごほっ!」

「ほら、言わん事じゃない」

 咳込む娘の背中を撫でながら、ハンカチで口を覆う。
 血が混じった痰が付着し変色したそれをゴミ箱に捨て、水を飲ませていると、病室のドアが叩かれた。

「お邪魔するわよ」

「あ、ルミナスお姉ちゃん! シリルお姉ちゃんも!」 

 尊敬する叔母とその部下を見て、歓喜の声を上げる。
 去年両親に涙ながらに懇願された呼称で呼ぶ事も忘れていない。

「久しぶりねリリー。元気してた……わけないか、病気なんだし」

 姉に見舞い品の果物籠を渡しつつ、熱で顔がほんのり上気している姪の頭を撫でる。
 その手つきのは慈愛に満ちており、リリーも気持ち良さそうに目を細めていた。
 
「ねえねえ、そっちのお兄ちゃんは?」

 叔母の背後にいる見知らぬ男を示し、明るい声で訊ねる。
 どちらかと言えば悪人系の顔の海人だが、リリーは怯えるどころか好奇心に満ち溢れた目で彼を見ている。
 明るく人見知りしない、実に良い子であった。

「あ、紹介するわね、こいつはカイト・テンチ。うちの居候よ」

「初めまして、リリー・メオルディです!」

 勢い良く輝かんばかりの笑顔で挨拶するも、直後に咳き込み始める。
 すかさず海人は優しい手つきでハンカチを口に当ててやる。
 直に咳が治まり、海人は彼女からそっとハンカチを離す。
 そして数瞬それに付着した物に目を落とした後、丸めてくずかごへと捨てた。

「大丈夫か、リリー嬢。元気なのは良いが、お母さんに心配をかけないようにな」

「は~い」

 優しくかけられた、だが聞き飽きた内容に頬を膨らませながら頷く。
 その声にはありありと不満が滲んでおり、理解は出来ても納得は出来ていない事が容易に知れた。
 叔母と同じく感情が分かりやすい少女を見つめながら、海人は言葉を続けた。
 
「ま、そう言われても病気で寝てるだけで退屈なんだろうからな。
そこで、ちょっとしたお土産を持ってきてみた」

 足元に置いた袋の中から、風呂敷包みを一つ取り出す。
 いわゆる風呂敷のイメージとは異なり、その色彩は神秘的なまでに淡く華麗。
 そんな美しい布に包まれた物が何なのか、リリーはいたく興味をそそられた。

「え? なになに!?」

「好みに合うかは分からないが……これだ」

 風呂敷を解き、中身を取り出す。中に入っていたのは数十個の木片。
 単調な断面と細かく彫られた複雑な面とが組み合わさっている。
 
「えーっと、積み木?」

 しげしげと目の前の木片を眺め、首を傾げる。積み木にしては少しサイズが小さい。
 しかも形状からして、これを積むのなら職人芸じみた器用さが必要になりそうだ。

「ちょっと違う。ほら、これをこうやって組み合わせると」

 海人は言うなりテキパキとバラバラなパーツを組み立て始める。
 それは瞬く間に本来の形へと戻され、伏せの姿勢をとった犬が出来上がった。 
 なかなか精巧な作りで、大人が鑑賞してもそこそこ楽しめそうな品だ。

「わあ、面白~い!」

「ちなみにこっちは」

 目をキラキラと輝かせて拍手するリリーに気を良くし、海人は別のパズルを組み立てた。
 複雑で一見無茶苦茶な形状の木片が、居眠りをした猫へと変化する。
 毛並みまでしっかり彫り込まれており、穏やかな顔の表情がなんとも和む気分にさせてくれる。 

「わあ~、すごいすごい!」

「他にもいくつか持ってきたから、自分で組み合わせてどんな動物が出来るか探してみるといい」

 布袋の中に入れておいた風呂敷包みを取り出し、リリーに手渡す。
 風呂敷のデザインも様々で、パズルで遊ばず風呂敷を見ているだけでも楽しめる。
 なかなか細かい心遣いであった。

「うん! ありがとうカイトお兄ちゃん!」

「あの、よろしいんですか? 高価な物なのでは……」

 無邪気に遊び始めた娘を見ながら、アリスは恐縮しきりといった様子で海人に訊ねた。

 組み立てている様子を見れば分かるのだが、このパズルは完成した際に形が崩れないよう組み合わさるパーツが互いを固定するように出来ている。
 作る手間、技術、そして完成した際の彫刻としての質。どれ一つとっても安い要素が見当たらない。
 むしろ総合的に見れば子供の玩具どころか大人の嗜好品としても高そうな印象だった。

「お気になさらず。元々は私が子供の頃に遊んでいた物ですし、遊んでもらった方が玩具も嬉しいでしょう」

 海人はそう言ってパズルを相手に悪戦苦闘しているリリーを微笑ましく眺めた。

 昔は海人もこの立体パズルで遊んでいた時期があり、それなりに楽しんでいた。
 彼の場合、組み立てるだけでは飽き足らず、自分でさらに分解してそれを組み直すという挑戦までしていたが。
 五歳の息子が接着剤を使いながら造作もなく百を超えるパーツに分解されたパズルを組み立てる横で、
両親が同じく分解されたパズルに手も足も出ずに項垂れていたのも、今となっては良い思い出である。

 そんな色々問題のある事を考えていると、横でアリスが深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。それにルミナスとシリルちゃんもわざわざお見舞いありがとうね」

「別に見舞いぐらいかまわないわよ。それより、思ったよりリリーが元気そうでよかったわ」

「そうですわね。ほんの数十年前まででしたら、こうはいかなかったでしょうけれど」

「確かにね……」

 病人にもかかわらず元気にパズルに熱中している姪を見て、軽く瞑目する。

 肺死病。主に魔力を使い果たして昏睡状態に陥った子供が発症する病。
 死の原因を突き止めるため、亡くなった子供の体を解剖した時に肺がズタズタになっていた事から病名が名づけられた。
 かかる可能性は低確率だが、一度かかれば緩やかな死か奇跡的な回復以外は有り得ないという恐ろしい病だった。
 数十年前に、治療薬が発見されるまでは。

 その当時、息子が肺死病にかかってしまった大貴族が、治癒のためにありとあらゆる手段を講じた。
 神への祈りは当然として、既存の治療薬などを根こそぎ試し、高名な医師を各国から集めた。
 それでも、息子は回復しなかった。
 そして最後のかすかな希望として、冒険者を集めて数多の高価な薬草が採取できる森へと向かわせた。
 その森の誰も足を踏み入れたことが無い最深部まで赴き、未発見の植物を発見して来いと命じて。

 結果から言えば、未発見の植物は見つからなかった。
 代わりに見つかったのは、誰も見たことが無いほどに澄んだ、透明感溢れる清らかな泉。
 それを持ち帰られた貴族は最初憤慨したが、その一切の濁りの無い水の美しさを見て考えを変えた。
 
 ――――この神の御業としか思えない清らかな水ならば、息子の病をも清めてくれるかもしれないと。

 そんなもはや妄想とさえ言える思いに応えるかのように、息子の病は癒えた。
 その後、様々な試行錯誤が行われ、数種の薬草をすり潰し煮詰めた物をその水に溶かし込むという現在の治療薬の製法が確立された。  
 そしてその要となる水は、湧き出る泉がある森の名から《サランディアの聖水》と呼ばれるようになった。

「そうやって考えると、オーガストさんには感謝ですわね。
あの方がサランディアの聖水を発見したおかげでリリーちゃんの病にも泰然と構えていられるのですから」

「以前真相を聞いた身としちゃ複雑だけどね~」

 苦笑しつつ、ルミナスは何年か前にオーガストから聞いた話を思い出す。

 実のところ、発見者であるオーガストは未発見の植物など探しすらしなかった。
 最深部に行ったのは事実なのだが、若かりし頃のオーガストはそこで体力と気力が尽き、
山ほどある植物、それも食獣植物がどこに潜んでいるか分からないような、面倒な上に危険な選定などする気にはならなかった。
 とはいえ、ただ帰るのも癪なので、手近にあってそれなりに貴族から金を取れそうな物を持って帰ったのだ。

 それが偶然病の治療薬の材料だったというだけの話。
 さらに言えば、その貴族が水と一緒に多様な薬草をこれでもかと飲ませていなければ治癒はしていなかっただろう。
 息子を思う親の気持ちがあってこその治療薬の発見だったのは事実だが、その裏にはかなりの偶然が絡んでいたのである。 

 とはいえ、経過はどうあれ今薬が存在するのは紛れも無い事実。
 リリーの病を恐れる必要はない、というのがルミナスとシリルの共通見解だった。

「……肺死病か」

 何の不安もなさそうに二人が笑う中、海人だけは妙に深刻な面持ちだった。
 以前読んだ医学書の記述、そして実際に見たリリーの症状からすると、肺死病は彼の世界では別な名称で呼ばれていた病の可能性がある。
 他人に移る病とは思われていないあたり、違う可能性も高そうなのだが、もしそうだった場合最悪の事も考えられない話ではない。 

「どうかしたの?」

「いや、ちょっとな」

 訝しげなルミナスに、ごまかすような笑みで応え、改めて目の前の光景を眺める。
 
 熱を出し、少し汗を掻いてはいるものの、快闊に笑っている子供。
 妹達との会話の合間にも我が子から注意を逸らさず、小まめに汗を拭いてあげている母親。
 そして薬さえあれば問題ない、と信じて疑っていないルミナスとシリル。
 
 数瞬の思考の後、海人は唐突に切り出した。

「アリス女士、娘さんが服用している薬を見せていただいてもよろしいですか?」

「あ、はい、構いませんよ」

 言うなり、アリスはコルク栓がされた小瓶に入った濃緑の液体を手渡す。
 彼女の許可を得て海人が栓を抜くと、やたらと青臭い匂いが鼻を突き抜けた。
 それにも負けず数秒小瓶の中身を眺めると、海人は再び栓をしてアリスに返却した。

「ありがとうございました」

「いえいえ、珍しい薬ですからね。見たくなる気持ちは分かりますよ」

 アリスが律儀に頭を下げる海人に苦笑していると、横から袖を引っ張られた。
 ふとそちらを見ると、いつの間にか遊ぶ手を止めた娘が物言いたげに自分を見上げている。
 何事かと思い、娘の顔を覗きこんだ瞬間、きゅう~、と可愛らしい音が鳴った。
 
「…………お腹空いたよ~」

 自分のお腹から出た音に若干恥ずかしそうに俯きながら、呟いた。
 誰ともなく、笑い声が漏れる。時間的にはちょうどおやつの時間。
 子供のお腹が空くのは無理なからぬ事であった。
   
「はいはい、ルミナスの持ってきてくれた果物食べていいわよ」

「はーい! あれ? 見た事無いのが沢山ある!」

 ベッドの脇に置かれた果物籠を手元に運び、リリーは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 どれが美味しいのかな~、と悩んでいると、ルミナスが横から手を伸ばし、籠の中から一つ手に取った。

「どれも美味しいわよ。ほら、一つ剥いてあげるから味見してみなさい」

 手に取ったマンゴーの皮を剥き、手早く切り分けて一口食べさせてやる。
 飲み込んだ途端にリリーは目を輝かせ、おかわりを要求した。
 美味しそうに頬張る娘に釣られてアリスもマンゴーを味見し、目を輝かせた。
 やはり血縁か、彼女らも美味しい物には目がないらしい。 

 そして二人が美味しそうに食べる様子を見て胃が刺激されたのか、ルミナスとシリルも食べ始めた。
 母達に奪われまいとリリーの食べるペースが速くなり、勢いのあまりまた咳き込み始める。
 慌てて己の胸を叩く少女に苦笑しながらアリス達が介抱する。 

 そんな騒がしくも暖かい光景を改めて眺めながら――――海人は密かに一つ決断した。






テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

肺炎かなぁと思ってましたが
もしや、今話でわかった症状からすると肺結核だったりするのか?^^;
だとするなら魔力は偉大ですねぇ
地球人に比べてやたらと免疫力高そう
[2010/02/06 20:56] URL | #EBUSheBA [ 編集 ]

病気は
優秀な医者であればあるほど、本当は避けた方がいいネタではあったりするかもしれません。
初日に相当悩んで既に結論を出してるんだって話かもしれませんが。

さて、来週日曜の更新を楽しみにお待ちしております。


追記ですが、11話の

「け、剣が折れましたわ!?」

「これを使ってください!」 << これルミナスの台詞のはずなので

やはり表現がおかしいような気がします。

[2010/02/07 00:14] URL | dvorak #mQop/nM. [ 編集 ]


魔力切れで身体強化が無くなった所で、病原菌が繁殖して発病って流かしら

身体強化が万能すぎて医術が発達してないってのと根っこは一緒かな、

今回の話に出てきた二日酔いを身体強化で直すってのを会わせると、この世界

治療関連は自己の身体強化と栄養補給で何とかするが基本なんだろうなぁ

治癒魔法は伝説の存在ってのを合わせると、カイトの医術は奇跡並みに効果的かもね
[2010/02/07 04:16] URL | ぞら #7xIPwYi. [ 編集 ]

リリーの今後はいかに!?
ただの自然水で治るってすごいなー
いや、海人的には治ってない流れなのだろうか?
なんか周りは和やかなのに海人のみシリアスモード?
次回更新が楽しみでなりません。
妄想で頭がパンクしそうです

あと、気になったことが1つ
ルミナスが朝に朝食を作っていますが自分の記憶違いではなかったらルミナスは朝食、果物だけじゃなかったですか?海人たちに合わせたんですかね?
[2010/02/07 14:20] URL | 華羅巣 #8ab6WC0A [ 編集 ]


更新お疲れ様です。
いやはや何かこう食欲がそそられましたわwwww
主に和菓子のくだりでww
しかしルミナスとシリルはいつかアル中にならないか心配ですわ。
もしくは肝臓の病気か・・・

ローラさんが渡されたのは例のアレですかね?
そうであるならあのシーン結構好きだったんでうれしい限りですわwwww

それにしても病気・・・
カイトが治療する場合
手術とかになったら異端視されそうですなぁ。
[2010/02/09 02:17] URL | ズー #- [ 編集 ]


二日酔いを一瞬で直せるなんて身体強化の万能さがすごい羨ましいですw
ローラさんに渡した筒状の物体は海人特製の万能美容クリームかな?今回も大量に注文されてトラウマが刺激されてしまうのかw

病気のほうがシリアスムードになってきて今後もますます目が離せない展開に。
次回も楽しみに待ってます。
[2010/02/10 00:04] URL | あさり #GAkJEmLM [ 編集 ]


筆算が基本なら、そろばんや計算尺あたりも喜ばれそうですね。技術的に問題はないでしょうし。
[2010/02/14 20:24] URL | #mQop/nM. [ 編集 ]


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