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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
白衣の英雄95
 翌日早朝。
 ケルヴィンは部下一人―――オルガ・ラーナリスを伴い、二百を越える戦士達と対峙していた。
 
 数の差は歴然だが、彼もオルガも表情は平静そのもの。
 相手の大半が殺気立ち、すでに武器に手をかけているのとは随分対照的だ。

 愛用の戦斧を構える事もなく、ケルヴィンは尋ねる。

「さて、一応確認するが、傭兵団アーバルベインとその団長ザゲルド・バーリオンで間違いねえな?」

「いかにも。そういうお前はエアウォリアーズのケルヴィン・マクギネスか。
ふむ……他の女隊長二人に敵わぬ軟弱男と聞いていたが、思ったよりやりそうではないか」

「そらそうだ。単にあの二人が強いだけで、俺が弱いわけじゃねえからな」

「ふ、世迷言を。真に強い男に勝てる女戦士なぞ、滅多にいるものではない。
まあ、貴様程度の使い手ならば超えているのかもしれんがな」

「あー……なるほど。女より男の方が強いって根拠もなく過信してるタイプか。
一応聞くが、このまま回れ右してなにもしないで帰るつもりあるか?」

「戯け者が。自分よりも弱い者相手に引く理由がどこにある。
まして、背神者やそれに組する愚者を見逃してやる理由なぞどこにもないわっ!」

「あっそ。それならそれで問題ねえよ。ほれ、さっさとかかってきな」

 嘲るザゲルドを気にした様子もなく、ケルヴィンは軽く手招きする。
 よほど余裕があるらしく、愛用の戦斧は柄を肩に乗せたまま構える様子もない。

「貴様ら如きに総力でかかっては我が団の名折れだ。私一人で相手してやる」

「あん? そりゃ構わねえが、てめえが死んでも他の連中見逃したりゃしねえぞ?」

「ふははははっ! 私に勝てると思うてか若造が!」

「当たりめぇだっての。ま、それでも相手が俺ってなぁ運が良かったな、てめえ」

「ほう? どういう意味だ?」

「なぁに、大した事じゃねえよ。隊長三人の中じゃ俺にやられんのが一番マシだってだけだ」

「不遜な小僧だ。よかろう! その身の程知らずに免じて全力で葬ってくれるわっ!」

 吠えると同時に武器を抜き、ザゲルドは待機させていた魔法を発動させた。
 体に加速魔法がかかり、武器が炎を纏い殺傷力が増大する。
 その上で、肉体強化を限界まで引き上げた。

 これこそが、ザゲルド必殺の体勢。

 この状態になれば、中位ドラゴンすらも敵ではない。
 鍛えぬいた肉体は防具がなくともかの魔物の一撃を耐えきる域。
 磨きぬいた体技は加速魔法の性能を存分に活かし、まさに神速と呼ぶに相応しい加速を可能にする。
 愛用の武器は纏わせた火炎の補助魔法との相乗効果で、ただ振るうだけでも低位の魔物を消し飛ばす威力を持つ。  
 ゆえに、かの魔物の迎撃よりも早く突貫し、その逆鱗に致死の打撃を叩きこめるのだ。

 それを人間に振るえばどうなるかなど、考えるまでもないだろう。

 しかし、それを分かっていないのか、ケルヴィンの表情は変わらない。
 先程と同じく、武器すら構えず突っ立っているだけだ。

 無論、ザゲルドが悠長に待ってやる理由はない。 

「我に葬られた事、あの世で誇るがいい! ぬおりゃあああああああああああああっ!」

 大地を揺るがす気勢と共に、ザゲルドは地を蹴り加速した。

 ほんの一瞬でケルヴィンに肉薄し、その凄まじいまでの加速を乗せた一撃をふるう。
 脚力と魔法による加速に強大な腕力まで上乗せされたその一撃の威力は、まさに強力無比。
 いかな獣人族とはいえ、受ければどれほど鍛えていようが木っ端微塵。

 勝利を確信したザゲルドが笑みを浮かべた瞬間―――――彼の視界にあったケルヴィンの腕が一瞬ぶれた。

 そしてその直後、ザゲルドの体があらぬ方向にすっ飛んでいく。
 豪快に振りぬいた武器は見事に見当違いの方向を通り過ぎ、その途中でなぜかへし折れた。
 致命的な隙を晒した、とザゲルドは舌打ちしながら武器を構え直し、足を止めて振り返ろうとする。

 が――――それは叶わなかった。

 ザゲルドがケルヴィンに振り返れたのは、首だけ。
 その首もうまく回らず、視界の端に戦斧を携え佇むケルヴィンの姿を映すのみ。
 それどころか足を止める事すら出来ず体が前に進んでいく。
 どういうことかと彼が困惑し掛けた直後、原因が判明した。

 ―――――ザゲルドの下半身が、ケルヴィンの足元に転がっているのが見えたのだ。

 ザゲルドが呆然としながらも自らの体を見下ろすと、腰から下がない。
 振り返れないのも、当然。その為に回すべき腰がないのだから。
 足を止める事ができないのも、道理。すでに足がなくなっているのだから。

 信じがたい状況にザゲルドが叫びかけた時、彼の上半身は地面に転がりその中身をまき散らし、その意識を消失させた。

「えらく自信満々だったからなんか隠し玉でもあんのかと思ってたんだが……なかったなぁ。
ってか、いくらなんでもあっさり片付きすぎじゃねえか? あのザゲルド・バーリオンが」

(……そら当然でしょ。いやまあ、周りがアレだからしょうがないんですけど)

 不思議そうに首を傾げる上司の言葉に、オルガは心の中でそんな感想を述べる。

 ザゲルドは、決して弱くはなかった。むしろ強いと言って差し支えないだろう。
 アーバルベインは規模の小さい団だが、強力かつ堅実な団として名を馳せている。
 戦況をひっくり返すような働きは望まれないが、激戦地の一角を任される事は多い、そんな傭兵団だ。

 その評価の要を担っていたのが、団長であるザゲルド。

 生まれる種族を間違えたと言われるほどの巨躯を、磨きぬいた技巧で活かしきる超攻撃型戦士。
 その攻撃は速く重く、多少名が通った程度の戦士では防御した瞬間に死が確定する。 
 いかなエアウォリアーズといえど、平団員では勝ち目が薄いと言わざるをえない。
 ルミナスやアンリでも、それなりにてこずっただろう。

 にもかかわらず、どうして三隊長最弱であるはずのケルヴィンがこうもあっさり勝てたのか。
 
 ――――ザゲルドの失敗は、ケルヴィンに真っ向勝負を挑んだ事。

 確かにケルヴィンは三隊長最弱だが、それは相性によるところが大きい。
 ルミナスもアンリも、高い技巧で虚実を織り交ぜ相手を翻弄する戦いを得意とする戦士だ。
 ケルヴィンも技巧自体は優れているのだが、それはもっぱら基礎能力の底上げに偏っており、
相手を翻弄するのではなく卓越した威力と速さで圧倒する戦いこそが本領。

 ゆえに、二人はケルヴィンと戦う時、その技巧で持ち味を出させる事無く倒している。

 攻撃を仕掛けられたら受け流し、カウンター後息もつかせぬ滅多打ち。
 待ちに徹してカウンターを狙われたら、一撃誘ってボッコボコ。
 防御に徹し隙を狙いにきたら、投げ飛ばして魔法の乱撃と突撃。

 勿論ケルヴィンとて反撃するのだが、大体翻弄されて終わる事になる。
 なので、ケルヴィンが他の隊長より弱いというのは間違いない。

 しかし、同時にルミナスもアンリも、それどころか団長や副団長でさえ断言する事がある。
 
 ―――――持ち味を封殺しない限り、ルミナスもアンリもケルヴィンには勝てない、と。 
  
 そんな相手に真っ向勝負。
 結果など火を見るよりも明らかだ。  
  
 そしてアンリは、ザゲルドの性格なら真っ向勝負を挑んでくると予想していた。
 だからこそ、一番手っ取り早く片付けられるであろうケルヴィンをぶつけたのだ。
 万一の保険として、部下一人を随行させつつも。  

(つーか、いくらなんでもアーバルベインって情報力が足りなすぎない?
確度の高い情報幾つか拾うだけでも隊長と真っ向勝負は無謀だってわかるだろうに。
ま、今更どうでもいい話か)

 オルガは首を傾げながらも、考察を途中で切り上げた。
 今更意味のない考察、そう思ったからだ。
 
 そんな彼女の視線の先にあるのは――――地獄。

 トップを欠いた傭兵達を、ザゲルドへの宣言通り次々に戦斧で虐殺していくケルヴィン。
 ある者は反応する間もなく胴を両断され、ある者は構えた武器ごと頭から真っ二つに割られ、
またある者は運良く致命傷を避けたものの右足を落とされ、次の瞬間斧の柄で投げ飛ばされて逃げる仲間を命を奪う砲弾となりながら息絶える。
 恐怖に動けぬ者も、逃げ出す者も、自棄になって立ち向かう者も、全て等しく屠殺されていく。
 男も女も、老いも若きも全てを問わず、平等に。
 
(この場で消滅した傭兵団の事なんて、ね)  
   
 最後の一人の頭を消し飛ばし、勝利の雄叫びを上げる上司を見て、オルガは冷笑を浮かべた。 
  
  


 
 



  





 一方その頃、アンリは怒号が鳴り響く戦場をただ一人で駆け回っていた。

「いやはや、念入れて自分がここの担当やっといて良かったっすね。
まさかここまで大量の兵を伏せてたとは」

 アンリは矢継ぎ早に放たれる剣や槍を避けながら、そんな感想を漏らす。

 今回、敵の仕込みは実に見事だった。
 何年も前から少しずつ密かにこの国へ兵を送り込み、一般人として生活させる。
 そうしてこの国に溶け込ませ、今回の件に備えたのだ。
 送り込む際の偽装のレベルにしても、完璧と言う他ない。
 
 とはいえ、綻びは生じる。
 いかなる武人も鍛錬を怠れば加速度的に力は落ちていく。
 それを防ぐ為に最低限の鍛錬は不可欠で、そこが綻びとなる。
 
 人目につかぬよう鍛錬したところで、限界はある。
 直接的な目撃者はおらずとも、普通行かないような人里離れた方向に行ったなどは知れてしまう。
 それら全てを潰す事は難しいし、仮にやれても今度は近隣で謎の失踪事件が話題になりかねない。
 
 今回はそういった綻びから情報を拾い集め敵戦力を見極めたのだが、想定が甘かった。

(……まさかほぼ丸ごと兵士で構成されてた村があんなに残ってたとは。
いやはや、我ながらまだまだ未熟っすね)

 飛んできた矢をかわしつつ近くの敵の首をへし折りながら、内心でぼやく。

 一つの村が丸ごとナーテア教の戦士で占められていれば、当然情報の隠蔽は容易くなる。
 基本的に部外者にさえ気をつけていれば、鍛錬でもなんでもやりたい放題だ。
 農村であれば自給自足も可能なので、場所さえ選べば部外者の出入り自体を最小限にもできる。

 それらは重々承知で情報を集め、実際幾つかの村がそういった場所である事は看破したのだが、
全ては見極められていなかった。
 敵が多くの兵を配するならここだろう、と念の為位置的に敵で構成されていれば危険な村の事も考慮に入れて兵力を分散していなければ、
正直危なかっただろう。

 ここなど、アンリの想定より敵の数が一桁が増えている。
 ケルヴィンやアンリはともかく、平団員が来ていたら逃げるか殺されるかだった。   
  
「ま、結果的には問題ないから良しとするっすか。
戦い方が豊富で参考になるって意味じゃ収穫っすからね」  

 暢気な事をのたまいながら、アンリは斬りかかってきた男の喉にナイフを突き立てた。
 目を剥いて息絶え崩れ落ちていく男の腕を蹴り、手にあった剣を奪い取る。  

 そして息つく間もなく襲い来る槍の刺突と弓の狙撃をひらりとかわし、
大きく踏み込んで槍使いの利き腕を切り落とし、そのまま槍を掴むと重心移動を主体とした投げ技で槍使いの体を地面に叩きつけた。
 ついでとばかりに槍を奪い取り転がる男の喉を突き刺すと、そのまま槍を振り回しながら前方に駆け、敵の包囲を崩していく。
 
 膨大な敵の数ゆえに包囲が完全に崩れる事はないが、アンリが動くたび一人、また一人と命を散らす。
 いかなる角度からどれほどの人数で襲われようと、それらを全て造作もなく返り討ち。
 自前の武器はほとんど使わず、主に体術と奪い取った敵の武器で戦っているにもかかわらず、
アンリは動きが鈍るどころか呼吸を乱してすらいない。

「ば、化物め……!」

 後方で指揮を執っている男が、思わず悪態をつく。

 最初三百近かった兵が、もはや百に満たない。
 完全に包囲されているはずのアンリが動くたび、死者が量産されている。
 前線の近接戦士達は常時十人以上で襲い掛かっているが、怯むどころか手間が省けるとばかりに余裕の笑顔だ。

 最初は後方からも弓や魔法による攻撃を行っていたのだが、今は控えている。
 というのも、アンリがそれを利用して同士討ちさせてくるからだ。

 弓であれば巧みな立ち回りと体術で眼前にいる剣士の延髄を射抜かせ、
魔法であれば槍などの長物でまとめて薙ぎ払い打ち上げた敵達を盾にして回避しつつ敵の数を減らす。
 かろうじて効果があったのは腕の良い弓兵による散発的な狙撃だけで、他はいくら試しても被害が大きくなるばかりで利がなかった。

 しかしそれでも、兵数が減る勢いは減っただけで止まらなかった。
 今生き残っているのはこの場に集った中でも特に腕の立つ戦士達だが、
それすら他と大差はないと言わんばかりに蹴散らされている。

 だが、何よりも恐ろしいのは、

「なぜだ……なぜ全ての武器であれだけの武技を振るえる!?」

 恐怖のあまり、指揮官にあるまじき叫びを上げる。

 通常、一人の戦士が使いこなせる武器は一つ、器用な者でもせいぜい二つか三つだ。
 多くの武器を使いこなせるなら理想的だが、現実にその道を選ぶ者は滅多にいない。

 最大の理由は、一つの武器を使いこなすだけでも膨大な時間が必要だからだ。
 毎日武器を振るい、型を行い、洗練に洗練を重ねてようやく実用足る。
 そして実用の域に至っても、鍛錬を怠ればみるみる技が劣化していく。
 だからこそ戦士は各々の才にあった一つの武器を選び、それを磨きぬくのだ。

 だというのに、アンリは武器をまったく選ばない。

 状況に応じて最適な武器を手近な敵から奪い取り、持ち主よりもはるかに優れた技で蹂躙している。
 今は矢が尽きて地面に転がっているが、開戦直後に乱射してきた弓の技術も恐ろしかった。
 どう避けても必ず矢が誰かに当たり、それで怯んだが最後命を奪う射撃。
 あまりにも卓越したその弓技で接近戦は不得手と判断して突っ込ませてしまったが為に、
無駄な犠牲を増やしてしまった。     
 
 しかも、武器を選ばないという特性はこの一対多数の戦場で途轍もないアドバンテージを生んでいる。

 普通なら相手の武器を破壊すれば、戦力は一気に落ちる。
 素手でも強い者は多くいるが、それでも武器を失うというのは通常致命的な痛手なのだ。
 
 それがアンリの場合、まったくない。
  
 どの武器を壊されようと、倒した敵から奪えばそれで事足りる。
 相手の得物が剣であろうが槍であろうが斧であろうが、十二分に力を発揮できるのだ。
 流石に遠距離から射かけてくる弓を奪う事は出来ないが、代わりに地面に転がってる武器を拾って即席の投擲武器に変えてくる。
 それどころか、倒した敵の亡骸さえも時に盾、時に武器にと活用する始末。

 いわば、この戦場そのものがアンリにとっての武具。
 一つしか頼みのない者達とは違い、全てが彼女の装備になる。
 
「……やむをえん。前衛総員一端下がれ! 後衛はそれを援護しろ!」

 この場において最善と思われる指示を飛ばす指揮官。
 
 認めがたい事だが、前衛をいくら投入してもアンリの武具補給にしかならない。
 ならばいっそ前衛を下がらせ、総員で遠距離から一斉攻撃を仕掛けるべきだ。
 いかに強かろうと相手は一人。その手に弓がない以上、どれほど器用に立ち回ろうが捌き切るにも限度がある。

 無論、これでも万全とは言えない。

 アンリの力を考えれば前衛を下がらせる事自体至難。
 己が不利になるのを黙って見過ごすはずもなく、間違いなく下がる前衛を追走するはずだ。
 後衛の援護があってもそれを止めるのは難しいし、下手をすれば引き始めた瞬間を狙って一気に押し込まれるリスクがある。
 また、下がらせる事に成功したとしてもアンリを仕留められるとは限らない。
 彼女の近くには夥しいほどの死体が転がっており、それを盾に使い防御に徹すれば耐えきれる可能性がある。
 矢はいずれ尽きるし、魔法もいずれ魔力が尽きるのだから。

 が、奇しくもその心配は無用だった。

「残念、もう少し判断が早ければあと二十分ぐらいは耐えられたんっすけどねぇ?」

 アンリが酷薄な笑みを浮かべ両手を前方にかざした瞬間、彼女の手から光が迸った。

 それはあえて表現するなら、光の洪水。
 一片の影すら許さぬとばかりに広大な領域を光が満たしていく。
 またその光は強大な殺傷力まで持っており、飲み込まれた人間の体が次々に消し飛んでいた。

 しかも、その洪水の発射は一度ではなかった。

 敵が消えがら空きになった地帯に突っ込み、最も多くを巻き込める位置に陣取って再び発射。
 そこでさらに空いた場所へ突き進み、もう一発。

 そうやって、次々に敵を消滅させていく。 
 
「ば、馬鹿な……術式盤を用いたにしてもこんな短時間で最上位魔法を使えるはずが……」

 悪い冗談のように消えていく自軍を見て、指揮官は思わず後退る。
 そして何かにぶつかって振り返り、腰を抜かした。

「アホっすか? 最上位であんな範囲が狭いわけないっしょ。
単なる上位魔法の多重起動っすよ」

「あれだけの猛攻を返り討ちにしながら、上位魔法術式を多重起動させていたというのか!?」

「こんぐらいできなきゃあ、エアウォリアーズの三隊長の一角なんざ担えないんっすよ」

 馬鹿にするでもなく、嘲るでもなく、静かに答えるアンリ。

 エアウォリアーズは、常に研鑽が求められる精兵集団。
 例え上位の者だろうと、弛んで研鑽を怠れば瞬く間に下位に落ちてしまう。
 入団希望者は山のようにいる為、力が落ちれば強制退団の可能性もなくはない。
  
 副隊長クラス以上ならその心配はほぼ無用になるが、それは何らかの特権があるわけではなく、
単にそのレベルでの切磋琢磨が激しすぎて力を衰えさせる余裕などないからだ。

 そしてアンリが属する三隊長となると、同僚二人と肩を並べ続けるのも至難。

 ケルヴィンは、戦士としての素質だけなら三隊長最強。
 その成長は著しく、少し目を離すと見違えるような成長を遂げている。
 今はまだ精神的にも技術的にも未熟な面が多くそのスペックを活かしきれていないが、
遅くとも十年以内には名実ともに個人戦力なら三隊長最強の戦士として君臨するだろう。
 
 そしてルミナスだが――――ケルヴィンよりもよほど厄介だ。

 武技の才でアンリに劣り、身体能力ではケルヴィンに到底届かない。
 そんな人間でありながら、絞り込み磨きぬいた武技で二人より高みに座す武人。 
 剣技にいたっては、素質で上回るはずのアンリが遠く及ばない次元だ。
 
 ――――それを成し遂げた理由が、徹底した努力。

 日頃より妥協なく、かつ生真面目にこなし続ける鍛錬。
 気が遠くなるような数の死線を越え、膨大な試行の果てに辿り着いたそれは、現在の彼女にとっての最適解。
 そしてそれに満足せずあらゆる試行を重ね、今も進化を続けている。

 そればかりか、ルミナスは知力は高く知識も幅広い。
 特に戦術・戦略についてはアンリやシリルに頭を下げて教えを乞い、
弱音は吐きながらも合格点が出るまで続けただけあって、知識だけならそこらの将軍では相手にならない域に達している。
 しかも、戦場でそれらを実践する事によってきっちり自分の血肉に変え、応用までこなす様になっているのだ。 
 
 素質に優れるケルヴィンと努力に優れるルミナス。
 頼もしい同僚ではあるが、それと肩を並べ続けなければならないアンリとしてはたまったものではない。    

 なにしろ、少しでも怠ければその途端同僚二人が自分を差し置きぶっちぎっていくのだ。
 そうなればあまりに恥さらしすぎて、自分を絞め殺さずにはいられなくなるだろう。
 なにせ、育った環境が一番恵まれているのはアンリなのだ。 
  
 それで強いられる努力を考えれば、この程度の相手に上位魔法の多重起動をする程度大した事ではない。 
 それよりも、ケルヴィンを毎度のように封殺する方が余程神経を使う。

「化物、ども、め……!?」

「人聞きの悪い。自分程度じゃ化物とは呼べないっすよ。
化物ってのはうちの上司とか、どこぞのメイドの皮被ったトンデモ集団みたいなのを言うんっす」

 敵指揮官の頭蓋をかち割った斧を放り捨てると、アンリは次の戦場へと駆けて行った。  











 
 
 




 タン、タン、タンタタタン、歯切れのいいリズムが平原を満たす。
 シャン、シャン、シャシャシャン、小気味よい金音が平原に響き渡る。
 そして、それらの音の波に乗るかのように、軽やかな横笛の音が鳴り響く。

 その音色は実に陽気で、聞いていると思わず体が踊りだしそうになる。
 宴の席や昼間の町中であれば、さぞや人だかりができるであろう名演奏だ。

 しかしこの場においては、あまりに異常だった。 

「馬鹿なっ……! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ! なぜ攻撃が当たらない!
いったい何人で攻撃していると思っている!?」

 思わず叫んだ男の視線の先には、三人の美女の姿。

 露出の激しい衣装を纏い、手に持つのは楽器だけ。
 それも楽器を武器に使っているわけではなく、次から次に襲い掛かる者達を体術と魔法だけで綺麗にあしらっている。

 体術は敵をあしらうだけでは飽き足らず、上手く同士討ちをさせて攻撃はしないまま敵の数を減らしていく絶技。
 そればかりか、時折手足に通している金属製の輪を相手の武器にぶつけてメロディを加えてすらいる。
 しかも数を減らされてなお未だ千に届く戦士を相手にしているというのに、そのキレは鈍くなるどころか増し続けている始末だ。

 魔法も、非常に恐ろしい。
 あらゆる属性の攻撃魔法が飛んでくるが、それら全て無詠唱。
 にもかかわらず、威力は中位の詠唱魔法と同等レベル。
 それが平均的な中位魔法の発動速度で飛んでくる。
 理由は分からないが、魔法学の常識を無視した現象だ。

 これらを質の高い音楽を奏でながらやってのけているのだから、恐ろしいとしか言いようがない。
 それも全員終始輝かんばかりの笑顔で、刃が肌を掠めようが鈍器が鼻先を通過しようが変わる事無く。
 人間ではなく、御伽話で人を惑わす妖精の元締め達とでも言われても納得できそうな化物達だ。 
  
 そんな男の思いなど知った事ではない、とばかりに陽気な声が響き渡る。
 
「さあさあ場も温まってまいりました! 続いて唄に参ります!
曲は『とある炎神の恋』! 情熱と妄念に満ちた恋の歌、どうぞお楽しみください!」

 高らかな声と共に、美女の一人―――ナンシーが唄い始める。

 それは、荒々しくも切ない恋物語。
 人間の女性に恋をした炎神が、その思いに狂っていく姿を描いている。
 恋の切っ掛け、次第に強まっていく思い、体が炎であるがゆえに人の言葉を出せず声すらかけられないもどかしさ。
 それらが情感たっぷりの音色に乗り、奏でられていく。

 その唄につられるように、辺り一帯に変化が起き始めた。

 先程まで風が心地よい平原であったにもかかわらず、空気が熱くなり始めたのだ。
 その熱は少しずつ、だが着実に増していき、その場にいる人間を蝕んでいく。
 重装鎧を纏う者達は勿論、軽装鎧や胸当などの最小限の防具しか身に着けていない者達からも汗が噴き出し始めた。
 露出の多い衣装を纏うコグラスト三姉妹すらも例外ではなく、滲んだ汗が美しい体に妖艶な艶を与えている。

 しかし、それでも三姉妹の演奏は止まらない。 
 敵の激しい攻撃を気にした様子もなく、場をひらりひらりと妖精のように舞い続け唄を紡ぐ。
  
 声もかけられず悶え苦しんでいる間にその女性と仲を深めていく人間の男が現れ、もどかしさが苦しみへと変わる絶望。
 苦しみの末に思いついた、相手を焼き尽くし自らの眷属として生まれ変わらせようという、狂気の企み。
 
 それらが朗々と歌い上げられ、場の熱量もどんどんと増していく。
 それはもはや、戦場に満ちる猛毒とも呼ぶべき温度。
 装備が重い者ほど体力をどんどん削られ、軽い者も少し気を抜けば武器を握る手が滑りそうになる。
 
 そんな中、コグラスト三姉妹だけはたっぷりの汗をかきながら激しく踊り狂う。
 彼女らの舞は熱量による負荷を感じさせず、それどころか気温上昇につれてキレが増していた。

 やがて、唄が終わりに差し掛かる。

 相手の事を考えず己が物とせんと企む、炎神の身勝手。  
 いざ実行せんとしたところで女性に怯えられ思いとどまった、愛。
 されど苦しみに耐えられず最後には自ら滅びを選ぶ、悲しみ。

 それらを唄い上げ――――その直後、大地のあちこちから炎が吹き上がり始めた。

 天まで届かんばかりの火柱が、戦場を赤く染める。
 そして火柱が雲の高さまで到達した瞬間、それは意思を持ったかのように動き始めた。
 まるで舞を舞うかのように、まるで狂おしいほどの喜びを表すかのように、激しく。

『ぎぃやぁぁあああ……っ!!』

 所構わず踊り狂う炎が、ついでとばかりに敵軍を飲み込んでいく。
 余程凄まじい高熱らしく、肉体強化をした屈強な戦士達が断末魔すらかき消されて灰になっていた。

 水や氷の魔法で打ち消そうとしたり、必死で逃げ回ったり、
限界越えの肉体強化で耐えようとしたり、多くの者が、それらもすべて無駄。 
 魔法を放てば放った魔法ごと飲み込まれ、逃げればそれ以上の速度で追いかけてきた炎に無防備に呑まれてしまった。
 肉体強化による耐久を試みても瞬間的な炭化の防止が出来ればマシな方で、
酷い時は身に着けていた装備諸共蒸発してしまう。

 それどころか、人が炎に焼き尽くされるたび炎の大きさが増しているようにも見える。
 命という薪をくべ、それが新たな燃料となっているかのごとく。

 そして炎はひとしきり地上で荒れ狂った後、空中の一点に集まり始めた。
 それまで表現する形などなかった炎が、徐々にある生物の形を象っていく。
 
 魔物の王族たる生物――――ドラゴンの姿を。
 
 そのドラゴンは一鳴きすると、いつの間にか三人一カ所に集結していたコグラスト三姉妹の背後に降り立つ。
 その存在感を背に感じながら、ナンシーが再び口を開いた。 

「以上、『とある炎神の恋』でした! 名残惜しいですがそろそろお別れの時間です! 
これより始まる皆様の旅路、その慰めになれば幸いです。此度の演奏は私、ナンシーと!」

「私、チェルシー!」

「そして私タチアナのコグラスト三姉妹がお送りいたしました!」

 三姉妹が揃って一礼すると同時、炎のドラゴンが暴れ回り始めた。

 それは、もはや戦いと呼べぬほどに一方的な蹂躙。
 炎のドラゴンの腕に当たれば、瞬時に消し炭。
 水や氷の攻撃魔法をぶつけようとも、ほとんどはドラゴンに当たった瞬間に蒸発。
 武器で攻撃する者もいたが、それは自ら炎に飛び込んでいくにすぎず即座に焼死してしまう。
 ならば風魔法で吹き散らさんとする者もいたが、散った瞬間元の形に再生してしまった。
 
 なにより、それらの足掻きにもかかわらずドラゴンは小さくなった様子すら見せない。
 しかもそれぞれバラバラの方向に一直線に逃げた者達さえも、全方向に放たれた巨大火球に飲み込まれ蒸発した。
 一人、二人と心が折れ、足が止まり、成す術なく炎に蹂躙されていく。
 
 そんな中、絶望感に呆然としていた一人の男が、ある事を思い出した。
 先程の狂気じみた戦乱舞踏、眼前で繰り広げられる炎の蹂躙劇、そして三人の名乗り。
 それがかつて耳にした英雄譚と結びついたのだ。

「……コグラスト三姉妹……ま、まさか……まさか『英雄楽団』!?
あの与太話が真実だったとでもいうのか!?」

 絶望に満ちた表情で、男が叫ぶ。

 もしそうであれば、この結果は必定だ。
 彼女らこそは、十年以上前に雷名を轟かせた伝説の楽団。
 当時の姿は未だ吟遊詩人達の間で好んで語られている。

 とある王国で圧政に果敢に立ち向かった、三人の少女。
 彼女らが奏でる音楽は味方に凄まじい活力を与えると同時に魔法の詠唱の如き力を持ち、襲い来る騎士達を次々に返り討ちにした。
 さらにその唄は歌詞に応じて六属性いずれかを司る神を呼び起こし、その力を借りられたという。   
 その力をもって彼女らは反乱軍の先頭に立ち、ついには圧政を敷いた王を守護騎士や王城諸共粉砕したのだ。 

 ――――見事な英雄譚だが、あまりに荒唐無稽すぎて今では御伽話の一種として親しまれている話だ。
 
 男とて、信じてなどいなかった。
 たかが音楽にそんな力などあるはずがない、と。
 コグラスト三姉妹の名は先陣に立った勇士として有名だが、それでも数いる勇士の一部にすぎない。
 おそらくは音楽好きな勇士達の活躍が徐々に誇張されていったのだろう、そう思っていたのだ。
   
 今、この時までは。 

「あ、ヤバ。姉さんダメじゃん。ここで本名名乗っちゃ」

「いいじゃない、どうせ全滅してもらうんだし。
そもそも、ソグアウトって響きがあまりよくないじゃない?
だから、仕方ないと思うのよね~」

 タチアナは、チェルシーの抗議に悪びれる様子もなく反論した。

 尾ひれ背びれがつきまくった英雄譚の主人公として、コグラスト三姉妹の名はかなり有名だ。
 ゆえに、コグラスト三姉妹は正体を知らぬ者の前で本来の家名を名乗る事をローラやシェリスから禁じられている。
 仮の家名として与えられたのがソグアウトなのだが、タチアナは本来の家名の方が好きだった。  
 
 それでも普段は自制出来るのだが、戦いの演奏直後はどうにも気が高ぶって緩んでしまう。
 もっとも、場の全員がこの世から消える事が確定した時限定ではあるのだが。
 
「そりゃ同感だけど、バレたらすんごい事になるんじゃない?」

「大丈夫! ここには私たちしかいないから!」

 ビッ、と親指を立てるタチアナだったが、その頬には冷や汗が流れていた。
 シェリスはいいのだが、約一名やましい事があると瞬時に察知する化物がいる。
 そして、バレたらえらい事になる。主にタチアナの肉体と精神とが。

 そんな聞きようによっては暢気な三姉妹の言葉に、男の怒りが恐怖を上回った。
 
「おのれっ! おのれおのれおのれぇっ! せめて一人道連れに……!」

 剣を構え三姉妹に駆けだした瞬間、男の体は跡形もなく消滅した。
 瞬時に伸びてきた、炎のドラゴンの腕に飲み込まれて。

 ほどなくして、戦場から三姉妹以外の生物の姿が消える。

「……いよっし、終わりぃっ! さて、作り直せたしちゃっちゃと次行きましょー♪」

 そう言ってナンシーが竪琴で短いメロディを奏でると、炎のドラゴンの色が変わった。
 全てを焼き尽くす紅蓮の赤から、柔らかく包み込むような光の白に。
 同時に炎のドラゴンだけでなく一帯に満ちていた熱気も消え失せる。 

 そしてコグラスト三姉妹は、頭を垂れたドラゴンの背に飛び乗った。
  
「今度はもっと効率的に使わないとね。昨日はせっかく作ったのに移動中に消えちゃったから」

「そうね。今回の仕事が終わったらちゃんとした音楽のお仕事だし、頑張りましょ」
  
「そうそう、とりあえずそれ終わるまでは演奏できるはずだし、あとのことは気にしないっ!」

 どこまでも賑やかに、三姉妹は去っていく。
 飛翔するドラゴンの背で、陽気な音楽を奏でながら。

 数多の命が散った痕跡すら残らぬ、焼け野原を顧みる事すらなく。  




















 日が昇り始めた空を見ながら、シェリスは舌打ちしていた。

 原因は、彼女の周囲に散らばる数多の骸。
 シェリスとその背後で佇むローラに、成すすべなく惨殺された者達。
 
 その死体の有様は、控えめに言っても酷い。
 何しろ、まともな状態の死体がほとんどないのだ。
 どれもこれも致命傷となる一撃とは別に、頭を砕かれている。
 普段なら、こんな無駄はありえない話だ。
 ローラは勿論、シェリスもこんな手間はかけない。
 
 が、今回はやらざるをえなかった。

 なにしろこの連中、絶命したはずなのに魔法を撃ってきたのだ。
 頸動脈を斬られ血を吹き出しながら、首を刎ねられ頭を地面に落としながら、
胴を両断され内臓をぶちまけながら、最後に攻撃魔法を使ってきたのである。
 
 邪悪滅すべし、そう叫びながら。 

 今回の一件は、シェリス達の姿を見た者は一人として生かしておけない。
 この国の人間がシリルに手を貸したと知れれば、イナテアがこの国を本格的に狙う可能性があるからだ。
 シェリス達を直接狙ってくるなら受けて立つだけだが、おそらくそれではすまない。
 罪なきこの国の民も巻き込まれ、最悪見せしめに惨殺される。

 仮にイナテアを潰せたとしても、安心はできない。
 イナテアが主体だが、相手はナーテア教というそれなりに大きな宗教でもある。
 最悪狂信者がこの国に忍び込み、神罰と称して人々を殺しまわりかねない。
 
 元々そうは考えていたのだが、正直見立てが甘かった。
 これほどに狂った連中がいるのなら、証拠がないぐらいでは安心できない。
 それこそ勝手な思い込みで虐殺をしてもおかしくないだろう。

 せめてその可能性は極力減らしたい、そう思いながらシェリスは背後の部下に声をかける。

「……他は上手くやってるかしらね?」

「受け持ち分については心配無用かと。エアウォリアーズがしくじるとは思えませんし、
こちらも今回はあの三馬鹿姉妹が最大数を担当しておりますし、他にも上位戦力を派遣しております。
無論、想定外はありえますが、大概は何とかなるでしょう」

「それはそうなのだけど、今回どうも安心できないのよね。
潜んでいた兵力が多すぎて、まだ隠れてそうな気がするのよ」

「仰る通りです。我々がまだ把握しきれていない兵が潜んでいる可能性は十分にあるでしょう」

「となると討ち漏らしが出る可能性は非常に高いと思うのだけど?」

「それもその通りかと。所詮こちらの頭数は少ないのですから」

「その割には随分落ち着いてるわね――――どんな手を打ったの?」

 目を細め、問い質す。
 
 先程からのシェリスの懸念を全肯定しておきながら、ローラは落ち着いている。
 懸念が現実化すれば、シリルだけでなくこの国の民まで危険に晒される可能性が高いというのに。

 まるで、すでに手は打ってあると言わんばかりに。
 シェリスはその話を一切聞いていないというのに、だ。 

「敵の狙いはあくまでもシリル様です。私達は障害物にすぎません。
であれば、仮に討ち漏らしたところで結局はそこに集結するでしょう。
どこかで逃したところで、挽回は可能です」

「それだとシリルさんが洒落にならないレベルで危険だけど?」

「そうですね。ところでこの間カイト様が自ら企画する催しのお話をなさっていた時の事を覚えておられますか?」

「そりゃあね。結局企画の中身を教えてもらってないし、気になってるもの」

「その時、時間制限付きが二つ重なる、そう仰っていた事は?」

「……ああ、そういえばそんな事を言っていたわね。それがどうかしたの?」

「一つはカイト様企画の催し。ではもう一つは何だと思われますか?」

「何って……あれ?」

 ローラの言葉に返そうとして、シェリスは首を傾げた。

 現時点で時間制限付きとなると、シリルの件が絡んでるとしか思えない。
 海人は多忙だが、時間制限となるとそれぐらいしかないのだ。
 
 が、一つが彼が企画している催しだとしても、もう一つが分からない。
 何をやるにしても、時間制限がかかっているとは思えないのだ。

「おそらく私共にとってはいささか厄介、エアウォリアーズにとっては福音。
そして状況的に今回以上の好機は考えにくく、それが出来るのであればカイト様以上の人材は存在しない。
付け加えますと常識的にはありえません、むしろ人によっては出来てたまるかと言いたくなる、そんな内容でしょう」

「……え? ちょっと待って。確かにそれは絶対ないとは言い切れないけど、カイトさんよ?
仮にできたとしてもやるとは……」 

「通常ならばそうでしょうが、今回は条件が整いすぎております。
友の為という動機、今回以上の好機はほぼありえず次はないという事、
さらに作れるのであればどう考えてもカイト様以上の人選がありえない事、
これにルミナス様から頼まれたという要素でも加われば、もはや逃げ道はないでしょう」
 
「……なるほど、ね。確かにありそうだわ」

 ローラの言葉に、納得する。

 通常なら海人は今考えているような手出しはすまいが、確かに条件が整いすぎている。
 さらに、それをルミナスから頼まれる可能性も低くはない。
 海人はどんな事が出来てもさして不思議ではない男だし、ルミナスが頼む動機も十分すぎるほどにある。

 となれば恐れと友誼を天秤にかけ、海人が後者を選ぶ可能性は高い。
 
 だとするとローラの言うようにシェリス達にとっては少々厄介なのだが、メリットもある。
 今回海人が与えるであろう恩恵、以後そのおこぼれに与れる可能性が生じるのだ。

 そう考えると、悪い話ではない。
 可能性止まりだし、実際どの程度の物が出来上がるのかも不明だが、期待する価値はある。

 そう思うと、シェリスの心に少し余裕が生まれた。

「ちなみに、他の女の為にそこまで尽くされる事はどう思んぎゃあああああっ!?」

「シェリス様、余計な好奇心は死を招くという事を一度魂の髄まで刻み込むべきかと思うのですが、いかがしましょう?
喉や頭蓋骨を握り潰される可能性を残すよりは余程マシだと思うのですが」

 溜息を吐きながらも、ローラの右手は主君の頭蓋骨を片手でがっちりと握りしめている。
 常人どころか並の戦士であれば、確実にグチャッと色々ぶちまけるほどの力で。

「分がっ! 分がっだがらはなじてっ! 砕げっ、千切れるううううううぅぅぅっ!?」

「かしこまりました。ただし今回は見逃しますが、次はありません。
そして、そろそろ休憩は終わりです」

 主君を処刑台から解放すると、ローラはそのままシェリスを背に乗せ、次の戦場へ向かった。
 見逃してないぃぃぃっ! と叫びながら必死でしがみつく主君の声を無視しながら。 
















 
  



 
 
 目が覚めた海人がゆっくりと目を開けると、暗闇が広がっていた。
 辺り一面真っ黒け。どこを見渡しても一筋の光さえ見当たらない。
 
 ふと、後頭部に柔らかい物が当たっている感触に気付く。
 なにやら布越しのようで若干硬さがあるが、それを補って余りあるほどに心地よい弾力感がある。
  
「……そーいえば気絶させられたんだったな」

 軽く息を吐き、状況を確認する。

 自分の顔に手を当てようとすると、布地と細い腕の感触に遮られる。
 となると、視界を遮っているのはほぼ確実に刹那の両腕だ。
 口や鼻を塞がぬよう海人の頭を拘束した結果、目を覆う事になったのだろう。
 
 耳に安らかな寝息が聞こえてくる。
 なので、今の時間は朝の早い時間だろう。
 早朝の鍛錬を欠かさない刹那が、まだ起きていないというのはそういう事だ。

 しかし、睡眠時間はさして長くなかったはずなのに、頭はやたらすっきりしている。
 ここしばらく心を圧迫し続けていた迷いが解消されたせいか、意識が広がったような感覚さえあった。
 
「ふむ……なかなか良い感じだな。久しぶりに頭が回り始めている」

 笑みを浮かべ、研究の続きに思いを馳せる。

 すると昨日までは見えなかった研究の先、それが見えた。
 不要な作業と必要な作業の選別、それが昨日までよりも精緻かつ迅速に行えている。
 辿り着くべき一つの結果、それに至るまでの最短の道筋が見えているのだ。

 時間さえあれば、その先も目指せるだろう。

(ああ……これはじっとしてなどいられんなぁ)

 笑みを深めると、海人は自分の頭を拘束している刹那の腕を除けようとする。
 出来るだけ起こさぬよう、やんわりと。

 が、彼女の拘束は固く、力を込めても強まる一方。
 外そうとすればするほど頭蓋骨が嫌な音を立て始める。 

 そして海人は、

「……ま、この程度なら仕返しという事で許されるだろ」

 閉ざされた視界の中、刹那の首筋を軽く指先で撫ぜた。

 ぴくん、と刹那の体が軽く跳ね、拘束が一瞬緩む。
 その隙に海人は刹那の胸元から脱出した。

 刹那の方を見ると、静かな寝息のまま寝返りを打っていた。
 表情は見えないが、起きてはいないように見える。  
 
「……起こさずに済んだか」

 安堵の息を吐くと海人は襟を正し、ゆっくりと部屋を後にした。
 密かに薄目を開けていた刹那が、悪戯っぽく微笑んでいたとは知らずに。
  
 
   



コメント

 この国の人間がシリルに手を貸したと知れれば、イナテアがこの国を本格的に狙う可能性があるからだ。
(中略)
罪なき国民も巻き込まれ、最悪見せしめに惨殺される。

言っている意味がいまいち良くわからないな。
冤罪の口封じのために都市全体が動くってことは、都市全体でテロリストを養成しているみたいだしそれに協力している段階で罪なき国民とは呼べないはす。

ならさっさとイナテアを滅ぼしてその後邪教の信徒を時間をかけて皆殺しにすれば問題ない気がしますね。

それにしてもカイトsideもルミナスsideも次回持ち越しっていうのは次が楽しみというかいまいち物足りないきがしますね。
[2017/01/01 18:46] URL | シャオ #xDU5tAck [ 編集 ]


>罪なきこの国の民も巻き込まれ、最悪見せしめに惨殺される
兵士村作られてる時点で手遅れくさい気が
洗脳侵略どころか口封じの暗殺も駆使しないと情報漏れは防げないでしょうから
[2017/01/10 19:10] URL | てぃしぃ #duewmzI. [ 編集 ]


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