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ラノベを目指してみよう
グース・カピーこと九重十造が人様を楽しませられるレベルの文章を目指して色々書き連ねる場所です。          軽く楽しく読める話を書ければいいなと思ってます。
番外編セット31





 番外編151






 近接戦における魔法使用。
 言葉にすれば単純だが、これはかなりの高等技術だ。

 そもそも、魔法の使用自体が決して容易なものではない。
 魔法とは脳裏に浮かべた術式に自らの魔力を通し、それを一定時間維持し続ける事で発動するもの。
 つまり使用に当たっては術式を一定時間思い浮かべ続けなければならず、かなりの集中力を要する。

 それを近接戦の真っ最中にやるとなれば、もはや曲芸の域だ。
 敵の攻撃が常に間近にある状態でそれほどの集中力を別の作業に割くのは、並々ならぬ度胸が不可欠。
 さらに言えば、度胸があったところでその割いた集中力の不足のせいで致命傷を負えば本末転倒だ。

 ゆえに、多くの近接戦士は戦闘開始前から補助魔法を発動待機させておき、
開始直後に発動させ、効果が切れそうになったら距離を取って再発動というのが定石だ。

 一定レベル以上の達人になると近接戦に全神経を集中しながら、条件反射のように魔法を発動させる離れ業を行う者も多くなるが、
それが出来る者でも大半は一つ二つが限度で、三つ以上の魔法を同時起動させる事が出来る者は極めて少ない。
 
 当然だ。完全に魔法に集中できる環境でも多重起動は難しいというのに、
難度が桁違いの近接戦中となればもはや狂気の沙汰だ。

 とはいえ、あくまで『極めて少ない』だけであって出来る者がいないわけではない。 

「ば、が……な……」

 呆然と呟きながら、男が倒れる。
 切り裂かれた首からは、血がとめどなく流れ出ていた。
 その無念を叫ぶかのように、男の得物であった剣が地面に重々しい音を立てて落ちていく。

「んな驚くような事やってないんだけどねぇ……」

 ふうっ、と大きく息を吐き、ルミナスは剣を収めた。

 非常に、手強い男だった。
 大きな体から繰り出される剣撃の威力はルミナスを超えていたし、
要所要所で混ぜてくる蹴りや拳も威力が高い上に避けにくく、
普段なら一気に攻めるルミナスが終始守勢に回る羽目になったのだ。


 が、彼の唯一の欠点である魔法に付け入る隙があった。

 どうもこの男、習得している魔法は近接戦に不可欠な補助魔法ばかりな上に、
多重起動も習得していなかったようで、他は低位の攻撃魔法をルミナスが間合いを取った時の牽制に単発で使ったのみ。
 初めは誘いかと思って警戒していたのだが、それにしては使うべき場面で使っていなかったので、
魔法を不得手と断定し攻め入ったら、あっさり勝ててしまった。

 中位火炎魔法と同時に斬りかかり、それを避けた所で後頭部に低位風魔法の礫、
一瞬気を取られた隙に風魔法で砂を巻き上げて男に目潰しを食らわせ、
距離を取ろうとしたところに思いっきり踏み込んで、首を叩き斬ったのだ。

 流石と言うべきか、首を落とすつもりだった斬撃が喉を深く斬り裂く程度に留まったが、
それでも致命傷には違いなく、一時間近く続いた戦いは呆気なく終わってしまった。

「十分驚くような事をなさってましたわよ?
多重起動だけならまだしも、最後の目潰しの制御はかなりの曲芸ですもの」

 いつのまにかやって来ていたシリルが、呆れ混じりの感想を漏らす。

 シリルの言うとおり、近接戦における魔法の多重起動だけならそう驚く事ではない。
 一般的にはかなりイカレた技能だが、起動数三つ程度ならシリルクラスの人間なら習得している人間はいる。
 ルミナスレベルともなれば、全体の半数は習得しているだろう。

 が、最後の目潰しは別だ。

 あの時、ルミナスと男は互いの武器の射程範囲にいた。
 普通に下位魔法で旋風を起こすだけでは、互いの目をくらまして終わり。
 相手の目だけを的確に潰せたのは、ルミナスの優れた制御能力あればこそ。
  
 少なくとも、相手の男は完全に想定外だっただろう。
 中位攻撃魔法と同時に超高速突撃しながら、同時起動した風魔法の礫で後方から奇襲、
挙句それらをしのいだと笑みを深めた瞬間、下方から別の魔法による砂煙が自分の目だけに襲ってくるなど。
 まして、砂煙はついでとばかりに彼の鼻の穴にも突撃してダメージを与えていたのだ。

 正直、あそこで咄嗟に後方に大きく飛び退けただけでも称賛に値する。

「何言ってんのよ。副団長だったらもっと良い角度で中位魔法の礫当てて、そのままぶった切れたでしょうが」

「副団長がイカレすぎてるだけですわ。というか、副団長でしたら攻撃魔法を使うまでもなく一刀両断でしょう。
お姉さまにしのがれる程度の使い手だったのですから」

「……ごもっとも」

 お手上げ、とばかりに両手を上げる。

 酷い言い草に聞こえるが、シリルはルミナスの剣技を馬鹿にしているわけではない。
 副団長―――クレイア・アスガルドの剣技がルミナスですら比較にならないレベルで化物じみているだけだ。

 ルミナスにとっては手強い相手だったが、クレイアであればこの男は一合も交えず殺されている。

 なにしろ、これまで散々組手をしているにもかかわらず、ルミナスは彼女の剣閃を見切れていないのだ。
 鍛錬の一環で組手をする時は見切れる程度に抑えてくれるが、それでもルミナスは十合以上打ち合えた事がない。
 超高速の斬撃に反応するだけでも大変だというのに、彼女は軽めのその斬撃と体術で相手の体勢を崩し、
あっさりと相手を必殺の状況に追い込む。

 ルミナスが体験した例としては、防いだ直後に別角度からの斬撃で僅かに崩し、
徐々に崩されつつもそれらを幾度か防いで斬撃に慣れ始めたところで、狙いすましたような前蹴りが腹にめり込んだ。
 派手に吹っ飛ばされ追撃を受ける前に立ち上がろうとしたら首に刃が当たっていた、そんな具合だ。

 思いっきり手加減されている状態でさえその始末。
 本気を出されたらルミナスの命など風前の灯だ。

 なにせ一度だけ見せてもらった本気の一閃は、全く見えなかった。
 それどころか、剣を抜いた鍔鳴りかと思ったら剣を収めた鍔鳴りだったのだ。 
 そんな速度で、ドラックヴァン鋼の分厚い甲冑が一刀両断されたのである。

 ルミナスがそこにいれば、間違いなく何も分からぬまま愛剣ごと両断されていただろう。

「もっとも、副団長が魔法制御能力にも優れているのは事実ですけれど」

「そーなのよねぇ……」 
 
 付け加えられたシリルの言葉に、溜息を吐きながら賛同する。
 
 クレイアはその剣の絶技だけでなく、魔法制御能力も非常に卓越しているのだ。

 そもそも、先程ルミナスがやった戦法は以前クレイアにやられた手の劣化版だ。
 彼女の場合実に四つもの下位魔法を多重起動し、火球を避けた先に氷弾を叩き込み、
それを倒れ込みながら強引に回避したところに地属性魔法の突起を隆起させ、
そこから体を回転させながら直撃を避けたところで、風魔法の礫の一撃を顎に叩き込み、
無防備になったところを鞘打ちで地面に沈めてきた。
 
 極めて高い先読み能力もだが、精緻な制御能力が無くては、あそこまで完璧な流れは作れない。 
   
「あーあ、つくづく自分の非才が嫌になるわねぇ……」

「そこまで落ち込む事はないかと。副団長は御年からして衰えはせずとも劇的な成長は見込めません。
若さという武器がある私たちなら…………まあ、希望は捨てなくともいいかもしれないという気もしなくもありませんわ」

「最後どんどん弱気になってったわねぇ…」

「……副団長ですし」
 
 ふ、と青々とした空に視線を移すシリル。

 ルミナスも自分も、これからまだまだ伸びる。
 それは偽らざる本音であり、誰もが認めるであろう事実だ。
 クレイアの年齢的に劇的な成長がありえないというのも、同様。
 髪の色以外は若々しく二十と言われても信じてしまいそうな程だが、既に四十半ばなのだ。
 僅かずつにしても、着実に差は詰められるだろう。

 ゆえに、いずれ追いつけそうにも思えるのだが――――どうにもそのビジョンが浮かばない。

 老いた彼女に腕を上げたルミナスと二人がかりで挑んでも、その直後に首が二つころんと転がっている気がする。
 これまでに叩き込まれた敗北の記憶が鮮烈すぎるゆえだとは思うのだが、そう断言できない。

 それほどまでに強大で頼りになり――――恐ろしい上司なのだ。

「つくづく遠いわねぇ……んで、これで全部でいいのよね?」

「ええ、残りの雑魚は私が処理いたしましたので。
隠れていた人間もきっちりと射殺しておきましたわ」

「ありがと。しっかし珍しいわね、傭兵が仇討なんて」

「まあ、自分の子供を皆殺しにされれば仕方ないのではないかと。
自ら臨んだ戦場で戦った結果なのですから、逆恨みですけれど」

「つーか、私が殺したの二人なのに、なんで五人全部なんて話になってたのかしらね?」

 不思議そうに、首を傾げるルミナス。

 仕事の過程で殺した人間を全員覚えているわけではないが、今しがた倒した男の息子二人は覚えている。
 わざわざ名乗って挑んできたし、腕前もなかなかだったので印象に残っていたのだ。 

 しかし、この男は五人の息子の仇と言って襲ってきた。
 ルミナスがいくら記憶を検証しても、他に名乗った人間も彼に似た人間もおらず、
武技の癖に共通項のある人間も見当たらないのに、だ。
 
 終わった今ではどうでもいい事だが、少々謎であった。

「単純な話ですわ、お姉さま。あの時、敵前逃亡した人間が何人かいたでしょう?」

「ああ、そういや私達が突撃したら怯えて逃げ出したのがいたわね。
こっちに来た連中の中で最後列にいたから流石に追う余裕……って、ちょっとまさか」

「はい、一人は逃げた先にいた第二部隊に、残り二人は第三部隊に、
他の人間と一緒にさっくりとやられてしまったようですわね。
周りが気遣って彼には敵前逃亡の件を知らせていなかったのではないかと」

 知っている事実から、シリルは推測を述べる。

 敵前逃亡、それも戦う前から逃げ出すというのは傭兵にとって途轍もない不名誉だ。
 せめて生き残っていれば敵わぬ相手から迷わず逃亡を選んだという事で生存能力ぐらいは評価されただろうが、
臆病風に吹かれて逃げ出した挙句死にました、ではそんな評価すら得られなくなる。

 息子を全て喪った父親にそんな残酷な事実を告げる人間がいなかった、というのは考えられない話でもない。
 命が軽くなってしまう業界ではあるが、人情がないわけではないのだ。
   
「……つまり、今回の件って……」

「はい、本来分散されるべき恨みがお姉さまに集結した、という事ですわね」

「……ついてないわね。ま、良い経験になったから良しとしましょ」

 言いながら軽く伸びをして、ルミナスは気分を切り替える。

 確かに不運だったが、足元で転がっている男との戦いは色々学ぶ事が多かった。
 剣の使い方、虚実の使い方、足さばき、どれも一級品で取り入れられそうな要素も多そうだ。
 多少の面倒と引き換えにそれを得られたと考えれば、今回の戦いはそう悪いものでもない。

 そうポジティブに、何より貪欲に強さを求める思考によって、ルミナスはこの件を消化した。
 強くなれば稼ぎも良くなる、そうすればまた一歩夢に近付ける、そう思いながら。
 
(……ま、仕送りはあるけどそれでも結構稼げてるんだし、後は良い相手見つけるだけなんだけどね。
まあ……それが一番の難関なんだけど)

 はぁ、と一つ溜息を吐き、ルミナスは肩を落とす。
 その姿には戦っていた時のような歴戦の戦士たる風格はなく、どこか幼さが漂っていた。    

 ――――後にルミナスは、この時の事をこう述懐する。

「ホント暢気だったわ……良い相手と出会った後に絶望的な難関が待ち受けてるなんて、想像もしてなかったもの」


   



 番外編152




 
 海人には、酒をあまり飲まない習慣が根付いていた。

 味が嫌い、というわけではない。
 物の良し悪しは分かるし、それを楽しむ心も一応持ち合わせてはいる。
 美味い物に殊更に執着する事はないが、好きは好きなのだ。

 子供の頃に聞いた、アルコールが脳細胞を破壊するという話を信じているわけでもない。
 酒を飲み始めた頃にそんな話を気にした事はなかったし、そもそも随分前に否定された説だ。
 大量飲酒をすれば悪影響もあるだろうが、海人からするとそこまでいけば味も分からないので飲む意味がない。

 では何故かというと――――単純に、かつては飲酒している時に限って碌な事が起きなかったからだ。

 例えば友人―――のちの妻であるエミリアに連れられてバーに飲みに行った時の事。

 最初は、良かった。
 勧められて飲んだ酒はどれも美味かったし、つまみのチョイスも抜群。
 稼いだ金を惜しみなく使って美食を楽しんでいるだけの事はある、といたく感心した。
 出掛ける以上面倒な手間が必要になるが、それぐらいの価値はある、そう思っていたのだ。

 が、酔いが回り始めた事に悲劇が起きた。

 丁度非番だった国家諜報員――――上の命令で海人を襲撃し、悲惨な末路を迎えた男の息子が偶然そこにやってきたのである。
 そして運悪く海人に気付き、父が最後に関わったはずの青年を問い詰めようとした。
 騒ぎは起こさぬよう静かに、だが懐に仕込んだ銃をちらつかせながら。

 それだけならまだ良かったのだが―――今度は別の客がやってきた。

 ほんの一月前にエミリアによって壊滅させられた暴力組織の生き残り達が。
 海人にとって非常に忌々しく運のない話ではあるが、彼らが訪れたのもただの偶然。
 エミリアがいると見立てていたわけではなく、次の職場が見つからず沈んでいた気分を癒そうと入った店に、たまたま海人達がいたのだ。

 海人は出掛ける前に様々な情報操作を行って自分とエミリアの居場所が分からないようにはしていたが、
どちらか片方でも狙ってくる可能性がある人間の位置全てを把握していたわけではなかった為、偶然までは防げなかったのである。
    
 その後は、本当に酷かった。
 エミリアを見た瞬間銃を抜いた連中と国家諜報員が銃撃戦を始め、お洒落で静かなバーは地獄と化したのだ。

 綺麗に整列していた酒瓶は次々に打ち砕かれ、その中身をぶちまけていく。
 安酒、高級酒、さらにはビンテージ物の名酒さえもが平等に砕け散っていった。
 照明も店の雰囲気に合わせて厳選したであろう美しい物だったが、やはり銃弾で次々に粉々。
 年季の入ったマホガニー製のバーカウンターも弾痕まみれで見るも無惨な有様。
 客用の椅子も値が張っただろうに、どれもこれも盾に使われたり投げられたりで壊れていく始末。

 それに止めを刺したのが、ほろ酔い気分だった海人とエミリア。

 まず良い気分だったところをぶち壊されて静かに怒り狂ったエミリアが、殲滅を決意。
 そんな彼女に、同様に怒りさらにほろ酔いで微妙に気前が良くなっていた海人が自作の武器を進呈。
 それらによる爆発と銃撃の乱舞によって、二人の敵対者達だけでなくかろうじて面影を残していたバーも完全に壊滅した。

 酔いが醒めた海人は、流石に短慮だったと猛省する羽目になったのである。 
  
 唯一の救いは、泡を吹いてぶっ倒れていた店主の上に弁償代として置いてきた金の使い道。
 海人が後に調べたところ、店主はそれを使って備品を揃え店を再開したという。
 
 とまあ、これは比較的規模の大きい話ではあるが、大体酔っ払う時に限って何かの揉め事が起きて大概碌な結果にならなかったので、
海人はなるべく酒を飲まないようにしていたのである。  
 
 が、それはあくまでも元の世界での話。
 命どころか身柄を狙う者もいないこの異世界では、海人も深くは気にせず酒を飲んでいる。 

 友人達と飲む酒は思いのほか楽しく過ごしやすい時間なのだが―――今日は少し違った。
 
「あ、カイト、グラス空いてるじゃない。もうちょっと飲む飲む~♪」

 言うが早いか、ルミナスはなみなみと海人のグラスに赤ワインを注ぐ。
 結構酔いが回っているらしく、彼女の口調は普段より更に明るく陽気だ。

「……ありがとう。だがルミナス、もう少し離れてくれんか? ちょっと暑い」

 礼を言いつつ、海人はルミナスの肩を軽く押す。

 酒を注いでくれるのはいい。
 まだまだ本格的に酔うには遠いし、ルミナス程の美女の酌となれば酒の美味さも増すというもの。
 さらに今は元々愛嬌のある美しい顔に、ほんのり赤く染まった頬がささやかな色気を加えており、普段と違った魅力が現れている。 
 これほど酒を楽しむに相応しい状況はそうそうあるまい。

 が、ちょいとばかり距離が近すぎた。

 現在ルミナスの顔は、海人の真横にある。
 それもふとした拍子に頬がくっつき、気を付けねば彼女の唇が海人の頬に触れるような位置に。
 しかも何が楽しいのか、ルミナスは時折むにむにと海人の頬に自らの頬を押し付けてくる。

 それ自体は所詮酔っ払いのする事だし、感触的にはむしろ心地良いので構わないのだが、
問題はそれを見て海人にどぎつい視線を向けてくる人物が正面にいる事だ。

 今はくぴくぴと極甘口のワインを飲みながら睨みつけているだけだが、
視線に含まれる憤怒が限界に達したら左手に持ったワインの瓶で海人の頭をかち割りかねない。

 なのでとりあえず後戻りができそうな内にルミナスから距離を取ろうとしたのだが、
 
「やだ。あんた、ほっとくと一人で静かにちびちび飲んでる事あるじゃない。
折角みんなでいるんだからみんなで飲むの!」

「分かった分かった、ここから動かんから離れてくれ」

「やだ、あんたの頬っぺた結構気持ちいいんだもん。満足するまで放さな~い♪」

 むにむに~、と言いながら、再び海人の頬に自分の頬を押し付けるルミナス。
 それに伴い、海人の正面にいるシリルの形相が筆舌し難い程に歪んだ。

「ふふふ、ふふふ、うっふふふふふふふふふふふふ……!
ああ、羨ましいですわねぇカイトさん。楽しそうで何よりですわぁ?」

「あ、シリルさん、瓶に罅入ってますから変えますね~」

 この世の者とは思えぬ恐ろしい形相をしたシリルの手から雫がワイン瓶を奪い、別の瓶を渡す。
 助けて、と視線で合図する主から目を逸らしつつ。

「……その、ルミナス殿、シリル殿の頬の方が気持ちいいのでは?」

 明らかに冷や汗を掻いている主に、刹那が助け舟を出す。
 
 刹那の言葉に、海人の表情がにわかに輝いた。
 苦し紛れだったのかもしれないが、素晴らしい助け舟だと思ったのだ。
 れっきとした成人男性である海人より、二十歳でありながら子供のようなすべすべほっぺを持つシリルの方が感触は良いに決まっている。
 さらに今のルミナスをシリルに向ける事が出来れば彼女の機嫌はあっという間に改善され、超絶上機嫌になるだろう。
 今海人に抱いているであろう嫉妬心が霞んで吹っ飛ぶほどに。

 護衛の素晴らしい機転に海人は内心で喝采を上げたのだが、

「や~よ。シリルにやったらキスとかしようとするに決まってるもの」

 ルミナスの反応は、海人の期待とは真逆であった。
 それどころか、やっぱこっちよね~、とまたしても海人に頬を押し付けている。

 そして、シリルの形相はもはや幼児が見たら一生夢で魘されそうな域に達した。
 
「……貴方は良い友人でしたわ、カイトさん」

 グラスを置き、ゆっくりと立ち上がる。
 羨ましすぎる友人にその幸福と釣り合う痛みを与える為に。

 そして景気づけのように左手に持ったワイン瓶に口をつけ、一気に―――

「ぶほぅっ!? げほっ!? ごほっ!? がはっ!? く、口がぎゃぁぁぁぁあっ!?」

 飲み下そうとして、激しく咳き込み床を転げまわった。
 その衝撃の度合いを示すかのように、彼女の目からは涙が溢れ、舌が突き出されている。
 形相と相まって、もはや人間というより新種の魔物のような顔になっていた。
  
「……雫、お前シリル殿に何を飲ませた?」

「んっふっふ、雫ちゃん特製激辛酒。思いつく限りの辛い物のエキスたっぷり混ぜたんだ♪」    

「それだけか?」

「後はベースのお酒がこの間お姉ちゃんが試飲して一口で吐き出したお酒だって事かな♪」

「そこまでやるか!?」

 無邪気に悪魔のような発言をする妹に、刹那は思わず締め上げた。

 雫の言っている酒は、とんでもなく強い酒だ。
 その強さたるや刹那が一口だけ飲んでみようとして、とても嚥下できず吐き出すほど。
 なんでも、海人の世界で一番強い酒らしい。 

「シィィィズゥゥゥクゥゥゥざぁぁぁぁんっ!?」

「いや~、まさか一気するとは思ってなかったんでって危なぁあぁぁぁっ!? 
可愛いお茶目じゃないですか! 暴力反対ぃぃっ!」

 シリルが振り下ろしてきた剣を、紙一重で避けながら抗議する。
 当然ながら、聞き入れられるわけがない。 

「どぉこが可愛いお茶目ですのぉぉぉぉぉっ!?」

 憤怒を滾らせたシリルの一太刀を、雫は再び紙一重で避ける。

 このままではまずいと判断したのか、雫は脱兎のごとく部屋から逃げ出した。
 シリルもまた、逃げた彼女に一太刀浴びせようと部屋を後にする。

「……助かったわけだし、雫には後で御褒美をやるべきかな?」

「あんな物がこの場にあった事を考えれば、たまたま都合のいい標的がシリル殿だったのでしょう。
嫉妬心で注意力も散漫になっていたでしょうし」

 明らかに分かっていながら問いかける主の言葉に、律儀に答える刹那。

「だな。さてルミナス、そろそろ離れて……ん?」

「すー、すー……」

 海人の怪訝な声に返ってきたのは、ルミナスの寝息。
 彼女は気持ち良さそうに頬を緩めて寝入っている。
 
 海人は苦笑すると近くのソファにルミナスを横たえ、毛布を掛けてやった。

「……さて、刹那。もう少し飲むか?」

「是非。お注ぎいたします」

 主君の言葉に嬉しそうに頷くと、刹那は恭しく海人のグラスに酒を注いだ。
 窓の外から聞こえる、妹の悲鳴を思考の外においやりながら。

 

 



 番外編153





 ゲイツは、紛れもなく優れた冒険者だ。

 史上稀に見る速度でランクBに到達し、既にAも間近。
 それも運や仲間に恵まれたという要素は極めて薄く、ほぼ己の実力由来の成果。
 特に戦闘能力は極めて高く、現在国内の冒険者で彼よりランクが上の者でも、
彼に勝てる者は片手で数えられる程度しかいない。
 
 そんな彼が、非常に珍しく一人の男に戦慄を覚えていた。

「お、お前、悪魔か……?」
  
 その男―――海人の周囲で泡を吹いて倒れ伏す男達を見て、思わずそんな言葉が漏れる。

 男達の惨状は、自業自得と言えば自業自得だ。
 なにやら女性に絡んでいたようだし、あくまで言葉で挑発した海人に対し武器を抜こうとしたのだから。
 倒れたところに追撃をかけられないだけ、まだマシだろう。

 が、海人が普通の対応をしただけとも言い辛い。   

 彼が狙ったのは、金的。
 それも、ゲイツの見立てでは手加減も迷いも無い無慈悲な一撃。
 潰れていても不思議ではなく、町の喧嘩としては正直やりすぎだ。
 
 無論、貧弱そうな彼に手加減などする余裕があったとは思えないし、
確実に己の身を守る為には狙うべきは金的しかなかっただろう。 
 
 なので、その点については容赦が無い、の一言で済ませられなくもない。
  
(……俺らが動き始めるよりも早く、攻撃してたよな)

 先程見た光景を反芻し、それに間違いがない事を確信する。

 先程海人が金的を攻撃した際、ゲイツは爆笑していた。
 ゆえに、連中が武器を抜こうとした時に若干反応が遅れたのは事実だ。

 また、自分の行動が原因なのだから、自分で対処すべきだろうとも思っていた。
 自分よりも強そうな相手に容赦なく辛辣な罵倒をかます度胸は大したものだったが、
その度胸が寿命を縮めかねない自覚がないのなら、自覚させるべきだろうと。
 
 流石に武器で攻撃されれば止めに入るつもりだったが、
一発殴られるぐらいは仕方なかろうと思っていたのだ。
 あの程度の相手なら武器を構える前に沈める事も容易なので、問題はないとも。
  
 なので多少対応に遅れがあったのは事実なのだが―――それにしても海人の行動は早すぎた。

 連中が武器に手を伸ばす動きは、それなりに慣れていた。
 普通に考えれば、海人のような貧弱な男が武器に触れる前に打倒するなどありえない程度には。
 
 にもかかわらず、現実に海人は打倒した。
 だとすれば、考えられる可能性はただ一つ。 
 
(……どんな反応示すか予測し、しかもそれを信じて迷わず動いた、と。
拳や蹴りって可能性もあったはずで、それに気付いてもいたってのに、だ。  
いろんな意味で怖えぇ野郎だな、おい)

 ゲイツの背を、冷や汗が伝う。

 海人のやった事自体は、それほど驚く事ではない。
 同じ事をやれと言われれば、真っ当な冒険者なら苦も無くこなせるだろう。

 が、海人がそれをこなせた最大要因――――尋常ならざる度胸を持つ人間は少数派だ。

 海人の体は、確かめるまでもなく脆弱。
 ゲイツはおろか、地面に転がっている男たちとて彼よりははるかに強い肉体だ。
 そんな男が眉一つ動かさず不確かな予測に全てを賭けて戦うなど、もはや狂気に近い度胸である。
 
 そしてその度胸というのは戦闘における極めて重要な要素だ。
 時として、それ一つで絶体絶命の状況を覆す事すらあるほどに。

(慢心なんざあの時に消え去ったと思ってたが……我ながらまだまだ未熟なこった)

 ルミナスに頭を撫でられている海人を見ながら、自戒する。
 
 かつて、ゲイツには増長していた時期があった。
 獣人族のハーフの中でも優れた身体能力の素養を生まれ持ち、敗北経験がほぼなかった為に。
 しかもオーガストには何度か叩きのめされていたが、相手は伝説の冒険者だし年季も違うので仕方ないと割り切れてしまっていた。
 同年代、あるいは多少年上の相手ぐらいなら問題ないのだから構わない、そう思っていたのである。

 その慢心を打ち砕いたのが、とある女性。

 ある事情で対峙したその女性は、正直強そうには見えなかった。
 戦闘中でさえ傷つけるのを躊躇いそうな程の絶世の美女ではあったが、それだけ。
 ゲイツの全力の拳一発で即死してしまいそうなほどに見え、どの程度手加減すべきかなど考えていたぐらいだ。
 
 だが開始直後――――ゲイツの全身を衝撃がぶち抜いた。

 反応する間どころか視認すらできない速度で全身を滅多打ちにされたと分かったのは、すべてが終わった後。
 その時は激痛の中意識だけを保っている状態で膝から崩れ落ちていき、無様に地面に崩れ落ちた。
 ガクガクの膝で無理矢理立ち上がり反撃したが、それも攻撃は当たらず全てに痛烈なカウンターが返ってくる始末。 
 何百何千という打撃の乱舞を受けた末に、ようやく降参という選択肢を思い出せたのだが、その時には声を出す余力がなかった。
 せめて地を叩いて降参の意を示そうとしたのだが、地を叩く前になぜか軌道上に出現していた彼女の足の甲に当たり、
それで戦意有りとみなされてさらに痛めつけられてしまう。
 結局攻撃、というか一方的な蹂躙が終わったのはゲイツに呼吸以外の余力がなくなってからだった。

 ――――あの日ほど、絶望という言葉の意味を肌で感じた事はない。
 
 が、それは確実にゲイツの慢心を粉々に打ち砕き、思考を変えた。

 自分程度ではいかなる相手であっても、油断などもってのほか。
 油断などというのは神に選ばれし、否―――神すらぶち殺しかねない化物にのみ許される事であって、
自分のような下等生物はいついかなる時、どんな相手であっても油断など許されない。
 相手の力量を見抜く力など、自分にはないのだから。

 そんな、それ以前の自分を知る者が見れば洗脳されたとしか思えないレベルの思考に変わったのだ。

 時を経て多少卑屈すぎたかと、ちょっとずつ自信らしきものも築きつつあるが、
よりにもよってあの銀髪の化物相手に喧嘩を売った愚かしい記憶はゲイツの心を毎日のように戒め続けている。
 
 そう、戒め続けているつもりだったのだ。

(……良い勉強になったぜ。マジで弱い相手でも油断はダメだな、うん)

 地面に転がる男たちの惨状を見て、深く自戒する。

 自分ならあの攻撃にも十分対応できる、と嘯くのは意味がない。
 確かにあれへの対応はできるだろうが、別の攻撃手段の可能性もあるのだ。
 例えば無詠唱魔法を多重起動で発動待機させていれば、ゲイツとて対応しきれない可能性がある。
 牽制用の下位魔法を防いでいる間に中位魔法の発動時間を満たされでもしたら、目も当てられない。

 やはり、いつ何時いかなる相手でも油断してはいけない、ゲイツは改めてそう胸に刻み込んだ。

 ついでに、この海人という男は絶対に敵に回すまいとも誓う。
 外見貧弱そうで実際その通りなのに、度胸と容赦のなさで三流とはいえそこそこ鍛えてそうな荒くれ者を事もなげに片付けるなど、
詐欺もいいところだ。
 敵に回せば、まず碌な事にならないだろう。

「お前だけは敵に回したくねえよ……」 

 万感の思いを込め、ゲイツはそう呟いた。   

 
 




 番外編154




 シェリス・テオドシア・フォルンは貴族である。
 それも建国時代より続く、由緒正しき公爵家の一人娘。

 その血筋に恥じぬよう、彼女は数多の労力を費やしている。
 貴族令嬢としては当たり前の礼儀作法は勿論、歌や踊りもそつなくこなす。
 教養においても当主たる父が舌を巻く程の次元で身に着け、護身術も多少心得がある。
 表向きはただの優秀な公爵令嬢で通しているが、技術の習得には並々ならぬ熱意を燃やし、
出来ない事というのはそうそうない。

 かつてはそう思っていたのだが――――現在彼女は自分の世界の狭さを痛感させられていた。

「シェリス様、違います。来る前に説明したように、マッドスネークの処理はまず生きたまま水に漬け込む事から始めます。
そうしなければいかに捌こうと泥臭さが消えず食べられた物ではありません」

「つ、漬け込むって……容器がないでしょう?」

 淡々と窘めてくるローラに、シェリスはおずおずと反論する。

 マッドスネークは土中を根城とするただの蛇だが、サイズが大きい。
 生きたまま水に漬け込むとなれば標準的な寸胴ぐらいの容器が必要だろう。
 生憎、この場にそんな気の利いた物はない。

 シェリスの屋敷ならともかく――――ここは人里離れた深い森の中なのだから。

「何の為の土魔法ですか。穴を掘り周囲を土魔法で固めれば、短時間なら土が溶け出さない即席容器が出来上がります。
五分ほど綺麗な水に漬け込むだけで良いのですから、マッドスネークの処理には十分です」

 説明すると、ローラはスッと地面を指差した。
 いいからさっさと掘れと言わんばかりに。

 溜息を吐き、シェリスは穴を掘り始めた。
 肉体強化した己の指を使い、犬のように勢いよく掘り進めていく。
 当然土塗れになるが、彼女にその事を気にした様子はない。
 他の貴族令嬢が見たら悲鳴を上げそうな姿だが、この程度を気にしていてはシェリスの一日は到底終わらないのだ。 

 一分ほどして掘り終えたシェリスは、言われた通り土魔法で穴を補強する。
 すると見る見るうちに整っていなかった穴の形が整い、拳で軽く殴ってもびくともしなくなった。

「そんなところですね。ただし、余裕がある時は穴を掘るところから土魔法を使うのもいいでしょう。
若干魔力を余計に消費しますが、その分体力の消耗は抑えられます」

 淡々と解説するローラに、シェリスは頷きを返す。

 そして水魔法で穴に水を張り、その中に先ほどのマッドスネークを放り込んだ。 
 暴れるマッドスネークを眺めながら、五分待つ。

「……五分。さて、これで後は捌くだけ、と」

 呟きながらシェリスは蛇を水中から引き上げ、手に持ったナイフで首を落とし、捌き始めた。
 手つきはたどたどしいながらもナイフの切れ味は十全に発揮しており、作業速度は速い。
 今日初めて生き物を捌くとは思えない速度だ。
 
「それなりにナイフも扱えるようになったようでなによりです」

「そりゃあ、あれだけ鍛えられればね……」

 手は止めぬまま、答える。

 元々、シェリスはナイフを己の武器としていた。
 公爵令嬢という立場上誰かに狙われる可能性は低くないのに、
武器をあからさまに携帯するわけにはいかないからだ。
 その点ナイフならスカートの中に隠せるので、大概の場所に持っていける。

 実際に使うことを想定しての事だったので、当然修練も積んでいた。
 護身術としては十分だろう、そう己惚れる程度には。

 が、ローラの鍛錬が始まってその慢心は消滅させられた。

 戦闘力の基本となる身体能力の圧倒的な不足。
 それを補う為にある技量の絶望的な未熟さ。
 実際に命がかかった時に委縮を抑えられない心。

 それらを徹底的に思い知らされ、要求レベルまで強制的に届かされた。 
 今ではちょっと強い猪型の魔物が突進してきたぐらいなら落ち着いて返り討ちにできる。
 それに比べれば、ただの蛇を解体するなど大した難度ではない。

「一応申し上げておきますが、マシになったとはいえ今のシェリス様はまだ本格的な鍛錬の土台すら出来ておりません。
護身術として最低限のレベルに達するには、最低でもあと五年はかかるでしょう」

「……今でも国軍の兵士の平均レベルぐらいではあると思ってたんだけれど」

「それよりも幾分落ちます。そして仮にそうだったとしても、
そんな程度では貴女が目指す御立場はおろか、今の御立場ですら護身術としては不十分です」

「どういう意味?」

「多くの人間と関わる以上、裏切りは付きものです。
金による買収、異性による篭絡、はたまた人質を取られての裏切り、可能性はいくらでもございます。
そして護身術というのは最悪の場合に使用するものです。
つまり移動中に襲撃を受け、護衛さえも裏切ったような場合も想定する必要があります。
たかがこの国の兵士の平均程度で生き延びるなど、夢のまた夢でしょう」 
   
「……その想定は流石に過剰じゃないかしら? 
私の護衛は貴女達なわけだし、裏切られたらその時点で私の人生終わるじゃない」

 難しい顔で、唸る。

 言わんとするところは分かるのだが、ローラの言う想定は無意味に近い。
 今シェリスの護衛を務めている人間の誰か一人でも裏切れば、
そしてその時他の護衛が誰もいなければ、シェリスの命は潰える。
 足掻くだけ無駄どころか、仮に近くの騎士団なり自警団なりが助けに入ったら余計な屍が増えてしまう。 

 それならいっそ護身術など身に着けず、素直に死んだ方が被害は少なく済むだろう。

「これから実績をあげていけば、御立場上一時的に私共以外の護衛にせざるをえない事も多くなるでしょう。
主にそういった時の為の対策でございます」

「貴族の招待受ければ向こうが馬車と護衛用意する可能性もあるものね……その一環がこの野外生活、と。
まあ、呑気に調理してる間に追いつかれそうな気がするけど」

「かもしれません。ですが、食事をとらねば逃げ足も遅くなります。
また、睡眠をとらずに動いても消耗は増し、逃げ足ばかりか判断力まで損なわれます。
逃げる際にもっとも重要なのは、適切な休息とその為の場を確保する事です。
ゆえに他にも教える事は多々ございますが、今日のところは食材確保と調理だけです」

「食材確保、ね……マッドスネークってどこにでもいるの?」

「様々なところに生息している為見つけやすいのは事実ですが、どこにでもいるわけではありません。
今日はあくまでもさわり程度であり、全体の一割にも程遠いです」

「……先、長そうねぇ」

 手を止め、天を仰ぐ。

 今日だけでも、結構覚える事は多かった。
 メインはマッドスネークだが、それに使うハーブの類も一緒に採取したのだ。
 毒草との見分け方などで結構な時間を費やしているのに、これで全体の一割に届いていないとなると、
正直終わりが全く見えなかった。
 
「はい。並行して、そもそも危機に陥りにくいようにもいたしますので、さらに時間がかかります。
十五年前後で目途はつけたいところですが」

 しれっとローラの口から語られた年数に、シェリスの意識が一瞬遠のく。

 これまででもかなり苛烈な人生なのに、これがあと十五年以上。
 成長の実感はあるとはいえ、ものすごく重々しい数字だ。

 が――――今更投げ出すという選択肢はない。

 全てはシェリスが自ら決めた事。
 己の求める未来の為に人を選び、教えを請い、突き進んでいる。
 ローラは厳しいが、それも無茶な依頼をきっちり遂行しようとしているにすぎない。
 いかに苦しくとも、投げ出すなど許されない。

 非才な自分が超人と呼ばれる域に至る事はないにしても、その手前ぐらいには必ず至って見せる。
 そんな強い決意を秘め、シェリスは再び作業に戻った。

 ――――この時のシェリスは、知らない。

 この日から十年もせず、この時の自分が超人と思っていた域に至る事を。
 王城の近衛兵がまとめて襲ってきても、生き延びるどころか返り討ちにしてしまえる域に辿り着く事を。
 野外で確保できる様々な食材やその調理法を数多会得し、あまつさえ大概の毒には耐性が出来てしまう事を。

 この時のローラが課していた鍛錬がどれほど優しく生温かったのか――――シェリスがそれを知るのはまだ先の話である。 

 

 




 番外編155(設定無視したネタ)



 海人の意識が、遠のく。
 重石を抱えて海の底に引きずりこまれるかのように。
 どうにか引きずり戻そうとしても、離れていくそれを捕まえる事さえ叶わない。
 足掻くだけ無駄、世界にそう宣告されたかのような無力感がある。
 
 ならばいっそ速やかに意識を失いたいが、それも出来ない。

 体が焔の如く熱く燃え盛り、それによって噴き出た汗が全身を濡らしているのだ。
 熱さのせいでやたら苦しいというのに、濡れた汗が気化して体温を奪い去る為、最終的にはえらく冷える。
 暑くてたまらないので布団を出たいが、一歩でも出ようものなら歯がガチガチと激しい音楽を奏で始める為、不可能。
 昨晩寝る前に創造魔法で作ったスポーツドリンクに手を伸ばすだけでも手が激しく震える始末。
 ここまでキツいと、かえって意識を失えない。

 ―――――数年ぶりに海人を襲った風邪は、なかなか強烈だった。

(……ぬ、う……いか、ん……このま、までは……)

 苦しさ以外感じない朧気な意識の中、危機感を募らせる。

 まず、水分が足りない。

 寝てる間によほど汗をかいたのか、喉がカラカラだ。
 現状生命は維持できているが、続くと流石にまずい。

 次に、着替えたいのに着替えられない。

 海人のパジャマは非常によく働いてくれたようだが、それでも湿り気が凄い。
 さっさと着替えねば体は冷え、体調は悪化する一方だろう。  
 だが、着替えようにも着替えがあるクローゼットは今の海人にとっては遠すぎる。
 創造魔法で作ろうにも、そんな集中力が残っているはずもない。
 なにより、今この場に着替えがあったところで、実行すれば外気に晒される事は間違いなく、
ガタガタ震える手ではまともに着替えられるはずがない。

 なにより最悪なのが、今の時間。
 朝の6時と早めでの時間なので、あと一時間は部屋に誰も入ってこない。
 下手をすると、8時に朝食が出来たと知らせに来るまで誰も来ない可能性さえある。
 大声で助けを呼びたいが、そんな余力があればそもそもこんなに焦っていない。

(こ、今度、から、薬を枕元、に常備……して、おかねば……今度、があれば、だが……)

 いつになく弱気な心で、そう決意する。

 自前で開発した薬さえあれば、気合で一時耐えてそれを飲めば後はどうにでもなった。
 一度で完治せずとも薬が効いて症状が和らいだ隙に、いくらでもやれる事があるのだから。
 ここしばらく病気をしていなかったとはいえ、油断しすぎたと言う他ない。

 布団の中で身を丸めながら自制していると、

「おっはよーございます海人さん! 今日は鍛錬中に良い物見つけましたよっ!」

 申し訳程度のノックと元気いっぱいの声と共に、雫が部屋に突撃してきた。
 その右手には、なにやら亀と思しき生き物を捕まえている。
 
「ほらほら見てくださいよこれ! 遡上スッポンですよ! 遡上スッポン!
ヒノクニでもめったに見ない超高級食ざ……ってあれ? 海人さん?」

 まったく反応のない主君に気付き、雫は海人の顔を覗き込む。
 そして苦しそうな表情と荒い息に気付き、慌てて右手の生物を放り投げて額に手を当てる。

「……す、すすす凄い熱っ!? ちょ、誰か! お、お姉ちゃー……い、いや、お姉ちゃんじゃダメだ!
ルミナスさん! シリルさぁぁぁんっ! どっちか、早く来てぇぇぇっ!」

 賑やかに慌てふためきながら、大声を上げて部屋を飛び出していく雫。
 その背中をぼーっと見つめながら、海人は安堵からかようやく意識を手放せた。











 十分後、シリルは苦し気に眠っている海人を見つめながら、軽く頷いた。

「……とりあえずは問題ありませんわ。おそらくはただの風邪。
消耗はものすごいようですが、着替えさせて飲み物を飲ませただけでかなり落ち着いたようですから」

 淡々と周囲に語る彼女の表情には、安堵の色が見える。

 雫が凄い剣幕で呼びに来た時は何事かと思ったが、蓋を開けてみれば風邪の一般的な症状。
 状態は普通より悪いが、この程度ならそう珍しい話でもない。
 無論、きちんとした対処を行えばの話だが。

「あうう……でも、苦しそうですよぅ……」

「それは仕方ありませんわ。それより問題なのは、薬がない事ですわ。
カイトさんにしては珍しい大ポカですわね。まあ、この場の全員に言える事なのですが」

 心配そうにしている雫の言葉を手短に切り捨て、シリルは今一番話すべき事柄を話し始める。

 なんと現在、この屋敷には風邪に効く薬がまったくない。
 海人はここしばらく病気と無縁だった為、用意しておく事をコロッと忘れ、
シリル達も最近かかっていなかったので同様だったのだ。

「ええ、迂闊でした。しかし、雫のおかげでなんとかなるやもしれません」

「ん? どういう意味ですの?」

「今日雫が捕まえた遡上スッポンですが、食材としても最高級ですが薬膳素材としても最上級なのです。
拙者はヒノクニで一度文献を読んで大まかな作り方は覚えていますので……どうした、雫?」

「……今お姉ちゃん大まかな、って言ったよね?」

 怪訝そうな姉に、この上なく冷たい目を向ける雫。
 その目にはどこか、殺気めいたものすら漂っている。
 
「ああ。半分ほどだが、素材が良いからなんとか……」

「大まかな記憶、なにより薬膳、つまりお姉ちゃんの調理過程の多い料理……海人さん殺す気?」

 純度100%の殺気を滾らせ、雫は小太刀の鯉口を切る。

 こと調理に関して、刹那は全くあてにならない。
 古くは両親、厳密には父を幾度となく死の淵に追いやり、近くは雫もその被害を被っている。
 普通の料理を作るのでさえそれほどの危険が伴うというのに、今度はレシピがうろ覚え。
 脆弱な海人が弱っている時に食せば即あの世行きという、文字通りの必殺料理になるとしか思えない。

 本気で強行するのであれば、地獄に道連れにしてでも止めねばならなかった。 

「待て待て待てっ! いくら拙者でも薬膳で人を殺すなどという事は……!」

「今まで死人が出てないのは、あたしとかお父さんが毒に強い耐性あるだけだとは思わないかなぁ?」

 思わず抗議してきた姉に、雫はにこやかな笑顔を返す。
 被害者歴の長い妹の殺意があふれ出る言葉に、刹那の腰が若干引けた。 

「……ま、貧弱なカイトだし、極力リスクは避けるべきよね。
薬膳ってのとは違うけど、私が風邪に良い料理作るわ。
うちの家族に何回も作ってるから、実績はあるわよ?」

 軽く肩を竦め、ルミナスは案を出した。

 ルミナスの一家は病気になる頻度は少ないが、皆無というわけではない。
 数が多い事もあり、誰かが風邪に倒れる事は稀にあり、ルミナスは幾度となくその時用の料理を作っている。 
 栄養がたっぷりとれてかつ体が温まり、とても美味しいスープを。

「では、お姉さまはそちらの準備を。私は裏の森で薬の素材を調達してきますわ。
効果としてはたかが知れていますが、一応私でも調合できる薬がありますので」

 シリルも、ルミナスとは別の案を出す。

 シリルはルミナスの副官として、緊急時用に薬学もある程度は学んでいる。
 それに伴い調合技術も習得している為、材料さえあれば大概の薬は調合する事が出来るのだ。
 症状に一番良い薬となると流石に材料を今日中に調達できそうにないが、
一般的な物であれば裏の森で採れる材料で調合できる。

 速やかに行動方針を決めたルミナスとシリルにつられるように、雫も行動を決めた。 
 
「……あたしはカイトさんに付いてます。起きた時世話する人が必要でしょうから」

「では、お願いいたしますわ。さて、セツナさんですが……少し遠出していただきましょう」

 雫に短く頼むと、シリルはやる事が思いつかずおろおろしている刹那に提案した。

「と、遠出、ですか?」

「ええ。シェリスさんの所まで。あそこなら薬も良い物を用意してあるでしょう。
カイトさんが風邪をひいたと言えば、迷わず渡して下さるでしょうし。
私の作る薬は、あくまでもしもの為ですわ」
 
 首を傾げる刹那に、シリルは静かに説明する。

 シェリスの屋敷には医師がいるし、様々な薬も常備してあるはずだ。
 あの屋敷の業務を考えれば誰か一人倒れるだけでも洒落にならないので、万全の準備を整えていないはずがない。
 
 そして海人の価値を考えれば、薬一つ渡す程度惜しみもしないだろう。
 
 書類仕事一つとっても、彼が倒れたら代用は可能でも悪影響が笑えない。
 なにしろ、彼の処理量はあの処理能力に優れた屋敷の面々でも一人では絶対に代替不可能。
 あのローラにさえ不可能と言わしめる程なのだ。

 まして万一亡くなりでもしたら、その損失は計り知れない。
 書類の処理量は一気に膨れ上がり、授業によるメイドたちのトチ狂った進歩は止まり、
いざという時に頼れる超戦力すら失われてしまう。

 むしろ、事情を話せば向こうから最高級の薬を無料進呈してくる可能性すらある。

 また、これに関しては刹那が一番適任だ。
 海人製の魔法という恩恵を受け、かつ素の速度が雫より上。
 単純な荷運びであれば、この場で彼女よりも優れた人間はいない。 

「……分かりました! では行って参ります!」 

 やる気を出した刹那は、部屋に戻り財布を片手にシェリスの屋敷まで全速力で駆けていった。   
 
  

  
    
 

 

 
 一時間後、海人は朦朧とする意識のまま目を覚ました。
 
「……む?」

「あ、海人さん起きました?」

「ん、ああ……そうか、風邪、ひいたんだったか……」

 ふう、と溜息を吐く。

 風邪など、久しぶりだった。
 子供の頃はよくひいていたが、大人になってからはめっきりなかったのだ。
 この辛さを忘れすっかり油断した事を恥じながら、天井を見上げる。

「そーですよもー……心配したんですからね?」

「そりゃありがた……む……」 

「おわー!? 言ってるそばから倒れないでくださいよ!」

 体を起こそうとして倒れそうになった主を、雫は咄嗟に支えた。
 倒れそうになった方向が悪く、危うく床にダイビングするところだったのだ。
 
「……すまん、やはりまだまだ、治っとらんようだ……」

「そりゃあんだけ凄い熱出てたんですからね。ま、ゆっくりしてください。
いつもなんだかんだで休みなく働いてるんですから」

「……昔は、もっとがむしゃらに働いて、たんだがなぁ……」

「働きすぎですよ。少しはあたしを見習ってください。
あたしなんか朝昼晩の鍛錬以外は基本ぐーたらしてんですから」

 むん、と胸を張る雫。

 雫は鍛錬は欠かしていない、というか姉に欠かせてもらえないが、
それ以外の時間は基本的にぐーたらしている。
 地下室で海人の世界のゲームに興じたり、風情のある中庭で日向ぼっこしながらお茶を楽しんだり、
厨房で思いついた料理を作ってみたりとか、存分に人生を謳歌させてもらっているのだ。 

 対して海人は、怠惰という言葉とは無縁だ。

 朝起きて朝食を食べたら研究、それも昼食前まで。
 そして昼食を食べたらまた研究を始めて夕食前までぶっ続け、夕食後には再び研究に戻る。
 その途中で誰かにお茶に誘われたりすればそちらに行く事が多いが、それがない限り流れは変わらない。
 せいぜい研究が授業の準備になったり、他の雑務が混ざったりする程度だ。

 雫から見ると、放っておいたら一生働き続けるんじゃなかろうかと思ってしまう。

「……君も君で、なんだかんだで休んど、らんだろうが。
警戒網は、常時、広げっぱなし、なんだろう?」

「あたしにとっちゃ大した負担じゃないですよ。
一番負担大きい就寝時でも、せいぜい寝る前に枕の位置を真ん中に調整する程度の負担です。
つーか辛いなら無理に会話しないで寝てくださいよ」
 
「話してる、ほうが、気が、紛れる……」

 そうやって二人が会話していると、ドアからノックの音が響いた。
 雫が許可を出すと、ルミナスとシリルが揃って部屋に入ってくる。

「あ、カイト起きたのね。スープ作ってきたけど、食べられる?」

「ああ……消耗したせい、か、腹が、減ってる」

「よしよし。そんじゃ、あーん」

 はい、とルミナスは海人に向かって匙を差し出した。

 海人も特に抵抗することなく口を開け、スープを飲む。
 そしてその直後、まどろんでいた彼の目が軽く見開かれた。

 印象が強いのは、生姜の鮮烈な香り。
 ともすれば刺激が強すぎるそれが、他の肉や野菜の香りと交わる事で適度に和らいでいる。
 味の方も生姜が主体になりながら、肉の旨みや野菜の甘みが上手く絡まりあい、優しい味わいに仕上がっていた。
 
 香りや味もさる事ながら、具材の触感も気配りが細かい。
 どの食材も細かく切ってあるが、それぞれの食感を上手く残してある。
 肉は一瞬噛みしめれば解け、キャベツは舌で押すだけで崩れ、人参も歯で噛んだ瞬間に軽い反発を残して潰れていく。
 余力のない病人でも食べやすく、それでいて食感による楽しみはきちんと与えてくれている。  
  
 ついついやみつきになる味わいのスープに、海人はあっという間に一皿平らげてしまった。

「ごちそうさま。美味かった……」

「そりゃよかったわ」

 嬉しそうに笑うルミナス。

 その背後では、シリルが半眼で海人を見ていた。
 仕方ないとは分かっているが、海人は結局最後までルミナス手ずから口に運んでもらっていたのだ。
 理不尽だろうと、妬み嫉みは抑えきれなかった。
 もっとも、当の本人は体調ゆえにそれにすら気付いていないのだが。

 シリルが不満げな顔で調合した飲み薬をちゃぷちゃぷと揺らしていると、刹那が帰ってきた。

「海人殿! お目覚めでしたか!?」

「ああ、心配を、かけたようだな」

「シェリス殿の所からお薬をもらって参りました。ですが、その……」

「あれ? お姉ちゃん、なんで二つあるの?」

「それがな……こちらは即効いて体が楽になり、一時間ほどで全快する薬。
こちらが即座には効かないが、とりあえず二時間ほどで体が楽になり翌日には全快する薬。
ただし、即効く方は洒落にならないレベルで不味い、というか毒と思って吐き出す者が珍しくないほどらしいです。
もう一つの方は僅かに苦いだけで爽やかな香りがあり、飲みやすいそうです」

 禍々しく見える紫色の瓶を右手、爽やかな緑色の瓶を左手に持ち、刹那は解説した。

 シェリスの屋敷に行って出てきたメイドに事情を説明したら、ものすごい勢いで屋敷に駆け込んだ。
 そして医者と思しき女性を伴って変わらぬ勢いで戻ってきたのだが、説明と共に差し出されたのがこの二つの瓶。
 効果だけなら間違いなく紫色らしいのだが、シェリスのメイドがこれを飲まされそうになると逃げだそうとするらしい。
 なので患者を押さえつけておく必要があり、火急の時以外は用いられないという。

 が、効果が劇的なのも事実なので、一応持っていくようにとの事だったのだ。 

「……レゲメンダルの秘薬、とアルスレーンの慈薬、か……」

 熱にうかされた思考で、記憶を引っ張り出す。

 刹那の持ってきた薬は、どちらも市場に出ている最高級品だ。
 それぞれの開発者の名を冠するそれは、材料費だけでもバカにならない。
 その分効果は高いのだが、どちらを選ぶかは未だに議論が多い薬でもある。

 効果だけならレゲメンダルの秘薬なのだが、その味は殺人的の一言。
 口に近づけた瞬間、青臭さと焦げ臭さとその他多様な臭気が入り混じった匂いが嗅覚を蹂躙し、
口に入れた瞬間この世のえぐみや渋味の全てを凝縮したようなが味覚を凌辱し、飲み込んでからも十分は後味と残り香に苦しむという。
 
 アルスレーンの慈薬だと、効果は劣るが飲みやすい。
 決して美味い物ではないらしいが、それでも薬と考えれば問題ないレベルという話だ。

 海人は数瞬迷った末、答えを出した。
 
「……そっちの、即効く方をくれ」

「ちょ、カイトあんた正気!?」

「……やめた方が良いですわよ? 私も一度飲みましたが、死んだ方がマシ級のクソ不味さでしたもの」

「興味はあるん、でな……つーか、この状態が二時間も続く方が、キツ、そうだ……」

「か、かしこまりました……」

 刹那が、おっかなびっくりレゲメンダルの秘薬を差し出す。

 周囲が固唾を飲んで見守る中、海人は一瞬その紫色の小瓶と睨み合う。
 試しに蓋を開けてみると、中からはただならぬ臭気。
 口に近づけるまでもなく、手元にあるだけですでにキツい。
 少し離れているルミナス達でさえ顔をしかめているぐらいだ。

 が、海人は意を決するとそれを口元に引き寄せ、一気に飲み下した。 
   
「…………」

「か、海人殿……?」

 瓶を口元に付けたまま動かない海人に、刹那がおっかなびっくり声をかける。 
 その直後、海人の体がぐらりと揺れ、ベッドに倒れこんだ。

「カ、カイトォォォォォ!? ちょ、これ本当に大丈夫なの!?」

「気絶できてるだけ幸せかと。私の時は意識を失えなかったので地獄でしたもの。
起きた時には回復なさっているでしょう」

「いや、そんな冷静な意見に言われましても! ってか瓶の残り香で既に凄いんですけど!?
蓋っ! 蓋はどこっ!?」

「こ、これだ! くっ、海人殿が握りし……ていっ! ……あ」

「お姉ちゃぁぁぁぁぁあんっ!? マジ何してくれてんのっ!?」

 海人の手からコルクの蓋を抜きさるついでに窓ガラスを突き破り外に放り投げた姉に、思いっきり抗議する。

「文句言う前に蓋を拾いに行きますわよ!? あれがなくなっては一大事ですわ!」

 どたどたと部屋を駆け去っていくシリル達の声に気付くこともなく、海人はくったりと目を閉じていた。

 ―――余談だが、起きて全快した海人が真っ先にやったのは創造魔法で風邪薬を作る事だったという。
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